発行:明石書店 この版元の本一覧
A5判 348ページ 上製
定価:6,500円+税 総額を計算する
ISBN 978-4-7503-2960-4 C0037
在庫あり
奥付の初版発行年月:2009年03月 書店発売日:2009年04月07日
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多文化共生教育が進むヨーロッパでも、さまざまな問題を抱えている。オランダとベルギーでのイスラーム学校の設立に関わる摩擦、キリスト教社会のなかでの軋轢など、公教育のなかのイスラーム教育の歴史とそれぞれの国の実地調査によりその問題点を検証する。
目次
凡例
オランダ・ベルギー概略図
序章
第1節 問題提起
第2節 イスラーム教育の諸相
第3節 本課題をめぐる動向と研究方法
第 I 部 公教育における宗教の位置取り
第1章 オランダの公教育と宗教
第1節 教育の非宗教化と学校闘争
第2節 憲法改定と公教育の柱状化
第3節 現代の公教育構造と宗教
第2章 ベルギーの公教育と宗教
第1節 教育の非宗教化と学校闘争
第2節 学校憲章の制定と宗教教育の位置取り
第3節 現代の公教育構造と宗教
第II部 イスラーム教育の参入
第3章 オランダのイスラーム教育
第1節 イスラーム学校の設立運動
第2節 イスラーム学校の教育内容と特徴
第3節 学校間分離問題と〈教育の自由〉のゆらぎ
第4章 ベルギーのイスラーム教育
第1節 公立学校におけるイスラーム教育導入の経緯
第2節 イスラーム教育の教育内容と特徴
第3節 宗教シンボル禁止議論と宗教教育
終章 公教育におけるイスラーム
第1節 宗教的多元性の異なる展開
第2節 「分離」か「混合」か
第3節 反イスラームと排除の論理
エピローグ
第1節 イスラーム教育がもたらす諸作用
第2節 今後の課題と展望
参考文献
略称一覧
あとがき
索引
前書きなど
序章
第3節 本課題をめぐる動向と研究方法
(3)本研究の独自性と方法
先にも述べたように、もともと宗教に対して「敏感」な性質を有する公教育にイスラームが参入することは、公教育の存立原理そのものを再び揺さぶるほど大きな論争をまき起こす出来事である。そこで、本課題を遂行するための射程の第一には、現代のイスラーム教育導入をめぐる過程のみならず、より広範な歴史軸を取った考察を加えなければならない。つまり、公教育制度の成立過程において宗教(教育)がいかに扱われ、またどのような経緯によって現在の公教育制度の中に位置づけられることになったのかを歴史的にふりかえるという作業が不可欠となる。加えて、この過程において、さまざまな政治的アクターがどのような構図のもとに争ったのか、それがいかなる流れを汲んで現在の政治勢力へと引き継がれているかを跡づけることも必要だろう。
ここでとりわけ注目すべきであるのが、両国のキリスト教政治勢力の強さと、その勢力が公教育制度の形成に対して果たした多大な影響である。両国の公教育制度の骨格が固められていくまさにその時期に、政治の場で強力な存在感を示していたのがキリスト教政治勢力であったのだ。時を経て、この勢力がどのような立場からいかなる姿勢をもって新たな宗教グループであるイスラームを迎え入れたのかを明らかにすることが、本書における考察の重要な鍵となる。
またこうした史的考察は、2カ国の公教育における宗教(教育)を静態的で固定的な制度からのみではなく、社会の世俗化を同時に考慮しながら捉える必要もある。それはすなわち、新たな宗教グループであるムスリムがイスラーム教育を組織化する過程と、こうした既存社会の世俗化が同時並行的に進むということのコントラストを把握することの重要性である。本研究において世俗化にかかわる考察は、政治勢力の変化、あるいはまた人びとの宗教帰属意識や教会参加頻度の変容などによって検討されることになる。
第二の研究アプローチとして、イスラーム教育の社会的作用を捉えるためには、それにかかわって生じている多様な現象や論争を抽出する必要がある。これらを読み解くために、新聞や雑誌あるいはテレビ特集などのマスメディアを数多く参照した。マスメディアを多く参照した理由は、一般の多くの読者や視聴者を擁するこれらの情報を批判的・客観的に眺めることによって、イスラーム教育やムスリムの学びのありかたにかかわる諸課題が社会でどのように意識化されてきたのかを明らかにするためである。これらのマスメディアを、情報のリソースとしてのみならず、世論形成に重要な影響を与える一つの社会事象としても扱うことで、実際の社会動向を反映させた立体的な分析をめざす。
そして第三に、イスラーム教育の教育的作用を多面的に把握するために、実際の教育現場に赴き調査をおこなった。調査とは具体的に、学校や関連する教育機関への訪問調査、宗教教育教員研修などへの参加、教員・子ども・親などへのフォーマル/ノンフォーマルインタビュー、政治家へのインタビューおよび質問票の提示・回収などである。本書で主に扱うのは、2000−2006年に実施した調査結果となる。また、調査において入手したさまざまな資料も、本書における中心的な分析材料として用いる。活用するのは、スクールガイド、教科書、カリキュラム、学校運営方針、教員研修で用いられたレジュメなどである。イスラーム教育を受ける子どもや親、またその関係者から直接得た声や情報は、世界情勢あるいは社会的事件などの影響を受けて展開される、イスラーム教育をめぐるメディア報道の動向を批判的に読み解くうえでも重要な役割を果たす。
以上の研究方法を適用するため、本書は二部構成で展開する。第I部では、前述した第一の研究アプローチを取りつつ、両国の公教育における宗教の位置取りを明らかにする。続く第II部では、第二と第三の研究アプローチによって、両国の公教育にイスラーム教育が参入した経緯、実践内容、イスラーム教育に関連して社会や学校で提起されている論点を検討していく。その分析を踏まえて終章では比較考察を進め、先に提起した問いに対する答えを導き出す。
著者プロフィール
見原 礼子(ミハラ レイコ)
1978年、山口県生まれ。
一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了、博士(社会学)。日本学術振興会特別研究員、フランス社会科学高等研究院客員研究員を経て、現在、ユネスコ日本政府代表部専門調査員。
著書に、『オランダ——寛容の国の改革と模索』子どもの未来社、2006年。「ベルギーの公教育における宗教シンボル論争の矛盾点」内藤正典・阪口正二郎編『神の法vs.人の法——スカーフ論争からみる西欧とイスラームの断層』日本評論社、2007年。「公教育におけるムスリムの学びの条件」大芝亮・山内進編『衝突と和解のヨーロッパ——ユーロ・グローバリズムの挑戦』ミネルヴァ書房、2007年。
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