小さな島国の文化・歴史・政治マーシャル諸島ハンドブック
中原 聖乃, 竹峰 誠一郎
発行:凱風社
この版元の本一覧
A5判変型 232ページ 並製
定価:2,200円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7736-3204-0 C0025
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年11月
書店発売日:2007年11月15日
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紹介

学んで、知って、訪ねてみよう——中部太平洋の大海原に浮かぶ小さな環礁国を本格的に紹介した本邦初のガイド書。マーシャル諸島と日本の絆はとても深い。例えば「マーシャルは一九一四年から敗戦時まで南洋群島の一つとして日本に支配・統治され、日本語、日本文化を強制されたこと」「五四年三月一日の米水爆実験によって、マーシャルの人びとも被曝しており、日本と共に非核を訴えていること」などだ。旅行情報も充実した丁寧で分かりやすい基礎書でもある。

目次

▼まえがき——中原聖乃

Q&A●マーシャル諸島共和国の地理——竹峰誠一郎
ミクロネシア地域の概要——竹峰誠一郎

▼第1章[都会の暮らし]マジュロへの旅——中原聖乃
首都マジュロ
市街地を歩く
リーザとの出会い
リーザ家の暮らし
ある休日
支え合って暮らす
みんな知り合いということ
基地に隣接する第二の都会イバイ

▼第2章[田舎の暮らし]アイルックを訪ねて——竹峰誠一郎
マーシャル・カヌーを求めて
生活を共にするホームステイ
電気・ガス・水道設備のない暮らし
生活を支えるココヤシ
見えてきた海世界
パーティーに参加

▼第3章[歴史]小さな島国の昨日、今日、明日——中原聖乃
スペインによる領有
コプラ産業の始まりとドイツによる実質的な植民地化
第一次世界大戦と日本の委任統治
太平洋戦争と日本の敗戦
激戦地とはならなかった環礁の戦争
核実験から始まったアメリカの時代
マーシャル諸島、ミクロネシアから独立へ
マーシャル諸島のこれから

▼第4章[核と軍事]アメリカの安全保障体制の影——竹峰誠一郎
冷たい戦争の最前線
終わりのない核被災
核実験に対するアメリカの見解
核被災に立ち向かう現地の人びと
ミサイル実験場とされた島、クワジェリン
イバイ島の実態
「安全保障」とは何のこと?

▼第5章[政治と社会]内政、外交、自治体、NGO——竹峰誠一郎
「建国の父」アマタ・カブア
伝統的権威と政治
ユニークな選挙制度
大統領派と反大統領派
軍隊のない国
アメリカと一致した国連投票行動
国交樹立を競う台湾と中国
日本からの経済援助
国家を飛び越える自治体外交
NGO活動の萌芽

▼第6章[文化]言葉、宗教、親族関係・土地制度——中原聖乃
言 葉
土着信仰とキリスト教
親族ネットワークと土地制度
親族ネットワークと環礁を超えた交易

Q&A●マーシャル諸島訪問ガイド——竹峰誠一郎

▼あとがき——竹峰誠一郎

【コラム】
◆統計資料から読み解く経済——竹峰誠一郎
◆何が掲載され、何が掲載されなかったのか 『南洋群島寫眞帖——南洋廰始政十年記念』を読む——中原聖乃
◆忘れてはならない二人の証言者——竹峰誠一郎
◆核実験問題を提起した日本の先駆者たち——竹峰誠一郎
◆島が沈む? 忍び寄る地球温暖化の影響——大久保ゆり/(聞き手)竹峰誠一郎
◆ある青年海外協力隊員が見た 小学校と子どもたち——竹峰誠一郎
◆マーシャル諸島訪問に役立つ連絡先一覧——竹峰誠一郎
◆旅行に役立つマーシャル語——中原聖乃

●写真のクレジット一覧
●索引

前書きなど

まえがき——中原聖乃

 マーシャル諸島は太平洋に浮かぶ珊瑚礁が美しい「南の国」だが、旅行会社が出すパンフレットはハワイ、グアム、フィジーなどが多く、マーシャル諸島を詳しく知る解説書を探すことは残念ながらほとんど不可能だ。世界地図の上に場所を見つけることすら難しいマーシャル諸島。なんといっても、広大な海に点々と広がった無数の小さな島々に暮らしているのはわずか六万人弱なのだから。マーシャルの人びとは、概して明るくフレンドリーで、親切だ。美しい珊瑚礁を眺めながら、明るい太陽をさえぎる木陰で皆と話をしていると、ともすれば大国に支配された歴史、とりわけ戦争や核実験の被害の経験が横たわっていることを忘れそうになる。

 オセアニアのミクロネシア地域の東に位置するのがマーシャル諸島である(二一〜二三頁参照)。「ミクロネシア」は、そこに住んでいる人びとが自分たちの生活の場を指して呼んだ名前ではなく、外の世界から命名された地域名である。そもそも、マーシャル諸島という名前もマーシャル諸島を〝再発見〟した西洋人の名前にちなんでいる(一〇七頁参照)。

 外の世界から与えられたのは名前だけにとどまらない。マーシャル諸島は実際、一〇〇年以上にわたる外部の支配を経験してきた。日本もマーシャル諸島を統治した経験をもつが、統治期の末期に起こった太平洋戦争は悲劇的な結果をもたらした。多くの人びとが財産を失い、命を落としたのだ。それに続く米国統治に行なわれた六七回もの核実験では、自然環境はもちろん、人も被曝し、現在も放射能汚染が確認されている。なかでも一九五四年に行なわれた「ブラボー」と命名された水爆実験は、規模もさることながら、もたらされた人的被害の大きさは計り知れない。一九五八年に核実験が終わった後も、一九六一年からミサイル実験が始まり、現在でもアメリカから飛来してくるミサイルを打ち落とす迎撃ミサイル実験が行なわれている。マーシャル諸島共和国は一九八六年に独立を果たし、国連にも加盟し、日本に大使館も開設しているれっきとした独立国であるにもかかわらず、それはあくまでもアメリカの安全保障の枠内での独立という条件がついたものだ。マーシャル諸島は、大国の支配の下で多くの犠牲を強いられてきたのである。

 しかも近年の外部支配は、別の新たな見えにくい形で静かに押し寄せている。それは地球温暖化による海面上昇の脅威である。平均海抜が二メートルと極端に低いマーシャル諸島は、先進国の排出する温室効果ガスの影響を受けて一部が沈むことが懸念されている。マーシャル諸島自身は温室効果ガスをほとんど排出していないにもかかわらず、である。
 本書は、このようなマーシャル諸島を包括的に紹介する本邦初の案内書である。マーシャル諸島共和国の旅行ガイドブックとして役立つだけではなく、文化、歴史、政治、社会問題まで幅広く網羅している。

 マーシャル諸島では、自給自足に近い生活が見られる、美しい珊瑚礁にかこまれた島がある一方、他方では、処理しきれない生活廃棄物のごみの山や、アメリカのミサイル開発の最前線を担っている基地を擁する島もある。まず第1章で、マーシャル諸島の玄関口である首都と、基地の町に暮らす人びとの日常を、そして第2章で、伝統的な暮らしの残る田舎の暮らしを紹介する。

 アメリカへの経済依存は、現在のマーシャル諸島が抱える深刻な問題である。これは現在起こっている問題としてのみ捉えるのではなく、大国による長年の経済的・軍事的利用の積み重ねの結果生じていることを理解しなければならない。第3、4、5章では、歴史・安全保障・政治的動向について紹介する。国際社会に投げ込まれ、その支配に翻弄されながらも、現地の人びとはいかにその支配を生き抜き、変えようとしてきたのか、また変えつつあるのかといった点にも触れる。特に、安全保障と政治的動向は最新のデータやアメリカ側の公文書も用いている。

 本書を締めくくるのは文化的側面である(第6章)。とりわけ、マーシャル諸島の人びとが自らの存在を証明するよりどころとしている土地に関する制度を、親族関係と絡み合わせて紹介する。

 マーシャル諸島についてあれこれ話をすると、聞き手からは二つの反応が返ってくる。一つが「かわいそうな」犠牲者。もう一つが、援助漬けで働かない「なまけもの」。本書が、そういった反応を次のような認識に転換するきっかけとなることを願っている。マーシャル諸島の人びとも、精一杯大国と渡り合ってきたこと。そして、「なまけもの」という評価を歴史と国際関係のなかで問い直すこと——それが、本書の筆者二人の願いである。

 願わくば、本書を手にしてくれた読者がマーシャル諸島に行ってみようと思ってくれること——それが私たちにとって至上の喜びとなるだろう。

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あとがき——「アリの目」で世界を見つめる——竹峰誠一郎

 「世界には六三億人の人がいますがもしもそれを一〇〇人の村に縮めるとどうなるでしょう」——。絵本『世界がもし100人の村だったら』(マガジンハウス)は、「いままでと違う世界の現実が見える」などの反響を呼びベストセラーになった。類書も次々出版され、国際理解や開発教育の現場でワークショップ「世界がもし一〇〇人の村だったら」が開かれ、「世界の多様性と格差が体感できる」と好評を博している。

 「一〇〇人の村」を全否定するつもりはない。しかし世界を一〇〇人の村に縮めると、マーシャル諸島のような小さな国がかかえている現実は、ますます切り捨てられ見えなくなってしまうことを、私は声を大にして言いたい。世界の多様性や現実を理解するには、ものごとを上から大きくとらえる鳥瞰的な見方だけではなく、もう一つ「虫の目」をもった、いわばアリが地をはうように、下から丹念に、小さなものから世界を見つめる視座が必要なのだ。本書は「アリの目」で世界を見つめた本である。

 小さな島マーシャル諸島は一見、世界の大勢に影響を与えない、隔絶された辺境な地に見える。しかしその小さな島に実は世界大の大きな問題が横たわっていることは、本書で見てきたとおりである。オーストラリア国立大学のテッサ・モーリス=鈴木教授が自著『辺境から眺める アイヌが経験する近代』(みすず書房)で指摘するように、辺境とされた地に着目することは、「国史を、地域史を、ひいては世界史を違った視座から再訪する旅の出発点」となる。本書は小さな島国マーシャル諸島に関する本であるが、単にマーシャル諸島を深く知るだけでなく、世界を異なった視座から眺め、世界の現実を問い直したり、世界の多様性を知ったりする素材が多分に含まれた書になったと自負している。

 そもそもマーシャル諸島をはじめとする太平洋のミクロネシア地域は、日本のお隣さまでもある。昨今「東アジア共同体」や北東アジアをめぐる議論が盛んになりつつある。近隣地域のアジアに目を向けようとする動きは心から歓迎したい。しかし同時に近隣地域の眼差しが、北東アジアや東南アジアにほぼ限定されることに違和感を覚える。日本から見て西半分だけが近隣地域なのだろうか。日本から東に目を向けると、そこに太平洋の海世界が広がっている。そこはかつて日本が南洋群島と呼び支配していた地域でもある。本書がもう一つの近隣地域、ミクロネシアの島々に想像力の射程をのばす一里塚になればうれしい限りである。

 最後になったが、本書の完成に至るまでは、現地の方をはじめ、実に多くの人の支えがあった。構想から二年以上、実際の執筆から一年半以上、途中出版が危ぶまれた時期もあったが、本書を企画・編集した小木章男さんの叱咤激励・適切なアドバイスと、手塚真由子さんの誠実な制作作業がなければ、読者の方々に本書をお届けすることはできなかった。また大久保ゆりさんと荻野晃子さんにはコラムにご協力いただき、高橋博子さんや伊藤美幸さんには写真を提供していただいた。皆さんに感謝を申し上げたい。あいにく新鮮なココヤシの実はないけれど、アイルック流乾杯で「シャラーンマン!」。日本とマーシャル諸島を結ぶ一つの架け橋に、本書がなることを願って——。

   二〇〇七年一〇月

版元から一言

軍事大国・米国がもたらした核被災問題、新たな植民地への危機、迫りくる温暖化の脅威——中部太平洋に浮かぶ環礁国を徹底ガイド。旅行情報も充実。

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著者プロフィール

中原 聖乃(ナカハラ・サトエ)

 中京大学非常勤講師(「平和論」担当)。1965年生まれ。一般企業勤務を経て、神戸大学大学院総合人間科学研究科博士課程単位取得。専門は、文化人類学。論文に、「『国家安全保障』と人間の安全」『平和研究』29号(2004)、「被曝補償導入による政治実践の変容に関する一考察」『社会科学研究(中京大学社会科学研究所紀要)』第25巻2号(2005)などがある。著作に『隠されたヒバクシャ』(共編著、凱風社)。現在、第五福竜丸平和協会専門委員などを務める。

竹峰 誠一郎(タケミネ・セイイチロウ)

早稲田大学・大学院生(国際関係学専攻)。1977年生まれ。日本平和学会の分科会「グローバルヒバクシャ」共同代表。和光大学の公開講座で「平和学」を担当。主な著作に『隠されたヒバクシャ』(共編著、凱風社)、『ヒバクの島マーシャルの証言』(共著、かもがわ出版)などがある。

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