検証=裁きなきビキニ水爆被災隠されたヒバクシャ
前田 哲男:監, グローバルヒバクシャ研究会:編著, 竹峰 誠一郎:編著, 中原 聖乃:編著
発行:凱風社
この版元の本一覧
四六判 408ページ 並製
定価:3,000円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7736-2909-5(4-7736-2909-6) C0031
在庫あり
奥付の初版発行年月:2005年06月
書店発売日:2005年06月30日
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紹介

1954年3月1日、水爆ブラボーの閃光がマーシャル諸島の上空を切り裂いた。半世紀後の今も、島民の伝統的な暮らしや文化に多大な変容をもたらした「死の灰」による汚染と後障害の全貌、そして「人体実験」疑惑の真相は米核政策の闇の中に隠ぺいされ続けている。住民の証言や米公文書の分析、見舞金がもたらした社会的影響の調査などを通じて、封印されてきた「完全決着」「日米の政治決着」の責任を明らかにし、時効なき核被災の広がりを検証した研究書。

目次

まえがき

【第一章】ビキニ水爆被災の今日的意味—前田哲男

 1 はじめに 太平洋と核 地理と歴史の不幸な出会い

 2 ビキニ核実験の始まり

 3 核軍拡競争

 4 ブラボー実験 「置き去りにされたネズミ」

 5 「俊鶻丸の調査」がもたらしたこと 覆された常識

 6 原水爆禁止運動の誕生

 7 核廃絶への国際世論


【第二章】第五福竜丸被災とアメリカ政府の対応 隠された被ばく情報—高橋博子

 1 はじめに 明らかになりつつある米核実験の真相

 2 一九五四年の水爆実験とその波紋

 3 CIAの第五福竜丸調査

 4 第五福竜丸の被災に対する補償問題

 5 久保山愛吉の死因に関する米原子力委員会の見解

 6 「放射性物質の影響と利用に関する日米会議」とマグロ調査の打ち切り

 7 ラルフ・ラップと放射性降下物論争

 8 「きたない爆弾」と「きれいな爆弾」

 9 おわりに グローバル・ヒバクシャの実態解明に向けて


【第三章】 塗り変えられる被災地図 隠されたヒバクシャを追う—竹峰誠一郎

 1 はじめに 核被災の地域的広がり

 2 あの時、アイルック環礁で何が起こったのか

 3 幻となった住民避難

 4 住民が目にした異常現象

 5 補償・賠償をめぐる攻防 立ちはだかる「完全決着」の壁

 6 おわりに 新たなビキニ水爆被災像の構築に向けて


【第四章】ヒバクは人間に何をもたらすのか 忍び寄る核実験の影—竹峰誠一郎

 1 はじめに ヒバクによる影響はガンだけなのか

 2 土地は人びとの命を育んできた 「核の難民」の現在

 3 移住がもたらす生活環境の激変

 4 環礁に根づいていた独自文化の衰退

 5 健康状態の悪化

 6 心に傷を負わせた不安感・恐怖心と被差別体験

 7 おわりに 暮らし・文化・心へ広がるヒバクの影響


【第五章】挑戦するロンゲラップの人びと 生活圏再生の民族誌—中原聖乃

 1 はじめに メジャト島に生きるロンゲラップの人びと

 2 故郷を消滅させたアメリカの核実験

 3 被曝補償要求で見せた〝弱者〟の主体性

 4 見舞金がもたらした弊害と社会的混乱

 5 環礁生活の未来に向けて 進行する再定住計画


【座談会】
「ビキニ水爆被災 過去に問い、未来につなげる」……「あとがき」にかえて グローバルヒバクシャ研究会


【監修者の辞】前田哲男


【編著者の謝辞】高橋博子 竹峰誠一郎 中原聖乃


【コラム】
◆レコジ・アンジャインの死に想う 「人類の水爆死第一号」伝説 前田哲男

◆隠されたヒバクシャ 一つの封筒が語るもの 高橋博子

◆マーシャル諸島の対米関係 小さな島の大きな問題 竹峰誠一郎

◆日本統治時代の残像 中原聖乃


【資料】
1 マーシャル諸島島民による国連信託統治理事会への請願書 (翻訳)原水爆禁止日本協議会国際部 (校訂)竹峰誠一郎

2 ブラボー実験五〇周年記念演説 グレタ・モリス (翻訳)大久保ゆり (校訂)竹峰誠一郎

3 ブラボー実験五〇周年記念演説 ジェームス・マタヨシ (翻訳)大久保ゆり (校訂)竹峰誠一郎

4 ビキニ水爆被災調査の「現在」と「これから」 ●「ビキニ水爆被災五〇周年研究集会」報告 竹峰誠一郎

5 久保山愛吉氏の死から半世紀を前にして ●「ビキニ被災五〇周年研究報告」 高橋博子

【文献案内】竹峰誠一郎

【索 引】

前書きなど

まえがき

「……核実験の停止によっても、核が遺したものは終わらない……」「私たちはアメリカがその責任を覚えておくように求めます」「……人びとの生活にふりかかった恐ろしい混乱は、まだ私たちに付きまとっているのです」

 二〇〇四年三月一日、アメリカが太平洋中西部のマーシャル諸島ビキニ環礁で、水爆実験「ブラボー」を実施してから五〇年が経過した。同日、核実験場とされたマーシャル諸島の首都マジュロでは、記念式典が開催された。ヒバク地の一つロンゲラップ環礁を代表してあいさつに立ったジェームス・マタヨシ住民代表は、冒頭のように核被災は現在進行形の問題であることを述べ、それに対応する責任をアメリカ政府に問うた。

 水爆ブラボーでは、現地住民とともに、第五福竜丸などの日本の漁師らも放射性降下物を浴びてヒバクした。大石又七・元第五福竜丸乗組員は自著『ビキニ事件の真実』(みすず書房、二〇〇三年)で、「ビキニ事件は、……不当な揉み消しの中で、被爆者や重要な警告をも包み隠したまま忘れ去られてしまった」(同書一七八頁)と訴え、「日米政府が……、あわてて政治決着でふたをし」(一七一頁)、事件を解決済みとしたことを批判している。

 ビキニ水爆被災は、原水爆禁止の原点ともいわれながら、実はその被災問題はマーシャル諸島でも日本でも、アメリカ政府へ事実に基づく責任を果たさせないまま、一定の金銭の支払いと引き換えに、「完全決着」とされているのだ。実際、ブッシュ政権は二〇〇四年一一月、マーシャル諸島からの核実験追加補償請願に対して、それを拒否する見解をアメリカ議会に伝えている。

 償いといえば、金銭の支払いが想起されよう。しかし金銭は責任を回避する手段として支払われたり、金銭の流入で地域社会が混乱することもある。そのことは本書で述べる。

 ビキニ水爆被災をこのまま決着済みの問題として封印してはなるまい。私たちはビキニ水爆被災五〇周年を新たなスタートにすべく、「グローバルヒバクシャ研究会」を創設し、核被災の問題を真正面から研究するネットワークを築いてきた。そして、その研究成果を世に問い、今後のビキニ水爆被災研究、ひいては地球規模に広がりを見せるグローバル・ヒバクシャに関する研究の礎を築こうと上梓したのが本書である(出版の経過は、巻末の「編著者の謝辞」を参照)。監修者にビキニ取材の先駆者の一人である前田哲男を迎え、前田と若手研究者三人が執筆と編集にあたった。本書は以下の五つの章から構成される。

 第一章の前田哲男「ビキニ水爆被災の今日的意味」は、太平洋版「核と人類」のスケールで展開される。冒頭で太平洋の島世界に読者を誘いながら、太平洋が核の植民地とされ、ビキニ水爆被災に至った経過を概観する。他方「ビキニ」も教訓としながら、太平洋で核を乗り越える思想が育まれた足跡も追う。最後に広島・長崎六〇年を問い、まとめた。

 第五福竜丸は、不幸とひきかえにビキニ水爆被災の真実を世界に告知した「ホイッスル・ブロアー」(告発者)の役割をになったと、前田は指摘する。『読売新聞』のスクープで、放射性降下物を浴びて被災した第五福竜丸の存在が公になった。福竜丸は、身をもって、当時知られていなかった放射性降下物の脅威を世界的に開示し、核兵器の脅威を身近に感じた人びとが、国内いや世界的にも原水爆禁止の声をあげた。

 こうした第五福竜丸の存在は、アメリカ政府にとって無視しえない現実で、政治的脅威以上の何ものでもなかった。時は反共の嵐が吹き荒れていたマッカーシズムの時代、アメリカ政府は、第五福竜丸の被災に対して、日本政府とも協力しながら、どう対応したのか。第二章の高橋博子「第五福竜丸被災とアメリカ政府の対応」は、近年機密解除されたアメリカ公文書を駆使し、その真相に迫る。

 高橋の問題意識の根底には、情報コントロールがある。アメリカ政府は、自らの責任を回避する形で巧みに第五福竜丸の被災事件を処理し、世論の沈静化をはかっていった——そのプロセスとからくりが解き明かされる。情報コントロール下で核被災は語られ、ひいては「核兵器による安全保障」体制が保たれている——このような具体例を、高橋論文は如実に示す。

 第三章からは、第五福竜丸の向こう側の光景、すなわち核実験場とされたマーシャル諸島に目がむけられる。第三章の竹峰誠一郎「塗り変えられる被災地図」は、これまで実相解明の対象とされず、アメリカ政府も核被災地と認めてこなかった、爆心地から五二五キロ離れたアイルック環礁に焦点をあてる。ヒバク証言とアメリカ側の公文書をつき合わせながら、隠されたヒバクシャの姿を浮き彫りにする。ビキニ水爆被災の地域的広がりを裏付け、これまでのビキニ水爆被災像の見直しを提示する。

 第四章では、引き続き竹峰誠一郎が、現地のヒバクシャやヒバク地の現在に迫る。「ヒバクは人間に何をもたらすのか」、現地フィールドワークを踏まえ、その実態を新たな証言により具体的に報告する。そしてヒバクの影響は、ガンなどの健康被害にとどまるものなのか問いかける。

 第五章の中原聖乃「挑戦するロンゲラップの人びと」は、故郷から移住をしいられているロンゲラップ環礁出身者に焦点をあて、かれらが困難ななかも生き抜いてきた側面に光をあてる。かれらは被曝をどのように受け止め、さらには超大国アメリカとどのようにわたりあってきたのか、当事者の語りからその足跡を浮き彫りにし、未来を展望する。

 最後に「あとがき」にかえて座談会を収載した。座談会には、一九七〇年代にさかのぼるビキニ問題の先駆者、池山重朗(元原水禁事務局次長)と岩垂弘(元朝日新聞編集委員)の両氏を迎え、執筆者四名とさらに広島出身の学生二名も加わり、第五福竜丸展示館にある船体を背に語り合った。

 また巻末付録には、現地記念式典の演説原稿などの資料、文献案内、索引を収載した。

 本書で頻出する「ひばく」という表記は、各執筆者が文脈なりにあわせて使い分けた。広島・長崎原爆投下から六〇年、当初は核爆弾による被災という意味で「被爆」と表記されたが、その後、核実験や原発による核被災が浮き彫りになり、放射線に曝されたという意味の「被曝」との表記も登場した。さらに「被爆」と「被曝」の両者の意味を込め、「被ばく」や「ヒバク」との表記もうまれた。なお、本書のタイトルは「ヒバク」とした。それは、核被災が広島・長崎にとどまらず地球規模に広がっている現状と、ビキニ水爆被災は地球規模の環境汚染を引き起こした点を踏まえてである。

 二〇〇五年は、原爆投下六〇年とともに、史上初の核実験からも六〇年を迎える。本書が隠されている核開発の現実を映し出し、放置されている核開発国の責任を浮き彫りにする一助になればと願う。またビキニ水爆被災はもちろんのこと、広島・長崎を含めたグローバル・ヒバクシャの問題を映し出す一つの鏡となればと思う。そのような希望をもって、本書を世に送りだしたい。(文責・竹峰誠一郎)

版元から一言

ヒロシマ・ナガサキから60年。ビキニ水爆実験から51年。「人体実験」はあったのか! グローバル・ヒバクシャが未来に問いかけているのは何か。

関連リンク

凱風社ホームページ

著者プロフィール

前田 哲男(マエダ・テツオ)

 監修および第1章担当。
 東京国際大学国際関係学部教授。1938年生まれ。長崎放送記者、フリー・ジャーナリストを経て95年より05年度まで現職。ビキニ核実験の住民被害調査、重慶爆撃の実態調査、自衛隊、日米安保体制下の現状調査などが主領域。主な著書—『棄民の群島』(時事通信社)、『戦略爆撃の思想』(朝日新聞社)、『自衛隊の歴史』(筑摩書房)、編著—『岩波小辞典・現代の戦争』、『国会審議から防衛論を読み解く』(三省堂)など

グローバルヒバクシャ研究会(タカハシ・ヒロコ)

グローバルヒバクシャ研究会—第2章担当
 広島市立大学広島平和研究所助手。1969年兵庫県西宮市生まれ。同志社大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文化史学)。専攻はアメリカ史。主著に、「核時代における国家と国民—原爆医療情報と民間防衛」(紀平英作編『帝国と市民—苦悩するアメリカ民主政』、山川出版社、2003年)がある。博士論文は「米国政府による原爆情報管理と民間防衛計画—1945年〜1955年」(2003年)。現在、日本平和学会の分科会「グローバルヒバクシャ」共同代表、第五福竜丸平和協会専門委員、広島平和記念資料館資料調査会委員を務める。

竹峰 誠一郎(タケミネ・セイイチロウ)

グローバルヒバクシャ研究会—第3・4章担当
 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程。1977年生まれ、大阪で育つ。和光大学卒業。専攻は国際関係学で、平和研究を中心に進める。著書に『ヒバクの島マーシャルの証言』(かもがわ出版、2004年、共著)、『マーシャル諸島アイルック環礁民の被ばく証言集』(広島大学ひろしま平和科学コンソーシアム、2005年)などがある。現在、日本平和学会の分科会「グローバルヒバクシャ」共同代表、第五福竜丸平和協会専門委員などを務める。

中原 聖乃(ナカハラ・サトエ)

グローバルヒバクシャ研究会—第5章担当
 中京大学非常勤講師(「平和論」担当)。1965年生まれ。一般企業勤務を経て、神戸大学大学院総合人間科学研究科博士課程単位取得。専門は、文化人類学。論文に、「『国家安全保障』と人間の安全」『平和研究』29号(2004)、「被曝補償導入による政治実践の変容に関する一考察」『社会科学研究(中京大学社会科学研究所紀要)』第25巻2号(2005)などがある。現在、第五福竜丸平和協会専門委員などを務める。

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