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アスペルガー症候群の人の仕事観
障害特性を生かした就労支援
原書: Asperger Syndrome and Employment: What People with Asperger Syndrome Really Really Want
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2010年7月
- 書店発売日
- 2010年7月21日
- 登録日
- 2010年9月8日
- 最終更新日
- 2010年9月8日
紹介
アスペルガー症候群の人の仕事観を理解し、共感することによって、本人の障害特性を生かした、より適切な就労支援につなぐことができる。本人・家族・支援者・企業・大学関係者など、アスペルガー症候群の人の就労に関わるすべての人に気づきを与える好著。
目次
序文
はじめに
第1章 アスペルガー症候群は就労や日常生活にどう影響するか
社会的相互作用
コミュニケーションと言語
思考と行動における柔軟性の欠如
環境への敏感性
不安感
そのほかの健康上の問題
第2章 仕事がうまくいかないとき
困難な職種と職場
職場への通勤
職場での対人関係
物理的および感覚的環境
ストレスに対処する
事例研究:失敗に終わった就労
・パトリックが語る:雇用主として
・ディディエが語る:メンターとして
・サイモンが語る:従業員として
第3章 アスペルガー症候群と就労――うまくいく場合とその理由
仕事がうまくいく主な要因
自覚する
働く動機
・働く動機における主な要因
・働く必要がなくても仕事をしますか?
完璧な仕事
・「完璧な仕事」の定義における主な要因
ASDのスペシャリストの従業員――スペシャリスターネ
・背景
・なぜASDとITなのか?
・スペシャリスターネで働く
・募集および選抜
・将来
第4章 子ども時代の経験とプライベートの生活環境
子ども時代の経験
・いじめ
・学校での行動
プライベートの状況
第5章 仕事を見つけるには
どんな仕事をするかを選択する
・仕事を選ぶときのポイント
仕事に応募する
・履歴書を作成する
・履歴書には何を書くか?
・履歴書の作成/仕事の応募におけるポイント
面接
・面接の秘訣
仕事を探す動機
障害を打ち明ける
・雇用主の方に――従業員がASではないかと疑ったら
第6章 指導と訓練――個人や支援機関に対する専門家の支援
一般に利用できる支援
事例研究:アスパイア――アスペルガー症候群の成人のためのメンタリング支援
・ボランティアの仕事
サービス機関や雇用主のためのASの訓練
職場での支援
事例研究:英国自閉症協会のプロスペクツ
第7章 仕事を成功させる秘訣
雇用主またはサポートワーカーのみなさん
雇われる側のみなさん
おわりに
監訳者あとがき
参考文献・情報源
前書きなど
監訳者あとがき
(…前略…)
本書では、イギリスのアスペルガー症候群の実態が示されていましたが、アスペルガー症候群の就職率は15%~20%だということですので、わが国同様就職が厳しい状況には変わりありません。賃金が支払われる就職ではなく、ボランティアとして無給の仕事に従事している人が30%もいるのには驚かされます。
彼らが就労前でとまどっていることは、「社交面に関すること」「自分に何ができるかわからない」「サポーターがいない」「雇用主に対する否定的な見方」とのことでしたが、知的に高くても就労支援に何らかのサポートが必要であり、またサポートがあれば解決できる部分も多いのではないかと考えます。
アスペルガー症候群の人たちが就職して、失敗する仕事として航空管制官、救急車の運転手、中学や高校の教師、消防士、販売員、スーパーのレジ、レストランでの接客があげられていましたが、航空管制官、救急車の運転手、消防士などは緊急時に臨機応変に素早い反応を求められる仕事です。また、中学や高校の教師、販売員、スーパーのレジ、レストランの接客などは彼らがもっとも苦手としている対人関係が必要な仕事でした。
具体的職種だけではなく、通勤、照明、ブーンという音、室温、周囲の雑音、開放型のオフィス、カーペットの洗浄液のにおい、椅子がタイルの床をこする音、紙をペラペラめくる音、身体接触、パソコンの立ち上げ音、特定のにおいなど、視覚・聴覚・触覚・嗅覚など感覚が定型発達の人に比べて敏感なことが具体的な仕事そのものではない二次的な問題としてもクローズアップされています。
さらに、「食事」「服装」「外出」「請求書の支払い」「電話応対」など日常生活上の問題も提起されていました。
このように職種の選定以外に感覚の過敏性、日常生活における常識的な対応や行動などが就労における大きな壁になっていることがわかります。
しかしながら、彼らが就労でうまくいっている事実もあるのです。アスペルガー症候群の47%がITやエンジニアでの仕事、10%が数学に関する分野で働いていることは、就労支援に大きな希望が持てるのではないでしょうか。
本書では、一人で仕事をする、自分で判断を下す、役割や責任が明確、知的な挑戦ができる、技能に敬意が払われる、仕事の内容に興味があるなどが考慮されれば可能性があり、職種として郵便配達員、庭師、IT技術者、エンジニア、写真家、研究者、会計士、司書、ピアノ調律師、書籍販売などが適していると述べられています。イギリスと日本では文化の違いもあるため、一概にこのような仕事すべてが適職だとは言い切れませんが、彼らの特性をうまく引き出すことができれば大きな成果を上げることができるのも否定できません。
(…中略…)
アスペルガー症候群の就労支援は、難しいと言われています。しかしながら、彼らに合った適切な仕事を見つけること、すなわちジョブマッチングが大きなキーワードになります。そして彼らが働く企業に対してアスペルガー症候群という障害をきちんと理解してもらうことがその後の定着をはかるうえで大きな支援となることでしょう。
本書によって、アスペルガー症候群当事者だけではなく、彼らを支援する保護者、ハローワーク職員、障害者職業カウンセラー、ジョブコーチ、ケースワーカーの人たちがよりよい支援を行えるようになることを期待したいと思います。
上記内容は本書刊行時のものです。