発行:明石書店
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A5判 480ページ 上製
定価:8,000円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2480-7 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年01月
書店発売日:2007年02月01日
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紹介
外国で暮らす人々にとって日本人であることはどのように意識化されるのか。また,その意識はどのように規定され変遷していくのか。本書はこうした観点から日本人としてのナショナル・アイデンティティに焦点を当てて実施した調査研究を基に,分析・論述したものである。
目次
はじめに
第1部 アイデンティティとは
第1章 アイデンティティ考──その強さと弱さ
第2章 アイデンティティを希求する社会
第3章 日本人アイデンティティの変遷
──日本人からアメリカ人への道程
第3章資料:アリゾナに住む日本人事例
第2部 フランス・パリに住む日本人のナショナルアイデンティティ
第1章 在仏日本人調査──問題の所在と調査方法
第2章 質問紙調査に見る日本人集団の特質
第3章 パリの日本人のアイデンティティ
──どのような人が何を思いパリで暮らしているか
資料編
資料1-1 フランス在住者質問紙調査結果の概要
資料1-2 フランス在住者質問紙調査(単純集計表)
資料2 フランス在住者インタビュー集
1. 立体造形作家(男性、44年)
2. 建築家(女性、35年)
3. ガイド派遣会社経営者(男性、33年)
4. 日本語新聞編集者(女性、31年)
5. 美術ガイド(女性、29年)
6. 画 家(男性、27年)
7. 日本人会職員(男性、25年)
8. 画 家(男性、24年)
9. 店舗経営者(男性、23年)
10. 元旅行会社社員(女性、22年)
11. 塾経営者(男性、21年)
12. インフォメーション関係者(男性、21年)
13. 日仏交流機関職員(女性、20年)
14. 免税品店店員(女性、16年)
15. 元和食レストラン・マネージャー(男性、16年)
16. 国際機関職員(女性、12年)
17. 日本企業社員(女性、11年)
18. 語学学校学生(女性、4年)
19. 大学院学生(女性、4年)
20. 国際機関職員・官庁派遣(女性、1年6カ月)
21. 国際機関職員(女性、1年6カ月)
22. 日本大使館書記官(男性、6カ月)
研究を振り返って──フランスと日本社会
参考文献
前書きなど
はじめに
本書の目的
生まれた国と異なる社会で暮らしている人びとにとって、日本人であることはどのように意識化されるのであろうか。そして、外国という社会状況・環境でナショナルアイデンティティはどのように規定され変遷していくのか。本書はこのような観点から日本人としてのナショナルアイデンティティに焦点を当てて実施した調査研究をとりまとめ、分析し論述したものである。
社会に依拠するアイデンティティの一つとしてのナショナルアイデンティティ。スミス(Smith, A. D.)は、国民とはイメージとして人の心に描かれた「想像の政治的共同体」であり、この想像の共同体を維持するには共通の「神話・記憶・象徴・価値」が必要という。しかし、現代社会では、国民、国家といった社会全体の共通の価値観、そして「大きな物語」を日本人というカテゴリーに属する人びとがみな共有しうるという共同幻想をもつことは難しくなってきている。多様化した価値観のもとに分断されたコミュニケーションは個人をばらばらなものにし、それぞれに自分の物語を生み出すことを課す。人びとは自分で複数のアイデンティティを選択しなければならない時代なのである。
生活や教育を通じて培われた「国民」。グローバリゼーションの中で、このような日本人としてのアイデンティティは、コスモポリタニズムといった価値観や、ライフスタイルといった個人の生き方の中で目に見えないものとなっていくのであろうか。あるいは、逆に、より意識的に日本人であることが重要かつ強調されるものになっていくのであろうか。そして、その場合共通の「神話・記憶・象徴・価値」はどこに求められるのか。これらの問いを調査研究の中で明らかにしたいというのが当初の研究目的であった。
日本人のナショナルアイデンティティは、そのラベルを付与されざるを得ない外国に暮らす日本人集団を対象に、その特質を考慮することでより明白になる。自己の認識は他人の存在を必要とする。日本社会の中で日本人であることを語るのは、自己を相対化できない危うさが存在するであろう。その意味で、日本人のナショナルアイデンティティの調査研究で出会った人びとは、日本の外側から距離を置いて、現在の日本社会や教育を考え、「国際社会を生きる教養ある日本人」というものがどのようなものであるかを直接・間接的に語ってくれている。強い「個」であることを要求する欧米社会の中で生活する人びと、特に20年を超えてその地に暮らす人びとの声は、日本人であることの意味を語り、国際化とはどういうことかといった視点を提供しうる。その声は、今後国際的な環境で生きていくことが期待される子どもたちに対する教育への示唆を含むものでもある。
本書の中核を占める在外日本人の調査は、パリに住む日本人対象の調査研究を行うことを企図し申請した2度の科学研究費補助金により可能になったものである。質問紙調査(量的調査)は、「日本人の社会的アイデンティティの構造──国際社会における教育の視点」(奨励研究〔A〕課題番号11710163、研究代表者:岩崎久美子、平成11〜12年度)、インタビュー調査(質的調査)は、「在外日本人の自我構造と社会的アイデンティティ──国際化社会における『個』とは何か」(基盤研究〔C〕課題番号13610341、研究代表者:岩崎久美子、平成13〜15年度)により実施した。後者のインタビュー調査は、平成11年度から12年度に実施した質問紙調査結果を相補する意図で計画された。質問紙調査のような量的調査と、インタビューなどの質的調査を複合的・相補的に実施し、リアリティに近づく研究手法をトライアンギュレーション(三角測量)というが、継続的な科学研究費補助金の受給がなければ、質問紙調査のみで終了し、厚みのある複眼的な研究計画は実現できなかったであろう。その意味でも、この二つの異なる調査手法によりパリという地で取得した研究データは、代表者としては、貴重でかつ思いの深いものである。
本書の構成
本書は、第1部がアイデンティティについての論考、第2部がフランス・パリをフィールドにした調査結果と分析から構成されている。
第1部では、日本人としてのアイデンティティがどのように捉えられているか、それぞれの執筆者が自分の海外滞在・勤務体験から導かれた問題意識に依拠し、日本人のアイデンティティについて論述している。第1章では「アイデンティティ」という言葉の定義から敷衍し、ナショナルアイデンティティの問題を国際社会における民族や言語から検討し、第2章では、ポストモダンの時代に「大きな物語」を共有できずアイデンティティにゆらぐ現代人の問題に関する文献レビューを、また、第3章では国際結婚しアメリカで約40年研究者として生きてきた日本人のアイデンティティの変遷事例を掲載した。
第2部は、フランス・パリをフィールドにした調査結果と分析から構成される。第1章では日本で国際化の意識を醸成する際の困難、日本人にとっての「個」の問題、フランス人や日本人のイメージなどのフランス調査における問題関心(研究の目的)と具体的な調査・研究方法に言及した。第2章では質問紙調査(量的調査)の結果からフランスの日本人集団の特質について論述してある。第3章はインタビュー調査(質的調査)の回答を織り交ぜながら、パリに生活する日本人を四つの滞在ステイタス(「初志貫徹型」「中途変更型」「モラトリアム型」「派遣職員型」)に分類し、また日本人集団への心理的コミットメントと機能(情緒安定)、時系列的な心理的変化などを明らかにしようと試みた。
(中略)
総じて、本書は、教育を通じ日本人の共通のイメージをどう形づくるか、「個」に応じた教育が喧伝される中で、「個」を日本的文脈でどのように解釈すべきなのかの問いにさまざまな観点から解答を試みようとする。欧米の個人主義のもつ重みや責務に直面しながら暮らしている在外日本人、その存在や声は、近視眼的になりがちな私たちにこれからの日本社会や教育を考える理性的な議論の材料を提供してくれるものであろう。
時間と労力、善意と好意からできあがった研究成果である。本書が、日本人であることの意味について、それぞれの立場に応じて考える契機を与えうるものとなれば幸いである。
2006年 晩秋
岩崎 久美子
著者プロフィール
岩崎 久美子(イワサキ クミコ)
国立教育政策研究所・生涯学習政策研究部・総括研究官
UNESCO/IIEP(パリ・ユネスコ教育計画研究所)アソシエートエキスパート等を経て、1993年、国立教育研究所に赴任、2003年10月から現職。
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