発行:明石書店
この版元の本一覧
四六判 384ページ 上製
定価:4,000円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2472-2 C0336
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年01月
書店発売日:2007年01月09日
※版元より営業日2~5日でお届けします
※お支払いは郵便振替(到着後後払い)・クレジットカード(VISA、MasterCard、DC、JCB、AMEX、Diners、Nicos、UFJ)がご利用になれます
他のオンライン書店で購入※リンク先の書店では、お取り扱いしていない場合があります。あらかじめご了承ください
アマゾン|boople.com|紀伊國屋BookWeb|ブックサービス|ビーケーワン|セブンアンドワイ|e-hon|楽天ブックス|文教堂Jbooks|ライブドアブックス|本やタウン|Yahoo!ブックス|ツタヤオンライン|ファミマ・ドット・コム:ブック
紹介
西欧のグローバリズムとイスラームの宗教伝統の共存は可能か。2005年9月デンマークの新聞によるムハンマドの風刺画掲載に対してイスラーム諸国で激しい抗議行動が起こった。本書は世界各国および宗教組織による対応を辿り,事件が浮き彫りにした問題群に迫る。
目次
はじめに——「ムハンマドの風刺画」事件の射程(森 孝一)
1 「ムハンマドの風刺画」事件の概要と各地域からの反応
〈1〉EU(ヨーロッパ連合)
風刺画問題の背景を探る(ミシェル・モール)
〈2〉デンマーク
氷山の下に隠された危機(ティム・イエンセン)
〈3〉イラン
文明の衝突と対話の狭間で(富田健次)
〈4〉イスラーム過激派
問題顕在化前後の声明を比較検証する(高岡 豊)[高=口ではなくハシゴ]
〈5〉エジプト
政府・国民を挙げての平和的抗議運動(サミール・ノーフ)
〈6〉アラビア湾岸諸国
対話の前提となるイスラームとの共存の承認(四戸潤弥)
〈7〉東南アジア
国家—宗教関係が投影された反応(見市 建)
〈8〉イギリス
言論の自由とその曖昧な限界(ジョン・S・ロブレグリオ)
〈9〉ドイツ
メディア・宗教界・政界の論争(マルティン・レップ)
〈10〉ヴァチカン/世界教会協議会
ムスリムとの対話推進に向けての課題(小原克博)
〈11〉イスラエル
風刺画問題とホロコースト問題(小久保乾門)
2 「ムハンマドの風刺画」事件の分析
〈12〉幻想の自由と偶像破壊の神話
イスラーム法学からのアプローチ(中田 考)
〈13〉ムスリム社会の現況と課題
事件への反応とその批判的検討(ナディーム・アミーン)
〈14〉表現する自由と表現しない自由
ショアー、反ユダヤ主義とのねじれた関係(菅野賢治)
〈15〉報道の自由と人種差別反対主義のバランス
キリスト教世界とアメリカの反応から(シャンタ・プリマワーダナ)
〈補説〉ローマ教皇によるイスラーム発言の背景
教皇ベネディクト一六世の「ヨーロッパ」理解(森 孝一)
あとがき
索 引
前書きなど
はじめに
「ムハンマドの風刺画」事件の射程(同志社大学一神教学際研究センター長 森 孝一)
二〇〇五年九月、デンマークで発行部数第一位の新聞『ユランス・ポステン』は、一二枚の「ムハンマドの風刺画」を掲載した。これに対して、世界各地域のイスラーム国において、激しい抗議行動が展開された。
本書においては、新聞に掲載された「ムハンマドの風刺画」を掲載することはしない。掲載を控える主な理由は、この「ムハンマドの風刺画」が世界のイスラーム教徒(ムスリム)の心をひどく傷つけたという現実があるからだ。
一二枚のうち、とくに世界のムスリムたちを憤慨させた二枚を紹介する。その一枚は、イスラームの創始者であり、ムスリムにとっては、神(アッラーフ)の啓示を受けた「最後の預言者」であるムハンマドの顔を描いたもの。その頭に巻かれたターバンは爆弾に模されており、ターバンから伸びた導火線はすでに点火されている。
もう一枚は、ムハンマドが天国で雲上に立ち、二人の自爆攻撃によって殉教した若者を迎えている。この風刺画には「待て、処女はもういないぞ!」という言葉が添えられている。自爆攻撃による殉教者は、死後、天国で多くの処女たちに迎えられるという教えを揶揄しようとしたのだろう。
私はインターネットのウェブサイトでこれらの風刺画を見たが、イスラーム教徒ではない私にも、悪意に満ちたものに感じられた。ムハンマドや宗教としてのイスラームを短絡的に「テロ」と結びつけ、すべてのムスリムがテロリストであるという印象を与えようとしていると、世界のムスリムたちは感じたに違いない。
イスラーム世界における抗議行動の一部が、大使館への襲撃という暴力的な手段へと展開したこともあって、イスラーム世界からの抗議に対するデンマーク政府の反応は、最初は抗議に耳を傾けるのではなく、むしろ硬直化したものであった。それは「表現の自由を守る」という立場から、批判に対して反撃を行うというものであった。
「ムハンマドの風刺画」事件について、日本のマスメディアは風刺画を掲載しないという立場を貫いた。これはアメリカ合衆国も同様であり、結果としては、その判断は正しかったと考える。しかし想像するに、掲載しないという判断は、掲載することの結果として、イスラーム世界から出てくることが予想された批判や攻撃を恐れたからであり、この問題の背後にあるヨーロッパの複雑な歴史的・社会的現実や、信仰や宗教を尊重することと「表現の自由」の関係を十分に考慮したうえでの判断であったとは思えない。
日本のマスコミによるこの事件の報道は断片的なものであった。その断片とは以下のようなものである。ムハンマドの風刺画がデンマークの新聞に掲載された。それに対して、イスラーム世界では大使館への攻撃を含む激しい批判が起こった。批判を受けたデンマークを含むヨーロッパのいくつかの国においては、「表現の自由」を守るという立場から、風刺画の再掲載の動きが見られた。
このような断片的な報道によって、多くの日本の読者は次のような印象を与えられたのではないだろうか。「表現の自由」という基本的人権と民主主義の根幹は、たとえイスラーム世界からの批判があったとしても守られなければならないものであり、それに反対するイスラームは「反近代的」な宗教である。
実はこの「ムハンマドの風刺画」事件は、日本において考えられている以上に、今日「ヨーロッパ」が直面している重要な課題と直接的に関係している。それは統合を進めようとしているEU(ヨーロッパ連合)が解決しなければならない「『ヨーロッパ』とは何なのか」というEU統合の理念そのものについての根本的な問いである。
イギリスとスペインにおける「テロ」、イギリスのムスリム住民による航空機爆破テロ未遂事件、フランスにおけるムスリム住民による暴動、サッカー・ワールドカップでのジダン選手の頭突き、そして「ムハンマドの風刺画」事件と「ローマ教皇によるイスラーム発言」が明らかにしているように、EU統合を進めている「ヨーロッパ」にとって、「自らをどのように理解し、規定するのか」という問題は、EU統合の成否を左右しかねない緊急の課題である。
EUの構成員である個人あるいは国家が、普遍主義的にEUという地域共同体により比重を置いて自己規定を行うのか、あるいは反対に個別主義的に、国民国家により比重を置いて自己規定を行うのかという問題は、EU統合の最初からの重要な問題であった。
しかし近年、個別主義と普遍主義の問題とともに、「国家を超える地域共同体としてのEUとは何なのか」という「EU理念」それ自体が根本的に問題とされている。このEU理念をめぐる問題は、トルコのEU加盟をめぐる議論や、欧州憲法の前文に「キリスト教の伝統」という言葉を入れるべきかどうかをめぐる議論に象徴されるように、「アブラハム宗教」(Abrahamic Religions)と呼ばれる三つの一神教(キリスト教・イスラーム・ユダヤ教)と深く関わっている。同時に、この問題は以下の章が明らかにするように、今日のヨーロッパにとっての根本的価値観ともいうべき啓蒙主義の伝統に立つ「世俗主義」(反宗教)と「宗教伝統」の共存と対立の問題にも関係している。
「『ヨーロッパ』という自己理解」がEU諸国にとっての緊急の課題となった原因は、ヨーロッパ諸国におけるムスリム移民とムスリム系市民の増加であることは明らかである。
「表現の自由」を含む基本的人権の尊重、民主主義、多文化主義というEUにとっての基本的理念は、イスラームの宗教伝統と共存できるのか。イスラーム世界(ウンマ)内にとどまることなく、異なった価値観をもつ文明世界に移り住んだムスリムは、異なった価値観とどのように共存していくのか。西欧のグローバリズムとイスラームという宗教伝統はどのように関係し、どのように共存できるのかは、EUだけの問題ではなく、今日の世界が直面している最重要の課題でもある。
イスラーム世界からの批判に対して、「表現の自由」への侵害であるとして、「ムハンマドの風刺画」の新聞掲載の権利を守ろうとするEU各国に対して、イランは「ホロコースト」を批判することを禁止している西欧世界とイスラエルを取り上げて、EUやイスラエルにおける「表現の自由」が虚構であると主張し、「ホロコーストの風刺画」のコンテストを行うと世界に向けて呼びかけた。
とくに第二次世界大戦後のヨーロッパは「ホロコースト」という歴史的トラウマを抱えており、つねにこれを意識しつつ、自己規定を行ってきた。「ホロコースト」の背景には、ヨーロッパにおける伝統的な「反ユダヤ主義」が存在している。「ムハンマドの風刺画」事件は、EU対イスラームの枠組みを超えて、もう一つの一神教世界であるイスラエル・ユダヤ世界をも巻き込むものとなっている。
本書は二部から構成される。第一部は「ムハンマドの風刺画」事件を、現実に起こった事例によって、その全体像をできるだけ正確に明らかにすることを目指す。この事件に関連する世界の各地域において、具体的に何が起こったのか。その国の報道機関、政府、宗教組織が、またどのような階層の人々が、どのように考え、行動し、発信してきたのか。同じ一神教世界、たとえばイスラーム世界においては、反応の共通性と差異性はあるのか。EU地域内の対応に共通性と差異性はあるのか。
第一部ではまず、第1章、第2章で、「ムハンマドの風刺画」事件の発端となったデンマーク、そして同様の問題を抱えているオランダ、政教分離と「表現の自由」を徹底するフランスの状況を紹介する。
第3章から第7章までは、イスラーム世界の反応を紹介する。カバーする国と地域は、イラン、イスラーム過激派、エジプト、アラビア湾岸諸国、そしてムスリムの存在感が大きい東南アジアの国々(インドネシア、マレーシア、シンガポール)である。
第8章と第9章では、再びヨーロッパに戻り、イギリスとドイツの反応を紹介する。第10章ではキリスト教のカトリックとプロテスタントの代表的組織である、ヴァチカンと世界教会協議会(WCC)の反応を検討する。第一部の最後、第11章では、イランからの挑戦を受けたイスラエルの状況を紹介する。
第二部は「ムハンマドの風刺画」事件とその背景についての分析である。第12章の中田論文は、一般に論評されているように、偶像崇拝禁止が今回の事件の中心的な問題であったのかどうかについて、イスラーム法学の立場から分析を行う。第13章のアミーン論文は、今回の事件に対するイスラーム世界からの反応とその背景について、批判的に分析する。アミーン論文は、イギリス在住の国際イスラーム政治組織「解放党」系の思想家としての立場を代表するものである。
第14章の菅野論文は、「ムハンマドの風刺画」事件の複雑な背景、すなわち、「表現の自由」という啓蒙主義的理念の根幹と宗教的伝統との関係、さらには、「ホロコースト」と表現の自由の関係について、フランスにおいてはどのような歴史的・思想的背景があるのかを分析する。第15章のプリマワーダナ論文は、アメリカのプロテスタントを代表する組織である全米教会協議会の諸宗教対話問題の担当者として、アメリカとキリスト教世界の立場から、「ムハンマドの風刺画」事件についての分析を行っている。
「補説」の森論文は、「ムハンマドの風刺画」事件に引き続いて、イスラーム世界からの厳しい反発を招いた「教皇ベネディクト一六世によるイスラーム発言」の背景についての分析である。
このように「ムハンマドの風刺画」事件は、ヨーロッパを形作ってきた三つの一神教の伝統と歴史に深く関わっており、同時に、近代ヨーロッパと今日のEU理念の中核をなしている「表現の自由」・基本的人権の尊重という価値観と深く関係している。
EUをはじめ、近代啓蒙主義思想を価値体系の中心に置いている西欧世界は、自らの世界の重要な構成要素となりつつあるムスリムたちと彼らの価値観であるイスラームの宗教的伝統と、どのように共存していけばいいのか。反対に、イスラーム世界は異なった価値観が主流となっている西欧世界において、自らの宗教伝統を尊重しつつ、どのように共存していけばいいのか。
イスラーム世界とヨーロッパ世界とは、歴史的にまた地理的に距離をおいている日本にとっても、異なった価値観をもった文明圏とどのように良好な関係を保てばいいのかという問題は、国益に関係する重要な問題である。「ムハンマドの風刺画」事件が提起している問題は、日本にとっても「対岸の火事」とすることのできない課題であろう。
本書がこの問題を理解するための一助になれば幸いである。
著者プロフィール
森 孝一(モリ コウイチ)
同志社大学神学部教授、一神教学際研究センター長
1946年生まれ。専門はアメリカ宗教史。
著書:『宗教からよむ「アメリカ」』(講談社選書メチエ、1996年)、『アメリカと宗教』(編共著、日本国際問題研究所、1997年)、『「ジョージ・ブッシュ」のアタマの中身──アメリカ「超保守派」の世界観』(講談社文庫、2003年)。
※版元より営業日2~5日でお届けします
※お支払いは郵便振替(到着後後払い)・クレジットカード(VISA、MasterCard、DC、JCB、AMEX、Diners、Nicos、UFJ)がご利用になれます
タグで関連している本:
- まだ見つかりません
コメントとトラックバック »
まだコメントとトラックバックはありません
TrackBack URI : http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-7503-2472-2.html/trackback/
