書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
朝鮮戦争の起源 2【下】
1947年‐1950年 「革命的」内戦とアメリカの覇権
原書: The Origins of the Korean War Vol. 2
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2012年4月
- 書店発売日
- 2012年4月13日
- 登録日
- 2012年4月9日
- 最終更新日
- 2012年5月28日
書評掲載情報
2013-07-14 |
朝日新聞
評者: 木宮正史(東京大学現代韓国研究センター長) |
2012-09-02 |
読売新聞
評者: 橋爪大三郎(社会学者、東京工業大学教授) |
MORE | |
LESS |
紹介
朝鮮戦争研究必読書の続刊。下巻では49年夏の境界線地域紛争を取り上げ50年6月以前にも発火点があったことを示すほか、アチソン演説や中国国民党の動向等多様な要素を考察。また人民軍の南部占領、韓米軍の北部占領という角度から内戦の側面に光をあてる。
目次
凡例
第3部 一九五〇年六月への前奏曲
第12章 適当な間合い――米軍撤退、境界での戦闘、ゲリラの鎮圧
封じ込めライン上の朝鮮
限定戦争と全面戦争
一九四九年における南北境界線での戦闘
ゲリラ問題の最終的解決
結論
第13章 「演説」――記者クラブにおけるアチソン流の抑止
不可測事態に対する捕捉と理解について
アチソンによる極東の設計
台湾をめぐる策略
記者クラブに向けて
平壌の無筆
防衛に関するアチソンの思考
アチソンは攻撃を考えていたのか?
記者クラブ後の演説――トータル外交とインドシナへの関与
第14章 戦争前夜の北朝鮮
一九五〇年における、北朝鮮に対するソ連の影響
ソ連による北朝鮮への軍事支援
北朝鮮の軍事行動の予兆
北朝鮮の動機
第15章 戦争前夜の韓国
「日本のすぐ横」――韓国経済の存在理由
米韓の軍事的関係
「死に体委員会」
五月三〇日の総選挙
混乱――李承晩の国家を求める闘い
韓国における中国との深まる関係
ホンブルグ帽をかぶり塹壕に立つダレス
第16章 台湾の暗示
つまりは「駐台湾アメリカ軍事顧問団」(FMAG)
ドノヴァンの特殊任務
グッドフェローの特殊任務――「中国旗にかえて韓国旗を掲げる」
クレア・シェンノートの特殊任務
クックの特殊任務
侵攻
クーデタ計画――大元帥の退出を図る
結論
第17章 六月の週末――戦争前夜の東京、モスクワ、ワシントン
意外な三角関係――ダレス、ジョンソン、マッカーサー
近接性の危険
戦争前夜のソ連の政策
デレヴャンコ事件
戦争前夜のワシントン
第18章 朝鮮戦争を始めたのは誰か――三種類のモザイク画
甕津での衝突事件――「何が起きていたのか、私はまったく分からなかった」
開城、火を噴く
戦闘の東部への拡大
南と北の日曜日
「北朝鮮による侵攻の証拠文書」
その他の証拠文書
第二のモザイク画
情報過誤――「奇妙な組み合わせのモザイク画」
好ましいモザイク画
結論――「決意の生き生きした血の色」
第4部 終幕
第19章 封じ込めのための戦争
国連の行動
戦争に対するアメリカの反応
「実に見事な大失敗」――戦争へのモスクワの反応
中国の反応
釜山への猛攻
仁川上陸――拠点の攻略
第20章 朝鮮戦争の政治的特徴――人民委員会と「白いパジャマ」
ソウルの占領
人民委員会の復活
土地改革
地方政治
南部におけるゲリラ戦
「白いパジャマ」――人民戦争と人種差別の問題
残虐行為の問題
北朝鮮による残虐行為
アメリカによる残虐行為
第21章 巻き返しのための戦争
拡大する渦
南による北の占領
大きく口を開けた罠――「わが軍はウズラの群れを追い立てたところだ」
「中国の奴らが山ほど」――中華人民共和国の参戦
互恵主義の原則
ワシントンでのパニック
新兵器
第22章 結論――落日
覇権の構築と再編――朝鮮人の戦争ではなかった
もつれた糸、解きほぐされた糸
歴史と記憶
西を向く――膨張主義の終焉
中心地の交替
訳者あとがき
原注
原著で使用されている略称の一覧
参考文献
事項索引
人名索引
前書きなど
訳者あとがき(林哲)
(……)
それではカミングスの朝鮮戦争観の特徴はどのようなものだろうか。特に本書では、一九五〇年の北朝鮮の南侵はアメリカとソ連の暗黙の談合のような抱擁を破壊し、アメリカとソ連の双方に抵抗しうる統一国家を樹立しようとしたものであると述べ、六月の第一の戦争と九月から翌年春にかけての第二の戦争に亘る一連の朝鮮戦争は、一九四九年六月にアメリカの最後の戦闘部隊が朝鮮を離れた時、アメリカ国内で高まった巻き返しの声の沸騰のなかですでに予測できるものになっていた、という。また、覇権(ヘゲモニー)は戦略以上のものを意味し、現実政治における世界の勢力圏への分割以上のもの、いわば政治経済を意味する、と論じる。アメリカの国際協調主義者のやり方では、覇権の真髄は、自由貿易と経済成長のための広大な領域の境界を定める外界線を引くことであって、東アジアにおけるそのラインは大体一九四七年に日本における逆コースとその他のアジアにおける「大三日月地帯」の登場とともに引かれた、とする。いずれにせよ、こうした動きが北朝鮮の攻撃にとっての何らかの動機となっており、北の攻撃は、アメリカの覇権と日本の地域ダイナミズムに基づいて発展する東北アジアの政治経済を破壊する試みであり、それこそが北朝鮮が戦った理由だった、という。そして、ソ連が大国の地位に立ったことと、朝鮮戦争が示したように、ポスト・コロニアルの「第三世界」諸国が出現して戦後のアメリカ支配の世界システムを破壊しようという試みにおいて目覚ましい力を発揮したことによってもたらされた危機が、アメリカ外交方針の重大な変化を生み出したと見る。他方、アメリカで今日なお朝鮮戦争について、第一の戦争、一九五〇年夏の南のための戦争は成功だったが、第二の戦争、北に対する戦争は失敗だった、というように評価が分裂していることを取り上げ、これを問題だとする。著者によれば、朝鮮戦争はアメリカによる戦後の武力干渉の中でも最悪のものであり、最も破壊的で、ヴェトナムよりはるかにひどい大量虐殺だったという。同時に次のような問いも投げかける。果たして朝鮮戦争は確立された境界線を越えた国際的な侵略と呼べるだろうか? 金日成をヒトラーや東條にたとえることが可能だろうか? アメリカや韓国を一九三八から一九三九年にかけてのチェコスロヴァキアやポーランドのような罪のない位置に置くことが可能だろうか? 朝鮮はパールハーバーのようにアメリカの領土だったのか――などの問いである。
また本書には、「朝鮮人は三八度線を恒久的なものとは認めなかった」、「いわば、戦争は冷静な計算と、未知の未来に賭ける青年にありがちな虚勢を混ぜ合わせたような朝鮮人の考え方から行なわれたのであり、生じるかもしれない結果――アメリカが再武装し、冷戦が氷河と化すこと、そして朝鮮の統一など誰も気にかけはしないこと――に無関心で、存在するのは唯我論と過剰な排他的愛国主義だった」、「六月の侵攻は一九四五年に始まった進行中の弁証法の一部であって、開戦の直後、最初のアメリカ軍が戦闘に入った時にすでにこれが内戦であり人民の戦争であるという判断が下されたことがあったにもかかわらず、一九五〇年のアメリカの自由な民主主義の世界ではこうした結論を導くことは難しくなった」等々の興味深い指摘が数多いが、そうした指摘を行なった上で筆者は、この戦争に至る歴史の発見によって「忘れられた」戦争というこれまでのアメリカにおける名称とは異なった命名が可能になるのであり、そのために本書二巻が必要だったということを非常に魅力的な分析と表現で主張するのである。その歴史の発見の結果、朝鮮戦争は内戦であり、革命戦争であり、人民の戦争であった、という正しい名称に辿り着いたという。そのような文脈から、「誰が戦争を始めたのか?」という、従来からよくなされる問いは本質的な問いにはなりえないとするのだが、この見方には説得力があるが当然批判も多い。とりわけ本書の刊行の後に開示された、旧ソ連や北側の開戦責任を明るみに出す資料に基づいての批判は多いが、必ずしも議論はかみ合っていない。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。