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朝鮮戦争論
忘れられたジェノサイド
原書: The Korean War: A History
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2014年4月
- 書店発売日
- 2014年4月1日
- 登録日
- 2014年3月25日
- 最終更新日
- 2014年3月25日
書評掲載情報
2014-06-01 |
日本経済新聞
評者: 久保文明(東京大学教授) |
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紹介
アメリカによる第二次世界大戦後の武力干渉のなかで、「最も」破壊的であった朝鮮戦争。この戦争はアメリカが世界の警察官へと変貌するきっかけとなった。アメリカ政界の事情や朝鮮半島の政治状況の経緯を凝縮して語り、「忘れられた戦争」の真実を抉り出す。
目次
序
第1章 戦争の経緯
朝鮮戦争のいわゆる始まり
北進
中国がすぐそばに
停戦
第2章 記憶する側
起源と始まり
処置
満洲の闘士
ソ連と金日成
第3章 忘れ去る側
内戦
なんと文学的な戦争だろう
中国の目から
第4章 抑圧の文化
抑圧の本能
東洋、西洋、そして抑圧――最高の頭脳がいかにステレオタイプを作り上げるか
影に覆われて
第5章 分断の三八度線――忘れられた占領
軍政下の南西部地域
三陟での解放
済州島の反乱
麗水の反乱
三八度線上での戦闘
第6章 「最も不公平な結果」――空爆
究極の火力
紫色の灰
第7章 記憶の洪水
政治の系譜・祖先の系譜
真実とは何か。われわれの「スレブレニツァ」
処置――戦争中の南西部
タイガー・キム
北朝鮮の残虐行為
処置――南による北の占領
戦争の亡霊
法医学が語る真実、政治家が語る嘘
第8章 アメリカと冷戦を作り直した「忘れられた戦争」
ケナンとアチソン
軍産複合体
遍在する帝国
ケナンかアチソンか
第9章 鎮魂――和解への動きのなかで
アメリカ―定まらぬ墓碑銘
記憶記号としての朝鮮とイラク
和解の気運
謝辞
原注
参考文献
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき(栗原泉)
本書はBruce Cumings, The Korean War: A History(Modern Library, 2010)の翻訳である。
著者ブルース・カミングス氏はアメリカの歴史学者。二〇世紀国際関係史、とくにアメリカと東アジアの関係、また東アジアの政治経済や朝鮮近現代史研究の第一人者として、この分野の研究に大きな影響を与えてきた。代表的な著作The Origins of the Korean War, 2 vols. (1981, 1990)は、その邦訳『朝鮮戦争の起源1・2』(全二巻・三冊)が二〇一二年に明石書店から出版されている(鄭敬謨/林哲/加地永都子/山岡由美 訳)。
本書は、大部の専門書であるこの『朝鮮戦争の起源』の一部に、その刊行年後の政治状況の進展を踏まえて加筆し、幅広い層の読者のためにコンパクトにまとめた一冊である。朝鮮戦争の戦闘の詳しい経緯を語り、戦争に至るまでのアメリカ政界の事情や朝鮮半島の政治状況を掘り下げ、戦争の惨禍を描出し、南北和解への動きを展望する本書は、一般読者向けとはいえ、実に深く濃い内容の歴史書である。
朝鮮戦争は「知られざる戦争」、あるいは「忘れられた戦争」(おそらくはその両方)かもしれない。だが「ほとんどのアメリカ人が知りもせず、覚えてもいないことがある――北朝鮮に対してアメリカは三年間にわたり、民間人の犠牲をまったく考慮することなくじゅうたん爆撃を加えたということだ。自分がこの事実と関係があると感じるアメリカ人は、ほとんど皆無に近いだろう」と本書は指摘する。
朝鮮戦争は「アメリカによる第二次世界大戦後の武力干渉のなかで、最も破壊的であった」のだ。「推定三〇〇万人にのぼる朝鮮人が命を失い、そのうちの少なくとも半数は民間人であった」。「残酷で容赦ない自動性をもって続けられた」空爆によって、村々には「広く積もった紫色の灰」のほかは何も残っていない状態になったという。その惨状を描く第6章は、全編を通して最も心に迫る章である。
また、アメリカが海外に広範な軍事基地をもつ「遍在する帝国」へと変貌するきっかけとなったのは、第二次世界大戦ではなく、朝鮮戦争だったと著者はいう。「朝鮮戦争は、封じ込め政策を鋳直して永遠に続く世界規模の仕事に作り変える契機となった」のだと。
半世紀以上も前のこの戦争のことはよく知らないし、さしたる関心もない――自分たちの現在と実は深い関わりがあるにもかかわらず――というのは、決してアメリカ人だけではないだろう。著者の広範な知識と深い洞察力に基づくこれらの指摘は、いずれも今この日本に住む私たちに対する鋭い問いかけになるはずだ。「アメリカ人が書いたアメリカ人のための」本書は、今日の私たちにとって多くの示唆を含む貴重な一冊だと信じている。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。