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最低生活保障と社会扶助基準
先進8ヶ国における決定方式と参照目標
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2014年11月
- 書店発売日
- 2014年11月20日
- 登録日
- 2014年11月6日
- 最終更新日
- 2014年11月6日
書評掲載情報
2015-01-25 | 日本経済新聞 |
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紹介
格差・貧困が世界的に広がる中、本書は先進8ヶ国(イギリス、ドイツ、フランス、オランダ、デンマーク、スウェーデン、韓国、日本)の社会扶助制度について、給付水準の決定・改定方式、他の社会保障制度との関係性に関して詳細な分析を行ったものである。
目次
まえがき
第1章 日本の社会扶助――国際比較から観た生活保護基準の目標性
はじめに
1 最低所得保障の相対的水準
2 最低賃金・社会扶助・老齢給付の目標性
3 標準生計費・最低生活費に基づく再検討
おわりに
第2章 日本における扶助基準設定の新たな展開
はじめに
1 生活扶助基準決定に関する規定
2 生活扶助基準の妥当性の検証
3 物価調整を指標とした改定
おわりに
第3章 イギリスの社会扶助――所得補助の給付水準とユニバーサル・クレジット化が示唆する政策課題
はじめに
1 イギリスの社会扶助の体系と構造
2 イギリスにおける社会扶助の関連制度
3 現在の社会扶助の水準:所得補助(Income Support)を例に
4 イギリスの社会扶助の特徴
5 社会扶助の給付水準をめぐる歴史的議論
6 イギリスの社会扶助水準の改定方式
7 イギリス社会扶助の現状と今後の方向性
第4章 フランスの社会扶助――最後のセーフティネット「積極的連帯所得」の給付水準とその改定
はじめに
1 フランスの社会扶助制度体系
2 カテゴリー別最低所得保障制度としての社会ミニマム
3 社会扶助における社会ミニマムとしての積極的連帯所得(RSA)
4 基礎RSAの給付基準額の算定方法と展開方式
5 最低生活保障水準を具現化するその他の制度
おわりに
第5章 ドイツの社会扶助――社会扶助・求職者基礎保障・高齢者・障害者基礎保障の給付水準の決定と改定
1 ドイツにおける最低生活保障制度
2 最低生活の基準
3 最低生活保障基準の算定と改定
4 他制度との関連
おわりに
第6章 ドイツにおける扶助基準設定の新たな展開――最低生活保障水準の定型化と違憲判決の意味
はじめに
1 ドイツの扶助基準額
2 ドイツの「最低生活」に何が含まれるか
3 基準額の保障力
第7章 オランダの社会扶助――最低賃金制度を中心とした最低生活基準
はじめに
1 オランダの社会保障の成り立ち
2 オランダの社会扶助制度
3 障害給付と社会扶助制度
4 最低賃金制度
5 最低賃金額と社会的最低限および各給付水準のリンク
6 政府による貧困調査レポートと社会的最低限の評価
おわりに
第8章 デンマークの社会扶助――現金援助金の給付水準決定方式と給付基準の変遷
はじめに
1 失業保険制度と社会扶助制度
2 社会扶助制度の給付水準の決定方式
3 公的年金制度・児童手当・住宅手当
4 社会扶助給付基準の変遷
5 公的な貧困線の設定を巡る議論
おわりに
第9章 スウェーデンの社会扶助
1 スウェーデンの社会扶助の位置づけ
2 社会扶助の全国標準(Riksnormen)
3 社会扶助の給付基準の決定方式
4 給付基準に関する自治体の裁量権
5 給付水準
6 高齢者・移民の所得保障と社会扶助
7 考察
第10章 韓国の社会扶助――国民基礎生活保障法における給付水準の決定・改定方式
はじめに
1 最低生活保障水準の考え方
2 最低生活保障水準の活用
3 国民基礎生活保障制度の対象はどのような人々か
おわりに:日本への示唆点
あとがき
編者・執筆者略歴
前書きなど
あとがき
わが国においては生活保護規準が、最低賃金、就学援助、住民税非課税、社会保険料減免などの基準に参照「される」という関係にある。生活保護規準が他の基準を決める役割を担っている。その生活保護規準額決定の原理原則と決定のプロセスが、不透明になっている。
1990年代末以降、国民全体の所得が減少し一般世帯の消費支出は減少してきた。国民の所得と消費支出が伸び続けるのを前提した消費水準均衡方式が、異なる経済状況に直面したのである。2013年から「実質購買力維持」を目標に掲げた物価指標にもとづく改定が行われている。2014年度には消費支出の伸び率を指標とした改定も行われ、消費水準均衡方式に戻ったようにも見える。二つの原理原則が重なり合っているのが現状である。さらに、実際の改定指標とされた数値が妥当なのか、生活保護受給者の消費実態に合っているのかが問題になっている。
他の先進国では参照される側の賃金だが、日本においてはその水準決定のあり方が揺らいでいる。「同一価値労働同一賃金」原則がある国と異なり、日本の賃金は企業規模、男女、年齢、それぞれの格差が大きい。一般的標準額は平均値でしかない。しかも、1990年代末以降、正社員においては個人の成果・役割にもとづく賃金体系へ転換し、年功的な賃金体系(家族給・生活保障給)の性格をなくしてきた。職務給導入が議論されてはいるが、賃金水準をどう設定するかは検討されていないように見える。
参照する側、される側、両方が揺らいでいるのが日本の現状である。両方をにらんで、それぞれの関係性を明らかにしながら、それぞれの決定方式や基準額・標準額を作り上げていくことが求められている。
本書は、社会扶助に軸足を置き、先進諸国において参照する側、参照される側がどのような考え方を打ち立てているか、そこでどのような努力が行われてきたかを明らかにした。本書が提起する論点が、日本のナショナルミニマム決定のあり方を考える材料となり、生活保護規準への社会的合意を作り上げるのに役立つことを願うばかりである。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。