シリーズ・叢書「アジア現代女性史5」の本一覧
発行:明石書店 この版元の本一覧
四六判 432ページ 上製
定価:5,600円+税 総額を計算する
ISBN 978-4-7503-3002-0 C0336
在庫あり
奥付の初版発行年月:2009年06月 書店発売日:2009年06月25日
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1965年、インドネシアで起きた9・30事件は本当に共産党によるクーデター未遂事件であったのか? スハルト政権時代には決して語られることのなかった事件の悲惨な真実をオーラルヒストリーとして描き、インドネシア国内で大きな反響を呼んだ問題作。
目次
「アジア現代女性史」シリーズの刊行にあたって(アジア現代女性史研究会代表:藤目ゆき)
日本語版のための序章 ジョン・ローサ/アユ・ラティ(訳:河合大輔)
I エッセイ
第一章 九・三〇事件後の中ジャワにおける逮捕と殺害(リント・トリ・ハスウォロ)
第二章 行き止まりだらけの道で待ち続ける——被害者家族の話(ヤヤン・ウィルディハルト)
第三章 女が政治囚になったとき(ジョセファ・スカルティニンシ)
第四章 「集い」と気丈さ——狂気の最中でもちこたえる知恵(アキノ・W・ハユンタ/ジョン・ローサ)
第五章 ロームシャと開発——スハルト体制における政治囚の強制労働(ラジフ)
第六章 南ブリタルにおけるPKIの武力闘争とトリスラ作戦(アンドレ・リム)
II スケッチ
グムラールのスケッチ
訳者あとがき(亀山恵理子)
六五年被害者の作品——回想録、自叙伝、伝記
前書きなど
訳者あとがき
本書は、インドネシアの民間団体である「市民による調査とアドボカシー研究所」「人道のためのボランティアチーム」「インドネシア社会史協会」の三団体によって二〇〇四年に出版された『インドネシア 九・三〇事件と民衆の記憶』(原題Tahun Yang Tak Pernah Berakhir: Memahami Pengala-man Korban 65〔終わることのない年——六五年被害者の経験を理解する〕)のうち、聞き取りの様子を再現した第III部「インタビューの記録」を除く全訳である。アジア現代女性史シリーズの一冊として日本語版が刊行されることになり、編者であるジョン・ローサ氏とアユ・ラティ氏は日本語版のための序章を新たに書き加えた。その序章は河合大輔氏が訳出し、『アジア現代女性史』第二号(アジア現代女性史研究会編、二〇〇六年四月)に掲載された。また第三章の初出は、『痛みと怒り——圧政を生き抜いた女性のオーラル・ヒストリー』(大阪外国語大学グローバル・ダイアログ研究会〔代表〕武田佐知子編、二〇〇六年、明石書店)である。本書に収められた二つの章は、それらに修正を加えたものである。
『インドネシア 九・三〇事件と民衆の記憶』はインドネシアで出版されると、その社会的反響は大きく、たちまち完売したと聞く。長い間封印されてきた歴史をオーラル・ヒストリーの手法で描く本書の出版は、三〇年以上続いたインドネシアにおけるスハルト政権期の負の遺産に向き合う意味をもつ。
(…中略…)
本書を共同で出版したインドネシアの三つの民間団体は、一九九〇年代に設立された非政府組織(NGO)である。市民による調査とアドボカシー研究所(ELSAM)は、人権分野で活動するインドネシアの代表的なNGOの一つである。市民社会が力をつけ、民主的な政治機構がつくられることを目指して、これまでに研究や政策分析、キャンペーン、出版活動を行ってきた。人道のためのボランティアチームは、スハルト政権が崩壊する一九九八年五月に正式に発足した。当時は学生による抗議行動が活発化するなか、デモの物資調達や当局による暴力の被害者の支援に奔走すると同時に、首都ジャカルタを中心に発生したその政治的暴力の実態調査を行った。その後は学生など若い世代が中心となり、マルクやアチェなどインドネシア国内の紛争地域で人道支援にたずさわった。インドネシア社会史協会は、主に歴史研究者から構成される団体である。本書の編者であるアユ・ラティ氏とヒルマル・ファリド氏、またエッセイの執筆者の一人であるラジフ氏は、同協会のリサーチャーである。
これらの三団体によって出版が実現した本書には、次のような特色がある。
一つは、何よりもそれまで声をあげることのなかった、九・三〇事件で被害を受けた人びとの経験を掘り起こしていることである。インタビューでは、元政治囚だけではなく、その親戚家族、また殺害され、行方不明になった人びとの親戚家族も含む二六〇人に話を聞いている。市民のための調査とアドボカシー研究所の代表を務めるアグン・プトリ氏は、被害者とは逮捕や殺害、虐待など、当局から直接に身体的暴力を受けた人びとだけではなく、その妻や夫、子ども、そして親戚家族もまたそうであるとの概念を提示したことが本書の出版を重要なものにしていると、インドネシアの有力紙『コンパス』で述べている。
また本書の出版には、単に歴史的記録としてではなく、被害者である人びとが自らの経験を語る動きを一層進めようという意図がある。初版二〇〇〇部のうち半分は、市民による調査とアドボカシー研究所、人道のためのボランティアチーム、インドネシア社会史協会を通じて、九・三〇事件の被害者らが組織するネットワークに配布された。そこからさらに、まだ話をしていない被害者、つまり自らの経験をほかの人たちと分かちもっていない人びとに本書は届けられた。被害者のネットワークが育ち、沈黙するのではなく声をあげるという、社会における「新しい文化」の創造を目指していたのである。実際に出版後には、本書を取り上げたラジオ番組で、自らの体験を話す視聴者からの電話が数多くかかってきたという。
このほか、本書が若いリサーチャーによって書かれたことに触れておきたい。編者は、先に述べたインドネシア社会史協会の二名の歴史研究者とカナダのブリティッシュ・コロンビア大学で歴史学の教鞭をとるジョン・ローサ氏であるが、被害者への聞き取り調査とエッセイの執筆は、主として人道のためのボランティアチームに参加する学生や若い活動家らによって行われた。二〇〇〇年中頃から二〇〇一年にかけてインタビューが行われたとき、被害者のなかには、市場など自宅外での面談を希望する人もいた。六五年以降の出来事や自らのつらい経験を、子どもたちのいるところで話したことがなかったからである。またスハルトの新秩序体制は終焉したとはいえ、被害者らに対する社会的差別はまだ終わってはいなかった。そのため話すことが怖くなり、直前になってインタビューの約束を取り消す人もいたという。若いリサーチャーらは、聞き取りや執筆を通じて自らが育った社会が抱える傷に向き合いながら、世代間をつなぐ歴史の橋を築いていったのだろう。
(…後略…)
著者プロフィール
ジョン・ローサ(ローサ,ジョン)
ブリティッシュ・コロンビア大学准教授。主な著書にPretext for mass murder: the September 30th Movement and Suharto's coup d'etat in Indonesia (Madison: University of Wisconsin Press, 2006)。
上記内容は本書刊行時のものです。アユ・ラティ(ラティ,アユ)
インドネシア社会史協会(Institut Sejarah Sosial Indonesia: ISSI)代表。ウィスコンシン大学マディソン校から東南アジア研究で修士号を取得。
上記内容は本書刊行時のものです。ヒルマル・ファリド(ファリド,ヒルマル)
シンガポール国立大学大学院アジア文化研究博士課程に在籍。ジャカルタを拠点とする「文化作業ネットワーク」、インドネシア社会史協会でも活動。
上記内容は本書刊行時のものです。藤目 ゆき(フジメ ユキ)
大阪大学准教授。アジア現代女性史研究会代表。
専攻 日本近代史、女性史。
【主な著書・訳書・論文】
マリア・ロサ・L・ヘンソン『ある日本軍「慰安婦」の回想——フィリピンの現代史を生きて』(編訳)岩波書店、1995年。
『性の歴史学——公娼制度・堕胎罪体制から売春防止法・優生保護法体制へ』不二出版、1997年。
「冷戦体制形成期の女性運動——占領下の日本民主婦人協議会と朝鮮戦争」三宅義子編『日本社会とジェンダー』明石書店、2001年。
亀山 恵理子(カメヤマ エリコ)
1972年生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程満了。社会開発、地域研究(東ティモール、インドネシア)。日本赤十字社国際部所属。
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