発行:凱風社
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四六判 336ページ 並製
定価:2,700円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7736-3107-4 C0022
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年07月
書店発売日:2007年07月31日
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紹介
ハイチを訪れること19年間で二十数回。なぜそんなにまでハイチに魅せられるのか。カリブ海に浮かぶ世界初の黒人共和国の歩みと庶民の暮らしを1988年の独裁政権崩壊後から現在まで追跡しつづけてきた現代史ルポ。平和で民主的な国が実現すればこんなにいい奴はいないと確信させるハイチ人の気概と陽気さ。その一方で渦巻く希望と将来を打ち砕く数々の社会的不条理。世界に誇れる音楽や絵画の才能を思う存分発揮できる時代が訪れてほしい——そんな願いが込められた労作。
目次
はじめに
第 一 章 政変に揺れる黒人共和国——一九八八年九月、この年二度目のクーデター
第 二 章 太陽の街シテソレイユの友人たち
第 三 章 アリスティド神父
第 四 章 ウィリー・イブの死
第 五 章 初の民主的選挙——一一九九〇年三月〜九一年二月
第 六 章 軍の反乱——一一九九一年九月〜九二年六月
第 七 章 ガヴァナーズ島の調停——一一九九三年七月〜九四年二月
第 八 章 米軍の介入——一一九九四年七月〜十月
第 九 章 民主的国家の再建へ——一一九九五年六月〜九六年二月
第一〇章 闘うジャーナリストと友人の死——一プレヴァル時代の到来
第一一章 アリスティドの再選、そして再失脚——一二〇〇〇〜二〇〇四年
第一二章 暗黒の街シテソレイユ——一二〇〇五年
第一三章 プレヴァル再選と未来——一二〇〇六年
あとがき
【コラム】
ハイチ小史——一コロンブスの到達からデュヴァリエ独裁政権の崩壊
ハイチと日本
ハイチの音楽
前書きなど
はじめに
一九八六年二月、米国のサンフランシスコに住む私は早朝、行きつけの喫茶店で新聞を読んでいた。革命の嵐がフィリピンに吹き荒れ、マルコス独裁政権は崩壊の危機に瀕していた。サンフランシスコの新聞も連日のように、フィリピンの緊迫した情勢を国際面のトップで報道していた。
「へえー……ハイチのベベ・ドクもとうとう終わりか……」
テーブルの真向かいに座って新聞を読んでいた友人がそう言った。その時、「ハイチ」という国名が、なぜかとても心地よい響きで耳に飛び込んできた。
「ハイチのベベ・ドクって、誰?」
「知らなかった? ハイチの独裁者ジャン=クロード・デュヴァリエのあだ名さ。彼の親父も有名な独裁者だったんだ」
記事の具体的な内容は忘れたが、デュヴァリエ政権について書かれていたと記憶している。その当時、ハイチについて知っていたことは、「カリブ海に浮かぶ島国」。そんな程度である。恥ずかしいが、どこにあるのかも分からなかったし、「彼の親父」、つまりベベ・ドク(ジャン=クロード・デュヴァリエ)の父、パパ・ドク(フランソワ・デュヴァリエ)の名前も知らなかった。だが、遠いカリブ海に浮かぶハイチでも、フィリピンと同様に革命が起きていることを知り、どんな国なのだろうかと興味を持った。
ハイチにぜひ行ってみたいと思ったのは八八年の夏である。本屋で偶然手にした雑誌の、ハイチ特集の写真を見て圧倒されてしまった——「人気のない路上に転がった死体」「葬儀で泣き叫ぶ少年」「スラム街に住む悲しい目をした親子」「デモ隊に襲いかかる兵隊」。写真の世界には、「澄み切った青い海」「ヤシの木のある美しい海岸」「陽気な人々」という、私が想像していた「楽園」のようなカリブ海のイメージとまったく違った現実があった。「楽園」と「地獄」——相反する二つの世界がハイチに共存していた。
〝事件〟が終われば、次の〝事件〟へ。私は報道カメラマンとして、まるで渡り鳥のような生活に明け暮れていた。でも、時間をかけて取り組める被写体はないだろうかと考えていた私にとって、ハイチこそが絶好の場であるように思えた。
八八年九月、私は初めてハイチを訪れた。到着した翌日、クーデターが勃発。当初、一、二か月の予定だった滞在が、気が付いてみれば四か月間になっていた。以来、「ハイチ初の民主選挙」「アリスティド大統領誕生」「アリスティド失脚後の軍事政権」「米軍進攻」「ヴードゥー教」など、カメラマンとしてあまりある題材やニュースを取材して、ハイチを訪問すること二十数回。あっというまに一九年が過ぎてしまった。
被写体としてのハイチも魅力だが、私をさらにのめりこませたのはハイチの人々である。たくさんの友人ができた。彼らは一日一食さえおぼつかないスラム街に住む人々である。西半球最悪の経済と不安定な政治。多くの友人が貧困と暴力の犠牲となった。だが、どんなに生きることがつらくても、彼らが自ら「生」を放棄することはない。貧乏に耐え、暴力に脅え、必死に生き抜く姿に、「楽園」の人々にふさわしい「生」の輝きを見てきた。一四九二年十二月六日、ハイチのモルサンニコラ湾に到達したクリストファー・コロンブスは「なんと素晴らしい島だ!」と叫んだというが、五世紀を経たいまでも、私がイメージし、コロンブスが感嘆した「楽園」は確かに存在する。
しかしハイチという「楽園」の住人が望んでいるのは、貧乏に耐えることもなく、暴力に脅えることもない自分たちの「楽園」である。旅行者や外国人のための「楽園」ではない。ハイチの歴史を振り返るならば、アフリカから連れてこられた黒人奴隷が「自由と平等」を求めてフランスの植民者に立ち向かった反乱も、デュヴァリエ独裁政権を崩壊させた抵抗運動も、近年の民主化運動も、自分たちの「楽園」を創造するための努力であった。
民主化への希望の星として現われたアリスティドは、九一年九月に勃発した軍のクーデターによって失脚。それから一〇年後、「改革途中に挫折を余儀なくされたアリスティド。だからもう一度、アリスティドにチャンスを与えたい」と、貧困層からの期待を一心に集めたアリスティドは二期目の大統領に就任した。しかし、二〇〇四年二月、反政府武装勢力の反乱によって、アリスティドは再び失脚した。そして、混乱はいま(二〇〇七年)もなお続いている。アリスティドの試みは失敗に終わったかもしれない。だが、人々は「楽園」を創造する努力をあきらめたわけではない。
「忍耐が必要だって? 外国人のおまえには言われたくない! そんなことは分かっている。俺たちほど忍耐という言葉の意味を理解し、経験してきた国民はいない。俺たち、ハイチ人は建国から二〇〇年も我慢している」
そう語っていた農民の言葉が忘れられない。
この本に登場するのは、カメラマンの私がレンズを通してとらえ、感じた「楽園」である。植民者コロンブスや旅行者が思い浮かべる観光パンフレットの「楽園」とは、ほど遠い姿であるかもしれない。でも、この本が、ハイチの人々にとっての「楽園」を、少しでも伝えることができれば幸いと思う。
ハイチは「世界初の黒人共和国」として歴史上でも重要な国だが、音楽、絵画など文化的にも豊かな才能にあふれている国である。だが日本には、ハイチやカリブ諸国に関する文献は少ない。この本を通じて、読者がカリブの島国ハイチを身近に感じてもらえるならばと願っている。
[編集部より——本書は、一九九九年二月二五日初版発行の『ハイチ 目覚めたカリブの黒人共和国』の増補改訂新版である。新版発行にあたって、大幅な増補、タイトルの変更、および文章の修正、写真の加除等を行なった。]
版元から一言
銃弾の飛び交う現場で時の政権の存亡を激写し、貧困層が集まるスラムで友人の苦悩の襞を撮し取る。フォト・ジャーナリストによる迫真のルポ。
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著者プロフィール
佐藤 文則(サトウ・フミノリ)
フォト・ジャーナリスト。明治大学文学部卒業後、1979年に渡米し、サンフランシスコ・シティー・カレッジ(San Francisco City College)で写真を学ぶ。2001年に帰国。フォトエージェンシーの「インパクト・ヴィジュアルズ(Impact Visuals)」(ニューヨーク)、「シパ・プレス(Sipa Press)」を経て、現在「オンアジア・イメージズ(On Asia Images)」(タイ・バンコク)に所属。日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(JVJA)会員。1988年からハイチ取材を開始。他に米国、東南アジア諸国を中心に活動する。
著書に、『ハイチ 目覚めたカリブの黒人共和国』(凱風社、1999年)『ダンシング・ヴードゥー ハイチを彩る精霊たち』(凱風社、2003年)、『ハイチ 圧制を生き抜く人びと』(岩波書店、2003年)、共著『フォトジャーナリスト13人の眼』(集英社新書、2005年)など。
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