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美学とジェンダー
女性の旅行記と美の言説
原書: Women Travel Writers and the Language of Aesthetics 1716-1818.
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2004年7月
- 書店発売日
- 2004年7月20日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2011年2月9日
紹介
一八世紀から一九世紀初頭にかけてのイギリスでは、風景への関心や異世界の発見とともに「旅行記」が流行した。ちょうどその時期は、大英帝国の拡張期であり、また近代美学の形成期でもあった。本書は、とくに女性の旅行記に焦点を当てて、市民社会の「外部」(異国、野生の自然、未開人、労働者等)へのまなざしが、近代的な「感性」や国家意識を形成する上でどのような役割を果たしたのかを、ジェンダー的な観点から明らかにしようとする。
モンタギュ夫人からメアリー・シェリーにいたる女性作家の手紙や報告は、トルコ、西インド諸島、革命期のフランス、北欧、スコットランド等について生き生きと語っているが、そこには崇高、ピクチャレスク、ゴシック趣味、いわゆるオリエンタリズムの言説が散乱している。しかし彼女らは、自らの「眺める主体」(「美的主体」)という立場に何か居心地の悪さを感じてもいた。女性自身が、「美的対象」として眺められる側に位置づけられていたからである。彼女らの感じとったこの違和感は、当時の美学の根本原理「無関心性」に対する疑義へと生成し、近代美学を支えていた政治的・社会的論理が、階級・人種・ジェンダーという複合的な視点から浮き彫りにされることになる。
著者は、アン・ラドクリフ、メアリー・ウルストンクラフト、ドロシー・ワーズワスといった英文学史の周縁に位置づけられてきた女性作家だけでなく、無名の女性著作家の仕事にも光を当てて、そのユニークで優れた文筆活動を掘り起こしている。これらの女性の語りの根底にある共通した「きしみ」、それを一つの一貫した流れとして読み解こうとする試みであり、著者が取り上げる作家たちが、個人的・文学的交流によって相互に深く絡み合っていることがよく理解できる。イギリス近代社会における風景美学、ツーリズム、旅行文学研究のジェンダー版ともいえる。
目次
序 章
第一章 美学とオリエンタリズム――メアリー・ワートリー・モンタギュのトルコからの手紙
第二章 コロニアリズムの美学――ジャネット・ショウの西インド諸島旅行記
第三章 風景美学――女性的ピクチャレスクのパラドックス
第四章 革命の風景――ヘレン・マライア・ウィリアムズの『フランス便り』
第五章 反美学――メアリー・ウルストンクラフトの北欧旅行記
第六章 景観旅行の文化政治学――ドロシー・ワーズワスのスコットランド旅日記
第七章 ピクチャレスクと女性的崇高――アン・ラドクリフ『ユードルフォ城の謎』
第八章 美学、ジェンダー、帝国――メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』
原 註
参考文献
「反‐美学」あるいは「美学の反‐伝統」の誕生
人名/作品名 索引
上記内容は本書刊行時のものです。