虐待・DV・非行に走る人の心を開く援助を求めないクライエントへの対応
クリス・トロッター, 清水 隆則:監訳
発行:明石書店
この版元の本一覧
A5判 248ページ 並製
定価:2,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2543-9 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年04月
書店発売日:2007年04月27日
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紹介

オーストラリアでの虐待や保護観察現場での研究結果を基に,自発的に援助を求めないクライエントへの効果的な援助方法を,具体的・総合的にまとめたもの。現場のワーカー,社会福祉・司法・教育関係の研究者や学生必読の一著。

目次

第1章 序 論
 1 意欲に欠けるクライエントとは
 2 意欲に欠けるクライエントにかかわるワーカーの役割の二重性
 3 直接的実践
 4 意欲に欠けるクライエントにかかわる際の知識基盤
 5 証拠基盤実践
 6 本書の目的
 7 本書の構成
第2章 どのような働きかけが有効で、何が有効でないのか
 3 守秘義務
 4 ケースマネージャー、ケースプランナー、それとも問題解決者
 5 クライエントの期待
 6 専門的な関係をクライエントに理解させること
 7 組織の期待
 8 かかわりへの理論的アプローチ
 9 事例
 まとめ
第4 章 向社会的効果を促進すること
 1 向社会的なコメントと行為の特定
 2 報酬を与えること
 3 向社会的行動のモデリング
 4 望ましくない行動への挑戦
 5 向社会的アプローチの長所
 6 向社会的アプローチへの批判
 要 約
第5章 問題解決
 1 問題解決プロセスの段階
 2 問題解決、リスクアセスメント、ケースプランニング
 3 問題解決アプローチへの批判
 要 約
第6章 関 係
 1 共感
 2 楽観性
 3 ユーモア
 4 自己開示
 5 クライエントの暴力
 要 約
第7章 家族ケースワーク
 1 集団としての家族へのかかわりは、いつ行うのが適切か
 2 協働家族カウンセリング
 3 家庭基盤モデル
 4 協働家族カウンセリングのプロセス
 5 向社会的モデリング
 要 約
第8章 評 価
 1 単一事例研究評価
 2 事例分析
 結 論
付 録──効果的な実践の原則
参考文献
あとがき

前書きなど

あとがき
 本書は、Working with Involuntary Clientsの全訳である。このinvoluntary clientsの訳であるが、これをどう訳すかわれわれは最後まで戸惑った。voluntaryとは、ボランタリー団体のボランタリーであり、「自発的な」「任意の」という意味である、これにin─『無』という接頭辞が付くわけであるから、involuntaryとは「非自発的な」、「非任意的な」という意味になろう。したがって、involuntary clientとは、直訳すれば、「非自発的なクライエント」、「非任意的なクライエント」となるが、もうひとつどういうクライエントなのか分かりにくい。そこで、本書をみるとinvoluntary clientの例として、虐待親、保護観察に付された犯罪者や薬物依存者、ドメスティック・バイオレンスの男性、他傷の精神障害者、非行少年などが挙げられている。このような人々は、一般に自ら進んで福祉機関、司法機関や病院のサービスを受けようとする意欲が乏しい人たちである。彼らは、サービスを不必要なもの、あるいは強制的で嫌なものと思い込んでいる。それでは、援助を求めようとしない人がなぜ福祉サービスを受けるのかと言えば、それは司法機関なりの命令によるからである。その背後には、当人はある行為を是としても、社会がその行為を認めない場合が存在するからである(そのような状況のクライエントであっても、意欲的に進んでサービスを受けようとする人もまったくいないことはない。そのあたりの考え方については、本書第2章の「非自発的なクライエントの定義」の項目を参照)。
 しかし、このような事情を一言で、また簡単な形容詞で言い表す熟語が見当たらないのである。そこで、今回の訳では、「非自発的クライエント」あるいは「意欲に欠けるクライエント」という言葉をいわば、暫定的に用いざるを得なかった。
 このような場合のクライエントを名指す言葉が、見当たらない、また熟していないということは、ソーシャルワークなり社会がそのような人々への対応をあまり自覚していない証しではないであろうか。もちろんこれは、ソーシャルワークなり社会がそのような人たちの存在と問題を無視したり、問題視していないという意味ではなく、どう対処してよいのか分からない面と、各分野の縦割り的対応の発想が強いためかもしれない。一般社会はともかく、社会福祉的援助の方法であるソーシャルワークは、そのような「非自発的なクライエント」にも働きかける社会的責任がある。しかし、そのような働きかけの方法は、それほど進展していないようである。
 もちろん、そのようなクライエントへの対応は、従来から、「処遇困難ケース」「多問題家族」や「接近困難ケース」として論じられてきた。その方法は、アウトリーチであるとか、司法の権威の利用であるとか、複雑な家族カウンセリングの活用などであって、立証性ととくに体系性に乏しいものであった。またより根本的には、ソーシャルワークとくにケースワークが、元々どちらかというと「voluntaryなクライエント」を前提に構築されてきた経緯があるため、「involuntaryなクライエント」への対応は、「問題ケース」という言葉の通り特殊的、例外的なものと位置づけられる傾向があるためかもしれない。しかしながら、今日、現場においては、ますます「involuntaryなクライエント」への対応に迫られているのではないであろうか。児童虐待の親しかり、保護観察中の犯罪者しかり、薬物依存者しかりである。本書には出てこないが、ホームレスの中には、行政や他者からのかかわりを忌避するような人もいるであろう。(働ける条件が整いながら)働く意欲の少ない生活保護の受給者やニートにはどう対応すればよいのであろうか。私の現場体験からも、「involuntaryなクライエント」にかかわる例は多々あるが、それ向けの対応マニュアルやガイドも、トレーニングや研修もほとんどないのが現状ではないであろうか。それに対して、近年、児童虐待の親や犯罪者、(他傷、自傷傾向の)精神障害者などの適切な処遇を求める社会の要請は、ますます強くなる傾向にある。現場のワーカーとしては、ますます対応に苦慮せざるを得ない状況に追い込まれよう。なぜ苦慮するかというと、そのような社会の要請とクライエントの自由をどう調和させるかという方法が定かでないからである。このような状況の中、われわれは、「involuntaryなクライエント」へのケースワークを体系的に論じた本書に注目した。
 著者のChris Trotterは、オーストラリアMonash大学のソーシャルワークの助教授であるが、本書を読んでいただいても分かるが、児童虐待や保護観察の現場の実情にも明るい人である。叙述は極めて明快で、日々のケースワークに役立てて欲しいという著者の願いどおり分かりやすい。またその方法は、調査によって実証済みのものを用いており、実用に供しやすいものである。といっても、本書は単なる実用書ではなく、ソーシャルワークの本質的立場から、クライエント中心主義が貫かれたソーシャルワークの学術書である。
 すなわち、「involuntaryなクライエント」が「voluntaryなクライエント」になるということは、単に行政の都合のよいクライエントになるという意味や不当にクライエントの自由に介入するという意味ではなく、あくまでクライエントの本来的な利益にかなうためである。

訳者を代表して
清水 隆則

著者プロフィール

クリス・トロッター(トロッター,クリス)

 著者Chris Trotterは、1946年生まれ。2003年よりオーストラリアのMonash大学のソーシャルワークの準教授である。それ以前の職歴として、児童保護チームのリーダーや保護観察の地区マネジャーを経験している。所属学会は、オーストラリア・ソーシャルワーカー協会とオーストラリア・ニュージーランド刑法学会である。
 本書以外の業績として、『被虐待児とその家族への援助──証拠基盤実践モデル』(2004)、『少年司法における家族カウンセリング』(2003)、『人々を考える──効果的な変化』(2001)がある。なお、本書は、2001年にドイツ語に翻訳されている。

清水 隆則(シミズ タカノリ)

1977年大阪大学人間科学部卒業
大阪市福祉事務所ケースワーカー、保健所職員などを経て、
1995年吉備国際大学社会福祉学部社会福祉学科助教授
1999年龍谷大学社会学部地域福祉学科助教授
現在、龍谷大学社会学部地域福祉学科教授
著書・訳書
共編著『社会福祉実践とアドボカシー』中央法規出版、2004年
共編著『ソーシャルワーカーにおけるバーンアウト』中央法規出版、2002年
共監訳『地域福祉とケアマネジメント』筒井書房、1998年
共監訳『コミュニティソーシャルワーク』川島書店、1993年
共訳『障害者と自由』中央法規出版、1994年など

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