越南不眠惰眠旅三昧
日比野 宏
発行:凱風社
この版元の本一覧
四六判 288ページ 上製
定価:1,600円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7736-2606-3(4-7736-2606-2) C0026
在庫あり
奥付の初版発行年月:2002年04月
書店発売日:2002年04月15日
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紹介

 1年近くアジア各国を巡っていた旅人は、ドイモイ(刷新)が始まった直後の1988年に、その当時は〈未知の国〉であったベトナム(越南)に西側観光団の一員として入国、そのままビザを延長して独り旅を継続。その初体験を機に、ベトナムへの関心はますます高まり、何度も訪越を繰り返す。なぜ、それほど魅了されるのか。本書は、四半世紀にわたる戦火から解放され急速に変貌しつつあるクニの息遣いを、密度の濃い付き合いを通して浮き彫りにした、恋するベトナム旅物語。

目次

【第一章】ベトナム管理旅行
 ◆西側観光団
 ◆カチューシャとウオッカ
 ◆灰色の町並み
 ◆フィリピンへの手紙)

【第二章】ベトナム自由びと
 ◆ミッドナイト・イン・サイゴン
 ◆両腕のない青年
 ◆マイとテト

【第三章】越飯街道
 ◆国道グルメ一号線
 ◆妻はご飯、愛人はおソバ
 ◆犬を食らう
 ◆ベトナム風おふくろの味
 ◆ベトナム北部越飯戦線
 ◆音のない世界

【第四章】サイゴン人
 ◆シクロドライバー顛末記
 ◆白い喪服
 ◆ミスター・ソルジャー

【第五章】日本発ベトナム
 ◆顔に日の丸、心に青天白日旗
 ◆日本企業尖兵隊
 ◆ナンバからの便り

前書きなど

【まえがき】

 一九八八年、日本を離れて一年近く経とうとしていた私は〈旅の倦怠期〉を迎えていた。

 旅を終わらせようか、それとも、自分の感性をごまかしてもつづけようか。そんな優柔不断な思いにさらされていたとき、バンコクの旅行代理店で一枚のパンフレットを手にした。印刷がかすれて粗雑なつくりのパンフレットは、とてもシュールに見えた。表紙に、アオザイ姿の女性が煉瓦造りの遺跡の前で日傘をさして立っているという写真が載っていた。ほかにも、マングローブに囲まれた運河をゆく小舟、古色蒼然とした町並み、モノトーンに染まった人々が、輪郭をぼやけさせ、色を滲ませて写っていた。ぜひ行ってみたいという衝動に、私はかられた。

 当時のベトナムは、外国人が個人で観光ビザを取得し、単独で国内を移動することが規制されていた。国際社会から見放され、孤立したベトナムは、極度の経済悪化を招いていた。旅の情報などいっさい得られなかった。ツアーに参加する以外、入国の手立てが見つからなかった私は、バンコクの旅行代理店で一週間のツアーに申しこんだ。
 ベトナム入国後、〈西側観光団〉の一員となった私は、おしつけがましいツアーを乗りきり、ハノイで滞在期間の延長を試みた。すると不思議なことに、単独で国内を旅する権利が与えられたのである。

 だが「ベトナム独り旅」は、一筋縄にはいかなかった。国内の公共機関に外国人を受けいれる態勢が浸透していなかったことが、大きな理由である。特に北のハノイでは、私みたいな〈不審人物〉は絶え間なく監視され、思いどおりの行動をとらせてもらえなかった。ところが、ベトナムも熱帯アジアに属する国。南国・ホーチミン市に戻ると、監視や、外国人をコントロールするようすもなくなり、私は自由の身となれた。

 こんなにも両極端な性格を持つベトナムに、私の関心はますます広がっていった。その核となるものは、ベトナム人である。彼らとひとたび向きあうと、人が人を呼び、さまざまな人間模様がひしひしと伝わってくるのだ。長い戦争を経て、南北が統一されたあとも、極貧の境地をさまようベトナムの人々。南の人間は、いまでも北に抑圧されている。なのに、そんな窮屈な暮らしをしている人々が、私には深刻そうに見えなかった。出会った人々は、自分たちの惨憺たる生活ぶりを、私に思う存分解きはなったあと、まるで他人事のように笑いとばしてしまう。

 いいかげんで、ノーテンキな奴らめ……。

 そんな彼らの結末はさておき、物事を一途にとらえがちな者にとって、ベトナム人の〈ガッツ〉は、その一部を心身に注入すると程よい緩和剤になるかもしれない。

 現在、ベトナムはアジアのなかで一、二を争うほどの観光スポットに躍りでた。〈渋谷感覚〉で歩ける通りもそこらじゅうに出現し、国内をピクニック気分で移動することもできる。誰もが自由にベトナムを旅行できる環境が整ってきたのだ。もちろん、油断は禁物であるが……。

 ベトナム初訪問から一二年も経過すると、ベトナム人との付きあいは当然のごとく深まっていった。だが、急進的な変貌を遂げるこの国の過去といまを比較すると、人間の心にそれほどの変化が現れたとはいえない。見た目が変わっても、国の経済が高まり自分たちの生活にゆとりが出てきても、人々は淡々とこういう——明日はどうなるかがわからない。結局のところ彼らは、これからもベトナム人らしく、したたかに生きていくのであろう。

 ここ数年のあいだ、日本とベトナムを足繁く行き来していたためだろうか、私には両国の境界線が曖昧になりはじめた。ベトナムに滞在し、現地の人々と相対しても、日本の生活のつづきみたいな感覚から抜けだせないのだ。しかし実際、きびしい環境に置かれているのはベトナムであり、付きあってしんどいのはベトナム人だ。なのに、なぜそんな国へ行き、人々と向きあおうとするのか、当の本人でさえもわからない。

 本書には、眠る暇もなくベトナムの人々と付きあってきたドラマが描かれている。

 二〇〇二年の春、ベトナムが乾季を迎えたころ  日比野宏

版元から一言

南国の強烈な陽光、町中の喧噪、旅心をかきたてる不思議な息遣い、いいかげんでもガッツある人々。庶民と付き合い、戯れに発見した十二年ものベトナム。

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著者プロフィール

日比野 宏(ヒビノ・ヒロシ)

 1955年、東京生まれ。80年代中ごろから、ファッション写真や人物ポートレートなどを中心に、フリーカメラマンとして活動する。87年11月より1年3か月間、アジア16か国を旅し、帰国後にその過程をまとめた旅物語を『朝日ジャーナル』(朝日新聞社)、『ホットドッグプレス』(講談社)に連載する。91年4月『アジアASIA亜細亜無限回廊』『同2 夢のあとさき』(新評論、のちに講談社文庫)を発表。その後も紀行作家として活動し、単行本や雑誌のグラビアなどに作品を発表している。
〔主な著書〕『夢街道アジア』(1998年、講談社)、『フィリピン街道Ⅰ●マニラ編バハラナ』『同Ⅱ●マガンダ』(1996年)・『うん、またあした』(1998年)・『グッドモーニング路上動物 アジア旅游写真館』(2000年、以上凱風社)、『アジアンハーツ』(雷鳥社、2002年)など。
[メールアドレス]h-hibino@diana.dti.ne.jp
[ホームページ]http://www.diana.dti.ne.jp/~h-hibino/

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