英語教育原論
寺島 隆吉
発行:明石書店
この版元の本一覧
四六判 284ページ 上製
定価:2,600円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2562-0 C0082
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年08月
書店発売日:2007年08月06日
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紹介

グローバル化が進む今、英語一辺倒の日本の言語教育は本当に大丈夫か? 白人崇拝、アジア蔑視など、英語教育がもたらす弊害を検証し、小学校の英語教育必須化の言論の無根拠性を暴きつつ「英語だけが外国語ではない時代」の教育者、言語政策のあり方を提示。

目次

まえがき
第1章 英語教師の「三つの仕事」「三つの危険」
 1 英語教師の「三つの仕事」
  1 教師の三つの仕事
  2 「学校生活=英語」なのか
  3 誰に焦点を合わせて授業をするか
  4 「学びの共同体」をつくる
  5 岐阜県にとって外国人とは誰か
  6 「外国語=英語」なのか
  7 英語は本当に必要なのか
  8 「情報収集の手段」としての英語
  9 アメリカのどこを訪ねるのか
  10 「十年の法則」とは何か
  11 何よりも「転移する学力」を
  12 「見える学力」の基礎とは?
  13 通じる英語の「水源地」とは?
  註/参考文献/参考資料
 2 英語教師の「三つの危険」
  1 英語教師の自己家畜化
  2 英語を学べばバカになる?
  3 英語で世界が見えるか?
  4 日本人は市場のターゲット?
  5 視界から消える「中東」や南米
  6 学校の自己家畜化
  7 フセイン体制はイスラム原理主義?
  8 イラクは女性抑圧国家だった?
  9 なぜサウジから民主化しないのか
  10 国家の自己家畜化
  11 世界最強の国・アメリカの貧困
  12 日本人の知らない日本外交の姿
  13 「英語の未来」はバラ色か?
  14 「英語バカ」にならないために
  註/参考文献/参考資料
第2章 日本の言語政策と学校教育
 1 はじめに
 2 何が「小学校英語教育」を推進したのか
 3 裏の推進役となった「英語教育ビジネス」
 4 外圧の結果としての「学校五日制」
 5 日本人の持つ強い英語コンプレックス
 6 中国・韓国の小学校英語教育
 7 中国・韓国の英語力を考える
 8 子どもたちの「学びからの逃走」と小学校英語教育
 9 フィンランドの教育から何を学ぶか
 註/参考文献/参考資料
第3章 日本の小学校英語教育を再考する
 1 はじめに
 2 研究者の役割とは何か
 3 政策責任を誰がどのように負うのか
 4 中学校の英語教育を改善する
 5 教育は経済と政治の影である
 6 小学校の教育現場から考える
 7 小学校英語教育の「費用対効果」
 8 英語以外に求められる学力とは
 9 おわりに
 註/参考文献
あとがき

前書きなど

まえがき
 本書に収めた論文の初出は次のとおりです。
 第1章1「英語教師の“三つの仕事”“三つの危険”」(上)『岐阜大学教育学部研究報告 人文科学』第五四巻第二号、七一−九〇頁、二〇〇六年
    2「英語教師の“三つの仕事”“三つの危険”」(下)『岐阜大学教育学部研究報告 人文科学』第五五巻第一号、一三七−一六九頁、二〇〇六年
 第2章「日本の言語政策と学校教育」『岐阜大学教育学部研究報告 人文科学』第五四巻第一号、一〇七−一四一頁、二〇〇五年
 第3章「日本の小学校英語教育を再考する」(書き下ろし)

 第1章は愛媛大学英語教育改革セミナー(二〇〇五年三月)に招かれて講演したものです。この講演をするきっかけになったのは、私が「小学校の英語教育を考える——金森強『英語力幻想——子どもが変わる英語の教え方』をめぐって」という論文(『岐阜大学教育学部研究報告 人文科学』第五三巻第二号、九一−一四七頁、二〇〇五年)を書いたことでした。
 それを寺島研究室のHP(ホームページ)に掲載したところ、批判の対象となった『英語力幻想』(アルク、二〇〇四)の著者である金森強さんから、直接に「会って話したい」との連絡が入り、わざわざ岐阜までこられた金森さんと話しているうちに講演の話が降って湧いたのでした。
 おかげで日頃から漠然と私が考えてきた英語教育論に一つの形を与えることができました。このような講演の機会を与えていただいた金森さんに、この紙面を借りて改めてお礼を申し上げたいと思います。それにしても、小学校英語に批判的な私に講演させるという懐の深さに感服するばかりです。

 正直な話をすると、『英語力幻想』を読むように勧めてくださったのは慶應義塾大学の大津由紀雄さんでした。それまで私はその本の存在を知らなかったのです。大津さんは当時、小学校の英語教育をめぐって大きなシンポジウム「公立小学校での英語教育をめぐって」を開催されていて、その記録が『小学校での英語教育は必要か』(慶應義塾大学出版会、二〇〇四)として出版されていましたので、名前だけは存じ上げていました。
 また当時、大津さんは自分の研究室HPに小学校英語をめぐる意見交換の場を設けておられて、それが小学校で英語を担当する教師の「駆け込み寺」になっていることも知っていました。また大学院夜間遠隔授業で知り合った小学校教師から「英語活動」の悩み・苦しみを直接に聞いていましたので、大津さんの活躍ぶりを遠くから好感をもって眺めていました。
 その大津さんが、中京大学で開かれる大学英語教育学会(二〇〇四年九月)のシンポジウムで、パネリストとして「World Englishesと英語学習の目標」という演題で発言されるということを知りました。私が指導する院生の一人(現職教員)が修士論文のテーマとして「国際英語」を選んでいたので、聞きに行かないわけにはいかないと思ったのです。そこで、さっそく院生を誘って参加することにしました。
 実は、それ以前に私は拙訳『チョムスキー21世紀の帝国アメリカを語る——イラク戦争とアメリカの目指す世界新秩序』(二〇〇四、明石書店)を出版していたので、MITのチョムスキーの下で博士号を取ってこられた大津さんには、その意味でも個人的な親しみを感じていました。そして学会主催の夜の懇親会で、幸運にも大津さんとお話しする機会を得たのでした。
 ところで、懇親会で大津さんと話しているうちに、慶應義塾大学での第二回シンポジウム「小学校での英語教育は必要ない——英語教育のあるべき姿を考える」(二〇〇四年一二月)で発言していただけないかとの思わぬ申し出を受けました。このシンポジウムは、その後、『小学校での英語教育は必要ない!』(慶應義塾大学出版会、二〇〇五)として出版され、私の発言は第1章第3節「小学校『英語活動』の何が問題なのか」として収録されています。本書で展開できなかったことも述べられていますので参照していただければ幸いです。
 またシンポジウム当日に配布した資料は紙数の関係で上記拙論「小学校『英語活動』の何が問題なのか」には採録できませんでした。そこで寺島研究室ホームページ「本館」に掲載しておいたのですが、このたび本書を出版するにあたり、参考資料として転載させてもらうことにしました。これを御覧いただければ、英語学習がいかに学習者の頭を麻痺させる恐れがあるか、英語という言語がいかに「商品」として流通しているかが、改めてお分かりいただけるのではないかと思います。

 本書の第2−3章は「学校教育」「言語政策」という観点から小学校英語教育を考え直してみたいと思って執筆したものです。第2章は大学の紀要に発表したものですが、第3章は書き下ろしです。「書き下ろし」といっても、実は共著として発表予定だったものが事情で発行できなくなったので、この本に採録させてもらいました。
 大津さんが編集された本は、前記の『小学校での英語教育は必要か』『小学校での英語教育は必要ない!』のほかに、二〇〇五年一二月に開かれた第三回シンポジウムをまとめた『日本の英語教育に必要なこと』(慶應義塾大学出版会、二〇〇六)も出版されていて、その各々は非常に示唆に富む論稿に満ちているのですが、どうしても議論が英語とその周辺に片寄っていて、小学校英語教育を「学校教育」や「言語政策」の中に位置付けて論じる視点が弱いように思われました。
 これは大津さんが編集されたシリーズ三冊の本だけでなく、これまで多く出版されてきた「小学校英語教育」関係のどの本にも言えることのように、私には思われました。不思議なことに、OECDの学力調査でフィンランドが世界一の成績を収めて評判になっているにもかかわらず、また「いじめ」「不登校」、いわゆる「不適格教師」が大きな話題になっているにもかかわらず、それらと小学校英語教育を結びつけて論じた書籍・論文がほとんど見つからないのです。
 本来このようなことは、小学校の教師自身が、自分の抱えている問題点を赤裸々に語りながら、鋭く追求すべきだし、そうしてほしいと思っていたのですが、本文でも紹介するとおり、下手に発言すると自分の立場が危うくなるという現状では、無い物ねだりになってしまいます。三回にもわたって開かれたシンポジウムであるにもかかわらず、小学校の現場から誰一人として発表者がなかったことが、それを雄弁に物語っています。そこで、仕方なく重い腰を上げて取り組んだのが、この第2−3章でした。

 ところで、教育再生会議の第二次報告が二〇〇七年六月一日に出されました。
 そこには「授業方法などの改革」として「国は、国語教育の充実とともに、中・高等学校の英語の授業時数、単語数を増やし、小学校に英語教育を導入する。外国人講師の活用を拡大する」という提言が書かれています。
 ここには大津さんたちが三回にもわたるシンポジウム、その他の運動を積み重ねてきた成果が一定程度、反映されているのではないでしょうか。「国語教育の充実とともに、中・高等学校の英語の授業時数、単語数を増やし」という文言にそれが表れているように思います。
 しかし、いつも不思議に思うことは、政府が自分の都合の良い人物を任命して構成されている諮問委員会の結論が、国会での議論を飛び越えて、いつのまにか国の方針として決定されていくことです。この教育再生会議の場合も例外ではありません。その証拠に、一七名の有識者委員に教育学の専門家は一人もいません。
 また教育現場の経験者も、元小学校教師の陰山英男氏と元高校教師の義家弘介氏の二人しかいません。しかも、さらに驚いたことに、義家弘介氏は「内閣官房教育再生会議担当室長」を兼任しているのです。つまり、たった二人しかいない「教育現場の経験者」のうち一人は、すでに政府の意向に逆らわない人物として任命されているのです。
 他方で、財界からは「資生堂相談役」「JR東海会長」「トヨタ自動車会長」「ワタミ会長」という経営者が四人も参加しています。そのうえ「資生堂相談役」の池田守男氏は「座長代理」も兼ねています。この委員会が誰の利益を反映しているかは歴然としているのではないでしょうか。これで、どうして公正で客観的な第三者機関と言えるのでしょうか。
 もう一つ不思議なことは、委員の中に内閣総理大臣・内閣官房長官・文部科学大臣という三人の閣僚がいて、しかも「美しい日本語が書けないのに外国の言葉をやってもダメ」と主張する伊吹文明文科相がいるにもかかわらず、小学校の英語教育が必修とされたことです。伊吹氏はこの委員会でどのような役割を果たしたのでしょうか。
 もっと不思議なのは、「美しい国」を主張する安倍首相自身の日本語に、あまりにカタカナ語が多いことです。ほとんどの老人や子ども、日本語を学んでいる留学生・外国人労働者には全く意味不明なことばに聞こえます。所信表明では一〇九語、施政方針演説では九〇語の「カタカナ語」を使ったとされていますが、この中には「ホワイトカラー・エグゼンプション」など、英語教育を専門とする私ですら意味不明のことばが出てきます。
 これで、どうして弱者に優しい政治ができるのでしょうか。

 いずれにしても、教育再生会議の第二次報告書では、「二〇〇七年一二月の第三次報告に向けて、更に検討を進めることとします」として、「小学校での英語教育の在り方」をさらなる検討課題の一つにあげています。本書が第三次報告のための叩き台となり、日本の英語教育を前進させるために少しでも役立つことを願ってやみません。(二〇〇七年七月七日)

著者プロフィール

寺島 隆吉(テラシマ タカヨシ)

1944年石川県生まれ。東京大学教養学部教養学科(科学史・科学哲学)卒業。石川県立高等学校教諭(英語)を経て、金沢大学教育学部大学院教育学研究科(英語教育)修了。カリフォルニア大学バークレー校、コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジ、南カリフォルニア大学客員研究員、カリフォルニア州立大学ヘイワード校日本語講師。現在岐阜大学教育学部教授、英語教育応用記号論研究会(JAASET)代表。
著書:『学習集団形成のすじみち』(明治図書)、『英語にとって「音声」とは何か』『英語にとって「文法」とは何か』『英語にとって「評価」とは何か』『英語にとって「教師」とは何か』(以上、あすなろ社/三友社出版)、『センとマルとセンで英語が好き!に変わる本』(中経出版)。訳書:『チョムスキー21世紀の帝国アメリカを語る』『チョムスキーの「教育論」』『アフガニスタン悲しみの肖像画』(明石書店)、『衝突を超えて——9.11後の世界秩序』(日本経済評論社)など多数。

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