発行:七つ森書館
この版元の本一覧
四六判 200ページ 並製
定価:1,300円+税 総額を計算する
ISBN978-4-8228-0256-1(4-8228-0256-6) C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2002年07月
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私たちが口にする牛乳や牛肉はどうやって作られているのか。──北海道酪農の現実と狂牛病問題を問う詳細リポート
目次
序 章 日本でも狂牛病が……
第1章 揺れる酪農地帯で聞く
猿払村の人たちの思い
獣医師町長の警鐘
稚内の生産者と消費者懇談会で
「疑似患畜」の扱いをどうするか
「マイペース酪農」の三友さんに聞く
第2章 動物性飼料と「酪農王国」
穀物多給に走ってきた北海道酪農
肉骨粉と牛用飼料の関係
行政の調査結果は氷山の一角
高泌乳を追及してリスクを負う
第3章 「共食い酪農」を支えた工業的畜産
わが家の『酪農壁日記』から
短命化を強いられる乳牛の一生
飼料の転換期は80年代
共食いの論拠になったバイパスタンパク理論
肉骨粉などを薦めた農業改良普及員
酪農雑誌はリスクをどう伝えたか
共食いを正当化する厚顔無恥
生かされなかったサルモネラの検査結果
第4章 感染ルートの特定は闇の中
無策を象徴する96年の行政指導
感染源の可能性が濃厚な「代用乳」
成分表示に『肉骨粉』はないが……
交差汚染の可能性も
魚粉は汚染されていないか
加熱が不十分だったイタリア産肉骨粉
いま想定しうる感染源は?
英国と日本——生産構造の違いは何か
第5章 原点に戻り農業政策の転換を
北海道酪農の原点はデンマークにあり
21世紀の理想的な牛の飼い方
蘇らせた健康な土で牛を育てたい
オーガニック酪農に学ぶ
終 章 「農と食」の再生へ
「安心」にこだわり、食の自給を高める
「牛肉文明」も問い直そう
生産構造の検証を欠いた報告書
「食品安全室」を新設した北海道庁
根絶にむけた課題
農場産チーズが活路を開く
海外の農業者と提携し新しい経済めざす
あとがき
前書きなど
伝達性海綿状脳症(TSE)のひとつ、狂牛病の発生がイギリスの地で正式に確認されたのは1986年後半にさかのぼるが、この病気の起源には諸説あって未だはっきりしていない。病原性を有するプリオンによって引き起こされる、という説が有力視されており、潜伏期間が2〜8年と長い。国際獣疫事務局(OIE)の小沢義博氏によると、狂牛病に感染した牛の脳や脊髄組織の乳剤を直接、牛や羊、山羊、豚、マウス、ミンクなどに接種すると感染を起こす、という。
さらに、牛だけでなく人間や猫、ウシ科の動物に経口的に感染することもわかっている。異常プリオンが蓄積した部位を食べることによって、牛から人間に病気が伝播し、致死性の海綿状脳症「新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病」を発症する可能性がある(イギリスなどでは死者も発生している)。低い確率であっても「種の壁を超えてうつる」という人畜共通の感染病であることが、世界中の人々に恐怖心を与えている。
イギリスの狂牛病が1国内の風土病で終わらずに拡散したのは、牛に与えた肉骨粉など動物性タンパクを含む飼料などが感染を広げたためだった。1988年にイギリス政府は牛や羊の死体を飼料化することを禁止したものの、関連産業を保護するために1996年まで動物性飼料の輸出は認める、という自国エゴの政策をとった。これがEU諸国に感染を広げた大きな原因になった(リチャード・W・レーシー『狂牛病——イギリスにおける歴史』緑風出版、に詳しい)。
日本への狂牛病の上陸時期はいつころなのか——。日本政府の圧力で作成が中止され、その後『毎日新聞』のスクープで存在が明るみに出た、EU科学運営委員会の報告書(草案)を読むと、かなり早い時期だった可能性が高いことがわかる(表を参照。報告書は2000年11月、01年2月、同4月の3回作成された)。
1980年代に日本がイギリスから輸入した牛の総数は合計34頭にのぼる。このうち、88年に輸入され、追跡調査を行なった19頭について、報告書は、18頭がレンダリング処理にまわり、残る1頭は焼却されて、低度の感染リスクに直面した、と述べる。多くが廃用牛になって屠殺され、国産の肉骨粉などに加工されたのである。
報告書は、80年代から90年代にかけて輸入された肉骨粉について、
「欧州統計局の輸出データの大半は、日本の輸入データと整合していない」
と、日本側が示した輸入記録の信頼性にも疑問を投げかける。
そして、イギリスやアイルランド、デンマーク、イタリアからの輸入肉骨粉について、加熱処理の不徹底などから日本に狂牛病の病原体が持ちこまれた可能性を指摘。すでに、80年代前半と90年代には「中程度」の、80年代後半には「高度」の外的感染リスクに直面していた、と述べている(2001年1月報告書)。
1996年に農水省が肉骨粉などの使用自粛を求める行政指導を行なうまで、市場に出回っていた動物性タンパクのうち2〜6%が牛用飼料として使用されており、1996年以降も飼料工場や輸送中などに汚染された動物性タンパクが牛用飼料に混じっていた可能性がある——などとEU委員会は指摘する。
そして、2001年4月の最終報告書では、こう結論づけている。
「1993/4年に、少なくない量のBSE病原体を保持していた国内牛が最初に加工処理されたと思われる」
「それ(93/4年)以降、BSE感染体が加工処理工程に進入する危険度は増大し続けている」
80年代半ばにイギリスで確認された狂牛病の病原体は、90年代初めまでに日本へ上陸し、レンダリング工程に入って循環しながら危険性を増していった可能性がある。「英国産肉骨粉などが入った飼料を牛に与えた」→「感染した牛が国内の工場で肉骨粉などに加工された」→「それを健康な国産牛が食べて感染した」というサイクルが十分想定できるのだ。第1号が確認されるまでの長いあいだ、感染した牛の肉や加工食品が食物連鎖の環に入り、感染牛由来の医薬品や化粧品なども多数製造されたことになる。
未解明の部分が多いこの病気について、科学的な知見を蓄積してきたEU委員会の報告書なだけに、説得力のある分析といえる。しかし、危機管理意識の乏しい日本政府は対岸の火事のように受け止め、報告書が指摘する幾多の警告には真摯に耳を傾けず、狂牛病の侵入を水際で防ぐことを怠った。これは失政以外のなにものでもない。
すでに確認された4頭の感染原因にしても、輸入した汚染肉骨粉などが直接エサに入ったためか、それとも報告書が指摘するように、早い段階で病原体が国内のレンダリング工程に入って増幅したことによるものなのか——。2002年3月中旬、農水省は感染経路について2回目の「中間報告」を公表しているが、複数の可能性を示しただけであり、原因究明にはほど遠い(第4章)。感染原因がわからないがゆえに人々の不安は消えない。
わたしが暮らす北海道は、札幌市民の数よりやや少ない、157万頭の牛(うち乳牛の割合は54%)が飼われている「酪農・畜産王国」である。乳牛部門に限ると、全国172万頭のなんと半数がこの北の島にいる。ここ30年ほどのあいだに規模拡大を急激に推しすすめた結果、いまで9600戸ほどの農家が1戸平均で89頭の乳牛を飼育し、年間3000億円あまりを稼ぎだす。
緑の大地でゆったりと草を食む牛の群れ、広い牧草地を走りまわる大きな農業機械、色とりどりの建物、遠くに見える山々……。本州以南の人たちが北海道酪農にいだくこんなイメージは、牧歌的で心をいやすものがある、とよく聞く。
が、日本列島を席巻した狂牛病騒動のなかで工業化した酪農・畜産の実態が浮き彫りになり、今年になってからは雪印食品による食肉偽装事件や、公共事業などにまつわる利権を欲しいままにした鈴木宗男疑惑の表面化などが相次いで、北海道がもっていた好ましいイメージは次々に崩壊した。人間が食べられないものを牛乳や牛肉に変える畜産本来の姿に戻すために、この大きな北の島はどうしていけばいいのか——北海道酪農の現在と狂牛病問題を重ねながら、明日への希望を見つけだしたい。
版元から一言
日本中を震撼させた狂牛病の“現在”を徹底検証!! 北海道在住の著者が足で歩いて書いた渾身のルポルタージュです。
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