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二極化する若者と自立支援
「若者問題」への接近
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2011年11月
- 書店発売日
- 2011年11月21日
- 登録日
- 2011年11月16日
- 最終更新日
- 2011年11月16日
紹介
二極化する社会の中で排除され貧困化する若者たち。学校、就職、終身雇用というこれまでのレールが機能しなくなった今日、若者の自立はいかにして可能か。教育、企業、地域社会のさまざまな現場にひそむ問題を明らかにし、今後の具体的な解決策をさぐる。
目次
はじめに
第I部 若者の実態をどうみるか
第1章 自立に向けての職業キャリアと教育の課題(小杉礼子)
第2章 自立に向けての高校生の現状と課題(藤田晃之)
○コラム1 家族の文化──子ども観から見る若者の自立(渡辺秀樹)
第3章 家族と福祉から排除される若者(岩田正美)
○コラム2 若者と社会階層(直井道子)
第4章 自立困難な若者の研究動向(太郎丸博)
○コラム3 不可視化される「女性の〈若者問題〉」(金井淑子)
第II部 新たな若者政策の実現に向けて
第5章 若者の自立保障と包括的支援(宮本みち子)
第6章 企業の人材活用の変化と非典型雇用(佐藤博樹)
第7章 新たな社会保障に向けて──若者の生活を守るためには(大津和夫)
第8章 雇用保険でも生活保護でもない第2のセーフティネットと伴走型支援──支援の現場で見えてきたこと(湯浅誠)
おわりに
前書きなど
はじめに(宮本みち子)
若者が一人前になるには、家庭・学校・会社(職場)・国家が、独特の連携によって、若者の自立に必要なさまざま条件を与え、経過を見守り、必要があればサポートするという役割を果たすことが必要だ。
これまで日本では、家庭、学校、会社が一体となって若者の成人期への移行を支えてきた。工業化による経済発展という上げ潮に乗って、学校から会社への太いレールが敷かれたため、レールに乗れず社会の死角に沈んでしまうような若者が比較的少ない社会が出現した。
しかし、2000年代に入ると、安定した仕事につけない若者が急増し、日本は「不完全雇用社会」へと転換した。しかも、そのことが若者世代に大きなダメージを与えていることが明らかになってきた。そのうえ、雇用問題にとどまらない問題が、子ども期から若者期に起こっていることも認識されるようになった。
貧困家庭で育つ子どもの問題、不登校やひきこもり状態にある若者の問題、メンタルヘルスの悪化や自殺の増加などが長期不況下の閉塞状況のなかで続き、若年雇用問題に留まらない、広範な子ども・若者への支援施策が求められるようになった。2010年には、子ども・若者育成支援推進法が成立し、困難を抱える子ども・若者の問題を解決する国・地方自治体の責任が明記され、包括的支援体制を構築すると宣言された。日本の社会保障制度が、高齢期中心で、現役世代および子ども期や若者期に対して手薄であったことも認識され、人生前半期の社会保障制度の強化が目標となりつつある。
若者に関しては多くの課題が横たわっているが、それらは日本の社会改革の課題につながっている。家庭・学校・会社の三位一体という日本型社会構造が、子どもの生育環境と若者の仕事の世界への着地を保障できたことは、日本が誇っていいことであったが、その反面で短所もあり、それが今や大きな障害となっている。家庭と会社任せで、国家の役割が小さいために、親の保護を受けられない子どもや若者への支援は薄く、困難を抱える若者への就労支援も薄く、近年の諸問題の噴出に対しては十分な対処ができない状態にある。
本書は、労働市場でもっとも困難な状態に置かれた若者に焦点を当てている。労働市場の選別化が進むなかで、そこから排除されがちな若者層の実態を見据えた検討が必要だという問題意識に立っている。
検討に当たってのポイントは次の点である。
第一に、若者にとって仕事は、収入、安定した生活の源であるだけでなく、社会へ参加し、役割を取得し、社会関係を築き、自信と自尊心を得るのになくてはならないものである。労働を通した福祉(労働福祉・ワークフェア)が強化される社会状況のなかで、仕事に就くための社会的支援は極めて重要になっている。どのような若者も仕事に就いて自立できるための社会的支援を続けることは必須条件である。
第二に、安定した成人期に達するまでに長い期間を必要とする現代では、この時期の試行錯誤を許し、そのための物心両面の支援をする社会環境を整備することが必要である。「親まかせでよい」とする社会環境のなかでは、親に頼る条件のない若者たちは、社会の底辺に追いやられてしまう。工業化時代のように学校と会社とが直結し、会社に入ってから教育訓練を受けて一人前の職業人・社会人へと育っていった時代とは異なる仕組みが必要である。
第三に、生育過程の貧困と家族の弱体化が、学校教育への不適応を招き、早期中退の原因となり、その後の低学力・低スキルが不安定雇用の原因になっている。このような現実を踏まえて、低成長時代には、意図的な取り組みが必要である。
本書は、2010年と2011年に日本学術会議「社会変動と若者問題分科会」(委員長 宮本みち子、副委員長 小杉礼子)と、独立行政法人労働政策研究・研修機構が共同で開催した、2回にわたる「労働政策フォーラム─若者問題への接近」をもとに書き下ろし出版したものである。前半は若者の実態に、それぞれの立場からアプローチした。後半は、新たな若者政策の確立に向けて改革案を提起した。
執筆者は、社会学、教育学、社会福祉学、倫理学の研究者と、新聞ジャーナリスト、社会活動家と広く、それぞれの立場からこの問題に対して、日頃の想いを凝縮して提案したものである。
若者が社会のメンバーとして安定した生活基盤を築くことができるように、工業化時代の社会諸制度に代わる新たな社会システムを構築しなければならない。なかでも、成長過程の不利がそのまま労働市場での不利につながり、社会格差が拡大していく現状に歯止めをかけなければならない。本書は、このような願いを込めて刊行した。多くの読者に読んでいただきたいと思う。
上記内容は本書刊行時のものです。