ヌサトゥンガラ島々紀行
瀬川 正仁
発行:凱風社
この版元の本一覧
四六判 288ページ 並製
定価:1,900円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7736-3004-6(4-7736-3004-3) C0026
在庫あり
奥付の初版発行年月:2005年12月
書店発売日:2005年12月15日
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紹介

 グローバリズムの辺境に生きる人々に惹かれた著者は、「いいかげんこのうえない」交通に悩まされながら、ウォーレス線の彼方を何度も島づたいに巡った。そこでは三大世界宗教をそれぞれ信じる人々が多様な生活を送っている。首狩り、コモドドラゴン、巨石信仰や精霊信仰、物々交換の定期市場、小さなフローレス原人、銛を片手のクジラ狩り——。島々を特徴づける多様な暮らしを見ると、改めて「近代の矛盾」がはっきりと見えてくる。

目次

プロローグ

1 バリ島 【楽園、もうひとつの素顔】
虎、ここに終わる/ガイコクでは……/スペシャルな場所/空を飛べなかったマグロたち/仲良し町内会/命の値段/ロンボク行きのバスチケット/敗者の歴史/熱帯魚も空を飛ぶ/少年時代

2 ロンボク島 【ウォーレス線を越えて】
ウォーレスの大地/州都マタラム/壊れもの/汝の隣人/人生最大の儀式/「衣」のスローライフ/略奪婚/牛の角/イスラム教もどき/ヤシの話/幻の白オウム/最強の定食/植民地時代の遺産

3 スンバワ島 【夢はメッカか幻か】
親子スリ/終着駅ビマ/ビンタン・ゼロ/庶民の娯楽/村一番の人気者/ギネス記録/辺境の高級リゾート/ゴールドラッシュ/ロームシャ/日本軍の財宝

4 コモド島 【ドラゴンのくに】
ドラゴンへの道/ドラゴンの真実/ドラゴン調査隊/ドラゴン狂想曲/ドラゴンの村

5 フローレス島 【不思議の宿るところ】
バジャウ人の港/旅のリスク/謎のフローレス原人/小人と小象/巨石信仰/火山の恵み/スカルノ幽閉の地/パソコン・ショップ/若者の夢/観光の目玉/くせ者運転手/ポルトガル人/つわものどもが夢の跡/ララントゥカの復活祭/伝統村ごっこ

6 スンバ島 【ラジャのため息】
忘れられた土地/ラジャの意地/言霊/姫の転生/奇祭パッソーラ/ストライキのわけ/スンバの石引き/ジ・イカット

7 チモール島 【白檀の罪】
ザ・博物館/白檀/奇妙な主食/ニキニキのメキシコ銀貨/技あり/国境のワニ/独立が招いた物価高/無国籍都市ディリ/アタププ、悲しみの港/大航海

8 アロール諸島 【貨幣に刻む物語】
①アロール島 青銅の通貨モコ/古代の三権分立
②パンタル島 日本軍の沈船/パンタル島のモコ

9 ソロール諸島 【首狩りとクジラ獲り】
①アドナラ島 首狩り族/愛村心/象牙と布
②レンバダ島 思いがけない幸運/クジラと生きる村/物々交換市場/イルカの涙/二〇〇五年の真実

エピローグ

あとがき

主要参考文献

前書きなど

 バリ島の東に浮かぶロンボク島から、ダラダラッと続く多島海の島々、そこがヌサトゥンガラだ。舌を噛みそうな名前だが、日本語に翻訳すればあっけないほど単純、「東南の島々」という意味である。

 ヌサトゥンガラを訪れる日本人観光客は、ほとんどいない。乗客が少ないと勝手にフライトをキャンセルしてしまう、わがままな飛行機。りっぱなホテルもほとんどない。衛生状態も決してよくないから、腹をこわす可能性もある。一泊三日の旅をして、その足で仕事場に直行するようなタイプの日本人観光客には、いちばん不向きな場所なのかもしれない。

 それにヌサトゥンガラには、カンボジアのアンコール・ワットや、ネパールから眺める雄大なヒマラヤの風景のように、「ごちゃごちゃ言わずにまあ見てみなよ」と言えるような、インパクトのある観光スポットがあるわけでもない。

 それでも私がヌサトゥンガラに惹かれるのは、そこに広がる多様な世界の魅力だ。

 東西に細長いヌサトゥンガラ。といっても全長は、わずか一二〇〇キロ足らず。日本の本州を縦断するより短い距離だ。しかし旅をしているうちに、いくつもの国を渡り歩いているような、不思議な感覚に襲われる。小さな島をひとつ移動するだけで、人々の顔つきから生活習慣に至るまで、ガラリと変わってしまったりする。そればかりか、隣りあっている村どうしでさえ、文化や習慣が全く違うことも珍しくない。

 ヌサトゥンガラは大昔から、ユーラシアとオセアニアを結ぶ民族の交差点だった。そのうえ、白檀などの自然の恵みを求めて、さまざまな人たちがこの地を目指してやってきた。中国人、インド人、アラビア人、ポルトガル人、イギリス人、オランダ人、日本人。数え上げればきりがない。ある時は交易相手として、またある時には侵略者や植民者として、彼らは、この地の文化や社会の形成に少なからぬ足跡を残してきた。その結果、もともと雑多な民族が暮らしていたこの土地に、キリスト教やイスラム教をはじめとした、多くの外来の文化や宗教が、モザイクのようにちりばめられていった。ちょっと大げさな言い方をすれば、ヌサトゥンガラは人間がどこまで多様に生きられるかの、実験場であるかのようだ。

 一億をこえる人間が、ほとんど同じ方向を向いて暮らしている日本からやってくると、生き方、考え方がばらばらな人たちが暮らすヌサトゥンガラは、戸惑いの連続だ。でも、雑多な価値観を持った人間が、それなりの居場所を持って暮らしている様に触れているうち、次第に肩の力が抜けてゆくのを感じる。それは、人がありのままに受け入れられているという、日本ではめったに体験できない、当たり前の現実がもたらす開放感なのかもしれない。

 人前で感情をあらわにしないことが美徳とされる日本人と比べ、彼らはよく泣き、よく笑い、よく怒る。ヌサトゥンガラの人々は、良きにつけ悪しきにつけ、正直に自分をぶつけてくる。もちろん、ヌサトゥンガラは地上の楽園ではないし、そこに生きる人々も、清く正しく美しい人ばかりではない。むしろその逆だったりすることもある。それでも彼らに愛着を感じるのは、そこに日々を必死に生きようとする生身の人間の姿があるからだ。

 三〇万人の命を奪ったスマトラ島沖地震の記憶は生々しいが、幸いにも、二〇世紀にアジア全体を包みこんだ「近代化」という名の大津波は、まだヌサトゥンガラを完全に飲みこんではいない。それは、過去も現在もこの地が中心から遠く離れた「辺境の地」だったからに違いない。

 急速に均質化してゆく世界から逃れるように、いにしえのアジアの営みが今も生きるヌサトゥンガラを目指した。

版元から一言

 これが現代か、と目を疑うほど異色な暮らしが次々にレポートされます。著者は映画助監督からテレビのディレクターに転身し、マイノリティーや教育をテーマに番組を作ってきました。

 「素朴な」暮らしを続けてきた庶民に対するテレビの破壊力は凄まじい。こう実感する著者だからこそ、愛情あふれる眼差しで滅びゆく「いにしえのアジア」をすくいとることができたのでしょう。

関連リンク

凱風社ホームページ

著者プロフィール

瀬川 正仁(セガワ・マサヒト)

映像ジャーナリスト。1978年、早稲田大学第一文学部卒業。ジャン・リュック・ゴダールの作品に触発を受け、映画の世界に入る。80年代後半より映像作家としてアジア文化、マイノリティ、教育問題などを中心に、ドキュメンタリーや報道番組を手がける。映像作品に「バンコク一九九一」(TBS)、「学校を元気にした教師バンド」(中京テレビ)、「サマリア人三千年の祈り」、「エチオピア・少年は牛の背をわたる」(以上NHK)、ほか多数。日本映画監督協会会員。日活芸術学院講師。

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