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テレビという記憶
テレビ視聴の社会史
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2013年2月
- 書店発売日
- 2013年2月26日
- 登録日
- 2013年2月15日
- 最終更新日
- 2013年2月25日
書評掲載情報
2013-11-17 |
日本経済新聞
評者: 稲増龍夫(法政大学教授) |
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紹介
◆「公共的記憶」はどのようにつくられてきたか?◆
メディア環境が激変する現在、若年層を中心にテレビの見方は多様化・個人化し、影響力の低下が指摘される一方で、テレビ情報への依存度は年代を問わず高水準を維持しています。本書では、間もなく還暦を迎えるテレビの歴史を視聴者の立場で振り返り、中高生から高齢層まで幅広くインタビュー、ウェブ調査などを行ってテレビ視聴の現況・テレビにまつわる記憶を明らかにし、世代内・世代間の「記憶の共有」という視点から、テレビが果たす社会的役割の変遷を世代ごとに検討しました。そこから浮かび上がる今後のテレビが果たすべき役割とは? 編者は慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所教授。
目次
テレビという記憶─目次
はじめに
序 章日本のテレビ放送小史
1 1950年代街頭テレビから家族視聴の普及へ
2 1960年代生活必需品としてのテレビの定着とカラー化の進展
3 1970年代受像機の普及完了と視聴様式の変化
4 1980年代ニューメディア時代の幕開け
5 1990年代多メディア・多チャンネル時代の到来
6 2000年以降放送の完全デジタル化とネット対応
第Ⅰ部 テレビによる記憶の共有
第1章 記憶研究とテレビ
1 集合的記憶とは
2 社会的出来事に関する集合的記憶
3 外国の社会的出来事に関する集合的記憶
4 集合的記憶とテレビ視聴との関連
5 集合的記憶の風化
6 おわりに
第2章 テレビが構築する集合的記憶番組・アイドルの共有
1 テレビドラマの変遷
2 バラエティ番組の変遷
3 テレビ番組の集合的記憶
4 スター・アイドルとメディア
5 スター・アイドルと音楽番組の集合的記憶
6 むすびに代えてリバイバル現象の行方
第Ⅱ部 テレビ時代の記憶
第3章 現在の高齢者たち「大人」としてテレビに出会った最後の世代
1 現在の高齢者が生きてきた歴史的時間と世代的特徴
2 テレビとの出会いと受像機購入の記憶
3 中年期のテレビ視聴における性差の拡大
4 最近のテレビ視聴埋まらない性差
5 高齢者にとってのテレビこれまでと現在、男性と女性
第4章 団塊の世代テレビと成長をともにし、老いに向かう
1 ライフイベントと社会的出来事テレビとともに育った団塊の世代
2 テレビとの遭遇
3 アメリカへの憧れと反発
4 ジェンダー規範の受容と抵抗
5 老後はテレビとともに?
第5章 「仮面ライダー」登場世代テレビ黄金期を共有した少年たち
1 テレビ史の中の1970年代
2 子ども向け番組の位置づけ1970年代と現在の比較
3 1970年代の少年とテレビ視聴インタビュー調査にもとづく分析
4 むすびに代えてライダー登場世代にとってのテレビ
第6章 「テレビ世代」の少女たち「専念視聴」から「ながら視聴」へ
1 テレビ全盛期の少女たちの世代的特徴
2 インタビュー調査にみるテレビ全盛期の少女たちのテレビ視聴行動
3 幼児期と児童期に視聴していた番組に関する記憶と評価
4 社会的出来事の記憶とテレビの報道機能に対する評価
5 おわりに子育て世代にとってのテレビ
第Ⅲ部 テレビ新時代多メディア環境におけるテレビ視聴の動向
第7章 首都圏大学生のメディア利用動向(2001~2012年)
1 テレビ関連機器・装置の普及状況
2 テレビの視聴状況と他のメディアの利用状況
3 番組ジャンルに基づくテレビ視聴の動向
4 各種情報の入手源としてのテレビの役割
5 テレビ情報、ネット情報への依存度の規定要因
6 むすびに代えて
第8章 インターネット世代のテレビ・コミュニティ大学生のテレビ視聴
1 大学生はどのようにテレビを見ているのか進行する「パーソナル化」
2 若者たちによるテレビ視聴の共有プロセス「新たなコミュニティ」の形成
3 テレビ+多メディア時代の「公共的記憶」の可能性
4 多メディア時代のテレビの役割とは?
第9章 「好き」を選択的に共有するモバイル世代中学生へのインタビュー調査
1 リアルタイムに、つながりたい、インタラクティブな番組に参加したい
2 動画を〝落として〟持ち歩く「モバイル保存」志向の96世代
3 96世代の大切なメディアは、ケータイ中学生へのインタビュー
4 テレビは3番目に大事なメディア
5 テレビはおもにリビングで、家族と見たり、一人で見たり
6 友だちとのメディアを媒介にしたコミュニケーション
7 「遊び」と結びついたテレビ番組の記憶
8 社会的出来事やスポーツイベントの記憶
9 「好き」を検索して、多メディアで追求するモバイル世代
第10章 SNSユーザーのテレビ視聴
1 SNSユーザーの特徴
2 どのSNSを、どのような理由で利用しているか
3 テレビ愛着度の高いモバイル・グループ
4 娯楽番組やワンセグが好きなモバイル・グループ
5 リアルタイムで、好きな歌手や俳優を賞賛して、テレビを楽しむ
6 若い世代における選択的共有から、多世代をつなぐ「ソーシャル」なメディアへ
終 章 「ポスト・テレビ時代」のテレビ
1 「テレビ離れ」とインターネット
2 メディアの並行利用がもたらすテレビの変化
3 テレビの変化と「想像上の共同体」
おわりに
資料 テレビ番組および社会的出来事の年表 (5)
索引 (1)
装丁 臼井新太郎
カバー写真 スズキアサコ
前書きなど
テレビという記憶―はじめに
21世紀以降のインターネットの普及と情報通信機器の急速な進化によって、私たちのメディア環境はめまぐるしく変化し続けている。大学のキャンパスでは、いつの間にか携帯電話がスマートフォンに入れ替わり、タブレット端末やノートPCも含めて、常にモバイル機器の小さな画面に向かって何かをチェックしている学生の姿が目につく。知りたいことがあれば小さな画面で必要な情報を検索して直ぐに入手できるし、ヤフーなどのポータルサイトやツイッターなどのソーシャルメディアで世の中の動きをいち早くキャッチできる。すべての人々が大学生のようにモバイル機器を重用しているわけではないが、電子ネットワークの拡充と情報通信機器の発達に伴う新たなメディア環境は、多くの人々がテレビや新聞といったマスメディアに依存することなく、時間や場所の制約を受けずに多種多様な情報を各自の嗜好に応じて選択的に取得することを可能にしているのである。
1953(昭和28)年2月に始まったテレビ放送は、間もなく還暦を迎えようとしている。この間、テレビ受像機は全国津々浦々に広く浸透し、老若男女を問わず、誰もが利用する最も大衆的メディアとして大きな影響力を発揮してきた。テレビは、多くの人々に共通の娯楽と情報を提供し、記憶を共有化する装置として機能してきたのである。昭和の時代にNHKの紅白歌合戦を見るのは、年末の国民的行事の様相を呈しており、そこに出場した歌手や楽曲の多くは、国民全体に広く周知されるのが当然とされていた。黒タイツの力道山のリング上の雄姿やあさま山荘での連合赤軍と機動隊の攻防のテレビ映像は、その時代を生きた大多数の人々の記憶に今なお深く刻み込まれているに違いない。
1970年代の中ごろから複数のテレビ受像機を所有する家庭が増えて家族揃って見る番組が減り始め、さらに1990年代からの衛星放送やケーブルテレビの普及による多メディア・多チャンネル化の流れの中で、1960年代から70年代にかけてのテレビ全盛期のような高い視聴率を記録する娯楽番組は、徐々に姿を消していった。それでも21世紀に入るまでは、ジャンルを問わず人気の高い番組は、さまざまな世代の共通の話題とされることが多く、私自身もテレビで見たことを授業で取り上げれば大部分の受講生に話が通じるという思いを抱いていた。しかし最近では、高視聴率番組や出演タレントなどの話題を振っても学生たちの食いつきが悪く、以前のようにテレビの話が通じにくくなってきたことを実感するようになってきた。
インターネットへの依存度が高まるにつれて、新聞、雑誌、ラジオといった旧来のメディアの利用率が全体に低下し、テレビを見ない学生が増えているのは確かである。それでも現状では、大学生の8割以上がテレビを見る習慣を維持しているのだが、視聴頻度や時間といった量的側面以上に、テレビの見方や関わり方といった質的側面に際立った変化が生じているようだ。放送時間に合わせてテレビ受像機の前に座り、リアルタイムで番組を見るといった専念視聴は、むしろ少数派に転じようとしているのである。大容量の録画機に好きな番組を残して暇をみつけて後で見る。それをモバイル機器に落として持ち運び、通学途中の電車やバスの中で視聴する。あるいはユーチューブなどの動画共有サービスで面白そうな番組を探して見る。こうしたタイムシフト、プレイスシフトといった視聴様式だけでなく、リアルタイムでテレビを見る場合にも、若い人たちの間では、番組に関するインターネットの掲示板、ツイッターやメールなどでのやりとりを通じて、その場にいない他者と視聴経験を共有しようとすることが珍しくなくなっている。
放送のデジタル化の進展によって21世紀にはワンセグ放送やオンデマンド放送といった新たなサービスが本格的にスタートした。この他にも放送局は、さまざまな形で番組のインターネット配信の道を模索しているし、放送と通信の融合・連携が進んで放送事業者以外による新規の番組制作や配信サービスも実現している。多メディア・多チャンネル化の流れが加速して番組の伝送経路が複雑化するとともに視聴様式も多様化し、どこまでを「テレビを見る」という行為に含めてよいのか分かりにくい状況が出現しているのだが、テレビを通じて世代内、世代間で共有される社会情報が質量ともに減少し、これまでのように広範な集合的記憶が構築されにくくなっているのではなかろうか。 こうした問題意識に基づいて私たちは、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所を母体に世代内・世代間での記憶の共有という視点を基軸としてテレビの社会的役割の変遷の様子を検討するための共同研究プロジェクトを2008年から継続してきた。本書は、その5年間にわたる研究成果を1冊にまとめたものである。
本書の構成は、以下の通りである。
まず序章で日本のテレビ放送の歴史を年代別に概観したあと、第Ⅰ部ではテレビが構築する集合的記憶に焦点を当てた研究を取り上げている。第1章では、内外の社会的出来事の認知率の年代差を手掛かりに、テレビによって伝えられた過去の出来事が集合的記憶として残されるための条件を検討している。第2章では、ドラマやバラエティといった娯楽番組の視聴経験に関する調査結果に基づいて、いずれの世代においても10代、20代の多感な時期に接した番組の記憶や思い入れが強いことを確かめるとともに、スターやアイドルとの情緒的関与には、きわめて顕著な性差と年代差が介在するために世代を超えた集合的記憶が構築されにくいことを明らかにしている。
第Ⅱ部では、40代以上の中高年層を対象にしたインタビューに基づいて、それぞれの世代の人たちが、これまでの生活の中でどのような形でテレビに関わってきたかを具体的に示し、全体を通じてテレビの社会的役割の時代的変遷の様相を浮き彫りにしようとしている。自分のためではなく、家族のために多少無理をしてテレビを購入した経験をもつ75歳以上の後期高齢者を対象とした第3章では、この世代の人たちは多忙な中年期の生活の中でテレビを見る余裕がなく、特に男性は退職後にテレビを見るようになっても、限られたジャンルの番組を受動的に視聴しており、それに比べると女性の方が、中年期にも家事をしながら、また子どもと一緒に多様な番組を見る機会があり、老後の生活の中でもテレビからさまざまな効用を積極的に引き出そうとする姿勢を示すことが明らかにされている。幼少期にテレビと出会った65歳前後の団塊の世代を対象とした第4章では、その頃に数多く放送されていたアメリカ製ドラマの視聴経験と対米感情、ジェンダー規範との関係に焦点を当てた考察がなされている。子どもの頃に新しいメディアと出会い、熱中してテレビを見ていた団塊の世代は、それだけ大きな影響を受けていた可能性が高いが、向老期に向かった現在では、実際にテレビをよく見ているにもかかわらず、そのことを必ずしも積極的に評価していないことが示唆されている。次の2つの章ではテレビ全盛期に幼少期を過ごした40代の人たちのテレビ経験を取り上げているが、第5章では男性、第6章では女性が対象とされている。この世代の人たちは、男女ともに中学に入るまではテレビを見ることが大きな意味をもち、その影響が生活に深く組み込まれていたにもかかわらず、中学入学後にテレビに対する関心が急速に薄らいでいったことが共通の傾向として指摘されている。誰と一緒にテレビを見るか、どのような番組を見るかといった点では、幼少期から男女の違いがみられたとしても、それよりも顕著な男女差は現在のテレビ視聴に現れていることになろう。40代の男性は仕事が忙しく、子どもと一緒にテレビを見るといった経験は、子育て中の女性に限られているのである。
第Ⅲ部では、大学生や中高生など若い世代の多メディア環境におけるテレビ視聴の動向や実態の解明が図られている。第7章では、首都圏大学生の定期調査に基づいて、2001年から2012年にかけてインターネット利用が拡大するにつれて、テレビなど旧来のメディアを利用する割合が直線的に低下していく様子を具体的に示し、テレビあるいはインターネットを主たる入手源とする情報内容に違いがあることを明らかにしている。第8章では、首都圏及び長崎県の大学生のインタビューに基づいて、動画共有サービスの利用やインターネットの並行利用などを含めて、大学生の新たなテレビ視聴スタイルの特徴とテレビの話題が他者と共有されるプロセスについて検討している。第9章では、中学3年生へのインタビューを中心に、ネオ・デジタルネイティブ世代と呼ばれる若者たちがケータイ、パソコン、音楽プレーヤー、ゲーム機などを使い分け、テレビ番組を話題にして友だちとのコミュニケーションを図る様子が明らかにされている。第10章では、ウェブ調査の結果に基づき、SNSユーザーのタイプ分けを行い、それぞれのグループの人たちのテレビ視聴やテレビとの関わり方の特徴を調べている。そして終章では、これまでの議論を総括して、今後、テレビが果たすべき機能についての考察を加えている。
還暦を迎えたテレビは、今後、どのように姿を変えていくのであろうか。テレビ放送の来歴を異なる世代の視聴者の目を通じて辿ろうとした本書の刊行が、それを考えるうえでのひとつの手掛かりになれば幸いである。
上記内容は本書刊行時のものです。