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近代大阪の工業化と都市形成 小田 康徳(著) - 明石書店
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近代大阪の工業化と都市形成 (キンダイオオサカノコウギョウカトトシケイセイ) 生活環境からみた都市発展の光と影 (セイカツカンキョウカラミタトシハッテンノヒカリトカゲ)

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発行:明石書店
A5判
288ページ
上製
定価 4,200円+税
ISBN
978-4-7503-3405-9   COPY
ISBN 13
9784750334059   COPY
ISBN 10h
4-7503-3405-7   COPY
ISBN 10
4750334057   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0021  
0:一般 0:単行本 21:日本歴史
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2011年5月
書店発売日
登録日
2011年5月31日
最終更新日
2012年2月20日
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紹介

大阪という近代の大都市の形成を通じて、工業化本位の都市形成の思想的背景、物質的な富の増大=都市の力という合意形成、さらにそれらの思想により軽視・無視された生活者の諸困難、を具体的に解明。工業化を相対化し、歴史の中で多面的に位置付けなおした労作。

目次

 序 都市における「価値としての工業化時代」の形成と行詰り――本書の問題意識と課題

第I部 工業化草創期の都市大阪

第1章 明治十年の鋼折・鍛冶・湯屋三業取締規則と工場公害の取締
 はじめに
 一 明治十年大阪府布達の制定事情
 二 神谷佐兵衛のガラス製造場禁止問題
 三 松本吉次郎のマッチ製造場営業中止問題
 おわりに

第2章 明治十年~二十年代初頭の難波村
 はじめに
 一 伝統的な畑作地域としての難波村
 二 都市の不潔・衛生問題の解決地
 三 興行場の開設と工場地帯化の進展
 四 大阪鉄道の開通と難波村の人びと
 五 村財政の破綻問題
 おわりに

第3章 千日前興行場等禁止令と長町取払い計画

第II部 本格化する都市工業化とその行詰り

第4章 「煙の都」の写真について
 はじめに
 一 写真撮影の時期・場所・目的および写されているもの
 二 「煙の都」の写真が示しているもの
 おわりに

第5章 工業地域としての福島・此花区地域の形成
 はじめに
 一 春日出新田から見る大正改元期の風景
 二 大阪北港株式会社
 三 戦時体制下の此花区
 おわりに

第6章 阪神工業地帯の形成と西淀川区地域の変貌
 一 はじめにかえて――西淀川区の範囲について
 二 大阪市の膨張と工業地化への期待
 三 工業地域化の特徴と工業地域化の生み出したもの
 四 おわりにかえて

第7章 戦時統制と工業地改造計画
 はじめに
 一 日中戦争開始前後における大阪工業の状態
 (一)重工業化と工業地域の変動
 (二)工業地形成の特徴
 (三)工場立地の実態と困難の増大
 (四)府市当局の姿勢
 二 戦時経済への対応
 おわりに

第III部 都市工業化をめぐる意識の変遷と工都に生きた人びと

第8章 近代都市大阪の工業化論と公害批判の変遷
 はじめに
 一 民間工業の定着とそれへの期待の成立
 二 工場公害を追及する論調と工業優先論の強大化
 三 明治末期~大正初期における攻防
 四 昭和戦前期の行政的な対応
 最後に

第9章 志賀志那人の思想的発展と愛隣信用組合
 はじめに
 一 愛隣信用組合の使命に関する認識
 二 志賀志那人の思想の同時代における位置
 三 愛隣信用組合の展開
 四 志賀志那人死去後の愛隣信用組合――おわりにかえて

第10章 都市公害問題の原点――藤原九十郎の警鐘と環境問題
 人材を育てた技官
 市域の住宅と健康を調査
 煤煙防止規則の制定に貢献
 大正一四年に亜硫酸ガスの汚染を警告

第11章 戦時体制下における住友財閥――財閥資本存立の歴史的条件に関する一考察
 はじめに
 一 戦時経済統制の強化と住友
 二 産業コンツェルンの成長
 三 企業支配形態の変化

 あとがき

前書きなど

 あとがき

 本書は、工業化本位に「発展」をめざした近代の大阪が実際にはどのような都市形成を行ったか、工業化の進行した周辺地域の変化を見ることを通じて検討しようとしたものである。その過程で解明できたことは、第一に「工業化本位の都市形成」を推し進めた思想は歴史的に形成されたものであり、その思想が社会を支配する過程が存在していたことであった。第二に、そうした過程の形成と展開は、眼前に展開する工業が物質的な富の増大をもたらすという認識に強く支えられたものであったこと、それが都市の力も強めるとの社会的な合意の形成であった。そして第三には、そうした思想が工業化の進展する地域に住んでいた、あるいは住むようになった人びとの生活上の諸困難を軽視しあるいは無視する思想とも結びつくものであった歴史的事実の存在であった。本書のメリットがあるとすれば、まさに大阪という近代の大都市の形成を通じて、その事実を具体的に解明しているところであろう。
 本書を校正していて強く感じたことは、このような都市形成に対し異議を唱え、その方向をただす力はどのように形成されてきたのかという疑問である。それはまさに「市民」の自治意識、協同意識でなければならないが、いったいそれはどのように形成されてきたのだろうか。大阪についての具体的な歴史過程をふりかえってみたとき、それを見つけ出すのはなかなか難しいということであった。多くの市民、なかでも力の弱い市民は、力のある者、富や行政的な権力の唱える意見に従っても、それに異を唱え、違う道を提示するといったことはなかなか行っていないのではなかろうか。こんな疑問がますます募ってくるのである。大阪市立北市民館で隣保事業に尽くした志賀志那人の行動を知ったとき、そこに一つの可能性を感じたのも、このような実情を知ったことと深くつながっている。
 そもそも、工業化あるいは生産力本位の都市形成がそこに住む人びとにどんな苦難を強いたものか、その実情についてもまだ深く解明されていないのではないかという思いも募っている。本書では劣悪な生活環境の形成については幾分か論じることができているとは思うが、その他の面でどうだったのか、必ずしも明確にしえてはいない。自分の能力の乏しさに忸怩たる思いがする。今後、なんとか解明につなげていけたら本当にうれしい。
 都市工業化に関するさまざまな思想の形成とその相互批判の展開について体系化された思想を探求しえず、十分に論じていないことも気になっている。近代大阪では近代日本の他のどの地域よりも多くの問題を抱えることになったのだから、当然このことについて言及しなければならなかった。本書で行ったことは、たとえば市域拡張に際して合併される町村側の人びとの意見といった個別的で対応的な研究にとどまり、それ以上に体系的な思想にまでなっているものについて論究できなかったということである。
 次に、工業都市大阪に生きたさまざまな典型的人物あるいはその集団の人びとの解明が全く不十分にしか行われていないことである。なかでも工業の発展を支えた労働者についての言及が不十分なままにとどまっていることを指摘しておかねばならない。さらに言えば、日本の植民地政策との関わり、朝鮮から移住してきた人びとのことについてほとんど言及していないことは大きな欠落である。近代大阪の工業化が外地よりの移住(戦時下では強制連行)とどう関わっていたのか、また、それが地域の変貌にいかなる影響を与えるものであったのか、決して曖昧に留めておくべき問題ではないだろう。
 第三に、産業の中身、産業と産業との関係についての考察ができていないという点も気になっている。本書は工業化とそれの展開した地域との関わりに重点を置いたため、その工業の中身に目があまり行くことがなかった。主として論じられたのは工業地化自体であるからそれでいいのかもしれないが、やはりこれで十分なものなのかどうか、改めて検討しなければならないであろう。なお、産業の中身を住民との関わりなしで論じた一文(第11章)を最後に掲載した。これは私が以上に述べた視点を確立するよりもはるかに前に記した戦時下の財閥の変質に関する分析であるが、それが地域の変貌にどう関わっていたか明瞭にしない時どのように味気ないものとなるか、一つの見本となるだろう。ただ、今後の課題を明確にする意味からあえて掲載しておいた。

著者プロフィール

小田 康徳  (オダ ヤスノリ)  (

現職:大阪電気通信大学工学部人間科学研究センター教授、財団法人公害地域再生センター(あおぞら財団)付属西淀川・公害と環境資料館(エコミューズ)館長、特定非営利活動法人旧真田山陸軍墓地とその保存を考える会理事長、文学博士
主著:『近代日本の公害問題――史的形成過程の研究』(世界思想社、1983年)、『都市公害の形成――近代大阪の公害問題と生活環境』(世界思想社、1987年)、『近代和歌山の歴史的研究――中央集権下の地域と人間』(清文堂出版、1999年)、『維新開化と都市大阪』(清文堂出版、2000年)、『陸軍墓地がかたる日本の戦争』(編著、ミネルヴァ書房、2006年)、『公害・環境問題史を学ぶ人のために』(編著、世界思想社、2008年)、『写真で見る 大阪空襲』(編著、ピースおおさか、2011年)

上記内容は本書刊行時のものです。