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領土問題から「国境画定問題」へ
紛争解決論の視点から考える尖閣・竹島・北方四島
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2013年7月
- 書店発売日
- 2013年7月5日
- 登録日
- 2013年7月1日
- 最終更新日
- 2013年7月1日
紹介
尖閣諸島・竹島・北方四島をめぐる「領土問題」について現在、声高なナショナリズムに立脚した論議が続いているが、本書ではこれらの問題を、未解決の戦後処理を完遂して国境を画定し、隣国との和解を成し遂げる「紛争解決論」の視点から冷静に検討する。
目次
はじめに
第1部 現在
第1章 国境画定問題の現状はどのようなものか?
1.何が問題で、どのように解決していくか
2.「領土問題」か「国境画定問題」か──問題のフレームと思考フレームの問題
3.いわゆる「棚上げ」について
4.尖閣問題に関する“俗論的政治学”による議論と“反省的政治学”による議論
5.「固有の領土論」の問題──“政治的”で“ほとんど無意味な”言葉
6.これまでの“領土問題”の議論の仕方──“問い”か、“答え”か?
7.これまでの“領土問題”の議論の仕方の特徴
8.尖閣、竹島、北方四島の問題についての本書の理解
第2部 過去
第2章 国境線の伸張
1.「固有の領土」ではなく「国境の画定」へ
2.「日本国」の形成と国境線の変化
3.古代・中世的帝国の時代の国境
4.近世的帝国の時代の国境──日本型華夷秩序
第3章 イタリア、ドイツ、日本の国境画定過程の比較
1.なぜイタリア、ドイツ、日本を比較するのか?
2.19世紀のイタリア、ドイツ、日本の「国境画定プロセス」における共通性
3.近代日本の国境画定問題を考えるためのモデル
第4章 “国民国家”の国境画定
1.全体の流れのなかで国境形成過程をみる
2.北方──北海道・千島の領有の経過
3.東方──小笠原諸島の領有の経過
4.南方──琉球・沖縄をめぐる国境画定の経過
5.北海道・千島、小笠原、沖縄をめぐる国境画定を理解する全体的視点
6.西方──竹島をめぐる1877年の国境の画定
7.国境画定期における国境の画定の意味
第5章 帝国の膨張期における尖閣諸島、竹島、久米赤島、沖ノ鳥島、新南群島の編入過程
1.尖閣諸島の領有過程
2.竹島の問題──1905年の国境の変更
3.久米赤島(大正島)の国有地編入(国有地台帳に記載)
4.沖ノ鳥島編入の過程
5.新南群島の1939年の編入
6.戦争と編入のパターンの反復
7.無人島の領有の四つの方法──交渉、占拠、窃取、戦争
第6章 “帝国の残滓”の後始末としての国境画定問題──ウヤムヤにされた“帝国の清算”
1.帝国の崩壊とその清算
2.日本にとってのアジア太平洋戦争はいつ終ったのか?
3.冷戦とサンフランシスコ平和条約によって画定されなかった国境
4.“帝国の残滓”の後始末としての国境画定問題の解決──未完の“帝国の清算”
第3部 未来
第7章 紛争解決論からのアプローチ
1.これまでのような“領土論争”では結論が出ない
2.なぜ紛争が起きるのか──“行為者・構造・過程・利害状況モデル”による理解
3.相手の言い分や感情を尊重する事の大切さ──“歴史問題”の理解
4.思考フレームの転換──国境画定の論理や本質、そして現実
5.中国の大気汚染をめぐっての日中協力
6.さまざまな選択肢を考え出すことの重要性
7.分配的側面についての利害調整
第8章 国境画定問題の解決とポスト近代の多層多元的統治システムを目指して
1.紛争解決に関する三つの基本姿勢
2.解決に向けての政治の役割──政治家の決断の必要性
3.想像力とコミュニケーション力の必要性
4.政略論・“鎖鑰論”を超えて
5.過去について理解を深めつつ、未来を切り開く
6.今後どのようにすればいいのか? ポスト近代の多層多元的統治システムを目指して
あとがき
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本書では、日本が抱える「国境画定問題」を、紛争解決論の理論的枠組みを用いて、従来とは異なった視点から検討してみたい。歴史的文書や解釈については、歴史研究者によるこれまでの研究結果に依拠し、この本では繰り返さない。詳しい歴史的文書や経過の解釈について興味のある読者は、巻末の参考文献を参考にしてほしい。本書の関心は、「今後、この問題を解決するにはどうすればいいのか」にある。歴史的文書に依拠して過去の“個別の事実”を指摘することは必要ではあるが、問題の解決のためには必ずしも十分ではない。むしろ「これまでのそうしたアプローチでは解決できない。これまでも解決できなかったし、今後も解決は難しいであろう」というのが、本書の趣旨である。「こうすれば解決できる」と提案するのではなく、「このように考え、このようにコミュニケーションすれば、問題を解決する可能性が高まるであろう」と考えるのが本書のスタンスである。なぜなら、実際の当事者の双方が“新しい相互作用のプロセス”をつくりだすことによってしか、問題は解決できないからである。
多くの人々と同様、筆者も日本が向かいつつある方向や、かつて珍宝島(ダマンスキー島)をめぐって1969年に中ソが衝突したような事態が発生することを憂慮している。「国境画定問題」をどう考えどう解決するかは、日中双方の一人ひとりの国民にとって、今後の国民生活のありかたに直結しうる重要な問題の一つであろう。隣国と平和で友好的な状態を保てない国家は不必要な緊張状態を抱え、国内の政治や経済にもさまざまな歪みをもたらすであろう。それはちょうど、隣近所の人々と問題を抱えた家族が、不必要な緊張とストレスを抱えて暮らすのに似ている。生産的な活動に費やされるべき貴重な精神的・物的資源を、そのような家族は猜疑心と敵対心の維持に使うのである。
本書が日本の「国境画定問題」を考えるにあたって、これまでと多少とも異なった視点や材料を提供できれば本望である。
2013年6月 筆者
上記内容は本書刊行時のものです。