「責任ある豊かさ」のために開発の思想と行動
ロバート・チェンバース, 野田 直人:監訳
発行:明石書店
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四六判 540ページ 上製
定価:3,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2495-1 C0336
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年02月
書店発売日:2007年02月14日
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紹介

「豊かさには責任が伴う」「他者の権利を守るというより,自らの義務を果たそう」。援助する側・される側の関係を考え続けてきたチェンバース氏が,開発ワーカーとしての自身の人生を振り返り,そして未来を見据える。

目次

まえがき
謝辞
用語解説
第1章 言葉と概念——コミットメント、継続性、不可逆性
 1 経験から学ぶ
 2 開発、概念、言説(二〇〇四年)
第2章 援助と行政能力
 1 希少資源としての行政能力——援助と開発の課題(一九六九年)
 2 援助の政策と実践を再考する(二〇〇四年)
第3章 手続き、原則、そして権力
 1 過去からの教訓を思い起こそう(一九七四年)
   出発点と進むべき方向(Managing Rural Development 一九七四年からの引用)
 2 エンパワーするための手続きと原則(二〇〇四年)
第4章 参加——振り返り、反省、そして未来
 1 参加——レトリックと実際(一九七四年)
 2 適用、可能性、そして変化(二〇〇四年)
第5章 PRA、参加、そして規模の拡大
 1 規模の拡大を最適化する(一九九五年)
 2 経験、教訓、そして前途(二〇〇四年)
第6章 ふるまい、態度、その彼方
 1 ふるまいと態度——農業科学の死角(一九九八年)
 2 学びと変化を求めて(二〇〇四年)
第7章 未来のために
 1 責任ある豊かさ——開発のための個人的課題(一九九五年)
 2 開発を変えるために(二〇〇四年)
訳者あとがき
略語及び組織と住所一覧
参考文献

前書きなど

まえがき
 本書の着想は、ジョナサン・シンクレア・ウィルソンから得た。当初は、これまで私が執筆したものの選集を予定していたのだ。そこで私が今まで開発に関して書いたもののうち、これまでなおざりにされてきたテーマや、十分理解されていないと思われるテーマを選んだ。これらを一冊の本にまとめるくらいは、簡単ですぐに済むものだと思っていた。しかし、これがなんとも間違っていた。執筆当時から後におきたことを反映させ、コメントし、そのうえ将来について考えなければならないことが、まもなくわかった。
 この作業は楽しかった。しかし、書き、読み、また助言を求めるごとに、更に考え、述べなければならないことが増えた。多くのことが変化してしまい、また、変化し続けていた。世界のさまざまな地域からの洞察と新しい経験を得ながら、仲間たちの業績についていこうと奮闘し、現在も苦心している。確かに、継続しているものもある。以前執筆した内容にさほど異論がないことに驚き、むしろ不安すら感じるほどである。しかし、新しい意味づけや物を見る角度が必要となり、予想外の展開や、新しい物事のやり方、新しい言葉や概念、新しく認識された優先事項なども多々あった。これまでの著作は出発点であった。再考し省察することによって、新しい疑問や方向性がでてきた。
 読み、省察し、執筆することは楽しかったが、私はこの本を今の時代背景から切り離すことができない。私たちの世界でこれまで為されてきたことと、また今後為され続けられることに対し、非常に憤りを感じている。この悪夢が現実であるとは信じがたい。力、強欲、妄想、拒絶、無知、愚行がますます支配的となり、表裏一体のテロリズムと原理主義とによって煽られている不気味で不公平なシステムに陥っている。一部のキリスト教徒にとっては、特にアメリカでは、山上の垂訓や善きサマリア人の喩えが聞き入れられる余地はないという背徳の様相となって現れている。米国政府は人々を奮起させるような責任あるリーダーになり得るし、またなるべきであるのに、京都議定書や国際司法裁判所(訳注:実際は国際刑事裁判所のことと思われる)の批准を拒否し、パレスチナに対抗するイスラエルを支援して国連を侮辱し、英国とともにイラクに不法に侵攻し、自分勝手で残忍な世界の“がき大将”として傲慢に振舞っている。これらの行動はたとえ大いに悲劇的でないとしても、哀れみを誘うものであろう。私のように英国で生まれたものの多くにとって、「私たち」の政府が、私たちの抗議にもかかわらずこの愚行のいくつかに同調しているのには、憤りを感じ、恥ずかしく思う。同時に私たちは、人々と彼らの政府とを完全に区別しなければならない。
 本書の関心がこのような重要な問題からそれているように思う人もいるだろう。読者は「なぜ、アメリカやEUの農業補助金や、軍備、気候変動、企業による搾取、汚職、通貨投機、漁業資源の乱獲、森林破壊、軍縮、麻薬取引、米国および英国の選挙制度、政党寄付金などの問題を取り扱わないのか?」と問うかもしれない。これだけ並べても、まだアルファベット順では「f」までしかきていない。また、「なぜ、もっと貧困や、搾取、人権侵害について焦点をあてなかったのか? なぜ、京都議定書、フェアー・トレードや社会監査、トビン税(訳注:投機的な外国為替取引を対象とした課税案)、航空燃料税、国連機能の強化、企業の説明責任、米国や英国におけるより民主的な投票制度についての解決策にふれなかったのか?」と問うかもしれない。
 これには三つの理由がある。第一に、すべてを一冊に書くことはできないということ。第二に、自分自身が比較的無知ではないテーマについて書くことが理にかなっているということ。第三に、これが最も重要であることだが、これらの大きな問題すべては、個人のレベルにおいて立ち向かうべきもの、また、立ち向かえるものであるという点だ。つまり、人々が態度を変え、行動することを通して、これらの問題に対処し、解決策を得、合意し、実施できるのだ。この点で、私たちすべてが、いかなる挫折や失望があろうと、行動し世界を変えるために働きかける主体的行為能力(Agency)と能力を持っている。
 よって、本書「Ideas for Development」では、直接的には政治や、貿易、債務、国際関係、ガバナンス、北の農業補助金や、最新の略語であるPRSP(poverty reduction strategy papers:貧困削減戦略文書)やMDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)について書いていない。しかし、間接的には、これらすべてのことについて関係し、個人や集団の働きかける力を通して、人々が行動をとることによって、これらに作用することができる。もし開発が善き変化とするならば、主体的行為能力と力が開発の鍵となる。これは、より力と富を持つ者にあてはまる。なぜならば、こうした人々は私たちの地球に責任を持って行動し、より弱く貧しい人々をエンパワーすることで、より善く生きるという選択ができるからだ。また、より弱く貧しい人々にもあてはまる。というのは、彼らは、共同で新旧のやり方を組み合わせ、悪しき潮流に抗い、反転させることができるからだ。また、彼らだけでなく私たちすべてのために、より公平で、安全で、人間味のある、充実した世界の実現にむけ奮闘することができるからだ。
 現代にいる人間として、かつてないほどにすべてを共にしている。つまり、私たち人間は、それぞれの状況は大幅に異なるにしても、例えばグァンタナモ湾で収容され拷問を受けている若い男性であったり、首都で現状に甘んじているお金持ちの企業家であったり、アフリカの紛争の中にいる少年兵であったり、OECD各国の中流階級の子ども達であったり、廃物を探し求めるやせこけた人々であったり、吐き気がするくらいお腹がいっぱいのでっぷりと太った人々であったり、悪を見る人であったり、善を見る人であったり、憎む人であったり、愛する人であったり、原理主義者であったり、超宗派主義(ecumenicals)であったり、信じる者であったり、懐疑論者であったりと、人々や、文化、言語、信仰や信条は万華鏡のように異なる。すべての違いを前提にしてもなお、私たちの共通点の方がまさっているのだ。例えば、私たちの居住地としての地球(グローバル・ハビッタット)、すばらしい遺伝子、頭脳、思想の妙、自分たちを省察する能力、寛大さと利他主義により、身勝手さや強欲を覆す潜在能力などだ。

 題名としては、「Ideas for Development」には二つの意味がある。開発を考える際、あるいは行動をとる際に利用でき得るアイデアという意味と、より控え目な意味で、今後発展すべき余地があるアイデアに留まっているという意味だ。分析にあたっては、実践的な理論に貢献するよう、また行動をおこす際に役に立ち、理解が図れるようにしている。開発と呼ばれるプロセスをいかによりよく行うかを考えようと努力した。課題、質問、提案は、ある意味、開発の専門家である私たちすべてに向けられている。従来の境界線はない。異なる場所にいる多くの人々に役立つ本でありたいと思うのは、書き手の典型的な嗜好で、たいていは勝手な思い込みに近い。本著の場合、あえて広く網を投じることを許していただき、さまざまな異なる観点を持つ、開発に関連するすべての職業と専門分野にいる実務者、研究者、教師や学生を対象としている。とりわけ、融資機関や援助機関、政府、現地NGOや国際NGOで働く人々を対象としている。業務部にいようが会計や人事部にいようが、本部や現地にいようが、本書の多くのテーマは私たちすべてに関係している。
 読者に本書の構成について注意を喚起したい。各章の第一部は、過去の背景の下で書いたものである。第二部は、それ以降に起こったことを振り返り、未来にむけてのアイデアを提供している。各部の頭にある字下げで書かれた要約を読めば、本書全体の概観がわかる。見出しは、複数の章にまたがるトピックをたどりやすくなるよう意図した。ある用語に対する意味には一貫性を持たせるように試みたが、用語解説がその手引きとなろう。用語解説と参考文献を見れば、読者はさらに調べることができよう。
 本書には偏見や限界がいくつか内在することを読者に警告したい。私の開発における現場の実務経験は、東アフリカと南アジアにほぼ限定されている。引用した例は、主にサハラ砂漠以南のアフリカやアジアからで、カリブ海地域から少々、そして、ラテンアメリカからの引用はほとんどない。さらなる弱点として、私は楽観主義と情熱に対して至って弱く、不快なものや争いよりも、たいていはより善く、将来が明るく、共感できるものに目を向けがちだ。証拠なき主張をする私の傾向は、心配なことに年を重ねるにつれ強くなってゆき、加速的に変化している現在の世界においては時に危険であろう。戦争や、貧困、力や強欲の恐怖や不公正に対し、私たちが充分に行動をとると同時に、楽しめる方法を探さずにはいられない。

 書くことを通して、古いものに新しい光をあてることができた。探求と発見の経験でもあった。書き、振り返り、書き直すという作業において、現在進行中で徐々に発展している論議や討論によって刺激を受け、見識を得た。多くのアイデアは他者から得た。このすべての過程を経て、次の三つの大筋、もしくはテーマが浮かび上がった。
 第一に、“言葉と実践的な概念”である。コミットメント、継続性、そして不可逆性(第一章)そして、行政能力(第二章)が、意思決定時や行動をおこす際に十分に理解されず、また利用されず、評価されていない旨を論じている。調和や力、関係性が、開発の新しい課題の一つとして捉えられている(第七章)。
 第二の大筋あるいはテーマは、“組織の変革”である。今後の可能性として、手続きを工夫・変更し、原則を適用して改善することについて述べている(第三章)。また、すべてのレベルにおける参加や、無数の想像力を駆使した応用(第四章)、規模の拡大に関する課題やその行動に対するよりよい理解(第五章)についても述べている。
 第三のテーマは、“主体的行為能力と省察性”についてである。主体的行為能力は、個々人が、それが誰であれ、またどこにいようとも(独房にいる人を除いては)影響を及ぼすことができることを意味している。省察性は、知識を構築する上でのその人の性質、人間関係、相互作用を批判的に自覚することを指す。私たちは、自分自身や自分の物事の考え方、信条や価値観について省察することができる。私たちの態度とふるまい(第六章)は、開発の基礎であるが、いまだに大部分が見落とされている。特に力と富を持つ側において、主体的行為能力をうまく駆使し、私たちの行動と非行動の影響を省察することによって、責任ある豊かさ(第七章)を増大することができるのだ。
 本書のアイデアは目的地ではなく、方向性を示している。誤った道に至らせる部分もあるだろう。行動や、省察、学習や善い変化へといざない、道しるべとなり、飛躍への一助となればと願っている。開発においては、私たちは絶え間なく変化している状況下で生きていく。向上するためには、常に学び、また一度学んだものを捨てる必要がある。常に旅を続け、決して到達することはないだろう。開発のためのアイデアは、常にその時代背景の産物となろう。ほんの少しずつではあるにしろ、本書のアイデアのいくつかが私たちをさらに向上させてくれるように願うことを許してほしい。

二〇〇四年六月
ロバート・チェンバース

著者プロフィール

ロバート・チェンバース(チェンバース,ロバート)

イギリスのサセックス大学開発研究所研究員。第三世界における農村開発の実践・研究両方において長年の経験をもつ。ケニア、ボツワナ、スリランカ、インドで働いたほか、アフリカとアジアのその他の国々で農村開発のコンサルタントの仕事に携わる。
著作
Settlement Schemes in Tropical Africa(1969)
Managing Rural Development(1974)
Rural Development: Putting the Last First(Longman Scientific & Technical, 1983.『第三世界の農村開発 貧困の解決──私たちにできること』明石書店、1995年)
Managing Canal Irrigation: Practical Analysis from South Asia(Oxford and IBP, New Delhi, and Cambridge University Press, 1988)
Challenging the Professions: Frontiers for Rural Development(Intermediate Technology Publications, London, 1993)ほか。
Whose Reality Counts?: Putting the First Last(Intermediate Technology Publications, 1997.『参加型開発と国際協力──変わるのはわたしたち』明石書店、2000年)
Participatory Workshops(Kogan Page Ltd, 2002.『参加型ワークショップ入門』明石書店、2004年)

野田 直人(ノダ ナオト)

(有)人の森代表取締役。元国際協力機構派遣専門家。青年海外協力隊を皮切りにラテンアメリカ、アジア、アフリカ各地で開発協力に従事。専門は参加型開発と社会林業。地域開発・国際協力メーリングリストを主宰。ロバート・チェンバース著『参加型開発と国際協力』(明石書店、2000年)及び『参加型ワークショップ入門』(明石書店、2004年)を監訳。自著に『開発フィールドワーカー』(築地書館、2000年)『タンザナイト──僕の職場はタンザニア』(風土社、1999年)など。

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