1990年代の民主化と政治的メカニズムタイの森林消失
倉島 孝行
発行:明石書店
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A5判 300ページ 上製
定価:5,500円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2705-1 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年12月
書店発売日:2008年01月10日
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紹介

タイは、現在、東南アジア諸国の中で最低の森林率、逆に最高の農地化率を持つ。森林消失の動態を左右した1990年代タイ民主化期の「森林地」内に実在した農地をめぐる競合展開と、それが森林の新たな耕地化につながった政治的メカニズムを解明する。

目次

目次

序章 研究のねらいと問題の所在
 第1節 研究の前提、問い、仮説、課題
 第2節 課題・仮説の時代的背景と既存研究の評価・批判
 第3節 本研究のアプローチ上の三つの柱と各概要
 第4節 本論文の構成

第1章 1990年代における東北タイの土地利用と「森林地」内農地の態様
 第1節 タイ、特に東北部の自然的条件と土地利用
 第2節 東北タイにおける「森林地」内農地の態様

第2章 東北農民の土地利用動態とタイ国家による「森林地」の形成
 第1節 東北部の人口と土地利用の動態
 第2節 タイ国家による「森林地」の形成と東北部におけるその展開

第3章 「森林地」内農地問題の発生・泥沼化
 第1節「森林地」内農地の生成と森林局側の制度設計・適用上の問題
 第2節 一時的民主政下での政策的迷走と不法侵入の加速
 第3節 内戦下における不法侵入・違法開墾の黙認と推進

第4章 「森林」対「農地」に関わる軍・森林局の優勢と半分の民主主義体制
 第1節 1970年代に準備されていた「森林地」内農地政策とその不執行
 第2節 内戦終結、軍事政権の勝利と軍・森林局による政策支配
 第3節 政党および占有農民による対抗的な動き

第5章「森林地」内農地を巡る持続・多極化する攻防と民主主義体制
 第1節 1990年代民主化期における「森林地」内農地を巡る政策展開
 第2節 「農地」化政策の進行と占有農民運動の攻勢、政党政治の進展
 第3節 農地改革を巡る政党の動向と民主政下の政策推進・逆行メカニズム
 第4節 保護林再防衛策と「保護派」の登場および政権政党の変身

第6章 内戦の最激戦地から「森林」対「農地」攻防の最前線地へ
 第1節 1990年代のある最前線地の概要と時代区分
 第2節 森林の残存と内戦の影響
 第3節 内戦の終焉と資源を巡る紛争の発生
 第4節 保護林化、農民組織の介入と競合の大々化・熾烈化

第7章 1990年代民主化期タイにおける森林消失の政治的メカニズム
 第1節 「森林地」内農地の形成・維持史と1990年代における森林耕地化の新要因
 第2節 森林耕地化の新要因と民主化期における森林消失の政治的メカニズム
 第3節 今後の課題

 [図表一覧]
 [引用、参考文献]タイ語 日本語 英語

 あとがき

前書きなど

序章(一部抜粋)

研究のねらいと問題の所在

第1節 研究の前提、問い、仮説、課題──1990年代タイにおける国有林地内農地を巡る競合と民主化──

1.研究の前提と問い
 タイは、東南アジア諸国の中でも最も激しい森林の消失、耕地化を経験してきた国である(表0−1、表0−2)。1961年から2000年までの40年間を例にとれば、その森林消失面積は全国土の28%に及び、逆に耕地の拡大面積は14.6%に達していた。こうした値は、森林の消失・耕地の拡大ともに、現アセアン加盟国の中でも最高を記録していたことを意味する。
 だが同時に、より細かな点を記せば、タイで森林の消失が最も進んだのは、時期的には1960年代から1970年代にかけてである。表0−2からもわかるように、森林の消失ペースは1980年代以降、明らかに減速し始め、1990年代にはほぼ横ばいに近い状態にまでなった。また、農地の方も大枠では森林に対応する動きを見せていた。仮にこのような側面を重視するなら、タイが際立って深刻な森林の消失、耕地化問題を抱えていたのは、既に過去のことになりつつあると見ることも可能だ。
 ただし、こうした国全体を単位とする統計値を以って、タイの森林問題の持つ重要性が低下していると、ここで主張したいのかと言えば、そうではない。ここで述べたいのは、むしろ逆のことである。
 確かに1990年代以降のタイは、国全体としてみれば、森林の消失にせよ、耕地化にせよ、ほぼ定常状態に入ったと言える。しかし、もう少し細かなレベルで統計を見ていくと、いまだに森林が減少していたところも、逆に農地が増えていたところもあった。また、このような土地利用の動態は、興味深いことに、既存研究が指摘していたタイの国有林管理に関わる諸事実と明らかに矛盾する面があった。以下では、1990年代のタイの一部で見られた土地利用動態とそれに矛盾する国有林管理の事実に関して触れ、そこから引き出せる本研究の問いについて記したい。
(…中略…)

2.研究上の仮説
(…中略…)
 ここで結論を言うと、上記のような疑問に対して、本論が答えとして想定しているのは、次のようなものだ。つまり、森林局としては、先に掲げたような積極的な意図で伐採や開墾を封じ込まなかったのではなく、むしろ封じ込めようにも封じ込められなかったのではないか。そして、本論がその最も重要な根拠として考えているのは、1990年代という時代のキーワード、民主化あるいは民主政と結びついてくるものである。すなわち、土地の管轄権やその様態に関わることで言うと、森林局が1990年代にも依拠しようとしていた制度や体制は、1990年代民主化以前の政治構造の上に乗っかってできていたもので、それが民主化に伴う構造転換の中で抵抗を受けるとともに、攻撃に晒され、一部で覆され始めた。そうした新たな動きと対峙していく中で、森林局は直接的、間接的に(違法)伐採や(不法)開墾を取り締まらない、もしくは取り締まれないような状況へと追い込まれていたのではないか。
 もっと具体的に言うと、伐採や開墾を「取り締まれない」状況とは、実際の森林も含む「森林地」を私有地や「農地」に変更するといった方針が政府によって次々と下され、森林局の持つ厳格な法制度や強固な取り締まり体制の適用外とされてしまうようなケースである。一方、森林局が違法伐採や不法開墾を「取り締まらない」状況とは、次のようなものだ。つまり、民主化によってより力を得た側、政権政党や農民・民衆組織に森林局が命令されたり、挑戦されたりする中で、彼らが依拠していた従来の「森林地」制度・体制の磐石性がかなり切り崩されていた。そして、それらを厳格に適用、執行するなら、逆に自らの側も相当の痛手(たとえば、制度自体の変更・廃止や管轄地の大喪失等)を負いかねないことも予想された。そこで、絶対的な正当性や世論等の十二分な支持を得られる場合を除き、森林局としてはある程度取り締まりを自重せざる得なかったというケースである。
(…中略…)
 本研究は、フィリピンと並び、現在、東南アジア諸国の中でも最低の森林率、逆に最高の農地化率を持つタイを例に、森林地の動態を左右してきた政治的なメカニズムについて明らかにしようというものだ。より具体的には、特に「森林地」内に実在した農地を巡る競合展開に着目し、それが森林の新たな耕地化に繋がったメカニズムについて解明する。
 そもそも「森林地」内の農地を巡る競合に着目すると言っても、さまざまな時代や問題領域の設定が考えられる。このうち、本論で論証の中心とするのは、1990年代の展開である。1990年代とは、タイで民主化、民主政が定着したとされる時期である。また、ここで問題にするのは、農村と都市、双方で繰り広げられた攻防だ。以下で見る農村と都市での攻防とは、農村では実際の土地利用を巡る攻防もしくはそれを決する法や政策の執行・実施局面において現れた攻防を指し、逆に都市では法や政策の決定局面において現れた攻防を指す。
 このような時代や問題領域の設定を通じ、本論で具体的に明らかするのは、とりわけ以下の点である。まず1990年代の民主化が、「森林地」内農地を巡る「森林」対「農地」といった従来からの競合に大きな構造転換をもたらしたとしても、その転換は実際にはどのような特徴となって現れたのか。次にそうした特徴は、その後も一定期間にわたり、民主政が続いた中で、どう展開していったのか。本論は、このような点を明らかにしつつ、同時に民主政下の「森林地」内農地を巡る競合がタイで森林を減少させ、逆に農地を拡大させた構図について提示する。
(…後略…)

(脚注・表などは割愛)

著者プロフィール

倉島 孝行(クラシマ タカユキ)

1967年埼玉県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。
現在、タイ国カセサート大学農学部アグリビジネスセンター客員研究員(非常勤)、特定非営利活動法人環境修復保全機構専門家。
専門はタイ地域研究、東南アジア森林・土地政策、同農業政策。
主な論文に、Policy and Politics Related to Thai Occupied Forest Areas in the 1990s: Democratization and Persistent Confrontation. Tonan Ajia Kenkyu 43(1),2005.(共著)、「タイにおける『森林地』内農地形成・維持の初期的メカニズム」『タイ研究』 7.2007年。

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