発行:明石書店
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A4判変型 40ページ 並製
定価:1,200円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2602-3
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年07月
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紹介
「やりたいことはあきらめちゃいけない」。これが聴覚障害のあるジェイコブのモットー。スケボーもバスケも大好き,算数も得意な元気いっぱいの小学生。聴覚障害のある子どもたちに必要な配慮や教育とは何かが子どもにもわかりやすく描かれている。
前書きなど
監修者解説
きこえない子どもの教育について
2006年12月、障害者権利条約が国連総会で採択されました。21世紀最初の人権条約です。障害をもった子どもたちのために、「子どもの権利条約」の規定に障害者の観点からの規定が加わりました。
その第7条は「締約国は、障害のある子どもによる他の子どもとの平等を基礎としたすべての人権及び基本的自由の完全な享有を確保するためのすべての必要な措置をとる」としています。また、「障害のある子どもに関するあらゆる活動において、子どもの最善の利益が主として考慮されるものとする」と規定しています。
同じく第24条は「障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されないこと、並びに障害のある子どもが障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育又は中等教育から排除されないこと」、「障害のある人が、自己の住む地域社会において、他の者との平等を基礎として、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができること」としています(川島聡・長瀬修2007年3月29日付訳)。
これと軌を一にするかのように、わが国では2007年4月から「特別支援教育」がスタートしました。「通常の学級における指導だけではその能力を十分に伸ばすことが困難な子どもたちについては、一人一人の障害の種類・程度等に応じ、特別な配慮の下に、特別支援学校(2006年度まで盲学校・聾学校・養護学校)や小学校・中学校の特別支援学級(2006年度まで特殊学級)あるいは通級による指導」を行うこととされています(文部科学省ホームページより)。また、就学先の指定は行政が指定する仕組みは継続されていますが、保護者の意見をきくことが義務付けられました。障害者権利条約の批准を待たずに、国際的な流れ、議論を踏まえてわが国の教育も分離教育から統合教育に向け舵取りが変わってきています。
障害をもった子どもたちの教育の問題をメインストリーム化するために、統合教育・インクルーシブな教育は必須の要件です。また、多様な教育プログラムの整備とその選択は障害をもった子どもの自立に欠かせません。しかしそれとは別に、きこえない子どもの教育については、「言語」に関する困難な問題が横たわっています。どのような言語をどのように習得させるか、音声言語、書記言語、手話をめぐる多くの考えるべき課題があります。
幼児期の主に母親との交流、そして小学校1〜3年ぐらいまでの学校学習や仲間との交流を通じてきこえない子どもの言語がどのように形成されていくか? きこえない子どもたちは、まわりが音声言語(日本語)を使用しているとすれば、きこえ難い音声日本語を通じて言語形成していくことになります。完全にきこえてはいない音声言語でどのように言語力が形成されていくのでしょうか? またそのような不完全な言語力でどのように学科学習を進めていくのでしょうか?
一方、手話で言語形成した子どもたちは、手話での言語力の向上にあわせ、音声・書記日本語の取得、個別学科の学習が同様に問題となってきます。このような課題に対して、障害者権利条約の規定やインクルーシブな教育が、また文部科学省が推し進めようとしている「特別支援教育」がどのような形で対応しようとしているのか見てみる必要があります。
本書『きこえの障がいってなあに?』ではアメリカのきこえない子どもの教育が紹介されています。「ろう学校」での教育ではなく、普通学級での教育の様子です。それは日本の固定制や通級制の「難聴学級」とはかなり様子が異なっており、普通学級でも手話通訳はじめさまざまな支援が準備されているようです。特徴的なプログラムとして、「特別な国語の授業」(special language arts class)が紹介されています。
ご存知のようにアメリカには「障害のある人たちの教育法」があって、障害をもった一人ひとりの子どものために「個別教育プログラム」を作ることが義務づけられています。就学前の事前面接、面接、計画作成・実施、評価・見直し、年間評価がサイクルするようになっており、計画に専門家、医療関係者、教師、保護者、さらには本人が関与するシステムになっています。この本では、「個別教育プログラム」についての具体的な紹介はありませんが、教科によって担任が代わり、きこえる子どもと一緒に勉強する学科、きこえない子どもだけを集めた学科、言語療法の時間、オージオロジストによる聴力検査など、きこえない子どもに対する多様なプログラムが紹介されています。各教科の背後には、主人公の子どもに対する個別の「教育プログラム」があり、それによってこのような多様な学習プログラムが編成されていると考えられます。
これに対して、これまでの日本のきこえない子どもに対する教育はどうだったでしょうか? またそれが特別支援教育の開始でどう変わっていくのでしょうか?
就学前の取り組みについていえば、新生児スクリーニングが拡がり、小さな時にきこえの問題が発見される子どもが増えていますが、その子どもたちの言葉の問題、教育の問題を相談するところは、日本では地域での心身障害センターなどの施設かろう学校ぐらいしかありません。ろう学校では3歳未満の乳幼児やその保護者に対する教育相談も実施されていますが、就学前のきこえない子ども一人ひとりに対する、また家族に対するサポートは十分とはいえません。アメリカの「個別教育プログラム」が、就学前の事前面接からきこえない子どもに対する個別教育を始めているのと大きく異なっています。
日本のきこえない子どもたちに対する学齢期の教育は、前に述べたとおりろう学校と難聴学級の二本立てで進められてきました。難聴学級の仕組みはさらに複雑で、固定制の難聴学級と通級制の難聴学級に分かれています。これに加えて、ろう学校にも難聴学級にも通わず、普通学校で勉強を進めている多数のきこえない、きこえ難い子どもたちがいると思われます。
学校での言語指導は、日本ではろう学校でも難聴学級でも音声日本語の習得(聴覚口話法)が中心でした。就学してきた子どもがそれまでに形成してきた言語による、また子どものきこえのレベルに配慮した言語指導が行われているとはいえない現状にあります。『きこえの障がいってなあに?』の主人公ジェイコブ君は読話や発声訓練を受けていますが、手話で会話するのが最も楽なようです。教科学習に手話通訳が付いていますので、ジェイコブ君の個別学習プログラムにはジェイコブ君の母語を手話とした教育配慮がされていると思われます。
従来の言語教育は、今回の特別支援教育でどのように変わるのでしょうか? 特別支援学校(ろう学校)の幼稚部では、「補聴器等を活用して子ども同士のコミュニケーション活動を活発にし、話し言葉の習得を促すなどして言語力の向上を図るとともに、幼稚園と同様に、子どもの全人的な育成に努めています」とされており、小・中学部では、「小・中学校に準じた教科指導等を行い、基礎学力の定着を図るとともに、書き言葉の習得や抽象的な言葉の理解に努めたり、さらに、発達段階等に応じて指文字や手話等を活用したり、自己の障害理解を促したりするなど自立活動の指導にも力を注いでいます」と文部科学省のホームページで紹介されています。また、特別支援学級(難聴学級)は「音や言葉の聞き取りや聞き分けなど、聴覚を活用することに重点を置いた指導を受けたり、抽象的な言葉の理解や教科に関する学習を行います。必要に応じて、通常の学級でも学習し、子どもの可能性の伸長に努めています」と紹介されています。
きこえない子どものきこえの程度はさまざまです。また、育ってきた環境、現在の教育環境で形成されてきた言語力が異なります。きこえの障害は、まずは言語力の形成についての障害です。子どもの言語力はその子どもの将来に決定的な影響を与えます。しかしながら、上述の文部科学省の特別支援教育の説明では、言語に関する考え方が明確でなく、具体的に一人ひとりの子どもにどのように対応していくのか説明がありません。手話を母語として言語形成した子どもにとっては、手話の言語力向上が言語力の向上であり、それを前提に書記日本語の学習、個別教科の学習があると思います。
一方、きこえにくい状態のまま音声日本語で言語形成してきた子どもたちは、言語形成が曖昧になっている可能性が大きいと思います。補聴器使用による聴能訓練で、また口話の訓練できこえに問題のある子どもたちの言語力がどのように形成・向上していくか個別に観察をし、個別に対応することが非常に大切と思います。
1999年に発表された「盲学校、聾学校および養護学校学習指導要領」の中では、「自立活動の指導に当たっては、個々の児童又は生徒の障害の状態や発達段階等の的確な把握に基づき、指導の目標及び指導内容を明確にし、個別の指導計画を作成するものとする」と、日本の教育制度でも個別の指導計画を作成するようになっています。しかし、この指導要領が発表された後でも、一人ひとりの子どもに合わせた個別指導や、個別指導計画についての保護者、本人を交えた話し合いの要望が続いています。また、ろう学校や難聴学級の先生の専門性についても多くの疑問が出ています。
これから進められる特別支援教育が、今までの教育の仕組みの表面的な変更ではなく、「一人一人の障害の種類・程度等に応じ、特別な配慮の下に」実施されるならこのような声も少なくなるはずです。言葉の組み立てを繰り返し教えることは大変かもしれません。普通の教科に手話通訳やノートテークを用意することは大変かもしれません。しかし、子どもたちはきこえていない、また曖昧にしかきこえていないのです。彼らは私たち社会の成員です。きこえる子どもたちと同じように勉強をすることができる、彼らの学習の前提となる能力、環境を整えるのは、教師、家族を含む私たち社会の責任と考えます。近い将来、日本の実例を基にしたこのようなブックレットが出ることを期待して、『きこえの障がいってなあに?』の解説とします。
社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
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