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終わりなき革命 ハンガリー1956
- 出版社在庫情報
- 在庫僅少
- 初版年月日
- 2006年10月
- 書店発売日
- 2006年10月26日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2019年7月26日
紹介
1956年のハンガリー“民衆蜂起”は、スターリン型社会主義に対する最初の反乱であり、社会主義、自由、権力とは何かを問うたものであった。革命の担い手が求めていたものとハンガリー現代史の原点を探る。(2006.10)
目次
目 次
刊行にあたって…………………………………………………………………………………………………………………… 3
日本語版への序文――一九五六年から五〇年………………………………………………………………………………… 7
はしがき︱︱一九五六年とその今日的意義…………………………………………………………………………………… 9
序 論……………………………………………………………………………………………………………………………… 23
第一章 革命を準備する反体制派……………………………………………………………………………………………… 25
ジャーナリストの反対運動 27 作家にも広がる反体制運動 34 ナジ・イムレのまわりのグループ 37
反対派のフォーラム 42 社会的激動の始まり 46 スターリン主義批判の継続 53
ライクの再葬儀と学生反乱 58 蜂起前夜の反対派 62
第二章 反体制派とナジ・イムレ政府のイデオロギー……………………………………………………………………… 67
ナジ・イムレにおける共産主義 68 ナジ・イムレの修正主義 71 社会主義の建設 74
六月の道│「新路線」の政策 76 「新路線」と民主化 79 ナジ・イムレとハンガリーの独立 83
ナジ・イムレの「イデオロギー」 85 革命に直面するナジ 88 ナジ、革命を受け入れる 93
ナイーヴだが反抗的なナジ・イムレ 98
第三章 地方都市――具体化する革命………………………………………………………………………………………… 103
セゲド 104 ジェール 107 ミシュコルツ 119 ペーチ 125 シャルゴータリャーン 127
第四章 ブダペシュト――革命と反革命の狭間で…………………………………………………………………………… 131
導火線に火をつけた学生 132 一〇月二三日の夜 141 武装戦闘集団 146 ソ連軍 151
群衆のテロル 155 西側の諸機関 161 ドゥダーシュ・ヨージェフのグループ 162 諸政党 166
作家・学生・青年 172 労働者評議会 175 共産党内反対派 178
第五章 大ブダペシュト労働者評議会………………………………………………………………………………………… 183
労働者の抵抗 184 地区労働者評議会の発展 188 中央労働者評議会の創設 189
中央労働者評議会│構成と組織 191 ストライキ問題 194 ソ連軍司令部との関係 197 全国労働者評議会 198
労働者の雑誌 203 工場の支配をめぐる闘争 204 中央労働者評議会の解散 207
第六章 カーダール体制に反対するハンガリーの社会主義者……………………………………………………………… 213
妥協の最後の試み 214 最後の抵抗の動き 219 反対派の運命 222 革命の最後の行為 226
「フンガリクス」I 理論の革命 228 「フンガリクス」Ⅱ 革命の教訓 232
第七章 結論……………………………………………………………………………………………………………………… 241
カーダール体制のイデオロギー 241 反対派のディレンマ 245 労働者評議会の政治的役割 250
あとがきにかえて――カーダール主義から民主主義へ 一九五六―一九八九年………………………………………… 255
カーダール・ヤーノシュと革命の抑圧 255 ナジ・イムレの誘拐と処刑 258 カーダールのハンガリー 261
カーダール主義の死滅 264 一九五六年の再登場 266 共産主義の崩壊 267
一九五六年史概説――訳者解説………………………………………………………………………………………………… 271
ラーコシ│粛清の嵐と急速なソ連化 271 ソ運の政変とナジ登場 273 作家同盟と「ペテーフィ・サークル」 274
学生の登場│急進化する反対派 275 一〇月二三日 277 ナジ首相と「第一次介入」 278
労働者評議会と複数政党制 279 和国広場│一〇月三〇日 280 一一月一日 281
「ハンガリー社会主義労働者党」 282 ナジ連立政府 283 「第二次介入」 283 「労農革命政府」 284
関係略年表………………………………………………………………………………………………………………………… 287
史 料……………………………………………………………………………………………………………………………… 295
A、「一六項目」 295
B、ハンガリー人よ! ビボー・イシュトヴァーン 297
C、ウーイペシュト革命的労働者評議会のアピール 299
注…………………………………………………………………………………………………………………………………… 11
文献目録…………………………………………………………………………………………………………………………… 9
索引…………………………………………………………………………………………………………………………………
前書きなど
刊行にあたって
本書はBill Lomax, Hungary 1956, Allison & Busby, London, 1976 の全訳である。この本は、一九七六年に出版されてまもなく、パリにおいてハンガリー語版として地下出版された (Magyarorsz? 1956-ben, A Magyar F毟etek kiad?a, Paris, 1982)。これはクラッショー・ジェルジが翻訳し、かつ補充を行っている。著者ビル・ローマックス氏によれば、このハンガリー語版のほうが英語版より良いということである。たしかにハンガリー語版は、元の英語版に比べて、史料が追加されているほか、いくつかの箇所で修正が加えられている。著者の希望もあり、本訳書では、ハンガリー語版のなかの重要と思われる修正・補筆部分は、できる限り取り入れている(その部分には*で印を付けておいた)。なお、ハンガリー本国からは一九八九年になって同じ著者の本が同じくクラッショー・ジェルジの翻訳・補筆として出ている (Magyarorszz? 1956, Aura Kiad, 1989) が、著者によれば、これは自分の本というよりも、まったく別の本となっているので、翻訳の参考にはしてほしくないとのことであった。
著者ビル・ローマックス氏は、長年ノッティンガム大学に勤めていたが、二〇〇〇年に退職し、現在は年金生活を送っている。ビル・ローマックス氏のこの本は、現在でも英文で出たハンガリー一九五六年革命研究のものとしては、指折り数えられる中に入っている。ビル・ローマックス氏は、本書を著したのち、ハンガリーの五六年当時の労働者評議会の研究を進めて、史料集(Hungarian Workerユs Councils in 1956, Columbia UP. 1990)を編集・出版している。
著者ビル・ローマックス氏には、一九九一︱九二年に訳者がハンガリーに在外研究中に出会った。当時訳者は彼の Hungary 1956 を翻訳中で、彼にいろいろと不明な点を教えてもらっていたのである。そして、帰国後に出版するつもりであって、彼から「はしがき」や「あとがき」を送ってもらってはいたが、当時の日本の出版事情ではハンガリーの一九五六年はあまりにも採算のあわないテーマであって、出版を見合わせざるをえなかった。
その後、一九五六年の五〇周年を迎え、出版の機会がやってきたので、改めて翻訳を見直し、ビル・ローマックス氏にも新しい「はじがき」を書いてもらって、出版にこぎつけたしだいである。
本書の特徴は、
(一)ナジ・イムレの長所と短所の分析を客観的に行っていること。
(二)カーダール・ヤーノシュの分析も客観的に行っていること。
(三)しかし、結局は政党や指導者や知識人ではなく学生、労働者といった五六年の担い手(大衆的基盤)の視点から描いていること。
(四)それゆえ、労働者評議会の意義を明確に評価していること。
(五)ブダペシュトだけでなく、地方での動きを正しく位置づけていること。
である。そして、本書は、徹底して国家権力に懐疑的で下からの労働者などの自主権力の重要性を説いている。
一九八九︱九〇年に社会主義体制が崩壊するころから、ハンガリーでは一九五六年をめぐる政治的評価はもとより、史料発掘の面でも大きな進展があったことは、周知のとおりである。政治的には、社会主義時代には一九五六年は「反革命」として位置づけられていたが、一九八八︱八九年に、それは「人民蜂起」として評価しなおされ、そのことが体制の崩壊を促進したのでもあった。研究の面では、ブダペシュトに一九五六年革命史研究所が設立されて、研究の拠点ができたのを受けて、一九五六年の諸事件の復元が進められ、詳細な事件の記録や、ナジ・イムレ、ロションツィ・ゲーザらの伝記や、多くの体験記が著わされてきた。しかし、研究の内容としては、労働者評議会の意義がいっそう深められた以外には、国際関係の面で新しい進展があったと言える程度ではなかろうか。そういう意味では、一九五六年の研究史において、ビル・ローマックスの表わした本書の意義はいぜんとして色あせてはいないと言うことができる。改めて、一九五六年が既存社会主義の根本的革新に持ったであろう意義や、一九八九年に有した意義が痛感される。また、とくに、労働者評議会の記述からは、ユーゴスラヴィアの自主管理や、一九八〇年のポーランドの自主管理労組「連帯」の意味を推しはかることができる。
本書は、時系列的に記述された事件史ではなく、どちらかといえば理論的考察であるので、本書の理解に参考になるような「一九五六年史概説」を訳者の手で付けておいた。初めてハンガリー一九五六年に接する人は、この「概史」と著者の作成による「関係略年表」を参考にしたのちに、本書の本文をお読みくださると理解しやすいかもしれない。なお、本書でのハンガリー人の名前は、姓・名の順にしてある。
本書の出版に際しては著者のビル・ローマックス氏から、種々の暖かい援助をしていただいた。日本で一人でも多くの人がハンガリー一九五六年に関心を持ってくれるとありがたいというのが、かれの気持ちであるとのことであった。また、NPO歴史文化交流フォーラム「世界史研究所」の田中一生、吉橋弘行両氏には、注の翻訳や本書の校正その他でお世話になった。最後になったが、一九九二年から気長に見守ってくださった彩流社の竹内淳夫さんに、心よりお礼を申し上げたい。
二〇〇六年九月 訳者
一九五六年から五〇年――日本語版への序文
一九五六年のハンガリー革命から五〇年、そして一九八九年の旧共産主義体制の崩壊から一八年が過ぎた。世界は急速に動いている。この間に、歴史や政治や社会についての、また社会がいかに組織可能か組織すべきかということについてのわれわれの理念や信念は、根底的に問われることになった。
多くの人々にとって、一九八九年のもたらした教訓は、社会主義や共産主義の理念は実現できないということが示されたということ、また、生産手段と分配と交換の私的所有、無制限の競争と無制限の市場に基づく資本主義に代わるオールタナティヴはないのだということである。そういう人々にとって、協同と共通財に基づく平等で公正な社会などは、歴史の屑籠に捨て去られてしまっている。
同時に、かつては社会主義への移行の原動力と久しくみなされていた労働者階級も、もはやそういう原動力とはみなされていない。それは、数的にも力量から言っても、また信念の点でも献身の点でも、そうである。
このような状況のなかで、一九五六年はたぶん人類史上ユニークな、真の社会主義革命であったのだが、それは真の社会主義を創造するための最後の試みとして運命付けられていたのだと考える人たちも現れている。それは、一九五六年の革命的諸事件に積極的に加わった人たちを含めてのことである。
しかしながら、今日でもなお、一九五六年の秋のあの数日、数週間をその生涯の最も重要な経験であると考え続けている人々がいる。かれらにとって、一九五六年は全体主義的国家に対する民衆蜂起というユニークな事件であり、それに参加することによって、かれらはもっと平等で公正な社会のために戦ったのだと心から信じていたのである。
おそらく革命の最も目覚しい成果は、労働者評議会の動きであろう。労働者評議会は共産主義国家へのオルターナティヴを示しただけではなく、占領ソ連軍に対抗しても革命の目的を守ろうとしたのだった。労働者評議会は、工場管理への労働者統制を構築するとともに、経済全体への管理の役割を模索するものとしてみずからを打ちたてようとしたのである。一九五六年の大ブダペシュト中央労働者評議会の議長であったラーツ・シャーンドルの言葉を借りるならば、労働者評議会は「革命全体にその刻印を押した」のである。
革命から二五年後に、労働者評議会のもう一人の指導者であったバリ・シャーンドルを讃える演説のなかで、ラーツ・シャーンドルは、労働者評議会は社会の前進のための新しい道をタイミングよく提示したのだと述べていた。「この偉大なる民衆運動の最も重要な側面でありかつ最も独創的なイニシアティヴであったのは、工場に対する労働者の自主管理と労働者統制のシステムであった。それはこのハンガリーにおいて初めて実践に移されたのである。それはユートピアであったろうか、空虚な空想に過ぎなかったろうか。私はそうは思わない。われわれの考えでは、ハンガリーの労働者の圧倒的多数は、まさに私と同じように考えていたのである。」
一九五六年から五〇年が過ぎた。当時ハンガリーの労働者たちは、抑圧も搾取もない社会、労働の尊厳を尊重し讃え、工場においてまた社会全体において建設し生産し創造する人々に力を与えるような社会を作ろうと努力した。その努力を支えたヴィジョンは、ハンガリー革命の最も優れた最も高貴な遺産なのであり、それは五〇年後の今日においてもなおそうなのである。
二〇〇六年六月
ビル・ローマックス
版元から一言
(社)日本図書館協会 選定図書
上記内容は本書刊行時のものです。