相互補完の可能性グローバリゼーションに対抗するローカル
中村 則弘:編著, 高橋 基泰:編著
発行:明石書店
この版元の本一覧
A5判 272ページ 上製
定価:4,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2761-7 C0336
在庫あり
奥付の初版発行年月:2008年03月
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紹介

国際比較の視点から現代社会の諸問題を取り上げ、様々な分野から学際的なアプローチを試みる共同論文集。歴史的な文脈を踏まえながら、ローカルとグローバルを一対のものとして、相互に補完するものとして捉えることの重要性を提起する。

目次

 序章 相互補完としてみるローカルとグローバル(中村則弘)
  ローカルとグローバルへの問い
  相互補完性への着目
  本書のねらいと構成
  若干のまとめ

第1部 グローバリズムのもとでの欧米とアジア
 第1章 日本人の欧米崇拝とアジア志向——ナショナリズム意識との関連(石井健一)
  はじめに
  欧米崇拝とアジア志向
  欧米崇拝・アジア志向の変化
  アジア志向と欧米志向の心理——社会調査の分析結果から
  結論
 第2章 環境政策を欧州に学ぶ——環境問題をめぐる我が国の対応とその軌跡(松井隆幸)
  問題の視角
  『成長の限界』から「京都議定書」へ
  経済成長と環境——「トレード・オフ論」からの脱却
  環境コストの内部化——森林破壊と木材貿易のケース
  地球温暖化対策——我が国と欧州の比較ポスト「京都議定書」に向けて
 第3章 空港発着枠配分の日米比較制度分析——共有的資源の配分に関する一考察(福井秀樹)
  はじめに
  制度比較の基準
  日本の評価方式
  米国の市場方式おわりに——政策的含意

第2部 ローカルからみた動き
 第4章 請負・派遣労働者の状態と政策課題(長井偉訓)
  はじめに——問題の所在と課題
  非正規雇用における請負・派遣労働者の特質
  「偽装請負」問題の歴史と今日的意味
  我が国の量産型組立職場における「偽装請負」の実態
  若干の政策課題——「人間らしい働き方」の実現に向けて
 第5章 大正期におけるナショナリズムの萌芽——大阪府茨木市車作の権内水路(森本一彦)
  はじめに
  調査地の概要
  権内水路の伝承
  権内伝承の差異権内水路の水利圏
  権内伝承の誇大化
  権内伝承と民力涵養運動戦後の畑中権内伝承
  まとめ
 第6章 マイクロファイナンスの商業化——壊される多様性と普遍化との緊張(栗田英幸)
  はじめにマイクロファイナンス理論の変遷
  グラミン銀行における信頼構築の工夫と貧困問題への処方箋
  フィリピンにおけるMFI「商業化」
  結語

第3部 西洋の歴史をふまえてみる日本
 第7章 日英家族継承考——旧上田藩上塩尻村およびケンブリッジ州ウィリンガム教区(高橋基泰)
  はじめに
  ケンブリッジ州ウィリンガム教区における家系と姓の転換
  長野県旧上田藩上塩尻村における「世帯」の構造、および人口転換
  結論
第8章 日英近世村落「対比」研究への導入——一西欧人史家の覚え書き(マーガレット・スパフォド/訳:高橋基泰)

 あとがき(中村則弘)
 索引
 編者・執筆者紹介

前書きなど

あとがき(中村則弘)

 序章では、欧米からのグローバルな動きに対応するものとして、「相互補完」の必要性について論じておいた。本書を閉じるにあたって、中心的な扱いとしたローカルからの動きについて重要な提起がなされていたことを、ここで確認しておきたい。それは、(一)人間らしい生き方の回復、(二)社会的強制と結びついた商業化への対抗、(三)権力に対する地域居住者のしたたかさである。これらは、日本人の立ち位置に示される非物質主義、リベラルな態度に基づく志向と結びついている。また、「ローカルに考え、グローバルに行動する」ことを求める課題ともつながっている。こうした考え方と行動のあり方は、文明や人間居住への問いかけに立ち戻ることにもなり、また、「自己満足」や「問いの矮小化」に陥る道筋を断つことにもつながるだろう。改めてB・ウォード、さらにはI・イリイチの問いかけと、日本人の立ち位置を照合させて考えてみよう。上述した各提起は、断片的ではあるがB・ウォードの人間居住への問いときわめて親和的である。また、日本においてアジア志向の背景をなす内容も同様である。とすれば、こうした問いかけを実現に導く意味でも、日本やアジアから「ローカルに考え、グローバルに行動する」ことを補完的に実践していく必要性は、十分に認められると思う。しかし、残念なことに、それを為し得ていないのである。相互補完性を活かすべきバランスを失っている。日本人はアジアと欧米の間の「断裂」に向き合っているのである。
 英国との対比で示された歴史的状況からみても、そこに日本とは大きな相違がみられた。たとえば、民間信仰の存続である。日本でも宗教改革に通じる宗教面での歴史的変化はあったのだが、その動きは民間信仰とも共存している。これは別のレベルで、相互補完性がしっかりと根付いていることを示している。また、日本における分家のあり方もおもしろい。飢饉や災害などの問題が生じたときに、分家を増やすことで対応するというしたたかさ、ローカルな対応力が生きているのである。これらは、ローカルからグローバルへと向かう動きの基盤が、けっして解体してはいないことを示している。とすれば、この断裂こそが、これからの日本の可能性を暗示しているのかもしれない。基盤を失わず、この苦痛をまさにいま味わっている人々こそ、グローバリズムのもたらす構造的暴力への抵抗、アジア的な発想による人間的な生き方の回復などの諸課題に対し、「ローカルに考え、グローバルに行動する」ことが求められているのだろう。また、自己満足や問いかけの矮小化に陥ってはならないのだと思う。
 次に課題として残されたことについて、ふれておきたい。ここで立ち位置として日本・日本人を意識せざるを得なかったことには、不本意な面も残っている。ローカルからグローバルへという課題は、世界中の人々にすべからく、多種、多様な形で求められているはずだからである。さらに、移動やエスニシティなどの問題が重要な意味をもつこと、日本や日本人というつくられた枠の危うさが痛切に感じられるからである。苛酷なほどの断裂に直面したり、国民という枠に苦しめられたりしている人々は、生きる意味への問いかけを意識せねばならないだろう。いささか我田引水ではあるが、こうした存在は「渾沌」とつながっているように思えてならない。渾沌は万物生成の根源という。とすれば、こうした人々こそ人類の希望を担うのではないかとも思う。

(…後略…)

著者プロフィール

中村 則弘(ナカムラ ノリヒロ)

愛媛大学法文学部・教授
主要業績
『台頭する私営企業主と変動する中国社会』ミネルヴァ書房、2005年。
『脱オリエンタリズムと日本における内発的発展——東アジアの視点から』東京経済情報出版、2005年。

高橋 基泰(タカハシ モトヤス)

愛媛大学法文学部・教授 
主要業績
“Family Continuity in England and Japan,”Continuity and Change, 22/2 (2007).
English Wills in their Historical Context 1383-1800(Matsuyama, 2007).

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