北野 進
発行:七つ森書館
この版元の本一覧
四六判 408ページ 並製
定価:3,000円+税 総額を計算する
ISBN978-4-8228-0494-7(4-8228-0494-1) C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2005年02月
書店発売日:2005年02月04日
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紹介

2003年末、石川県に計画されていた珠洲原発が断念された。30年におよぶ住民・市民運動の成果であった。市議選・市長選・県議選などの地方選挙を戦い抜いた反対運動の勝因を、前県議の著者がまとめる。当事者の筆致は克明で、元気が湧いてくる。

目次

はじめに
第一章 高屋現地阻止行動と市役所座りこみの五〇日
 目の前にあらわれた電力会社
 立地可能性調査
 三五日間の阻止行動
 四〇日間の座りこみ
 運動の拡大
 関電の奇襲作戦
 調査中断
 珠洲原発反対ネットワーク誕生
 「監視小屋」完成
 知事の高屋入り
 追いこまれた関電
第二章 計画の浮上と当初の反対運動
 水面下の動き
 計画浮上
 初期の反対運動
 三電力共同開発構想
 「珠洲方式」の誘致運動
 高屋と寺家
 保守の分裂
 火力発電構想浮上
 原発静観
 ふたたび原発推進 林市政誕生
 関電、事前調査の申し入れ
第三章 反原発選挙を戦いぬく(1) 選挙と市民運動が相乗効果を発揮
 一 原発運動と政治
 二 一九八九年市長選挙——反原発の意思表示
    市民運動誕生
    候補者探し
    「止めよう原発!珠洲市民の会」発足
    出馬表明
    推進派の嫌がらせ
    歴史が動いた七日間
    反原発票が四四〇票上回る
 三 一九八九年参議院選挙——一票の重みと向き合う
    連合候補の勝利
    票を減らした比例区
    ネットワークを活かす
 四 一九九〇年衆議院選挙——政治勢力としての存在感を発揮
    衆議院選に取り組もう
    高橋美奈子二九歳出馬
    珠洲では「当選」
    原発予定地不正取得問題が発覚
 五 一九九一年知事選挙——市民運動の純粋性と政治
    同根対決・96 反原発の知事候補を
    分裂
 六 一九九一年統一地方選挙——反対派、政治の舞台へ
    県議選を闘おう
    身内の反対
    出馬表明延期
    県議選スタート
    流れをかえた美浜原発事故
    反原発県議誕生!
    市議選でも躍進
 七 一九九三年市長選挙——白紙撤回を掲げ決戦
    満を持しての決戦
    樫田先生擁立
    激戦スタート
    能登半島沖地震
    全力をつくした選挙戦
    敗戦
    票数があわない!
    疑惑の再点検作業
    窮鼠猫を噛む
 八 一九九四年知事選挙——県政は「推進派」から「行事役」へ
    可能性調査再開のシナリオ
    中西知事倒れる
    中西知事逝去
    谷本副知事出馬
    「住民合意を最大限尊重」
    白紙撤回三段跳び論
    谷本宅
    「北野県議がいるかぎりは……」
    個人演説会のハシゴ
    谷本知事誕生
    県政の転換
第四章 反原発選挙を戦いぬく(2) 立地阻止に確信
 九 一九九五年統一地方選挙——反対派が勢力を拡大
    負けられない闘い
    PA戦略の転換
    「海づくり大会」蛸島漁港開催決定
    「海づくり大会」をめぐる駆けひき
    不戦勝
    難航した候補者擁立
    めざせ! 全員当選
    薄氷の勝利
 一〇 一九九六年市長選挙——やり直し選挙、雪辱ならず
    不正選挙糾明の闘い
    原発を誘致する「民主主義」
    歓喜の無効判決
    「不正」に踏みこんだ最高裁判決
    「選挙無効」に潜んだ落とし穴
    林市長出馬断念
    両陣営の選挙態勢と戦略
    争点隠しとの闘い
    返り討ち
    運動方針の見直し
 一一 一九九八年知事選挙——自民党も「住民合意」を
     否定できず
    悔しさのなかの「海づくり大会」
    割れた衆議院選対応
    「豊かな自然を守る珠洲の秋祭り」
    重油災害
    「対話」をめぐって
    ふたつの知事後援会
    「住民合意の尊重」かわらず
    奇妙な知事選
    「政治原発」と化した珠洲原発
 一二 一九九九年統一地方選挙——調査再開の願望を砕く
    「公約違反」を迫る自民党
    参議院選挙勝利!
    「原発はもうやめよう」も選択肢
    二議席独占を狙った自民党
    新谷陣営のジレンマ
    危機感を結集
    トップ当選
    橋本さんの決断
    市議選三連勝
    推進派のあきらめムード
    「珠洲原発事前調査阻止闘争委員会」発足
第五章 反原発選挙を戦いぬく(3) 決着をつける難しさ
 一三 二〇〇〇市長選挙——「凍結」で事実上の決着を目指す
    頓挫した決起大会
    関電不正用地買収工作発覚
    消極的推進派、強硬推進派
    対立の着地点を探った「原発凍結」
    凍結の政策協定
    鮮烈デビュー、そして失速
    懲りない選管
    惨敗
    あいまいな選挙
    敗北はしたが……
    違いが浮き出たコメント
    自民党の圧力
    やれるものならどうぞ
    大山鳴動ねずみ一匹
 一四 二〇〇三統一地方選挙——反対派、初の後退
    「電源立地市民フォーラム」
    フォーラムに固執する市長
    「原発問題リレーシンポジウム」開催
    周辺市町村の冷めた視線
    市町村合併と珠洲原発
    合併問題を県議選の争点へ
    漁協合併、「すずし漁協」誕生へ
    人員と経費の削減をはかる電力会社
    新しい状況のなかでの県議選
    数多くあった勝てる要素
    惨敗
    敗因を探る
    市議選でも後退
    貝蔵市長、最後のあがき
    追い詰められる貝蔵市政
    「珠洲原発計画断念へ」
第六章 反原発運動のグラウン
 反対運動の多様化
 原発運動はサッカーだ!
 反原発のサッカー場を描く
 地権者と共有地運動
 海を守る闘い
 珠洲原発反対ネットワーク
 珠洲原発反対連絡協議会
 議員の役割
 全国からの支援
 珠洲原発反対運動と住民投票
第七章 断念のシナリオからみえるもの
 国策から撤退する電力会社
 珠洲原発の特殊性
 染み込んだ原発依存体質
 今後の課題
あとがき
資料 珠洲原発反対運動 略年表

前書きなど

はじめに

 二〇〇三年一二月五日午前九時。関西、中部、北陸の三電力社長が珠洲市役所に市長を訪ね、珠洲原発計画の凍結を伝えた。事実上の断念である。計画浮上から二九年目、水面下の動きをふくめるならばじつに三五年以上もの長い年月を経たビッグプロジェクトが幕を閉じたのである。
 昨年(二〇〇四年)七月一五日、珠洲市は市制五〇周年をむかえた。珠洲市がはじめて原発というものに接したのはいまから三五年ほど前、人間にたとえれば中学校を卒業する年頃のことである。原発に憧れを抱き二〇歳を迎え、二一歳になってからはただひたすら原発を追いもとめる日々となった。就職もせず、結婚もせず、気がつくと五〇歳である。
 一個人ならば、それもひとつの人生と語るのもいいかもしれない。しかし珠洲市は、発足当時は人口三万八〇〇〇人を上まわるまちであった。それがいまや約二万人を割りこむところまできている。高齢化率は三五パーセントを超え、年間の出生児数は一〇〇人前後に落ちこんでいる。地域の行事が維持できず、文化の継承ができないきびしい数字である。
 それ以上に問題なのは、長年、原発誘致による地域活性化という夢を抱いてきた行政の体質であり、住民の価値観である。ここ数年の市町村合併をめぐる論議のなかで、近隣市町村からは「珠洲市とだけは一緒になりたくない」という声が何度となく聞かれた。悲しいかぎりである。
 二九年目にして計画断念の日をむかえたが、私はこの歳月を「失われた二九年」にしてはならないと思う。そのためには、なぜ半島の先端、きびしい過疎が進むこの田舎町が、このような対立の歴史を刻むことになったのか、その経過を記し、背景や原因を探り、さらにつぎの世代へなにを教訓として残せるかについて、それぞれの立場から思いをめぐらし、議論を深めることは避けては通れない道である。
 ところが、市制施行五〇周年を記念して発行された「珠洲市勢要覧二〇〇四」を開いてみると、そこに記された「珠洲市のあゆみ」には珠洲原発についての記載が一切ない。「誘致決議」もなければ「凍結の申し入れ」もない。珠洲市のホームページにアップされた「珠洲市の歴史」も同様である。まさに歴史からの抹消である。長年にわたる原発誘致一辺倒の行政も許しがたいが、これは市民に対する二重の意味での重大な背信行為である。
 七つ森書館の中里さんから、珠洲の反原発運動について書かないかともちかけられたとき、私は自分の能力を顧みず、ふたつ返事で了解した。反対運動がなにを考え、なにをめざし、どういう活動をしてきたかを少しでも残せればとの思いからである。
 本書を書くにあたって、計画が水面下で動きはじめてから八八年の事前調査の申し入れまでは、私は運動にかかわっていないので、珠洲原発反対連絡協議会の総会資料や新聞記事、関係者からの聞きとりなどを中心にまとめさせていただいた。その後の動きについては、当事者の一人として、選挙の取り組みを軸に主な動きはほとんどカバーできたかと思う。しかし、そこにかかわった多くの人の思いは残念ながらごく一部しか盛りこむことができなかった。私個人の総括文書として読んでいただいたほうがいいかもしれない。
 さらに、珠洲市が珠洲原発の歴史を葬り去ろうとするなか、本書では反対運動の歴史だけでなく、許すかぎり推進側の動きもフォローしたいと少々力んでみた。私自身の力不足もあるが、多くの関係者が亡くなり、また珠洲市が関係書類を一気に処分するというなか、残念ながら力およばずである。
 しかし、珠洲原発の歴史、あるいは反対運動の取り組みを、系統立てて書いた書物はこれまでなかった。たとえ不十分であっても、珠洲原発の計画断念から一年が経過し、さまざまな立場からかかわってきた人、関心をもってきた人の記憶をよび覚まし、「珠洲原発」とはなんだったのか、あらためて考えるきっかけになれば幸いである。
 なお、本書に登場する人名に対する敬称は、私がふだんつかってきた敬称をそのまま使用させていただいた。また、再三再四登場する「事前調査」「立地可能性調査」という表現については、基本的にはおなじ調査を指している。行政および電力会社が八九年市長選以降、意図的に表現をかえており、八九年市長選までは事前調査という表現をつかい、それ以降は立地可能性調査としていることが多い。また、会話のなかでは単に「調査」と表現していることも多いが、これもおなじ調査を指しており、ご了承いただきたい。

 二〇〇五年一月
 北 野  進

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