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大災害と在日コリアン
兵庫における惨禍のなかの共助と共生
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2014年11月
- 書店発売日
- 2014年11月27日
- 登録日
- 2014年11月20日
- 最終更新日
- 2014年11月20日
紹介
阪神淡路大震災はもとより、兵庫県を襲った地震・水害などの惨禍の際に在日コリアンはどう対処したのか。膨大な資料を戦前まで渉猟し、極限的な状況のなかで見られた日本社会と在日コリアンの軋轢や共助・共生の姿を描き出す。
目次
はじめに
第一章 躊躇なきジェノサイド【一九二三年 関東大震災】
・関西地方での震災報道
・神戸が発信源となった朝鮮人暴動デマ
・「朝鮮人襲来」デマの背景
・兵庫県における官警による朝鮮人への対応
・「朝鮮人はテロ集団」と煽るマスコミ報道
・「朝鮮人襲来」を冷静に検証した新聞の役割
・震災後、神戸における朝鮮人の動向
・朝鮮人による震災時の救援活動
・関西在住朝鮮人による震災募金活動
・一般民衆による朝鮮人虐殺の意味
・関東大震災と阪神大震災
・国家と災害
・悲劇を繰り返さないためにも
第二章 焔の中、命を懸けた救出劇【一九二五年 北但大震災】
・円山川改修工事
・大震災発生
・相次ぐ救援の手
・朝鮮人による救援活動
・朝鮮人暴動デマの蔓延
・朝鮮人による復旧・奉仕活動
・関東大震災の悪夢を乗り越えて
第三章 関東大震災の教訓を生かし虐殺回避【一九二七年 北丹後大震災】
・北丹後大震災の発生
・記録された朝鮮人の救援活動
・紡績工場で圧死した朝鮮人女工
・紡績工場と朝鮮人女工
・朝鮮人女工の就労実態
・救援物資として供出された朝鮮白米
・被災朝鮮人の動向
・震災後の社会不安を煽るデマの発生
・災害時だからこそ助け合う住民同士として
第四章 玄界灘を越えた支援の輪【一九三四年 室戸台風】
・室戸台風による被害
・避難した朝鮮人の状況
・バラック住まいの朝鮮人立ち退き問題
・学校で犠牲となった児童
・朝鮮人による人命救助
・朝鮮人による救援・奉仕活動
・阪神消費組合の救援・奉仕活動
・朝鮮本土における報道と支援活動
・朝鮮人による復旧・復興支援活動
・室戸台風被害と朴烈
・朝鮮総督府中枢院参議李東雨の遭難
・災害の記録を教訓へ
第五章 七六年前の民族を越えたボランティア【一九三八年 阪神大水害】
・大水害発生
・全神戸泥海と化す
・神戸に住む朝鮮人の足跡
・水害発生時の朝鮮人の記録
・被災した朝鮮人女子児童の証言
・朝鮮人、福島仙吉氏の活躍
・人命救助者、李昌成
・天王谷の朝鮮人同志會
・朝鮮人復旧奉仕団の活躍――七六年前の災害ボランティア
・本山村への朝鮮人復旧奉仕団の応援
・住吉村の二人の金氏――村会議員と弔意衛生係
・阪神地域における朝鮮人の復旧奉仕活動
・朝鮮人による義捐金醵出
・朝鮮人を助けた日本人
・朝鮮人が従事した復旧工事
・摩耶ケーブル復旧工事に従事した朝鮮人労働者
・塗りつぶされた朝鮮人警戒取締計画
・朝鮮人を救った福田巡査部長
・嗚呼福田君父子之碑の建立
・丸山地区での朝鮮人青年の救援活動
・災害時の教訓から学ぶ
第六章 運命を変えた災害【一九六七年 兵庫県南部地域豪雨災】
・豪雨災の発生
・在日コリアンの被害の状況
・届かなかった帰国意思確認の葉書
・水害の恐ろしさ
第七章 未来の災害に向けた教訓【一九九五年 阪神大震災】
・阪神大震災と外国人
・避難所の外国人
・韓国、北朝鮮からの救援活動
・被災地を駆け巡ったデマ
・長田の大火の原因
・麻痺した行政機関
・通行許可書を求めての奔走
・美談の陰に
・災害復興の現実
・復興の哲学
・来るべき災害に備えて
おわりに
前書きなど
はじめに
一九九五年一月一七日に発生した阪神・淡路大震災(以下、阪神大震災とする)から、二〇年を経過しようとしている。死者六四三四名という未曾有の大災害となったわけであるが、当時、神戸市長田区のアパートに居住していた筆者も約一時間、瓦礫の中に埋もれていた。何とか自力で脱出し、その後避難生活を余儀なくされながらも救援活動に携わった。
(…中略…)
本書では、在日外国人、とりわけても在日コリアンの災害時における動きを兵庫県の災害史を辿ることで取り上げてみた。そこでは地域住民として、被災という困難な状況の中で、民族・国籍を越えて日本人とコリアンが支え合ってきた歴史が存在した。もちろん、美談だけではなく、時には言語・風俗・習慣の違いから互いに誤解を招くこともあった。しかし関東大震災のようなデマに惑わされることなく、コリアンを直接的に襲うという危害は報告されなかった。こうした災害時における理性的な対処の事実を伝えていくことで、平時においても日本人と外国人の相互理解につながっていくと考える。
(…中略…)
筆者が阪神大震災を経験し、東日本大震災をメディアを通じて見聞して今言えることは、行政が作成する防災マニュアルや既存の消防や警察の行政の力だけでは大災害に対処できないということである。何よりも大切なのは、「人を救うのは人しかいない」という地域の力、住民の力、ボランティアの力であった。火災が迫り、瓦礫の中で逃げまどい、心身ともに疲れ果てた被災者を癒したのが、温もりある救いの手と励ましの言葉であった。筆者は阪神大震災から数日後、被災した知人を探して東奔西走し、疲労困憊であきらめかけていた。そんな時に街頭で差し出されたのが一杯のコーヒーであり、その温かさを忘れることはできない。
「よかったら、どうぞ」
人の手から人の手に渡された救援物資といたわりの一言が被災者を勇気づけ、生きる希望をつないでいった。筆者が受けてきた数々の援助を、将来起こり得る災害への教訓として次世代にバトンを渡していくため、本書をまとめた次第である。
日本人であれ、外国人であれ、ともにこの地に生きる人として、助け合って生きていく姿を、日常においても、災害時においても、働きかけていきたいと考える。
上記内容は本書刊行時のものです。