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貧困の克服と教育発展
メキシコとブラジルの事例研究
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2007年10月
- 書店発売日
- 2007年11月1日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
貧困の克服と教育の普及は所得格差の拡大するグローバル化に伴って新たな課題となっている。本書はメキシコとブラジルをケーススタディに途上国の貧困層、社会的弱者のための教育普及において、政府、地方、NGO等が実際に果たした役割と成果を検証する。
目次
まえがき──本書のアプローチとそこから見えてくること
序章 貧困克服と基礎教育普及──国際潮流とメキシコ、ブラジル
はじめに
第1節 国際的課題としての貧困克服
第2節 貧困の克服と教育
第3節 ラテンアメリカにおける所得格差および貧困水準
第4節 メキシコとブラジルにおける初等教育の普及
おわりに
第1章 メキシコとブラジルの就学促進のための家計補助プログラム──評価研究の結果とその批判的検討
はじめに
第1節 メキシコの所得移転プログラムProgresaの評価研究
第2節 ブラジルの家計補助プログラムの評価研究
第3節 家計補助プログラムの批判的検討──教育投資か?
おわりに
付論 「全国奨学金プログラム(Programa Nacional do Bolsa Escola)」
第2章 メキシコ先住民地域における競争的な教育発展──オアハカ州ミッヘ民族の3つの村の事例
はじめに
第1節 村の生き残り、発展のための競争・競合的条件の顕現
第2節 アユートラ村──「新しい」政治的リーダーシップの出現と科学技術高校(CECYTE)の設立
第3節 トラウィトルテペック村──文化的アイデンティティ強調戦略の形成とアユック・コミュニティ高校(BICAP)の創設
第4節 タマスラパン村──マスメディア利用戦術によるテレビ高校(TEBAO)から普通高校(COBAO)への移行
おわりに
第3章 先住民二言語教育の理想と現実──メキシコのオトミーの事例
はじめに
第1節 メキシコにおける先住民の運動と二言語教育政策
第2節 学校教育の普及と二言語教育の「不在」──ケレタロ州サンティアゴ・メスキティトランの事例
第3節 二言語教育の実践──イダルゴ州メスキタル盆地の事例
おわりに
第4章 ブラジルにおける初等教育の地方分権化
はじめに
第1節 ラテンアメリカにおける教育の地方分権化とその背景
第2節 ブラジルにおける初等教育の分権化
第3節 FUNDEF――地方分権化の財政的基盤
第4節 市営化と学校運営の革新―イタペビ市の場合
おわりに
第5章 「モンチ・アズール・コミュニティ協会」発展の軌跡──ブラジル市民社会の発展の文脈におけるある住民組織の事例
はじめに
第1節 ブラジルにおける市民社会の発展と市民社会組織の2つの型
第2節 モンチ・アズール・コミュニティ協会(ACOMA)発展の軌跡
おわりに――ブラジルの市民社会発展の展望と課題
執筆者一覧
前書きなど
まえがき──本書のアプローチとそこから見えてくること
今日、基礎教育の完全普及を目指す運動Education For All「教育をすべての者に」が国際的に進められており、多くの発展途上国において、国際的な援助、融資を受けながら、大規模な基礎教育開発が政府によって実施されつつある。基礎教育の普及はそれ自体が目的とされていると同時に、貧困削減にも寄与することが期待されている。基礎教育の普及が貧困削減へもたらす効果は、厳密な意味で実証されているものとはいえないが、今や社会的、政治的に広い合意を得た期待となっているのである。
他方、発展途上国における教育の発展過程を規定する主体として、政府ばかりではなく、教育を受ける側が重要なものとしてあることはいうまでもない。今日、経済的貧困層、社会的、政治的に弱い位置にある層や集団自身が、その状態の改善における教育の重要性に気づいており、時には教育獲得に戦略的な重要性を与え、教育要求の自覚的な主体として現れるようになっている。彼らの要求は、基礎教育レベルにとどまらず、高校教育さらには大学教育レベルまでに高まりつつある。このような社会的な弱者の教育要求は、それを個々の家族が直接に表現するというよりも、政府と家族の間にある村やNGOといった媒介的あるいは援助的な性格を持った中間的主体を通じて表現される。また、教育施策の策定、実施も、中央政府が直接行う場合ばかりでなく、地方自治体(州や市)が一定の権限を持った主体として現れることが多い。
本書は、メキシコとブラジルにおける貧困層、社会的弱者のための教育普及を目指す動きの中で、これら政府、市、村、NGO等の各主体がどのような課題を掲げて、どのような成果を上げてきたのか、ということを描き出そうとする試みである。もとより発展途上国全体に関して、網羅性をもってそのような試みを行うことは不可能であるが、本書がメキシコとブラジルに焦点を当てつつそうしたアプローチをとろうとしているのは、単に研究対象の限定の必要ということにとどまらない、積極的な意味を持っている。
(中略)
貧困層や社会的弱者への教育普及において、それらの事例の中でも特に、国際機関に支援を受けたメキシコ、ブラジル政府の諸政策(すなわち政府の行動)の役割、影響力が、その強さとカバーする範囲の広さという点で、圧倒的なものであることは疑いを入れないであろう。しかしまた、その他の主体も、貧困層や社会的弱者の教育要求を実現し、教育を改善していくための重要な役割を果たしていることも間違いない。本書で取り上げたメキシコ先住民やブラジルの市、住民組織の事例の多くは、それらの主体が、その時々の社会的、政治的、行政的な国内・国際条件を効果的に生かした事例、そのためのイニシアチブを担う存在が明確であるという意味で、先端的な事例であったということができる。メキシコの先住民の3つの村による高校や大学施設の獲得事例が、強力な主体性の存在を意味しているものであることはいうまでもないし、ブラジルの事例も、分権化やパートナーシップといった枠組が、上から与えられた予定調和的なものというよりも、そうした枠組を要求し、活用する主体とそれに対応する行政とのダイナミックな交渉過程によって形成されるものとして理解することを要請している。そして、ここで重要なのは、これらの事例が、「特別」「例外」ではないということである。それらが、メキシコ、ブラジルの社会的、歴史的な流れに根を持ち、したがってまた同様の大小の動きが存在し、それらの動きの全体こそが、本書の事例に見られたイニシアチブの形成とその発揮の条件をつくってきたのである。
上記内容は本書刊行時のものです。