開発・内戦・津波と人々の生活スリランカ海村の民族誌
高桑 史子
発行:明石書店
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A5判 512ページ 上製
定価:9,000円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2731-0 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2008年02月
書店発売日:2008年03月05日
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紹介

漁村ではなく「海村」という用語を使い、スリランカの人々の営みを多角的に捉える。漁業だけでなくヤシ殻ロープ製作などにも従事する女性たちを中心に、開発の波が押し寄せる中、内戦に巻き込まれ、インド洋大津波の被害にあいながらも、飄飄と生きる人々を描く。

目次

序論
 1 スリランカ海村研究の目的
 2 人類学における海村研究
 3 スリランカの海村調査
 4 スリランカ社会の概要——自然・歴史・宗教・民族
 5 本書の構成

第1篇 社会人類学と海村研究
 はじめに
第1章 人類学における海村研究
 第1節 海村と漁業——海村・漁村・漁民の定義をめぐって
 第2節 日本における海村研究の動向
 第3節 海村の女性をめぐる議論
第2章 スリランカの漁民研究
 第1節 漁民カースト(カラーワ)の両義性
 第2節 スリランカの海村・漁村研究
第3章 スリランカ海村における女性の労働
 第1節 スリランカにおける女性をめぐる問題と女性観
 第2節 海村女性の労働と役割

第2篇 スリランカにおける漁業振興と海村の人々
 はじめに
第4章 スリランカ漁業の特徴
 第1節 漁業の概況
 第2節 地曳網漁の盛衰と沖合・沿岸漁業
 第3節 魚の流通と魚商の役割
第5章 漁業振興策の目的と現状
 第1節 漁業発展と漁業協同組合
 第2節 漁業振興策と漁船の動力化
 第3節 多目的漁港の建設
 第4節 漁業協同組合の現状
 第5節 漁民銀行の設立
 第6節 「民族」紛争と越境する漁民たち
 第7節 海域居住者の多様性
第6章 南岸漁民の移動と新村の誕生
 第1節 伝統的移動パターン
 第2節 季節移動から周年移動へ
 第3節 移動から定住へ——新しい海村の出現

第3篇 ある仏教徒海村における漁業とヤシ殻繊維業——ダクヌガマ村タルナウェラにおける男性の労働と女性の労働
 はじめに
第7章 調査地の概況
 第1節 ダクヌガマ村
 第2節 新ダクヌガマ村の建設
 第3節 タルナウェラ漁協設立とタルナウェラコミュニティの成立
第8章 タルナウェラの漁業と漁民
 第1節 タルナウェラの歴史
 第2節 タルナウェラの漁業の概況とその変化
 第3節 漁民の1年
 第4節 移動するタルナウェラ漁民と移動先
 第5節 魚商と動力船所有者
第9章 タルナウェラにおける開発政策と漁業協同組合
 第1節 村落開発と漁業協同組合
 第2節 近代船の増加と漁業
 第3節 漁協組合長と漁業
 第4節 開発援助と住民の組織化
 第5節 サムルディ計画
第10章 1990年代末のタルナウェラ漁民の現状——漁業振興策とタルナウェラ
 第1節 漁業と漁協
 第2節 集魚人(マールムダラーリ)の成功と没落
 第3節 新ムダラーリの登場
 第4節 ロクウェラとコロンボの魚商
 第5節 タルナウェラの漁業をめぐる問題
第11章 タルナウェラの家族と親族
 第1節 スリランカの家族・親族研究
 第2節 家族と婚姻
 第3節 配偶者選択と通婚圏
 第4節 女性の持参財・ダウリー(ダーワッダ)
第12章 女性の労働とヤシ殻繊維業
 第1節 ハスクピットと女性の財
 第2節 ヤシ殻繊維商人(コフムダラーリ)
 第3節 女性たちのグループと現金の動き
第13章 ヤシ殻繊維業の衰退と化繊ロープの台頭
 第1節 ヤシ殻繊維業の衰退
 第2節 化繊ロープ商人(カンバヤムダラーリ)
 第3節 輸出用衣類の縫製工場(ガーメント)への雇用
おわりに 漁業と海村の女性の生き方——第3篇のまとめにかえて

第4篇 タルナウェラの人々と「我々の」寺
 はじめに
第14章 地域社会と「我々の」寺
 第1節 仏教とカミ信仰
 第2節 タルナウェラと寺
 第3節 寺の祭礼とダンサラ
 第4節 「我々の」寺のこれから
第15章 タルナウェラの人々と仏教
 第1節 ニックネーム命名と漁業との関係
 第2節 漁業と仏教
 第3節 漁業とガラートヴィル
 第4節 災害と仏陀・カミ
 第5節 タルナウェラコミュニティの生成に向けて
結語

補稿 スリランカ海村における災害からの復興に関する課題
 はじめに
 1 スリランカにおける津波災害の特質
 2 津波の発生から復興に向けて
 3 南岸域における住宅支援の状況
 4 漁業補償に関する諸問題
 5 地域社会の復興と今後の課題
 まとめ

あとがき
参考・引用文献
用語解説
索引

前書きなど

序論:5 本書の構成

 本書の中心となる論点を整理すれば、第一に国家の政策で「海村」が「漁村」へ変わる中で、男性の従事する漁業と移動性がどのような変貌を遂げたかということであり、第二に男性成員が漁業という不確実な経済活動に従事している漁家において、家計の責任者としての女性の役割を考察し、また女性を基点として拡大する姻戚関係や親族関係の重要性を検討することである。また社会の変化に伴う海村の「女性観」のあり方も検討する。第三に国民の仏教化が海村に住む人々の意識に与える影響を検討する。第四として、津波災害からの復興において「漁村」や「漁民」という定義が曖昧なまま復興計画が実施されたことが復興を遅らせる要因になっていることを明らかにし、緊急支援以降の復興支援のありかたを考察する。
 本書は大きく4篇と補稿で構成される。
 〈第1篇(第1〜第3章)〉では、海事人類学(海洋人類学)という名称を与えられた人類学の一分野における研究を概観し、そこで提起されている課題について検討し、本論文の問題意識を明らかにする。主に海村社会を対象とした先行研究の把握と問題点や課題の指摘をし、続いてスリランカにおける漁民研究と女性の労働に関する研究についての研究史の整理を行う。また、「漁民カースト」と称されるカラーワカーストについても論じられることになる。
 〈第2篇(第4〜第6章)〉はスリランカの漁業とりわけ海域で行われる漁業(海面漁業)と海村の特徴を指摘し、実際の水産業振興政策の内容と〈第3篇〉以降で論ずるダクヌガマ村タルナウェラが位置する南岸の概況を、とくに政府が積極的に水産業発展に力を入れ始めた1960年代以降の変化に着目しながら概観する。本篇ではとりわけ漁民の移動性と水産業振興政策との関連性を論じることになる。
 〈第3篇(第7〜第13章)〉と〈第4篇(第14〜第15章)〉ではダクヌガマ村タルナウェラという小さな海村の実態調査に基づく民族誌的記述を行うことで、〈第1篇〉と〈第2篇〉の問題提起に関連させながら、海村の社会組織とそれが国家の開発政策でどのように変化を遂げたのかという動態的把握を行う。
 〈第3篇〉は主にタルナウェラの男性が従事する漁業と女性が従事するココヤシ繊維業という分業が社会変化によって変貌していく様子を論じ、また男性の経済活動に有効な姻戚関係、女性の財であるダウリーがタルナウェラではどのように認識されているかを明らかにしていく。
 〈第4篇〉では漁業と仏教との係わり、つまりタルナウェラの人々にとっての仏教がどのようなものであるかを見ることで、村落社会における民俗仏教について論じる。漁協がつくられて以降、タルナウェラが自律的な地域集団としてまとまるのに影響を与えた寺の存在を指摘する。〈第4篇〉までは、スリランカの海村社会の変化を漁業、女性、仏教という三つのキーワードに着目しながら論じることが目的である。
 〈補稿〉では、国家が海村を漁村としたうえで実施した開発政策が、津波からの復興においていくつかの問題を投げかけていることを指摘する。つまり海村における内戦からの復興と津波被害からの復興という、人災と天災のふたつの災害に直面している海村の今後の方向性を考察する。津波からの復興は、生活の再建と漁業の再建であるが、これは南岸の多くの村では、住宅の供給と漁船の供給という方法で行われている。しかし、あまりにも広域にわたる被害により、その実態を把握するのは容易ではなく、また指針も頻繁に変わり、復興の過程においてさまざまな不平等が生じている。津波災害から3年程しかたっておらず、海村社会はきわめて流動的な状態にあるといえよう。本篇はその意味で途中経過にすぎないが、復興計画に海村の家族がどのように対応しているかをみることでスリランカ海村の特徴を指摘することができよう。

著者プロフィール

高桑 史子(タカクワ フミコ)

早稲田大学第一文学部東洋史学科卒業。明治大学大学院政治経済研究科修士課程、博士課程修了。現在首都大学東京大学院人文科学研究科教授。博士(社会人類学)。
専門は社会人類学。スリランカ、日本の南西諸島などでフィールドワークを行なっている。
主な著書、『スリランカ海村社会の女性たち—文化人類学的研究—』(八千代出版、2004年)、『スリランカ—人々の暮らしを訪ねて—』(共編著、段々社、2003年)、『スリランカの女性・開発・民族意識』(共著、明石書店、1999年)、『東アジアの文化人類学』(共編著、八千代出版、1991年)など。

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