自由への闘い自由民権家 中島信行と岸田俊子
横澤 清子
発行:明石書店
この版元の本一覧
A5判 480ページ 上製
定価:9,500円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2446-3(4-7503-2446-9) C0021
在庫あり
奥付の初版発行年月:2006年11月
書店発売日:2006年11月27日
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紹介

幕末の志士にして維新後は自由民権運動の一極をなした中島信行と,彼を政治的同志としてまた人生の伴侶として支えた明治期女性解放運動の先駆者・岸田俊子。二人の政治と文学の根底をなした志操と理想を綿密な考証にもとづいて浮き彫りにした歴史研究の労作。

目次

はじめに
第一編 中島信行——草莽から中央官僚へ
 第一章 草莽期の活動
  第一節 土佐藩郷士として
  第二節 統一国家への模索
  第三節 海援隊での出会い
 第二章 維新草創期の活動
  第一節 新進官吏として
  第二節 海外視察
 第三章 内憂外患のなかで
  第一節 「独立之権理」維持へ
  第二節 薩長藩閥政権をめぐって
 第四章 開明派県令
  第一節 人民の公益のために
  第二節 大阪会議前後の状況
  第三節 第一回地方官会議での攻防
 第五章 政府内改革の試み
  第一節 元老院の権限
  第二節 国憲制定への意欲
 第六章 民権派議官
  第一節 武力から言論へ
  第二節 明治政府との決別
第二編 岸田俊子とともに
 第一章 女性民権家 岸田俊子
  第一節 思想の素地
  第二節 土佐に導かれて
  第三節 女性民権家誕生
  第四節 遊説と転機
 第二章 女性解放の自己表現
  第一節 新しい夫婦像
  第二節 女子教育の場
  第三節 自己表現の場
 第三章 新たな戦い
  第一節 立憲政体をめざして
  第二節 政党の領袖
  第三節 キリスト教の信仰
 第四章 民権運動の退潮と政治的課題
  第一節 自由党の解党
  第二節 運動と正理
 終章 総括にかえて
参考文献
年 譜

前書きなど

はじめに
1 問題関心と論点
 中島信行は、一八九〇(明治二三)年一一月二五日に開催された第一回帝国議会の初代衆議院議長として、日本近代の憲政史上にその名が刻まれている。彼の経歴をたどると、外国官権判事・兵庫県判事・租税権頭・横浜税関長・神奈川県令・元老院議官等、草創期の明治政府を支える重要なポストを歴任している。政府内にあっては開明派県令、民権派議官として政治改革に積極的な意欲を見せ、元老院議官依願免官後は、自由党副総理・日本立憲政党総理として反政府運動に挺身した。民権運動の最重要課題であった立憲政体の樹立後は、党を離れて再び政府に戻り、イタリア特命全権公使・男爵・貴族院議員に列せられている。
 しかし官・野における活動やその業績にもかかわらず、中島信行についてはこれまで本格的な研究がなされてこなかった。その理由の一つには、「資性温厚の君子」、「政界稀に見る謹厳清廉の人格者」と評されるように、果敢な「行動」を重視する政治家のなかで、むしろ「冷静不動」の人であった点にある。その結果自由民権運動史のなかには積極的な動きは表出せず、常に中正な穏健派として調整役に止まったと評価される。確かに中島には中江兆民や植木枝盛・馬場辰猪のような思想的な先鋭さ、星亨のような政治的な剛腕さは見受けられない。自由党内での活動についても、『自由党史』には、結成当初の副総理就任と立憲政党総理になったこと、演説会や懇親会に出席したこと以外は殆ど彼に関する記述がなく、運動家として不明確な点が多い。加えて残されている資料の少なさも彼の研究を滞らせてきたように思われる。官員時代の公文書や書簡、元老院・衆議院時代の議事録、演説筆記(三点所収)、各新聞記事等から断片的に彼の政治活動を読みとることはできるが、彼自身の手による日記や論考の類は、現在のところ発見されていない。
 ではこのように何を成し得たかも明確でない人物を、何故近代国家形成期の政治運動史のなかで論じようとするのか。一つには、幕末維新の動乱を生きた草莽たちの理想の行方を知りたかったことがある。彼らの死を賭してまで燃やし続けた運動のエネルギーはどこにいったのか。維新後、多くの志士たちが経済的にも精神的にもおいつめられ、衰退・頽廃していくなかで、彼が維新の理想をなぜ堅持することができたのか、それが中堅官吏としての施策や姿勢にどう現れているのか、そしてそのことが近代国家の形成とどのように関わっているのかということである。
 二つ目には、国家のためであれ民権自由のためであれ、事を成すには、行動力ばかりではなく思想や理念といった内面で熟成された規範が必要となると考えるからである。そもそも目前の問題を解決に導く政治的手腕と、時務的な問題に振り回されず政治家として目標と理念を示す行為とは別の次元で評価されるべきものではないだろうか。本論は、寡黙で「清廉孤高の風が余りあって、群雄駕御の才がなかった」と評される中島の姿勢のなかに、将来に目標を定め「種播く人」の姿を見出すことができるのではないかという想定に基づいている。
 第一編では、中島が草莽から官界を離れるまでの政治行動を追い、行動の原動力となった身分差別や彼が規範とした坂本龍馬の国家構想にかなりの紙面を費やして、一つ目の疑問を解明することを試みた。何を書きたいのか視点が散漫であるとのご指摘もあろうかと思う。それは甘受し、敢えて第二編に繋がるためのステップとしたい。
 第二編では二つ目の問題関心に応える材料として、自由党のなかでの彼の「マージナル」な位置と、頻発する激化事件・農民騒擾に対し、彼が何を自己の政治課題としたかを考察する。同時に「革命的健児」と呼ばれ、「不羈の気象」と自らを認めた岸田俊子が、常に冷静沈着で性向対照といわれる中島を真の自分の理解者として信頼し、自らの政治的理想の代行者としたのは何故か、という関心がある。中島が俊子を政治的同志として人生の伴侶として迎えたことも、自由への闘いの運動史に位置づけることが必要な作業となろう。次に岸田俊子について述べたい。
 岸田俊子は、一般的には、自由民権運動の女性闘士、女性自身による女性解放運動の先駆者として高名である。彼女が民権運動に入るまでには、京の神童と呼ばれて周囲からもてはやされ、宮廷女官として平民の女性として初めて宮廷に出仕する栄誉ある時代があった。その彼女が何故自由民権運動と結びついて、フェミニストとして立つに至ったのか。第二編第一章では当時の女性たちが直面していた社会の偏見や不条理を、俊子の政治活動と論考を通して検証することにする。
 第二編第二章では、それまでとはうって変わって女性解放に漸進的立場をとるようになった俊子の内面を探る。中島信行と結婚したことによって彼女は変節したのだろうか、俊子の内助の功・女性の役割論は、自由への闘い(女性解放)の道程で、どう位置づけられるのか。キリスト教の信仰は二人の政治や生活実践にどのような影響を与えたのだろうか。それらを踏まえて、自由民権運動家中島信行を再評価し、二人が仰望する近代国家とはどのようなものであったのかを考究することが本論の目的である。
(後略)

著者プロフィール

横澤 清子(ヨコザワ キヨコ)

1969年3月 立教大学文学部史学科卒業
2004年3月 専修大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学
2006年3月 歴史学博士号取得
NHK学園高校練馬分校・武蔵高等学院・光明学園相模原高校講師を経、現在は市川房枝記念会研究員、海老名市史近代通史編執筆員
<著書・論文>
「岸田俊子の思想──女性解放の自己表現」修士論文(1998年)
「岸田俊子小論」『専修史学』第30号(1999年)
「明治の女学生──吉野りうの書簡から」『多摩の民権と吉野泰三』共著、三鷹市教育委員会(1999年)
「中島信行覚え書」『自由民権』町田市立自由民権資料館紀要(2002年)
「岸田俊子と土佐」『土佐史談』216・217号(2001年)
『史料が語る大正の東京100話』共著、つくばね舎(2002年)
「中島信行と横浜税関──外国との対立をめぐって」『専修史学』第36号(2004年)
「吉野泰三と神奈川の政治状況」『三鷹吉野泰平家文書 尺牘案・日記』三鷹市教育委員会(2004年)
「岸田俊子の自由結婚」『軍縮問題資料』12月号(2004年12月号)
「碑文から読む“近代”──中島信行の三撰文」『専修総合科学研究』13号(2005年)
「自由民権家 中島信行論──立憲政体樹立への苦闘と市民社会への仰望」博士論文(2006年)ほか

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