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東北地方「開発」の系譜
近代の産業振興政策から東日本大震災まで
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2015年3月
- 書店発売日
- 2015年3月11日
- 登録日
- 2015年2月23日
- 最終更新日
- 2015年2月23日
紹介
東日本大震災・原発事故を通じてあらわれた東北地方の経済・社会の特質に着目しながら、東北「開発」の近現代史を見直す。東北地方の経済史を、中央と結び付いた「周辺的な開発」・国策という側面のみならず、国際的な枠組みの中に位置づけて論じていく。
目次
はしがき[松本武祝]
序章 東北地方「開発」の系譜――国際的契機に着目して[松本武祝]
はじめに
一.東北地方開発政策史
二.東北開発の国際的契機
おわりに
第一章 軍馬資源開発と東北馬産――軍需主導の東北「開発」と一九三〇年代の構造強化[大瀧真俊]
はじめに
一.帝国日本の軍馬資源開発史
二.一九三〇年代の東北馬産と農林省の時局匡救事業
三.一九三〇年代の東北馬産と陸軍の軍馬購買事業
おわりに
第二章 人口問題と東北――戦時期から戦後における東北「開発」との関連で[川内淳史]
はじめに
一.過剰人口問題と東北振興
二.戦時人口政策と東北振興
三.戦後東北の人口問題と東北開発
おわりに
第三章 高度成長期における東北地方の電源・製造業立地政策[山川充夫]
一.高度成長期における東北工業のとらえ方
二.高度成長期における東北の経済成長と工業構造の変化
三.高度成長期の地域開発政策と東北地域
四.釜石製鉄所の合理化と鉄鋼企業城下町経済――岩手県釜石市の事例
五.原発誘致と東電企業城下町経済――福島県双葉地区
六.電機工場の進出と地域生産システム
七.高度成長と地域経済構造の再編――まとめにかえて
第四章 ネットワークの視点でみる東北地域の産業構造の発展と政策[坂田一郎]
はじめに
一.第二次世界大戦後の地域経済政策の歴史的変遷
二.東北の産業構造の発展史の概要
三.ネットワークの視点による山形ものづくりクラスターの分析
四.震災復旧と新たな東北の形成に向けて
第五章 釜石地域における「開発」と希望の再生――希望学・釜石調査を中心に[中村尚史]
はじめに
一.課題発見型の総合地域調査
二.釜石の来歴
三.地域再生への道――社会・経済分野を中心に
おわりに
第六章 東北地方経済史の新視点[白木沢旭児]
はじめに
一.「米と繭と馬の経済構造」――大瀧真俊報告をめぐって
二.出稼ぎ供給地としての東北――川内淳史報告をめぐって
三.南東北はなぜ工業化しえたのか――山川充夫報告をめぐって
四.ネットワーク分析の有効性――坂田一郎報告をめぐって
おわりに
第七章 いわき市小名浜アクアマリンパークの地域振興――大震災・原発事故とその後[小島彰]
はじめに
一.小名浜地域の特徴と観光
二.小名浜まちづくり市民会議の活動
三.アクアマリンパークとイオンモール
おわりに
第八章 低賃金労働力供給基盤としての東北の農業・農村[安藤光義]
はじめに
一.農家労働力の吸引・包摂
二.農地の転用と開発
三.農家調査結果にみる労働市場の展開の進展
おわりに
第九章 東北開発と原発事故をめぐって[岩本由輝]
一.exploitation型開発としての東北開発の極致
二.原発開設以前の福島県双葉地方
三.東北開発の新段階と東京電力株式会社福島原子力発電所の双葉地方進出
四.東電福島第一原発事故後に改めて「地域調査専門委員会報告書(各論)」を読む
五.結びにかえて
補章 政治経済学・経済史学会二〇一三年度春季総合研究会報告
「東北地方『開発』の系譜――国際的契機に着目して」コメントおよび討論の要旨[植田展大・棚井仁]
一.問題提起、報告、コメント
二.討論
あとがき[小野塚知二]
執筆者略歴
前書きなど
はしがき
二〇一三年六月二九日、東京大学において二〇一三年度政治経済学・経済史学会春季総合研究会(テーマ:東北地方「開発」の系譜――国際的契機に着目して)が開催された。小島彰・安藤光義両氏の司会により、松本武祝の問題提起につづいて左記の四名が報告を行った。そしてそれらの報告に対して、中村尚史・白木沢旭児両氏がコメントを行った。
大瀧真俊:軍馬資源開発と東北馬産――国家資本依存型産業構造の形成
川内淳史:人口問題と東北――戦時期から戦後における東北「開発」との関連で
山川充夫:高度成長期における東北地方の電源・製造業立地政策
坂田一郎:グローバル製造業資本の東北地方への展開と企業間分業
本書は、この研究会での成果がもととなって出版されたものである。
本書序章および第一‐四章は、問題提起者および四名の報告者が、当日の報告をもとにしてそれぞれ原稿を執筆した。序章(松本武祝)では、東北地方「開発」政策を概観しつつ、その国際的契機に着目することの重要性を論点として提起している。第一章(大瀧真俊)では、戦前東北(特に北東北)の主要畜産物の一つであった馬産に注目する。東北農民の馬産経営・役畜利用と国家による軍事的要請を前提とした馬匹改良政策との対抗関係を論じている。第二章(川内淳史)では、一九三〇年代から高度成長期に至る時期における東北の「人口問題」を論じている。日本資本主義の蓄積構造と国策(戦時動員)により、人口問題の位相が過剰/過少、滞留/流出というように、大きく振れてきたさまが描かれている。第三章(山川充夫)は、高度成長期における東北地方への電源・製造業立地を論じている。高度成長前期における地域資源・基礎素材型立地から後期における低賃金労働力を目的とする加工組立型立地へと転換する過程が分析されている。第四章(坂田一郎)は、東北地方に立地した製造業企業間のネットワークに着目している。〈外から〉の企業立地にもかかわらず、東北において不十分ながらも工業基盤がネットワークとともに形成されている現状を析出し、その分析にもとづいて今後の東北における産業集積の方策を提示している。
第五・六章は、コメンテーター二名が、研究会当日のコメントの内容をふまえつつ執筆した。第五章(中村尚史)は、釜石地域を分析対象とする。東北地方において、釜石は、産業革命以前から重工業の発展を見た例外的な地域であると同時に、一九八〇年代以降の製鉄業衰退により、新たに「開発」という課題に直面した地域でもある。「開発」をめぐるこうした位相のズレに着目しつつ、釜石地域の特質を析出している。第六章(白木沢旭児)は、四つの報告に対して、資料を補完しながら論点を提示している。そして、北海道との比較という独自の視点を加えたうえで、“「植民地」としての東北”という言説を批判的に検討している。
第七・八章は、当日に司会を務めた二名が執筆した。第七章(小島彰)は、震災・原発事故後のいわき市小名浜地区を事例として取り上げている。地元事業体の取り組みや中央商業資本の進出計画など、地域復興の実態と問題点を論じている。第八章(安藤光義)は、高度成長期から今日に至る製造業立地の実態を農村経済の側から分析している。低廉な労働力・用地に動機付けられた製造業立地は、東北地方に安定的な兼業農家の成立を促したものの、それは「発展なき成長」でもあったという。
第九章(岩本由輝)は、福島県浜通り地方に原発が立地する過程を論じている。岩本氏は春季総合研究会に参加してはいなかったが、東北地方に関する経済史研究の第一人者であることから、特別に寄稿していただいた。原発立地に関する「合意」形成にかかわる国家や知識人および立地対象地域社会内部の動向が分析されている。そこには、東北地方「開発」が抱えてきた問題点が集約的に表出しているといえる。最後に補章(植田展大・棚井仁)として研究会当日の討論要旨を掲載した。
(…後略…)
追記
執筆者一覧
松本 武祝(まつもと たけのり)【はしがき・序章】
編著者プロフィールを参照
大瀧 真俊(おおたき まさとし)【第1章】
京都大学大学院農学研究科修士課程修了、同研修員を経て現在、日本学術振興会特別研究員PD。京都大学博士(農学)。専門は日本農業史・畜産史。
[主な著書]『軍馬と農民』京都大学学術出版会、2013年、「日満間における馬資源移動――満洲移植馬事業1939-44年」(野田公夫編『日本帝国圏の農林資源開発――「資源化」と総力戦体制の東アジア』農林資源開発史論Ⅱ、京都大学学術出版会、2013年)など。
川内 淳史(かわうち あつし)【第2章】
関西学院大学大学院文学研究科博士課程後期課程修了、博士(歴史学)。現在、歴史資料ネットワーク事務局長、大阪市史料調査会調査員。専門は日本近現代史、資料保全論。
[主な著書]『「生存」の東北史――歴史から問う3.11』(共編、大月書店、2013年)、『阪神・淡路大震災像の形成と受容――震災資料の可能性』(共編、岩田書院、2011年)、「被災史料を“みんな”で守るために――被災史料保全活動における後方支援の現状と課題」(共著、奥村弘編『歴史文化を災害から守る――地域歴史資料学の構築』東京大学出版会、2014年)など。
山川 充夫(やまかわ みつお)【第3章】
東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。博士(学術、東京大学)。福島大学経済経営学類教授、福島大学理事・副学長、うつくしまふくしま未来支援センター長を経て、現在、帝京大学経済学部地域経済学科長。専門は、経済地理学、地域経済論。
[主な著書]『大型店立地と商店街再構築』(単著、八朔社、2004年)、『原災地復興の経済地理学』(単著、桜井書店、2013年)など。
坂田 一郎(さかた いちろう)【第4章】
東京大学大学院博士後期課程工学系研究科修了。博士(工学)。経済産業省を経て、現在、東京大学工学系研究科教授、政策ビジョン研究センター長兼務。専門は、イノベーションマネジメント、情報工学を用いた意志決定支援。
[主な著書]『クラスター戦略』(共著、有斐閣選書、2002年)、『都市経済と産業再生』(共著、岩波講座、2004年)、『知の構造化の技法と応用』(共著、俯瞰工学研究所、2012年)など。
中村 尚史(なかむら なおふみ)【第5章】
九州大学大学院文学研究科史学専攻博士課程修了。博士(文学)。埼玉大学経済学部助教授、東京大学社会科学研究所助教授・准教授を経て、現在、東京大学社会科学研究所教授。専門は日本経済史・経営史。
[主な著書]『日本鉄道業の形成』(単著、日本経済評論社、1998年)、『地方からの産業革命』(単著、名古屋大学出版会、2010年)、『持ち場の希望学――釜石と震災、もう一つの記憶』(共編著、東京大学出版会、2014年)など。
白木沢 旭児(しらきざわ あさひこ)【第6章】
京都大学大学院農学研究科博士課程退学。佐賀大学経済学部講師・助教授を経て現在、北海道大学大学院文学研究科教授。専門は、日本近現代史、日本経済史。
[主な著書]『大恐慌期日本の通商問題』(単著、御茶の水書房、1999年)、『日中両国から見た「満州開拓」――体験・記憶・証言』(共編著、御茶の水書房、2014年)など。
小島 彰(こじま あきら)【第7章】
一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。一橋大学経済学部助手を経て、現在福島大学人間発達文化学類教授。専門は経済理論、日本経済論、地域経済論。
[主な著書]「ケネー経済表とマルクス」『資本論の研究』(種瀬茂編、青木書店)、「〈経済教育〉と資本主義」『中等社会科教育法』(臼井嘉一編、学文社)。「ホッキ貝漁業にみる水産資源管理」『福島大学地域創造18-1』(東田啓作・阿部髙樹・井上健の共著、福島大学地域創造支援センター、2006年)、「Fukushima shock といちいの決断」『福島大学地域創造24-2』(伊藤大地と共著、福島大学地域創造支援センター、2013年)
など。
安藤 光義(あんどう みつよし)【第8章】
東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。博士(農学)。茨城大学農学部助教授を経て現在、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。専門は、農政学、農地制度論。
[主な著書]『日本農業の構造変動』(編著、農林統計協会、2013年)、『農業構造変動の地域分析』(編著、農文協、2012年)、『北関東農業の構造』(単著、筑波書房、2005年)など。
岩本 由輝(いわもと よしてる)【第9章】
1967年東北大学大学院経済学研究科博士課程修了・経済学博士(東北大学)、1967年山形大学文理学部講師・人文学部助教授・教授を経て、1988年東北学院大学経済学部教授、2011年東北学院大学名誉教授となる。
専門は、日本経済史・地域経済史・東北経済論・東北地域論。
[主な著書]『近世漁村共同体の変遷過程――商品経済の進展と村落共同体』(塙書房、1970年)、『柳田國男の共同体論――共同体論をめぐる思想的状況』(御茶の水書房、1978年)、『東北開発人物史――15人の先覚者たち』(刀水書房、1998年)など。
植田 展大(うえだ のぶひろ)【補章】
東京大学大学院経済学研究科経済史専攻博士課程在籍。専門は日本経済史。
[主な論文]「地方有力紙の経営展開――『北海タイムス』を事例に」加瀬和俊編『戦間期日本の新聞産業――経営事情と社論を中心に』(東京大学社会科学研究所研究シリーズ ISS Research Series No.48、2011年)、「都市における家計行動と水産物消費――東京市を中心に」加瀬和俊編『戦間期日本の家計消費――世帯の対応と限界』(東京大学社会科学研究所研究シリーズ ISS Research Series No.57、2015年)など。
棚井 仁(たない ひとし)【補章】
東京大学大学院経済学研究科博士課程在籍。専門は日本経済史
[主な論文]「衣類消費と裁縫――『縫う』という行為に着目して」加瀬和俊編『戦間期日本の家計消費――世帯の対応とその限界』(東京大学社会科学研究所研究シリーズISS Research Series No.57、2015年)など。
小野塚 知二(おのづか ともじ)【あとがき】
東京大学大学院経済学研究科第2種博士課程単位取得退学。博士(経済学)。
横浜市立大学商学部助教授、東京大学経済学研究科助教授を経て、現在同大学教授。
専門は西洋社会経済史。
[主な著書]『クラフト的規制の起源――一九世紀イギリス機械産業』(有斐閣、2001年)、『労務管理の生成と終焉』(榎一江と共編著、日本経済評論社、2014年)、『第一次世界大戦開戦原因の再検討――国際分業と民衆心理』(編著、岩波書店、2014年)など。
上記内容は本書刊行時のものです。