御詠歌でめぐる四国八十八カ所【CDブック】
下西 忠:著
発行:明石書店 この版元の本一覧
A5判 220ページ 並製
定価:2,000円+税 総額を計算する
ISBN 978-4-7503-3113-3 C0015
在庫あり
奥付の初版発行年月:2009年12月 書店発売日:2010年01月12日
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紹介

四国八十八カ所を旅するなかで日本人は何を感じ、考えてきたのか。八十八の札所に残された御詠歌を題材に、中世日本文学の世界を歩き、人々の秘められた信仰心を読み取る。参拝時の勤行でとなえる経文・御詠歌を収録した付録CD付。

目次

 はじめに

阿波の道 発心の道場

 第1番 竺和山霊山寺
 第2番 日照山極楽寺
 第3番 亀光山金泉寺
 第4番 黒巌山大日寺
 第5番 無尽山地蔵寺
 第6番 温泉山安楽寺
 第7番 光明山十楽寺
 第8番 普明山熊谷寺
 第9番 正覚山法輪寺
 第10番 得度山切幡寺
 第11番 金剛山藤井寺
 第12番 摩盧山焼山寺
 第13番 大栗山大日寺
 第14番 盛寿山常楽寺
 第15番 薬王山国分寺
 第16番 光耀山観音寺
 第17番 瑠璃山井戸寺
 第18番 母養山恩山寺
 第19番 橋池山立江寺
 第20番 霊鷲山鶴林寺
 第21番 舎心山太龍寺
 第22番 白水山平等寺
 第23番 医王山薬王寺
  コラム 高野山御詠歌

土佐の道 修行の道場

 第24番 室戸山最御崎寺
 第25番 宝珠山津照寺
 第26番 龍頭山金剛頂寺
 第27番 竹林山神峯寺
 第28番 法界山大日寺
 第29番 摩尼山国分寺
 第30番 百々山善楽寺
 第31番 五台山竹林寺
 第32番 八葉山禅師峰寺
 第33番 高福山雪蹊寺
 第34番 本尾山種間寺
 第35番 医王山清瀧寺
 第36番 独鈷山青龍寺
 第37番 藤井山岩本寺
 第38番 蹉山金剛福寺
 第39番 赤亀山延光寺
  コラム 弘法大師の歌

伊予の道 菩提の道場

 第40番 平城山観自在寺
 第41番 稲荷山龍光寺
 第42番 一山佛木寺
 第43番 源光山明石寺
 第44番 菅生山大宝寺
 第45番 海岸山岩屋寺
 第46番 医王山浄瑠璃寺
 第47番 熊野山八坂寺
 第48番 清滝山西林寺
 第49番 西林山浄土寺
 第50番 東山繁多寺
 第51番 熊野山石手寺
 第52番 瀧雲山太山寺
 第53番 須賀山円明寺
 第54番 近見山延命寺
 第55番 別宮山南光坊
 第56番 金輪山泰山寺
 第57番 府頭山栄福寺
 第58番 作礼山仙遊寺
 第59番 金光山国分寺
 第60番 石山横峰寺
 第61番 栴檀山香園寺
 第62番 天養山宝寿寺
 第63番 密教山吉祥寺
 第64番 石山前神寺
 第65番 由霊山三角寺
  コラム 濁音をつけるかつけないか

讃岐の道 涅槃の道場
 第66番 巨鼇山雲辺寺
 第67番 小松尾山大興寺
 第68番 七宝山神恵院
 第69番 七宝山観音寺
 第70番 七宝山本山寺
 第71番 剣五山弥谷寺
 第72番 我拝師山曼荼羅寺
 第73番 我拝師山出釈迦寺
 第74番 医王山甲山寺
 第75番 五岳山善通寺
 第76番 鶏足山金倉寺
 第77番 桑多山道隆寺
 第78番 仏光山郷照寺
 第79番 金華山天皇寺
 第80番 白牛山国分寺
 第81番 陵松山白峯寺
 第82番 青峰山根香寺
 第83番 神毫山一宮寺
 第84番 南面山屋島寺
 第85番 五剣山八栗寺
 第86番 補陀落山志度寺
 第87番 補陀落山長尾寺
 第88番 医王山大窪寺
  コラム 能因法師と歌の力

 解説
 おわりに

前書きなど

はじめに

 かつてバスによる遍路は体験した。それは大学の企画で二回に分けて二週間の遍路であった。ありきたりの表現だが実におもしろかった。息子が社会人として旅立つ直前に三日間ともに楽しく四国を歩いたこともあった。讃岐うどんを食べ歩くなど、以前から四国好きの私は断片的に札所を歩いてきたこともあって、御詠歌(四国八十八カ所)に興味をもち、御詠歌を私なりに読んでみようと思い立った、それが結実してこの本になったわけである。
 雑務のなか時間をみつけ御詠歌を意識して一泊二日の旅に出たことも多かった。高松出身の菊池寛に興味があったので、彼の記念館と大窪寺にしぼって出かけた。高松からレトロな琴電に乗り、さらに長尾からバスにのりかえて大窪寺に向かった。バスの乗客は私と中年のおへんろさんの二人だけ。平日ということもあり境内は閑散としている。やや小降りの雨が、旅に一抹の淋しさをあたえた。

  なむやくし諸病なかれとねがひつゝまいれる人は大くぼの寺

 周知のとおり大窪寺の御詠歌である。「参れる人はおおい」とあるが、車で参拝している人も含めて数人だから、多いとはいえない。もともと文学はオーバーだから仕方がない。誇張表現は文学では常のことだ。結願の寺ということもあり、境内には金剛杖が数多く納められている。その杖には、おへんろさんのさまざまな思いがきっと込められているにちがいない。

  おへんろやおもいをここにおくなりとおさむるつえもおおくぼのてら

と私は詠んでみた。基本的に寺号を詠み込み、何かを表現すればいい。また言語遊戯もたのしめばいいと思い詠んでみたわけである。歩くこと自体もおもしろいし、御詠歌を詠む(つくる)こともおもしろい。人それぞれが自分の「遍路」をたのしめばいい。たのしむという表現に対し、おしかりを受けるかもしれないが、私は「遍路」に定まったかたちはないと思っている。こころの問題をそれぞれの人がかかえながら、歩く、それだけでいい。
 和歌はスサナオノミコトよりはじまり、久しく秋津島の習俗であった。秋津島とは、日本国の意味で敷島とも大和とも、外国と比べる意味で本朝ともいう。和歌は三十一文字の美しい言葉をもって数多くの心緒をのべる。平安時代のはじめ紀貫之が、『古今和歌集』の仮名序で、「人の心をたねとして、よろづの言の葉とぞなりにける」と書いたことは有名である。これによって、神仏も人のこころをすてることなく、また明王賢臣もかならず賞賛することになるのである。和歌の功徳はおおきい。本堂の前において御詠歌を唱えれば、きっと御本尊はわれわれに応えてくださる。
 古代は、現代とちがって自由に気軽に旅に行けたわけではなかった。街道の整備もなく、宿泊できるような宿屋もなかった。現在のような詳細な旅行ガイド本も当然ありはしない。さまざまな制約があったにせよ、本格的な旅ができるような環境が整ったのは江戸時代以降といっても過言ではない。四国遍路でいえば、真念の『四国遍路道指南』(貞享四年、一六八七)がいわば最初のガイド本といえようが、ただそれでも十分な情報があるわけではなかった。とはいえ、その書物は遍路の歴史からいえば、画期的な書物であることは疑う余地もない。そこに記された御詠歌をもとにして、御詠歌の旅に出ようと思う。私の文学的な興味関心で書いただけであるから、たくさんの人に満足感をもってもらえるとは思っていない。私なりの御詠歌にかこつけての文学散歩である。御詠歌そのものへの関心がこれによって高まればこれにまさる喜びはないと思っている。

著者プロフィール

下西 忠(シモニシ タダシ)

1951年、大阪市生まれ。高野山大学教授。研究分野は仏教文学。著書に『密教と説話文学』(高野山大学通信制大学院テキスト)、『「国語教材と文学研究」──古文入門教材(児のそら寝)の解釈』など多数。

上記内容は本書刊行時のものです。
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