発行:明石書店
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A5判 452ページ 上製
定価:6,000円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2792-1 C0022
在庫あり
奥付の初版発行年月:2008年05月
書店発売日:2008年05月27日
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朝鮮において植民地化とはどのような経験だったのか。慶尚北道尚州をフィールドに、植民地権力の様相、日本人植民者、「青年」の形成と社会運動、就学と識字をめぐる知と支配の再編、日記に記された農村青年の日常と「憂鬱」等を重層的に描きだす画期的な社会史。
目次
図表目次
朝鮮半島地図
凡例
序論 近代朝鮮地域社会をみる視座
1 東アジアの近世と近代
2 植民地期の朝鮮社会をどうみるか
3 本書の試み
第1章 近世尚州の社会動態
はじめに
1 尚州の〈邑〉社会
(1)尚州の地理的条件
(2)〈邑〉社会の成り立ち
2 近世地域エリートの形成と展開
(1)士族ネットワークの形成
(2)吏族の存在様態
3 一九世紀尚州社会の変動
小 結
第2章 植民地化と尚州社会の近代
はじめに
1 尚州の植民地化
(1)地方支配体制の再編成
(2)尚州の日本人社会
2 邑内の「市街地」化
(1)邑治の換骨奪胎
(2)「市街地」としての邑内
3 地域産業の変容と持続
(1)商業的農業の再編:養蚕業を中心に
(2)地域工業の様態:酒造業を中心に
小 結
第3章 地域エリートと政治空間
はじめに
1 士族・吏族の動向
2 地域の社会運動の位相
(1)尚州の三・一運動とその主体
(2)一九二〇年代における政治空間の再編
(3)政治空間の危機と変容
3 地域エリートの様態
(1)地域社会における政治空間の構造
(2)地域エリートの意識——『新尚州』の分析から
小 結
第4章 地域社会のなかの新式学校
はじめに
1 漢文教育の位相変化
2 私立学校運動の盛衰
(1)韓末儒林の学校建設運動
(2)私設学術講習会の展開
3 公立普通学校の展開
(1)学校の設立と地域エリート
(2)学校と地域との関係——中牟公普を中心に
(3)学校に通う人々、離れていった人々
小 結
第5章 日記を通じてみた植民地経験
はじめに
1 S氏とその日記
(1)S氏の軌跡
(2)日記の特徴
(3)舞台設定と登場人物
2 S氏の消費行動
(1)メディア
(2)通信・交通
(3)時間
(4)医療・衛生
3 S氏の社会認識
(1)新/旧の間で
(2)民族と憂鬱
(3)「日本」はどこにあるのか
(4)「中堅人物」になるということ
小 結
結論
初出一覧
あとがき
参考文献/索引
前書きなど
序章:1 東アジアの近世と近代(前半部抜粋)
本書は、朝鮮の地域社会における植民地経験を、慶尚北道尚州地方の事例を中心として具体的に明らかにすることを目的としている。対象とする時代は一九二〇〜三〇年代を中心としているが、後述する理由から、一六〜二〇世紀初頭の社会的事象も射程に入れる。
本書の中心的な関心事は、朝鮮の地域社会において植民地化とはどのような経験だったのかという点にある。一九世紀後半から第一次世界大戦にいたる時代、しばしば「帝国の時代Age of Empire」とよばれるこの時代に、一握りの帝国主義列強が、地球上の広大な土地と膨大な人を支配していった。これらの諸帝国はいずれもその植民地に対して、強力な武器をしたがえた軍隊を派遣し、人や物資を輸送するための交通網を拡充し、幣制・金融・財政機構を整備し、領土を支配に都合のよいサイズの地域や集団に再編し、官僚制を配備し、植民地支配への協力者を調達・育成しながら統治した。この帝国の時代に、台湾領有(一八九五年)にひきつづき、朝鮮を保護国化(一九〇五年)し併合(一九一〇年)することにより、非欧米国としては唯一「帝国列強」として世界史に名を連ねることになった大日本帝国も、その点において例外ではない。
王朝国家としての長い歴史を有していた朝鮮は、帝国主義の圧力のなかで新たな国家体制へと転換しつつある途上で、大日本帝国によって国家の権能を奪われた。マックス・ヴェーバー[1980]のいうように、「正当な物理的暴力行使の独占を要求する」点に国家の本質があるとするならば[cf. 萱野2005]、植民地化とは何よりもまず物理的暴力をめぐる諸関係の再編過程である。それは、日本が交戦権を含む外交権を奪い、日本軍を駐留させる一方で韓国軍を解散させ、警察機構を掌握し、義兵闘争を武力で鎮圧するなど、一連の「上」からの暴力の再編過程に他ならない。
しかしながら、植民地化による国家権力の再編が、すぐに朝鮮の地域社会において支配的な階層、支配的な文化の転換をもたらしたわけではないし、当然のことながら、植民地化によってはじめて社会変化が引き起こされたわけでもない。また、資本主義が社会関係を再編していったとしても、それがとつぜん朝鮮社会の全域を貫徹したのではなく、むしろ大部分の住民は農村部に住み、生産手段から完全に自由でなく、また労働力販売においてもかならずしも自由でもない小農peasantとしての生活様式を持続していた。普通学校をはじめとした近代的な規律権力の作用するような場も、植民地社会で全面的に展開していたわけではなかった。マルクスのことばを借りれば、「すぐ目の前にある、与えられた、過去から受け渡された状況」を無視して、歴史が展開することはない。
そうした状況を総体としてとらえるためには、「朝鮮」を単位とした空間的スケールで、時間軸に沿って発展段階論的に分析していてはわからない。そうではなく、共時的に輪切りにしながら、「異質」な、ある視線からすれば「時代」を異にしているとみえるような要素が、同時代的に併存している状況を描き出す必要がある。もう少し具体的にいえば、「都市化」というときに、ソウルのような明白に都市化した空間のみに注目するのではなく、「都市」が同時に「市街地」とよばれるようなより半端な都市的集落や「農村」を伴っていること、また新しい地域エリートの出現というときに、従来の地域エリートと併存していること、新式の学校が登場したときに、その学校の外に展開していた漢文教育の場や、そもそも教育を受けていなかった者が同時に存在していること、「新しい」文物に魅力を感じる個人が同時に「旧い」ものをも深く内面化していること、「平和」的にみえる場が暴力と地続きになっていることなど、重層的に絡み合った構造を解明することにある。
(…後略…)
著者プロフィール
板垣 竜太(イタガキ リュウタ)
1972年生まれ、高校まで佐渡島で育つ。東京大学大学院総合文化研究科・文化人類学コースで博士学位を取得。東京大学大学院人文社会系研究科韓国朝鮮文化研究専攻・助手を経て、現在、同志社大学社会学部・准教授。専門は朝鮮近現代社会史。
共編著に『日韓 新たな始まりのための20章』(田中宏との共編、岩波書店)、『番組はなぜ改ざんされたか:「NHK・ETV事件」の深層』(メディアの危機を訴える市民ネットワーク編、一葉社)、『世界のプライバシー権運動と監視社会』(白石孝・小倉利丸との共編、明石書店)、訳書に文富軾『失われた記憶を求めて』(現代企画室)などがある。
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