戦後教育を読み解く視座現代生涯学習と社会教育史
相庭 和彦
発行:明石書店
この版元の本一覧
四六判 304ページ 上製
定価:2,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2644-3 C0337
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年10月
書店発売日:2007年10月17日
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紹介

本書は現代生涯学習社会が抱える教育問題を社会教育の歴史をふまえ、構造的に考えていこうというものである。国家・地域そして家族が抱えてきた問題に対して社会教育という政策領域がいかに挑んできたのか。現代社会の教育問題を社会教育の論理で読み解いていく。

目次

  まえがき
 序 章 現代日本の教育をいかに捉えるか
  はじめに
  一 日本資本主義と教育
  二 戦前教育と社会問題
  三 戦後教育と理念
  四 我が国の「教育思想」を支えてきたもの
  五 現代教育の病巣

第一部 近代日本社会教育の歴史
 第一章 近代日本社会教育の特色——第一部のはじめにとして
 第二章 明治後期の社会教育——産業資本の成立と社会教育の生誕
 第三章 大正デモクラシーと社会教育——社会教育政策の確立と自己教育運動
  一 地域社会の変化とその変革思想
  二 大正期における社会教育行政の成立と自己教育運動
 第四章 日本ファシズムと社会教育
 補 章 「満州国」における社会教育政策の展開——社会教育施設を中心として
  はじめに
  一 満州国社会教育政策の論理と特質
  二 教育館および民衆講習所について——満州国の中心的社会教育施設の考察

第二部 戦後社会と社会教育
 第五章 敗戦と社会教育——その思想的混迷と民主主義
  一 敗戦と民主主義
  二 第一次米国教育使節団と民主主義教育
  三 日本国憲法=教育基本法体制と社会教育法
 第六章 一九五〇年代の社会教育政策の特色について——戦後「教育の自由」の「論理」構造
  はじめに
  一 戦後社会教育主事制度の整備
  二 一九五三年青年学級振興法の成立と青年教育
  三 一九五九年社会教育法改正とその特色
 第七章 戦後日本社会の「高度ジェンダー化」と社会教育政策——一九六〇年代における家庭教育学級を中心として
  はじめに
  一 戦後日本社会の高度成長と「家庭」
  二 家庭教育学級の政策的意図——家庭教育振興政策について
  三 家庭教育学級の基本方針
  おわりに
 第八章 生涯学習政策と地域社会
  はじめに
  一 新しい教育の波か再生産か
  二 生涯教育政策の展開
  三 生涯学習と地域社会
  四 生涯学習の可能性——住民参加と教育計画
  おわりに
 第九章 現代地域社会と教育の関係性
  一 何が問われているのか
  二 地域社会と「教育」の枠組み
  三 地域の教育力と子ども社会
  四 地域教育力の形成と学校の可能性
  五 子ども参加について
 第一〇章 グローバル化社会における生涯学習——グローバリゼイション下における生涯学習の可能性
  一 我が国における「グローバル化」の歴史的認識
  二 グローバル化社会における生涯学習の位相
  三 グローバリゼイションがどのような学習主体をつくるのか

日本近・現代教育関係小年表

あとがき
索引

前書きなど

まえがき
 二〇〇六年一一月教育基本法が「改正」され、「新しい」教育基本法が制定された。「教育の自由」とか「基本的人権として教育」など近代的教育権をより推し進めて平和的文化的国家を形成するという発想より、教育関係職員や家族、地域社会の住民に対して「法律に基づいて」教育に対する「責任」を求めるという発想が強く打ち出されたのが、「新しい」教育基本法の特色である。教育を基本的人権を行使する主体の形成という基本権としてみなさずに、国家統治の政策手段として位置づけていくと未来社会に暗い影を落とすのではないか。本書はこの点をきわめて強く意識して書かれたものである。
 本書は『生涯学習から地域教育改革へ』(明石書店、一九九九年)の増補改訂版として書かれようとしたものであった。内容的には、生涯学習政策の前史として社会教育と地域との関係史をまとめようと考えていた。この作業をしている最中、ぼくはあまりにも急激に変化していく現代教育改革論の現状に深い違和感を感じていた。それは、現代の教育を考えていくときになぜ今の法制度なり、教育制度がこのような形式をとっているのかという歴史的見方が欠如している議論の多さである。たとえば、現政権が主張する「戦後レジームからの脱却」あるいは「押しつけ憲法から自主憲法制定へ」などの議論などでは、「戦後レジームとは何なのか」あるいは「何を押しつけられたのか」ということが全くといっていいほど明らかにされず、「変える」ことだけが叫ばれているようにみえる。たとえば、「改憲」論議にしても連合軍から押しつけられた内容をみれば、それは「基本的人権」とそれを基礎とした社会制度であるが、それをどう変えるというのだろうか。また変えられると思っているのだろうか。教育基本法「改正」もそうで、基本法そのものを変えても、教育問題は解決しない。また解決の方向性すらそのときの議論では出ていなかったようにみえる。ただ「改革、改革」とだけ叫び、それがどのような結果を生むのかを予測することなしに、十分な議論のない政策だけが実施されていっている。ぼくは、これが現在日本の教育改革の実相のようにみえて仕方がなかった。
 この本の内容は全体として社会教育の通史になっており、まず最初に現代の教育(問題)をどうみるのかが序章として置かれている。日本社会が教育問題をとらえるときの特色をぼくの視点で概論的に論じたものである。社会教育史の視点から現代日本の教育問題をみていくとそれがどのようにみえるのかを理解してもらった上で、そのような問題把握がどうして生まれるのかを歴史論から読み取ってもらえるように本書は構成されている。
 現代、我が国の教育は実際に多くの問題を抱えている。この点は教育関係者の共通理解であろう。問題の解決を探るには、まずこの状況をどのように理解するかである。教育改革論に歴史的視点を含み込みその上で現状の問題解決を図る。社会問題解決のイロハとも思えるこの方法を現在の教育改革論は置き忘れているように思えてならない。このことに対する未熟な問題提起との覚悟の上でまとめることとしたのが、本書の刊行意図である。その意味で本書は『生涯学習から地域教育改革へ』の姉妹作品になると考えている。
 本書は、以下のように書き下ろし論文と既発表論文およびその改訂からなっている。

序章 書き下ろし。
第一部
第一章から第四章までは「近代日本社会教育の歴史」(黒沢惟昭編『生涯学習時代の社会教育』明石書店、一九九二年)および「近代日本社会教育政策成立過程に関する研究—理論的リーダーの地域に対する言説を手がかりに—」(『新潟大学教育人間科学部紀要』第三巻一号、二〇〇〇年)をもとに加筆・修正。
補章 「日中戦争期の植民地における社会教育に関する一考察—「満州国」の社会教育施設を中心として—」(『新潟大学教育人間科学部紀要』第一巻二号、一九九九年)をもとに修正。
第二部
第五章、第六章 書き下ろし。
第七章 日本社会教育学会編『日本の社会教育第45集 ジェンダーと社会教育』(東洋館出版社、二〇〇一年)掲載論文。
第八章 黒沢惟昭・鎌倉孝夫編『教育の未来をつくる』(明石書店、一九九六年)収録。『生涯学習から地域教育改革へ』(明石書店、一九九九年)から加筆再収録。
第九章 国民教育文化総合研究所編『教育と文化』19号、「二〇〇〇年春号」収録。
第一〇章 『新潟大学教育人間科学部紀要』第八巻一号(二〇〇六年)収録。

 筆者の意図がどのくらい読者に伝わるかはあまり自信がない。しかも、社会教育の通史としては内容的に貧しいものである。だがそれにもかかわらずあえて出版に踏み切った理由は、現代の教育改革に一つの分析視角を提起することで社会教育・生涯学習研究者として少しでも責任を果たしたかったからである。地域社会で教育改革運動を進めるために努力している人たちに、社会教育史の視点から現代の教育改革を考える手がかりの一つとして読んでもらえると筆者としてはうれしい。この企画が上手くいっているかどうかは読者の判断にゆだねたいと思う。

著者プロフィール

相庭 和彦(アイバ カズヒコ)

1960年4月、埼玉県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学
現在、新潟大学教育人間科学部准教授、北京師範大学教育学院客座教授、北京師範大学珠海校教育学院客座教授

【著書】
『天皇制と教育』(共著)三一書房、1991年
『生涯学習時代の社会教育』(共著)明石書店、1992年
『満洲「大陸の花嫁」はどうつくられたか』(共著)明石書店、1996年
『生涯学習と人権』(共著)明石書店、1999年
『生涯学習から地域教育改革へ』明石書店、1999年
『教育理論の継承と発展』(共著)アドバンテージサーバー、2001年
『生涯学習の原理的諸問題』(共著)学文社、2003年

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