発行:明石書店 この版元の本一覧
四六判 144ページ 上製
定価:2,000円+税 総額を計算する
ISBN 978-4-7503-3012-9 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2009年07月 書店発売日:2009年07月02日
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子どもへの性虐待は著しい心的外傷をもたらす。従って性虐待サバイバーへのケアは細心の配慮と社会的な支援をもって行わなければならない。ところが現状は、司法も教育も社会制度もサバイバーの人権をなおざりにし、再被害をもたらしている。現状への警鐘と提言。
目次
序論 子どもに対する性犯罪問題を本書で取り扱う意義
第1章 子どもに対する性犯罪の実態
1 児童に対する性犯罪の実態——ある判例から
2 親による児童性虐待の無処罰状態のメカニズムと是正への視座
3 性虐待動機形成要因としての子どもの所有物視
第2章 児童性虐待サバイバー再被害の社会心理構造
1 児童性虐待被害による解離障害・危険状況察知機能障害と再被害の構造
2 精神医療において制度的に遂行される客観的暴力
3 司法において制度的に遂行されるサバイバーへの客観的暴力
4 再被害現象構築要因としての加害者の制裁欲とサバイバーの心的障害
5 児童性虐待被害者の社会的障害と再被害
6 性産業を中核とする再被害
第3章 人権侵害欲の内部構造
1 人権侵害欲を制度的に生み出す法の様相の改正に向けて
2 「非行」という言葉・社会概念が肥大化する児童虐待被害者に対する人権侵害欲
3 言語・社会・教育における人権侵害欲の構築
第4章 子どもに対する性暴力欲をつくりだす商品の根絶に向けた法改正への視座
1 性的物象化と人権を重んじる性の在り方
2 「わいせつ物」「ポルノグラフィー」から「性暴力扇動商品」へ
3 性暴力扇動商品による性の衝動化・中毒化
4 性暴力扇動商品と性犯罪者処遇プログラム
5 性暴力扇動商品製作過程における深刻な人権侵害の実態
6 性暴力扇動商品規制への反論
7 性暴力扇動商品法規制の可能性
前書きなど
序論 子どもに対する性犯罪問題を本書で取り扱う意義
性犯罪被害者は、他の種類の犯罪被害者より後期心的トラウマ・ストレス障害が顕著に深刻である。性犯罪被害の中でも、成人した後よりも、生育期の子ども時代に被害に遭った方が、心的外傷が特に深い。なぜなら、成人期にトラウマ被害に遭うとすでに形成された人格構造を侵食するが、児童期に起こったトラウマはその子どもの人格そのものを歪曲しながら形成するからである。現に、姦淫に至らない幼児に対するわいせつ行為も、成長後は多重人格障害等の深刻な心的障害を引き起こす恐れが大きい。児童性虐待被害者の心的障害(特に以下に説明する解離障害)は年を経るごとに険悪化する。
ニューヨークの児童相談所が取り扱った二五〇件の児童性虐待事例調査から判明した事実は、加害者が見ず知らずの他人であれば被害児童の心的傷害は軽く、加害者が信頼している人であれば、児童の心的傷害は深刻となる。つまり、被害に遭った子どもにとって、加害者との関係性の深さと、心的外傷の深刻さは相関関係にある。なぜなら、子どもは親等の信頼している大人を通して人類全体への基本的信頼と心の絆を、誕生後からの成長の過程で築いていくからである。絶対的に信頼していた養育者かつ保護者である親が、その信頼をことごとく裏切り、瞬時にして、性的襲撃者に変容する事態は、子どもにとっては、瞬時にして親を喪失し、孤児になった上に、売春を強制させられるトラウマを意味する。
多くのメディアや司法雑誌は、親による子どもへの性虐待に関する報道や議論をタブーとし、無視してきた。この問題に関する研究も、日本では極めて少ない。こうして「蓋」の下に放っておかれた「臭い物」は、勢いよく繁殖している。神奈川県の中央児童相談所が、行政機関として初めて、二〇〇〇年から二〇〇三年までに実施した調査では、相談を受けた子どもへの性虐待の六割もが父親によってなされた事実が顕在化した。また二〇〇一年になされた萩原・四天王寺国際仏教大学教授らの調査でも、全国八カ所の児童相談所が性虐待として扱った一六六例の六四パーセントが父親であった事実が判明した。メディアが児童に対する性犯罪事件を扱う際に、犯罪は一部の「異端」な人物がなすと思わせがちであるが、子どもが性暴力被害に遭うのは、他ならぬ父親からの場合が極めて多いのだ。つまり、子どもにとって、性犯罪に遭いやすい危険な場所は、家庭である。父親が実子になす性犯罪は、社会的無知無関心と不作為という「社会通念」の下に、(本書第1章における、判例分析で詳しく説明するとおり)合法化され、再生産されている。
性虐待は、強姦に至ったか否かで分かれ、強姦さえ起こらなければ性虐待は成立しないかのごとくに認識されるかもしれない。しかし、性虐待の深刻さは、強姦に至ったか否かよりも、身体的接触における性的動機の有無で大きく分かれ、その性的行為の内容自体は非常に重要ではない。特に親が加害者の場合、身体的接触における性的動機こそが、親の愛の腐敗を意味し、成人後も被害者の心に破壊的な影響を及ぼし続けるのである。例えば、父親からの性虐待被害者の三七・五パーセントが、極度のうつ状態から自殺を試みている(調査対象者の平均年齢二七・七歳)。さらに、児童性虐待被害によって、慢性的な中枢神経系の異常や免疫系の機能不全という、永続する身体的傷害結果も生じると報告されている。つまり、たとえ当初の性虐待行為は一個であっても、傷害罪の構成要件に該当する事実(精神的及び身体的傷害結果)が、被害者の生涯において、半永久的に順次重篤化・加重発生する(いわゆる水俣病事件と結果的加重経緯が似ている)。よって、親からの児童性虐待(性的部位を触る行為を含める)は、人類のあらゆる犯罪の中で、最も心的後遺症が深刻な犯罪被害の一つであり、まさに人道に対する罪である。
本書は、子どもに対する性犯罪の対処に関する、臨床的実践及び法社会改正を目的とするものである。期待する読者層は、臨床的実践に携わる児童相談所職員、小中高校教員、文部科学省の『指導要領』作成担当者たち、警察学校の教官たち、少年課及び刑事課の警察官、検察官、裁判官、裁判所の調査員、司法研修所におけるテキストの作成者、裁判官の研修におけるテキストの作成者、児童虐待を担当する弁護士、子どもに対する性犯罪に関する立法に携わる、法制審議会委員(特に刑事課)、法務省刑事局、各党の国会議員及び政策スタッフ、臨床心理士、セラピスト、精神科医、新聞・テレビ等のマスコミにおける、(特に子どもに対する)性犯罪報道担当者等である。また、大学におけるジェンダー学、社会学、法社会学、児童福祉学、倫理学、人権学、社会思想学、政治哲学、法理学等の教材としても有益であろう。
(…後略…)
著者プロフィール
柴田 朋(シバタ トモ)
コーネル大学比較文学科を首席で卒業。東京大学研究生を経て、EHESS(フランス国立社会科学高等研究院)博士。国連人権委員会で声明文を多数発表。
〔主な論文〕
“Japan's Wartime Mass Rape Camp and Continuing Sexual Human Rights Violations”『日米女性ジャーナル』(城西大学国際文化教育センター)英語版16号、48-86頁、1999年
“Undoing Sexual Objectification in the Japanese Socio-Juridical Context: The Human-Rights Oriented Transmutation of the Conception of “Obscene Materials,””The International Journal of Japanese Sociology(日本社会学会・英語版)2008年12月
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