発行:明石書店
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四六判 560ページ 上製
定価:6,500円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2640-5 C0336
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年10月
書店発売日:2007年10月19日
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紹介
環大西洋世界で繰り広げられた奴隷貿易に伴って南北アメリカで発展した奴隷制は、多様性をもち、時代や地域のちがいによって絶えず変化していたことがわかってきた。奴隷制研究の第一人者である著者は、最新の研究動向を踏まえ、合衆国の奴隷制変遷の歴史を包括的に描き出す。
目次
序 章 奴隷制と自由
第1章 第一世代
ニューネザーランド
チェサピーク湾岸地域
ミシシッピ川下流域
フロリダ
第2章 プランテーション世代
チェサピーク湾岸地域
サウスカロライナ、ジョージア、フロリダのロウカントリー地域
北部
ミシシッピ川下流域
第3章 革命期世代
北部
チェサピーク湾岸地域
サウスカロライナ、ジョージア、イーストフロリダのロウカントリー地域
ミシシッピ川下流域
第4章 移住世代
南部の奥地
南部の大西洋岸地域
北部
終 章 解放世代
革命と未来
革命と過去
表
註
謝辞
訳者あとがき
索引
前書きなど
日本語版の出版によせて
「二〇世紀の問題は、〈肌の色に基づく区分(カラー)〉に起因する問題である」と、偉大な黒人歴史家であり活動家であったW・E・B・デュボイスは一九〇三年に記した。この言葉は、二〇世紀初頭には仰々しく聞こえたかもしれないが、二〇世紀末の時点ではあまりにも控えめな表現のように思われた。彼が指摘した問題の解決策は見あたらず、問題が二一世紀に持ち越されるような状況にあったからである。
二〇世紀後半、アメリカ人は公民権運動が進展するなかで自らが抱える歴史的な問題と直面し、打開策を求めて奴隷制に目を向けた。歴史家たちは奴隷制に関するすばらしい研究書を何冊も出版したし、映画制作者はすぐれた映画を制作して多くの賞を受けた。記念碑も数多く建立された。さらに、博物館では奴隷制展が開催されたばかりか、奴隷制のことばかりを展示する博物館が建設された場所もあった。しかしながら、人種間の緊張を受けて「特有の制度」と呼ばれる奴隷制にアメリカ人が関心を抱いたのは、これが最初ではなかった。なぜならば、奴隷制は合衆国の人種関係における「ゼロ地点」、つまり出発点であり続けているからである。アメリカ人は人種問題に直面したときはいつでも、奴隷制に目を向けることで問題解決の糸口を見出そうとしてきた。つまり、アメリカ独立革命の時代であれ、南北戦争・再建期であれ、選挙権剥奪や人種隔離の時代であれ、アメリカ人は新しい人種体制を理解したり正当化したりする際に、奴隷制にその根拠を求めてきたのであった。こうして考えると、公民権運動によって人々が奴隷制にあらためて関心を持ったのも当然のことといえる。
本書を執筆していた際に私自身は気づいていなかったが、本書は、奴隷制を論じた多くの先行研究と同様に、「肌の色に基づく区分に起因する問題」といま一度対峙するなかで生まれた。本書の骨格となった論文を『アメリカン・ヒストリカル・レヴュー』誌に発表したのは一九八〇年代であったが、その時点で合衆国の奴隷制史は歴史家たちによってすでに何度も書き換えられていた。最初に書き換えがおこなわれ、新しい奴隷制史が登場したのは、第二次世界大戦後のことであった。その背景には、大戦中にアメリカ人が、強制収容所での殺戮に体現されたナチスの人種主義思想と対決したことがあろう。戦後には、ケネス・スタンプをはじめとする復員兵が従来の歴史解釈に異議を申し立てた。従来の歴史研究では、奴隷制は慈悲に満ちた制度、つまり「野蛮な」人種を人間の水準にまで高め、文明化するための「学校」と解釈されていたからである。その解釈に代わって、スタンプらは人種的に中立の立場を取る歴史解釈を打ち立てた。その立場とは、アメリカの黒人奴隷は「黒い肌をした白人」にすぎず、白人以上でも以下でもないとみなすものであった。その結果、合衆国の奴隷制は冷酷に労働力を搾取する制度にすぎず、奴隷を文明化する使命とは無縁であったことがあきらかにされた。そして、その搾取から恩恵を被ったのは、ほぼ全員がヨーロッパ系であったひと握りの男女にすぎなかった。ほかの搾取された人々と同様に、黒人も非人間的に扱われることを拒み、自らを囚われの身に押し留めようとする権力に抵抗した。よって、奴隷制の歴史は、高貴な身分にふさわしい道義心に満ち、哀れみ深い主人と、喜んで主人に従う協力的な下僕という、相互に好意を持った者同士の親密な関係の歴史ではなく、手ごわい敵対者同士がぶつかり合った闘争の歴史とみなされた。
スタンプの先駆的な研究に続いて、スタンリー・エルキンズやジョン・ブラッシンゲーム、ユージーン・ジェノヴィージーは、スタンプが打ち立てた黒人の人種的な劣等性を否定する見解を踏襲しつつも、彼の奴隷制の解釈には異議を唱えた。しかし、彼らでさえスタンプと同様に、合衆国の奴隷制は少なくとも一九世紀にはほとんど変化しなかったという仮定に基づいて、奴隷主と奴隷の関係に注目した。そのうえで彼らは、奴隷主と奴隷の関係は、雇用者と被雇用者の関係のように資本主義的であったのか、あるいは領主と小作人の関係のように封建主義的であったのかをめぐって熱っぽく論じた。その一方で、彼らは時代や場所の違いをたいして吟味しなくても、この問題を解明できると考えた。つまり、究極的な人間の支配形態であった奴隷制を、一枚岩的にとらえていたのであった。
とはいえ、奴隷制をめぐる議論が合衆国史研究そのものを大きく揺さぶるようになるにつれて、奴隷制を一枚岩的にとらえる解釈は徐々に否定されていった。ますます多くの研究によって、合衆国の奴隷制は一九世紀でさえも絶え間なく変化していたことが示されたのである。これらの研究のなかには、北アメリカの奴隷制と同時期に発展した南アメリカやカリブ海地域のプランテーション体制に焦点をあてた研究があった。また、古代の奴隷制に注目した研究もあった。考察対象となった時代や地域の違いを超えて、これらの研究が強調したのは、奴隷制は時代や場所によって差異が見られた多様性に富む制度であったということであった。こうした研究の蓄積によって、奴隷制は一面的ではなく、多面的な制度であったことが明白となった。
奴隷制の多様性に気づいた歴史家たちは、時代や場所の異なる奴隷制を比較する研究に着手した。奴隷支配のありかたを、奴隷所有者の世界観の比較から探る研究、たとえば、カトリックの影響を受 けた統治のしかたとプロテスタントの影響を受けた統治のしかたを対比する研究がおこなわれた。また、タバコ、米、砂糖きび、コーヒーなど栽培作物の違いが、奴隷制の発展に与えた影響を検討する研究もおこなわれた。さらには、人口動態の多様性に注目して、プランテーションの奴隷制とそれより規模の小さい農場の奴隷制を比較したり、農村の奴隷制と都市の奴隷制を比較したりする研究もなされた。そのなかで、熟練の働き手と未熟練の働き手、あるいは農耕奴隷と家内奴隷が比較検討された。こうした研究によって、奴隷制は多様な側面を持ち合わせていたとする解釈がいっそう実証された。
奴隷制が一様ではなかったという結論からは、奴隷制がどのようにして、そしてなぜ変化していったのかという問題が浮上した。上記の諸研究から導き出されたのは、変化を促した最大の要因は奴隷自身であったという驚くべき事実であった。この発見を受け、新しい歴史学では、奴隷の「行為者としての主体性(エイジェンシー)」が重視されている。たとえば、奴隷たちは、非人間的な環境に置かれながらも人間性を否定されることを拒んだり、家族や宗教、音楽、言葉、思想などをつうじて、自らの意志にしたがって生きる決意を示したりしたのであった。所有者の厳しい支配のもとで押し潰されそうになった状況においても、奴隷たちはそうした行動に出たのである。
奴隷制研究は、これまで人々を呪縛してきた人種という「鉄の檻」から、歴史家だけでなく一般人をも解放した。奴隷制が多様性や可変性に富んでいたのであれば、人種はなおいっそうそうであったことが明白であるからである。合衆国における人種の定義、たとえば「ワン・ドロップ・ルール」や、ふたつのカーストしか認めない制度は、世界中の人種の定義から見て特異である【「ワン・ドロップ・ルール」は奴隷制時代に生まれた定義で、二〇世紀転換期には人種隔離制度のもとで利用された。文字どおりに取れば、祖先にアフリカ系がひとりでも含まれる人間、つまり一滴でもアフリカ系の血を引いている人間を「黒人」とみなすことであるが、現実には厳密にこの定義を適用することは不可能で、裁判などでは外見や生活習慣、交友関係などから「人種」が判断された】。つまり、世界に多種多様な人種の定義があるなかで、人種を二項対立的に規定する合衆国の定義はきわめて例外的なのである。このような認識を踏まえ、歴史学では、人種は生物上の区分というよりも、歴史によって生み出された「構築物」としてとらえられるようになった。いつ、どのようにして、なぜ「人種」が構築されたのかを解明することが、こんにちの研究の中心的課題なのである。こうして、私を含めた多くの研究者は、奴隷制が(再)形成される過程と、「人種」が(再)構築される過程の関連性に注目するようになった。このような関心から、本書は生まれたのであった。
本書の執筆当時は十分に認識していなかったが、上記のような私の関心には政治的な意味合いもあった。二〇世紀中葉に盛り上がりを見せた公民権運動は一九九〇年代までに転換期を迎え、反動的な動きが活発化していた。かつては、公立学校における人種統合のためにおこなわれる強制バス通学や、教育や雇用の場における平等な機会の提供をめざすアファーマティブ・アクションは、人種平等に基づいた民主主義を達成するための方法と考えられた。しかし、一九九〇年代には、合衆国の有権者はこれらの方法の多くをもはや政策として容認できないと、拒絶したのであった。人々に見られる差異や特徴の要因を「人種」に求める本質主義も、一九九〇年代には支持を得ていた。またもやアメリカ人は、デュボイスが指摘した「肌の色に基づく区分」をめぐって対立し、それぞれの立場を主張したのであった。
こうした時代状況のなかから生まれたのが、奴隷制や「人種」を構築物としてとらえる歴史解釈であった。社会構築主義は、奴隷制の変化に伴って人種の定義も変化していった過程を提示することで、人種は奴隷制と同様に不変であるとみなす本質主義の思想に対抗した。つまり、社会構築主義に基づく解釈には、「人種」は過去に構築されたということだけでなく、これからも再構築されうるという意味も込められているのである。
本書において、こうした「人種」をめぐる現代アメリカの政治問題に、私は直接触れていない。その代わりに、本書は、三〇年以上にわたって奴隷制や「人種」を研究してきた多くの歴史家や私自身が繰り広げてきた学問的議論に焦点をあてている。しかしながら、二一世紀に入った現在の視点からあらためて本書を読み返せば、デュボイスが提起した問題、すなわち「肌の色に基づく区分」の問題に本書が迫っていることがわかるであろう。つまり、奴隷制によって「人種」の意味があらためられていった過程をあきらかにした本書から読者に読み取ってもらいたいのは、「人種」は過去に再構築されたように、今後も再構築されうるものであるということである。あらゆる歴史研究書は、過去を語る言葉を介して、実のところは現在を語っている。本書もその例外ではない。
二〇〇七年一月 アイラ・バーリン
著者プロフィール
アイラ・バーリン(バーリン,アイラ)
Ph. D. (University of Wisconsin, Madison)。1974年以来、メリーランド大学で歴史学の教育・研究に従事。現在同大学歴史学部特別功労教授。この間、フルブライト派遣講師(1987年、パリ第七大学)、アメリカ史家学会(OAH)会長(2002−2003年)などを歴任。合衆国の奴隷制研究の第一人者。多数の著書や編著書があり、その代表的なものとしては本書のほか、Slaves without Masters: The Free Negro in the Antebellum South (1974)、Many Thousands Gone: The First Two Centuries of Slavery in Mainland North America (1998)。
落合 明子(オチアイ アキコ)
筑波大学大学院歴史・人類学研究科博士課程中退。博士(文学)。現在、東北大学大学院国際文化研究科准教授。専攻はアメリカ黒人の歴史と文化。主要業績としては、Harvesting Freedom: African American Agrarianism in Civil War Era South Carolina(単著、Praeger/Greenwood, 2004)、『権力と暴力』(共著、ミネルヴァ書房、2007年)、『21世紀アメリカ社会を知るための67章』(共編著、明石書店、2002年)。
大類 久恵(オオルイ ヒサエ)
筑波大学大学院歴史・人類学研究科博士課程中退。修士(文学)。現在、城西国際大学人文学部准教授。専攻はアメリカ合衆国史、アメリカ地域研究。主要業績としては、『アメリカの中のイスラーム』(単著、子どもの未来社、2006年)、『20世紀のアメリカ黒人指導者』(共訳書、明石書店、2005年)、『21世紀アメリカ社会を知るための67章』(共編著、明石書店、2002年)。
小原 豊志(オバラ トヨシ)
東北大学大学院文学研究科博士課程中退、修士(文学)。現在、東北大学大学院国際文化研究科准教授。専攻はアメリカ政治史、法制史。主要業績としては、『アメリカにおける白人意識の構築——労働者階級の形成と人種』(共訳書、明石書店、2006年)、「アンテベラム期アメリカ合衆国における選挙権『改革』の特質——東部旧州における選挙権論議の検討を中心に」『国際文化研究科論集』(第12号、2004年)、「建国期アメリカ合衆国における選挙権問題——『選挙権におけるフェデラリズム体制』の成立過程」『国際文化研究科論集』(第10号、2002年)。
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