発行:凱風社
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四六判 360ページ 並製
定価:2,500円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7736-3001-5(4-7736-3001-9) C0021
在庫あり
奥付の初版発行年月:2005年09月
書店発売日:2005年09月07日
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紹介
新選組を生んだ「多摩」の地はかつて他国の侵略には鍬を剣に持ち替え、一致して闘うもののふの郷(さと)であった。五日市憲法や自由民権運動に代表されるように、培われてきた自主・自治の精神は中央政権の支配に屈した日清戦争前夜まで受け継がれていく。特に幕末維新期、多摩人が夢見たのは共和政体の実現ではなかったのか。三谷幸喜「新選組」像等に見られる立身出世願望説を批判的に再検証し、壮大な多摩人の「闘い」を発掘した歴史ノンフィクション。
目次
はじめに
本書関連事項年表
●第一章
天然理心流を生んだ武士の郷
多摩の歴史は侍の歴史
甲州一揆
世直し江川大明神
多摩川の取水堰争い
岡引・八五郎の活躍
彦五郎の手習い
八王子千人同心
江川代官、日野宿へ
彦五郎の仮祝言
洪水に見舞われた歳三の生家
宮川勝五郎の入門
佐藤邸炎上
●第二章
江川担庵の業績と多摩人の自立精神
勝五郎、宮川家に養子に入る
江川担庵、種痘を実施
蘭方医ネットワーク
薬売りになった歳三
ペリー艦隊の来航
御台場の建設着工
佐藤道場の開設
安政の大地震
担庵、総蔵を走らす
義兄弟の契り
開国に洗われる多摩
大献額奉納式典と野試合
剣士たちの恋と病
熱く国事を語る
●第三章
武相農兵隊の結成と近藤勇の信念
浪士組参加決定の内幕
将軍上洛
江戸大変、武相騒乱
多摩のスポンサー
新選組の誕生
武相農兵隊の結成
多摩と京都の通信
禁門の変、多摩を走らす
天狗党、関東を駆ける
近藤勇の一時帰還
●第四章
明治元年は瓦解元年
支配替えの阻止
第二次長州征伐
武州世直し一揆の勃発
歳三、再び郷里へ
薩摩浪士隊の破壊活動
鳥羽・伏見戦争の勃発
甲陽鎮撫隊の出陣
多摩にとって、明治元年は瓦解元年
上野「彰義隊」の崩壊
箱館占領と蝦夷共和国
箱館戦争と歳三の最期
●第五章
民権から国権へ 未完の「多摩共和国」
多摩分割と御門訴事件
郷学校の発足と廃藩置県
第二代神奈川県権令・大江卓の改革
政府転覆計画と佐賀の乱
第三代神奈川県令・中島信行の振興策
三多摩の出現と神奈川県会
民権運動と天皇〝行幸〟
多摩自由党と武相困民党
『武蔵野叢誌』と天皇筆禍事件
大阪事件と憲法大赦
石阪美那と北村透谷
三多摩の東京府移管
彦五郎、大往生
●終章 あとがきにかえて
●登場人物の人名・変名表
前書きなど
●はじめに
二〇〇四年のNHK大河ドラマは三谷幸喜脚本による『新選組』だった。主役の近藤勇役に人気の香取慎吾を起用するなど、三谷の手腕は冴え渡り、ストーリーも若者受けを狙って大胆に脚色されている。史実をトレースするものではなかったとはいえ、まずまず、好評を博したことはめでたいことである。ふつう、大河ドラマともなれば県を挙げてのお祭り騒ぎになるものなのであるが、今回、東京都は一切何もしてはいない。近藤勇のふるさと・調布と土方歳三のふるさと日野が、競うように町おこしを狙ったに過ぎない。多摩という地方は統一した行政単位をなしていないので、個々の自治体がばらばらに取り組むほかはないのである。東京都は多摩全体の問題に関心など持ってはいない。
ドラマのおかげで「多摩」という地名の存在が広く知られるようになった。一年を通して「多摩の百姓」という言葉が何度も繰り返されたからである。かつて、日本最大の面積と結束力を誇った多摩郡、武蔵の国の中心であった多摩も、人々の意識の中で地盤沈下を起こし、忘れ去られようとしていたといっていい。分割されて三多摩になってからも、調布市を含む北多摩郡、日野市を含む南多摩郡は全域が市制化されて姿を消し、西多摩郡にわずかな町村を残すだけとなってしまった。多摩という地名は、多摩川と多摩丘陵を除けば、南多摩に位置する多摩市と多摩ニュータウン、多摩都市モノレールといった、やや規模の小さいものを示す地名になろうとしていたのである。ドラマは多摩に暮らすひとたちの間にも「多摩って、どこ。どこまでが多摩」といった疑問を投げかけることになった。
一方、三谷は従来からある新選組の「立身出世願望」説をそのまま踏襲し、近藤勇に「いつか武士になりたい」という台詞を繰り返させ、多摩=百姓、百姓=武士への憧れ、を強調してしまった。だが、多摩にはそんな憧れが芽生える余地はなかったし、多摩の百姓はまた耕作を専務とする純粋な農民ではなかった。つまり、三谷の脚本は史実を脚色しただけではなく、多摩という土地の実像をも歪めたことになる。もっともこれは、三谷の責に帰すものではなく、従来の説(紋切り型の物語)が負うべき責任である。また、多摩自身も、新選組を紋切り型の物語に押し込めることで、多摩が持つ歴史の固有性、闘う百姓の実像を消し去ろうとしてきた。多摩の歴史への裏切りなのである。ドラマを機に繰り広げられた調布、日野の町おこしも、その上塗りの域を出なかった。
多摩は元来、闘う百姓の郷、もののふの郷である。ふだんは鍬を握り、他国に侵されようとするときは一致して剣に持ち替えた。しかも多摩は、中心地もリーダーも持たずに、ネットワークとしてこの団結を維持した。日本の歴史の中でもきわめて貴重な自主と自治の郷なのである。
幕末、多摩の百姓の固有の歴史が再び目覚めた。欧米の脅威に対する自衛意識と、その能力の存在確認と限界確認。そうしたものを通して、多摩はこの国の未来像を引き寄せることになる。自らが主人公であるという自信、それが多摩の幕末維新を染め上げた。新選組とは、そうした流れの中で産み落とされた確かな傍流に他ならない。本流は維新後もとうとうと流れ続け、自由民権運動へと受け継がれる。神奈川壮士、三多摩壮士である。
自主と自治、自由と民権、この先に多摩が夢見たものは共和政体、共和国であろう。中心地もなくリーダーもない。中央集権とは正反対のネットワークである。多くの人々が対等にひざ突き合わせて議論をし、統一した方針を導き出す。民主主義のこのプロセスを、多摩は歴史的に得意としてきた。本書はそれを明らかにすることで、三谷とは異なる新選組像を提供する。と同時に、日本があのとき、天皇を奉じる薩長絶対主義政権に屈するのではなく、別な道があったのだということを示しておきたい。武蔵府中が置かれ、確かに多摩も一時、中央の支配に屈した。が、その期間はわずかである。平将門の残党や、南朝の残党を受け入れた多摩に、中央政府は指一本触れることができなかった。全国統一を果たしたといわれる豊臣秀吉も、多摩を支配できてはいない。
明治になって、多摩は初めて他国に支配された。それを跳ね除けようと、闘いは続いたが、薩長新政権の、百姓たちの暮らしを省みない暴虐ぶりは、そうした暮らしを大事にしてきた多摩人たちの想像を絶するものだった。多摩は行政区分上でずたずたにされ、貴重な一体感を奪われてしまう。郷土の誇りである新選組でさえ、薩長政権に配慮して、一般受けする「立身出世」物語に押し込めてきたのである。だが、そんなものは嘘っぱちである。多摩の歴史的伝統は薩長絶対主義政権を認めてはいない。本書はそれを具体的に明らかにすることを主眼とする。多摩はなお、侵略に対する地域の砦であってほしいと願うからである。
版元から一言
新選組を生んだ多摩とはどういう地だったのか。幕末維新期、多摩人は天皇制政権に抗って共和政体の実現を夢見たのではないか。この地が放ち続けた「輝き」をすくい上げた反骨の書。
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著者プロフィール
佐藤 文明(さとう・ぶんめい)
フリーランスライター・戸籍研究者。1948年、東京都南多摩郡日野町生まれ。日野・上佐藤の出身で八王子育ち。八王子千人同心に興味を持ち、高校時代から研究を開始。高校は都立立川高校(著者は多摩立を自称)。法政大学在学中に東京都の職員(総務部総務課)となり、新宿区役所に希望転属。戸籍研究者としての第一歩を踏み出す。1972年より現職。79年、「〈私生子〉差別をなくす会」を結成、婚外子差別の廃止を目指すとともに、82年には「韓さんの指紋押捺拒否を支える会」を結成。指紋制度の廃止と取り組む。現在は「女性と天皇制研究会」「自由民権21」メンバー。ライターとして行政事件、冤罪事件、戦時動員、多摩の幕末維新などを追究の基本テーマとしている。
デビュー作『戸籍』(1981年、現代書館フォー・ビギナーズ)はベストセラー。同シリーズには『六大学野球』『新選組』(いずれも2003年)、緑風出版のQ&Aシリーズには『在日外国人読本』(1993年)『あなたの町内会総点検』(1994年)『日の丸・君が代・元号考』(1997年)『個人情報を守るために』(2001年)『戸籍って何だ』(2002年)などがある。
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