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トゥレット症候群ってなあに?
原書: Taking Tourette Syndrome to School
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2007年4月
- 書店発売日
- 2007年4月24日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
不意にへんな声を出したり,はげしくまばたきしたり,からだを動かしたり。これらはみなトゥレット症候群の主な症状。その特異な様子で周囲からはおかしな子といわれ,本人も自己評価をさげてしまう。そんな子どもたちについて,友だちや教師に理解を深めてもらうための一冊。
前書きなど
監修者あとがき
この本を読む前にトゥレット症候群(トゥレット障害という呼び方もあります)という言葉を聞いたことがあったでしょうか? トゥレット症候群という言葉は聞いたことがなくても、チックという言葉は聞いたことがあったでしょうか? うん、チックという言葉なら聞いたことがあるよ、という人がいるかもしれません。そのような方々のために、ここでもう一度この病気についてまとめてみたいと思います。
トゥレット症候群とはどんな病気でしょうか?
トゥレット症候群とは、小児期(平均発症年齢は8歳)に発症し、運動チックと音声チックとを主症状とする神経の病気です。
運動チックと音声チックとはどんなものでしょうか?
運動チックには、目をパチパチする、顔をしかめる、頭を振る、パンチをする、ジャンプをする、人や物に触るといったものから、あたかも野球のサインのように複雑な動きをするものまであります。音声チックには、鼻を鳴らす、のどを鳴らす、動物や鳥の鳴き声のような音を出すといったものから、汚言症(卑猥な言葉や暴言を吐く)、反響言語(人の言った言葉を繰り返す)、反復言語(自分の言葉尻を繰り返す)といったものもあります。チックは決して故意にやっているものではありません。また、その種類は千差万別です。
チックとトゥレット症候群とはどのような関係にあるのでしょうか?
トゥレット症候群はチック障害のひとつです。チック障害は大きく、一過性チック障害、慢性チック障害、トゥレット障害(症候群)に分けられます。一過性チック障害は運動チックや音声チックの継続期間が1年未満のものであり、慢性チック障害は運動チックまたは音声チックが1年以上続くものです。トゥレット症候群は運動チックおよび音声チックが1年以上続くものをいいます。
チックの原因は何でしょうか?
従来チックの原因は親の育て方や本人の気持ちの弱さにあると考えられていました。しかし、1960年代に神経の伝達物質であるドーパミンの受容体をブロックするハロペリドールという薬がチックをおさえることに効果があることがわかり、チックの原因は生物学的な問題だということが明らかになりました。すなわち、チックの原因は脳にあり、環境は誘因だということになります。
トゥレット症候群のどんな症状が生活上の困難をもたらすのでしょうか?
トゥレット症候群はチックを主体とした病気であり、チックそれ自体がこの病気の患者さんの生活を困難にしますが、じつはそれと同じくらい彼らの生活を困難にする問題があります。それは併存症です。トゥレット症候群には、不安障害(不安が過度に肥大し日常生活に影響を及ぼすようになったもの)、強迫性障害(不安障害のひとつ。自分でもばかばかしいと思いながらも意思に反してくり返しある考えがわき上がり、その考えを振り払うためにくり返しその行為をしてしまうこと)、注意欠陥多動性障害(ADHDとよばれ、年齢発達に不釣り合いな注意力散漫、衝動性、多動性を特徴とする行動の障害)、学習障害(LDともいい、全体的な知能と比較して、読む、書く、計算するなどの特定の機能にかぎって困難がある状態)、睡眠障害(不眠などにより日中の生活に支障が出ること)、気分障害(うつなど)などが高率に出現します。
トゥレット症候群はどのように治療するのでしょうか?
トゥレット症候群の治療は薬物療法が基本です。でも、トゥレット症候群の診断がついたら、すぐに薬を使わなければならないわけではありません。本人や周囲が困っている場合が治療の対象になります。先にも述べたように、トゥレット症候群の主症状はチックですが、さまざまな併存症があり、本人や周囲が困っている主な原因が併存症の場合もあります。また、薬の中には、副作用が強いものもあります。したがって、どの症状を治療の主目標におくのか、症状と薬の副作用のどちらが本人を困らせているのかを見極めることによって、どのような薬を使うのか、薬を使った方がよいのかどうかを決めることが大切です。また、広義の心理療法は補助的に利用するのがいいかもしれません。
トゥレット症候群の患者はどのくらいいるのでしょうか?
残念ながら、まだ日本では、トゥレット症候群の患者数に関する全国的な調査が行われていないので、正確な数はわかりません。しかし、欧米の調査を参考にすると、ほぼ人口1000人に1人、日本の人口を約1億人とするとトゥレット症候群の患者は約10万人いる計算になります。この数は、この病気の存在が社会的に認知されるにつれ、増える傾向にあります。
学校関係で問題となるのはどんなことですか?
トゥレット症候群の子どもたちの学校に関する問題はふたつあります。ひとつは不登校の問題であり、もうひとつは授業をふくめた学校生活に関する問題です。前にも述べたように、トゥレット症候群にはさまざまな併存症があります。強迫性障害による行動の遅延、睡眠障害による昼夜逆転、気分障害による抑うつ、不安障害による不安などが不登校の原因になります。学校ではチックのために授業に集中できなかったり、強迫性障害によりなかなか次の考えや行動に進めなかったり、注意欠陥多動性障害により授業に集中できなかったり、学習障害により読み書き・計算が困難だったりと教室での問題が生じます。また授業だけでなく、友だちや担任をふくめた学校関係者との人間関係にも支障をきたす可能性が出てきます。このように学校関係で生ずる問題の原因は、病気そのものによるものとそこから二次的に派生したものとがあります。
特別支援教育が開始されることでどんなことが変わるのでしょうか?
特別支援教育の基本はその子にあった教育をするということです。個々の子どもの特性を知り(評価)、学習の目標を決め(ゴール設定)、その子にあった学習計画を立てる(プログラム)。この一連の手続きを関係者が集まって建設的に行うことが大切です。つまり、トゥレット症候群という病気の特徴とそれがその子にもたらす障害を的確に知り、それに適切に対応することにより、無知から生ずる二次的障害を防ぐことが可能になります。たとえば、チックについて考えてみましょう。チックの原因は生物学的なものであり、その誘因が環境にあることを知り、環境を整えてあげたとしましょう。具体的には、教室内での机の位置を考えてあげる、チックがこらえきれなくなる前に教室から一時的に退出するのを許可する、個室試験を許可する、などがあります。こうすることによって、トゥレット症候群の子どもたちの学校生活は飛躍的に快適になります。また強迫性障害では、同じ場所を繰り返し読んでしまうので読書が進まない、自分が納得するまで書き直さなければならないので消しゴムで紙を破ってしまう、といったことがあります。そんなときにも、子どもたちの障害を理解し、本の内容を耳から聞かせてあげる、パソコンを使わせる、制限時間を設けないなどの工夫により、子どもたちは再び学習に取り組めるようになります。
今後どんなことが期待されるのでしょうか?
今後私たちがしなければならないことは次のふたつです。すなわち、長期目標と短期目標を立て、これを実行することです。長期目標は、トゥレット症候群の詳細な原因を究明し、根治療法をみつけることです。病気や障害がなくなってしまえば、それにこしたことはありません。しかし、これにはある程度の期間が必要でしょう。そこで、短期目標が必要です。それは、この病気や障害で日々苦しんでいる人たちが病気や障害をもっていても、今よりも快適な生活を送ることができるような方法を考えることです。そのひとつに彼らに対する医療・教育・就労・福祉サービスの向上を図ることがあります。
この本がトゥレット症候群に関心のある方々にとって、その存在と実態を知るためのお役に立つと共に、この病気およびその併存症をもつ人たちが少しでも快適な生活を送ることができることに貢献できれば、これ以上の幸せはありません。
NPO法人 日本トゥ
上記内容は本書刊行時のものです。