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大発作
てんかんをめぐる家族の物語
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2007年7月
- 書店発売日
- 2007年7月1日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2011年8月26日
紹介
発病してから遠い存在になっていく兄,あらゆる治療法を必死で試みる父と母,ひっそりと寄り添う妹,そして自らの幻想の世界にこもっていく「僕」…。ファンタジックかつ力強い絵で家族の軌跡と少年の心の歩みを描いた,フランス漫画の名匠による自伝的作品。
前書きなど
まえがき―妹からの手紙
親愛なるダビッドへ
まえがきを書いてくれないかと、あなたは私──実の妹──にそう頼みましたね。嬉しかった、感動しました。迷わず引き受けようと決めました。だって、兄さんのやり遂げた仕事が好きだし、心から尊敬しているんだもの。
兄さんはこの本のコマのひとつひとつに、私たちの子供時代の闇を蘇らせました。でも私自身は、兄さんのようにこれほど詳しく、正確なことは思い出せません。その頃の記憶は、たったひとつ明らかなものを内に宿す、本当に小さく硬く凝縮した暗い核のよう。その明らかなものとは、ジャン=クリストフ──私たちの兄──の病気。てんかん。“大発作”のことです。でも面白いこともあるのね。あの病気のことを、私はずっと、それこそまさに核のようだと思っていたの。彼の脳の奥深くに巣くう、小さいけれどもとても強力な核のイメージなのよ。どこか似てると思わない?
昔から正確なディテール、忠実な再現にこだわりを持っていた兄さん。よく覚えてるわ。兄さんの部屋に山積みになっていたものを。軍服や軍馬の装備の復元絵を描くために参考にした歴史資料のすべてを。子供の頃は「歴史の先生」になりたかったのよね。今、その夢が叶ったということね。
時々、人に訊かれることがあります。「兄さんはどうしてる?」と。
「元気よ、とても……」そう答えると、兄さんの今の仕事、これからの予定、恋のことへと話が続いていく。私の心がふたつに引き裂かれるのは、その時です。心のなかで、もうひとりの兄にも向けられて良いはずの質問に答えてしまうの。でも誰も、私に兄がふたりいることを知らない。だから、もうひとつの声が喉から出掛かり、胸を詰まらせるのです。
私たちのことを話してもいいかしら。私たち、きょうだい三人のことを。
ここに、つまりただひとつかけがえのない愛しい想い出があります。ブールジュにいた時を覚えてる? おじいちゃんとおばあちゃんの家。そこで私たち三人は同じ部屋で寝ていたわね。上の兄、ジャン=クリストフはドアのそば、兄さんはその左隣りで、私は洋服だんすの近くの小さなベッドにいた。ティト、ファフーとシコトンよ。
電気が消えるとすぐ、三人一緒になって火星着陸する。そして、それぞれが見たものをみんなに説明して聞かせるの。奇妙きてれつな生物、追い散らしてやったモンスターたち──私たちは偉大なハンターだったわ。兄弟愛と子供心に一致団結して、声も高らかに熱狂する。そしてラストは、恐竜のもも肉のローストとジャンボスイカの宴で締めくくるの。こうしてほんのり酔ったまま、束の間にきらめく結束のひとときは散り、眠りに堕ちていく。
というわけで。そんな大冒険の後、私は漫画の登場人物となり、教師となりました。
時折、私たちに似た子供を見かけることがあります。
キスを送ります。愛を込めて。
1996年10月2日 パリにて
フロランス
上記内容は本書刊行時のものです。