人間らしい生活の再生を求めてもうガマンできない! 広がる貧困
宇都宮 健児:編, 猪股 正:編, 湯浅 誠:編
発行:明石書店
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四六判 200ページ 並製
定価:1,300円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2584-2
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年06月
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紹介

2007年3月24日,反貧困を訴える集会が東京で開かれた。当日の報告も交え,非正規労働者,シングルマザー,障害者,高齢者,多重債務者,在留外国人など,貧困にあえぐ当事者の声を収載。また湯浅誠,雨宮処凛等の論者が現状分析と解決への展望を語る。

前書きなど

はじめに
 この国で貧困が急速に拡大している。人々は、先の見えない不安にさらされながら、我慢を強いられてきた。本書のタイトル「もうガマンできない! 広がる貧困」は、これに対抗するメッセージである。不公正な社会を告発する叫びである。怒りの表現である。貧困にあえぐ人々の言葉にできない思い、声なき声を形にしたものである。
 二○○七年三月二四日、三・二四東京集会が開催された。そのメインテーマが「もうガマンできない! 広がる貧困」である。本書は、集会での当事者の発言を再録するとともに、さらに広く「当事者の声」を集め、それに加えて貧困をとりまく諸問題に深く関わっている関係者・専門家が「論点」を新たに書き起こしたものである。シングルマザー、多重債務被害者、障害者、高齢者、派遣労働者、外国人DV被害者、ネットカフェ難民など、さまざまな状況におかれた当事者の実際の声は、これまで表に出ることが少なかったが、「あってはならないもの」である貧困の実態を告発する何よりも大きな力を持つ貴重な証言である。「論点」では、「当事者の声」を受けて、それぞれの問題に精通した論者による問題の告発と解決に向けた提言がなされている。全体として、多様な問題が重なる貧困に、さまざまな角度から光をあて、その背景を掘り下げるものとなっている。
 貧困に関する問題状況を正しく把握しておく必要がある。本書の各所で、それぞれの当事者がおかれた状況に応じて個別に指摘されているが、貧困をめぐる問題状況の要点をここでいくつかまとめておきたい。
 第一に、貧困は、現に、拡大し深化している。働いても働いても生活できない低所得者層が増大し、貯蓄ゼロ世帯、多重債務者なども急増している。自殺者は毎年三万人を越え、国民健康保険料を払えずに保険証を取り上げられて診療を受けられなくなって死に至る人など、健康や命を失う人々が増加している。貧困は世代を超えて拡大し、将来の夢を描けない子供たちが増えるなど、子供たちの成長にも大きな影を落としている。
 第二に、貧困を拡大させた大きな要因は、労働分野における非正規雇用化の推進である。政府は、自由競争・経済成長を重視し、労働分野における規制緩和を推進した。その結果、正規雇用から非正規雇用への置き換えが進み、非正規雇用は、今や三人に一人、女性では二人に一人を超えている。非正規雇用の増大は、企業収益を増大させて限られた一部の人々に富をもたらす一方で、低賃金労働や短時間・短期の細切れ雇用を蔓延させ、低所得者層を増大させた。
 第三に、このような状況において、本来、人々の生存を支えるはずの社会保障が機能していない。度重なる給付削減・負担増等によって切り崩され、生存の「最後の砦」である生活保護制度さえも、違法な窓口規制の横行などにより機能不全におちいっている。それに追い打ちをかけるように、保護基準の切り下げなど、社会保障のさらなる切り崩しがおこなわれようとしている。
 第四に、不十分な社会保障の間隙をつくように、「貧困ビジネス」が幅をきかせている。本来、行政がおこなうべき公的融資や失業対策などの代わりに、消費者金融や日雇い派遣などが「サービス」を提供し、貧困状態にある人々の不安定さを一層深刻化させている。
 第五に、貧困は不可視化されている。政府は、日本に深刻な貧困問題はないとして貧困の調査さえおこなおうとしない。国会では、格差問題は議論されても、貧困は正面から問題視されず、票に結びつかないとなれば格差問題でさえ選挙の争点から消されようとしている。マスコミも、最近の一部の報道を除けば、「貧困」を活字にすることはほとんどなく、保育費や給食費の不払い問題などでは、滞納者のモラルの欠如が強調され、背景にある貧困の視点が欠落している。市民は厳しい競争の中で自分の利益が極大化する行動へと仕向けられ、他人を思いやり、貧困に目を向ける余裕がない。
 第六に、自己責任論が強調され、貧困におちいった人々は、「競争に勝てない」自分を非難し、声をあげられない。外へ向かうべき怒りは自分の内面を攻撃し、自分には生きる価値がないと悩み、心の健康を失い、最後には自らの命を絶つ。この自己責任論が、貧困をさらに見えないものへと追いやっている。
 最後に、作られた対立により、巧妙に民意が分断され、下へ下へと落ちていく構造が生まれている。生活保護が年金より高いのはおかしい。生活保護を利用せずに働いている母子世帯より生活保護を利用している母子世帯の方が収入が多いのはおかしい。最低賃金より生活保護の方が高いのはおかしい。こうした世論が誘導され利用され、巧みに民意が分断され、下に合わせる方向へと仕向けられ、セーフティーネットが切り下げられつつある。
 問題は、絡み合い、しかも、大きい。三・二四東京集会は、労働、福祉など個々の問題領域におけるアプローチだけでは、貧困を拡大させる力に対抗できないという自覚のもとに、当事者や支援者が、個別の問題の枠を超え、また、政治的立場を超えて、「反—貧困」という点で結び付いて実現し、市民に連携と連帯を呼びかけた。貧困に抗するには、公正と平等を重視する社会を目指した舵取りが必要である。今、貧困に抗するネットワークを広げて大きなうねりとし、社会のあり方を問い直すことが求められている。
「人間は使い捨てですか?」「壊れた部品(人間)はどうなるのでしょう?」「孤立無縁で自分は世の中に必要のない人間なんだなと感じています。……この国のシステムは個人を幸福にしないようになっています」「弟は自殺ではありません。明らかにこの社会に殺されたのです」。雨宮処凛に寄せられた「当事者の声」である(第8章)。自己責任とかたづけて切って捨てるか、目を閉じて黙ったまま今の社会の流れに身をゆだねるか、あるいは、そうではないか。まずは、その選択から始まる。
 本書が、貧困に抗する力となり、また、現に生きることが困難な状況にある人の一助となることを願う(巻末・相談連絡先一覧参照)。

二○○七年六月
猪股 正

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