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現代アフリカの紛争と国家
ポストコロニアル家産制国家とルワンダ・ジェノサイド
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2009年2月
- 書店発売日
- 2009年3月2日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2012年1月24日
書評掲載情報
2009-12-13 |
毎日新聞
評者: 五百旗頭真(防衛大学校長・日本政治外交史)、白石隆(政策研究大学院大客員教授・国際関係) |
2009-04-26 | 日本経済新聞 |
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紹介
アフリカの紛争の根本的な原因を、独立後に現れた特異な国家「ポストコロニアル家産制国家」の特質から捉える理論的枠組みを提示。この枠組みと植民地化以降の長期的な社会変容の分析とを組み合わせ、人類の悲劇ルワンダ・ジェノサイドに至る過程を解明する。
目次
図表リスト
凡例
地図〈アフリカの国家〉
序 問題の所在と方法
第 I 部 1990年代アフリカの紛争をどう捉えるか
第1章 1990年代アフリカの紛争
はじめに
第1節 発生頻度と類型化
第2節 紛争の新たな特徴
第3節 先行研究の視角
まとめ
第2章 ポストコロニアル家産制国家(PCPS)の解体としての紛争
はじめに
第1節 独立後のアフリカにおける国家の特質
第2節 ポストコロニアル家産制国家(PCPS)
第3節 特質の由来
第4節 PCPS解体の契機
第5節 PCPSの解体と新たな紛争の特質
第6節 植民地秩序とポストコロニアル秩序
第7節 ルワンダという事例
第8節 議論の進め方
まとめ
第 II部 植民地統治の衝撃
第3章 植民地化以前のエスニシティと統治
はじめに
第1節 エスニシティの起源
第2節 統治体制とエスニシティ
まとめ
第4章 植民地化とルワンダ国家
はじめに
第1節 植民地ルワンダの領域的形成
第2節 植民地経営の改革
第3節 植民地経営の理念と現実
第5章 植民地期の社会変容
はじめに
第1節 社会的不平等と社会秩序
第2節 土地制度の変容
まとめ〈第4章・第5章〉
第6章 「社会革命」
はじめに
第1節 信託統治地域の政治制度改革(1956年まで)
第2節 万聖節の騒乱
第3節 国際社会の介入
第4節 農村社会にとっての「社会革命」
まとめ
第III部 ポストコロニアル家産制国家(PCPS)の成立と解体
第7章 カイバンダ政権期の国家と社会
はじめに
第1節 政治体制の制度的性格
第2節 政治制度の実態
第3節 ローカルな権力と農村社会
第4節 「イニェンジ」侵攻とその影響
第5節 対外関係
まとめ
第8章 ハビャリマナ政権の成立と統治構造
はじめに
第1節 クーデタ
第2節 ハビャリマナ体制の骨格
第3節 インフォーマルな権力中枢
まとめ
第9章 混乱の時代
はじめに
第1節 経済危機
第2節 内戦勃発
第3節 政治的自由化と急進勢力の膨張
まとめ
第10章 ルワンダ・ジェノサイドに関する先行研究
はじめに
第1節 積年の「部族対立」
第2節 経済的要因、農村社会経済構造
第3節 人種主義と利得
第4節 全体主義的動員
第5節 フトゥ集団内の圧力
第11章 ジェノサイドの展開
第1節 ハビャリマナ大統領搭乗機撃墜事件
第2節 新政権の発足
第3節 ジェノサイドの主体
第4節 地方におけるジェノサイドの展開過程
まとめ
結論 アフリカの紛争と国家
第1節 〈第II部〉〈第III部〉の要点と主張
第2節 含意
第3節 PCPSの移行
写真構成:ルワンダの人びとと風景
補論1 聞き取り調査について
補論2 ジェノサイドに関する主要人名録
あとがきと謝辞
引用文献
索引
前書きなど
序――問題の所在と方法
(…前略…)
本書の構成について述べておこう。
〈第 I 部〉では、上記第1の作業として、1990年代アフリカの紛争の特質について分析する。紛争の頻発、紛争の「大衆化」、紛争の「民営化」といったこの時期の紛争の特徴を示したうえで、それらが独立後のアフリカに成立した特異な性格を有する国家(ポストコロニアル家産制国家:PCPS。第2章参照)の解体によって引き起こされたことを論じる。〈第 I 部〉の議論は、必要に応じて具体的事例を提示するものの、総じて仮説としての性格を持つ。先に述べたように、1990年代アフリカの紛争の特質は、植民地化以降の長期的な歴史過程に由来する。したがって、1990年代アフリカの紛争の特質を捉えるために、複数国の事例を用いて「広く浅い」議論をするよりも、特定の紛争に焦点を絞り、分析の射程を長期に置いた議論を展開する方がより説得的だと考えた。
したがって本書では、〈第 I 部〉で提示した仮説を、〈第 II部〉と〈第III部〉の議論で実証するという構成をとる。
〈第 II部〉と〈第III部〉で実証の具体例として選択されるのは、ルワンダの紛争である。【図序-1】に一般的なルワンダの地図を掲げる。ここで、1990年代の内戦とジェノサイドに至る過程が長期的に分析される。ルワンダの紛争は、1990年代のアフリカにおいて最も暴力的なものの1つであった。〈第 II部〉では植民地期までの過程、〈第III部〉では独立後のルワンダが内戦とジェノサイドに至る過程が、国家と社会の変容に焦点を当てつつ、詳細に分析される。この作業は、仮説として提示された〈第 I 部〉の実証という性格を持つとともに、ジェノサイドという究極の暴力がルワンダの歴史のなかでいかに準備されたのかという問いに答える目的を持っている。紛争がジェノサイドという形をとって現れた背景には、ルワンダ固有の条件が関連している。植民地期と独立後において、その条件がいかに形成されたのか、ポストコロニアル家産制国家(PCPS)の解体とそれがいかに組み合わさり、究極の暴力に至ったのかが、そこで考察されることになる。
2つの方法を組み合わせた本書のアプローチには、筆者の内在的な問題意識が投影されている。筆者は、食糧に関する調査を実施するために滞在していたコンゴ共和国の首都ブラザヴィルで、図らずも紛争を目の当たりにすることになった。1993~94年のことである。この時の衝撃が、私の関心をアフリカの紛争へと導いた。町中を戦車が走る、機関銃が乱射される、若者が民兵になる、国軍が消滅する等々、様々な忘れがたい出来事が起こり、その度になぜこうしたことが起きるのかと考えざるを得なかった。その後、ルワンダの紛争とジェノサイドを研究しようと決め、資料を読み始めたとき、その歴史的背景の深さとともに、ブラザヴィルで経験したこととの共通性に驚いた。たとえ論文でルワンダを扱うとしても、コンゴ共和国をも射程に捉えるような枠組みにおいてその紛争を分析しなければならないと感じたのである。
この作業がジレンマを抱えていることは自覚している。今日の紛争を理解するためには長期的な視角での歴史分析が必要だが、一国の紛争史を丁寧に分析するだけでは、アフリカの紛争が共有する特徴を浮かび上がらせることは難しい。他方、今日のアフリカの紛争に見られる特質を指摘するだけでは、個々の紛争が持つ歴史的深度を読者に十分に提示できない。本書では、自分の問題意識になるべく正面から答えることを企図した。その方法がどの程度有効であったかは、読者の評価に委ねたい。
上記内容は本書刊行時のものです。