発行:明石書店
この版元の本一覧
A5判 240ページ 並製
定価:2,400円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2771-6 C0037
在庫あり
奥付の初版発行年月:2008年03月
書店発売日:2008年04月03日
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紹介
海外勤務の長期化、国際結婚、二重国籍、新二世の増加など、アメリカに住む日本人が多様化している。二つの言語・文化の狭間で育つ子どもたちの実態を踏まえ、従来の「海外子女」言語学習や日米二元論のアイデンティティを超えた新しい教育の枠組みを考える。
目次
はじめに(佐藤郡衛)
第1部 文化間移動する子どもたちと教育環境
第1章 海外で育つ子どもの教育(佐藤郡衛)
1.海外に住む日本の子ども
2.海外での教育の枠組み
3.文化間移動をする子どもたち
4.アメリカに住む子どもの教育の変化
第2章 移民の子どもに対する教育政策(バトラー後藤裕子)
1.はじめに
2.家庭で英語以外の言語を話す子どもたち
3.移民の子どもに対する教育政策の変遷
4.現在、移民の子どもが直面している問題点
5.結び
第3章 アメリカにいる日本の子どもたち(片岡裕子)
1.アメリカにいる日本の子ども:「日本の子ども」ってだれのこと?
2.言葉:「アメリカに行けばバイリンガルになれる」はウソ? ホント?
3.学校と日本語:どうやって日本語力を伸ばすの?
4.期待できる日本語力と英語力
5.まとめ
第2部 英語と日本語—2つの言語の間で
第4章 2つの言葉で育つということは——話し言葉と書き言葉の獲得について———(ダグラス小川昌子)
1.はじめに
2.ある日突然言葉が使えなくなったら
3.子どもたちはどのように言葉を獲得していくのでしょうか
4.二言語獲得への支援にむけて何ができるのでしょうか
5.まとめ
第5章 子どもの目から見たアメリカでの言語、学校体験——アンケート調査を踏まえて——(越山泰子/柴田節枝/森美子)
1.はじめに
2.ロサンゼルス近辺とワシントンDC地域
3.調査からみた日本の子どもと親
4.調査からわかったこと
5.まとめと支援に向けて
第6章 アメリカの補習授業校で学ぶ子どもたちの英語と日本語の力(片岡裕子/越山泰子/柴田節枝)
1.今回の調査は?
2.どんな調査?
3.調査してみて、わかったことは?
4.今回の調査をまとめると、どうなりますか? 家庭や学校での学習にどう役立てますか?
第7章 二言語を学ぶ子どもの母親教育——会話力調査と読書力調査をとおして——(岸本俊子)
1.はじめに
2.アメリカ小都市で学ぶ日本の子どもと母親たちの通って来た道
3.はざまにある母親たちの叫び、子どもの気持ち
4.日本語の基礎は会話力から
5.つまずき:やめさせようか、やめさせまいか
6.おわりに
第3部 アイデンティティの揺らぎから新たなアイデンティティの模索へ
第8章 二言語で育つ子どものアイデンティティ(知念聖美)
1.言語学習におけるアイデンティティの重要性
2.「日本人である」ことの意味
3.「日本人」と「アメリカ人」のはざまで
4.「インパーフェクト(中途半端)」な日本人
5.「ホームレスネス」を感じている子どもたち
6.将来を考え始めたとき
7.エスニックアイデンティティ形成をとりまく要因
8.まとめ
第9章 高校生にとって「日本人」とは——アイデンティティの政治——(小林聡子)
1.はじめに
2.日本人生徒のグループ化とアイデンティティの取り方
3.日本人生徒のグループ間の関連
4.生徒の社交空間:学校・塾・インターネット
5.結び
第10章 「第三の文化」をもつ子どもの育成に向けて——子どもたちをいかに支えるか——(佐藤郡衛)
1.二言語を習得するには
2.どのような支援が必要か
3.これからの補習授業校の役割とは
4.「第三の文化」をもつ子どもの育成
おわりに(片岡裕子)
編著・執筆者紹介
索引
前書きなど
おわりに(片岡裕子)
こんな本を作りませんか、と佐藤さんが声をかけてくださった時、私は一も二もなく跳び付きました。「こんな本」の必要性を以前から感じていたからです。それは、研究者としての興味からではなく、またアメリカで日本語教育と日本語教師養成に長年携わり、日本人を含めた様々な学生をみてきたから、という理由からでもありませんでした。そういう要素が全くなかったとは言えないかもしれませんが、何よりも私が二人の「アメリカにいる日本の子ども」の母親であり、彼らの教育について試行錯誤してきたからでした。そして、調査や研究に基づいていてしっかりしているけれども学術的すぎず、分かりやすくまとめられている情報を、同じように悩んでいる仲間——子どものクラスメートのお母さんやお父さんたち——と分かち合うことができたらどんなにいいだろうと考えていたからです。
実はこの本の執筆者の半数は「アメリカにいる日本の子ども」のお母さんです。その中には、補習校の校長経験者や、在住地に子どもが日本語を(あるいは日本語で)学べる学校がなかったので、自分で補習校を作ってしまった強者もいます。また、この執筆者グループにはお母さん予備軍のメンバーもいますし、自らが「アメリカにいる日本の子ども」だった人もいます。大人になってからではありますが、まだ若い時にアメリカにきてアイデンティティの問題に悩んだ者もいます。同じような経験をしている、またこれからするかもしれない方々に、私達が調べたことを分かりやすい形で伝えたいという気持ちは全員同じでした。
こんななぞなぞがあります。「二つの言語が話せる人は『バイリンガル』、三つの言語が話せる人は『トライリンガル』、じゃあ、一つの言語しか話せない人はなあに?」
正解は「アメリカ人」です。確かにヨーロッパの人などと比べるとアメリカ人は英語しか出来ない人が多く、外国語がとても苦手だと言われています。
それでは、アメリカは、英語が世界の共通語のように見なされているという事実の上にあぐらをかいてふんぞり返っているのかというと、そうでもないのです。国際情勢が目まぐるしく変わる中、英語だけに頼っていたのではやっていけません。第一、世界各国との間に諸問題を抱えている大国としては、様々な外国語を駆使しなければ十分な情報が入ってきません。学校教育でも外国語に力を入れてきてはいるのですが、学校で勉強するだけでは高度な言語力はなかなか身に付きません。そこで最も速く実践力になるとして認識されたのが「継承語話者」です。
「継承語話者」の定義やタイプはいろいろあるのですが、簡単に言うと、その国の主要言語で教育を受けているけれども、別の言語を使用する家庭で生まれ育った人たちです。家庭で聞いて育った言葉を、親から受け継いだ言葉、すなわち「継承語」といっています。継承語話者は、発音や基本的文法はしっかり身についていますし、話す力、聞く力とも、日常会話は全く問題ありません。苦手なことは読み書きとフォーマルな会話、と、たいてい相場が決まっています。そして、言語に伴う文化もある程度経験しながら育っているので、一から勉強する必要がありません。
移民の国であるアメリカはこのような「継承語話者」の宝庫です。継承語話者は、語彙を増やし、読み書きの力や改まった場面での話し方を身に付ければ、2つの言語がほとんど同じレベルで使えるバイリンガルに短期間でなることができます。一般的に考えられている理想的なバイリンガルです。もっとも、「短期間」といっても、半年や1年では無理でしょう。でも、ゼロから始める場合と比べると何倍も早く、また最終的に達することができる言語レベルが高くて、専門分野で活躍できるチャンスが多いのです。政府はこのような継承語話者がアメリカにとって非常に大切な存在であることを今世紀になったころから認識し始め、継承語話者(今は特に、アラビア語や中国語などですが)を対象とした大学のプログラムに助成金を出したり、継承語話者の学生に奨学金を出したりしています。
なぜこのようなお話をここでしたかといいますと、私達がこの本でお話しした日本の子どもたちの過半数が「継承語話者」だからです。日本に帰る子どもたちが日本の将来にとって非常に大切な人材であると同様、こちらに残る日本の子どもたちもアメリカにとって大切な人材なのです。しかし、ここでは日本に帰る子どもは日本の宝であり、アメリカに残る子どもはアメリカの宝だ、とは言わないでおきましょう。二つの国で二つの言語と「第三の文化」を身につけたこの子どもたちは皆、将来、日本とアメリカだけではなく、世界中で活躍する可能性を持っています。その子どもたちの大切さに気付いて、可能性を最大限に引き出してあげる体制を整えることが、私達親や教師がしなければならないことだと思います。
(…後略…)
著者プロフィール
佐藤 郡衛(サトウ グンエイ)
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了、博士(教育学)
東京学芸大学海外子女教育センター教授などを経て現在東京学芸大学国際教育センター教授
〈主な著書・論文〉
『海外帰国子女教育の再構築』玉川大学出版部,1996年
『国際理解教育—多文化共生社会の学校づくり』明石書店,2003年
『ひとを分けるもの つなぐもの』ナカニシヤ出版,2005年(共著)
片岡 裕子(カタオカ ユウコ)
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校教育学部博士課程修了、Ph.D.(教育学博士)
ノースカロライナ州立大学、オレゴン大学などを経て現在カリフォルニア州立大学ロングビーチ校アジア・アジアアメリカ研究学部日本語科教授
〈主な著書・論文〉
“Japanese-English language ability of students at supplementary Japanese schools in U.S.”In K. Kondo-Brown and J.D. Brown (Eds.), Teaching Chinese, Japanese and Korean Heritage Language Students: Curriculum Needs, Materials and Assessment. New York: Lawrence Erlbaum Associates, 2007.(共著)
Workbook/Laboratory Manual for Yookoso: An Introduction to Contemporary Japanese and Continuing with Contemporary Japanese, 3rd Ed., McGraw-Hill, 2006.(共著)
「アメリカにおける補習校の児童・生徒の日本語力及び英語力の習得状況」『国際教育評論』2号(東京学芸大学),2005年(共著)
「継承語校と日本語補習校における学習者の言語背景調査」『国際教育評論』1号(東京学芸大学),2003年(共著)
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