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日本の中の外国人学校
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2006年11月
- 書店発売日
- 2006年11月10日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2010年2月25日
紹介
日本に住む外国人の存在が珍しくなくなった今,国際学校のニーズも高まっている。子どもたちが本国のアイデンティティを失わず,日本でスムーズに生活できるようにと作られた多様な学校現場を追い,彼らに対する教育政策の問題点を探ったルポルタージュ。
目次
まえがき
第1章 ルポ 日本の中の外国人学校
Type 1 外国人学校の新顔、南米系学校
1 日伯学園〔群馬県大泉町〕
2 エスコーラ・サンパウロ〔愛知県安城市〕
ブラジル学校のいま
Type 2 経済のグローバル化、国家の狭間で
1 アメラジアンスクール・イン・オキナワ〔沖縄県宜野湾市〕
2 国際子ども学校〔愛知県尾張旭市〕
3 千里国際学園〔大阪府箕面市〕
4 テンプル大学ジャパンキャンパス〔東京都港区〕
5 インディア・インターナショナルスクール〔東京都江東区〕
Type 3 古くは19世紀から、老舗の外国人学校
1 横浜山手中華学校〔神奈川県横浜市〕
2 東京横浜独逸学園〔神奈川県横浜市〕
3 東京インドネシア共和国学校〔東京都目黒区〕
4 マリスト国際学校〔兵庫県神戸市〕
5 大阪中華学校〔大阪府大阪市〕
Type 4 4~5世が学ぶ、朝鮮学校の模索
1●試行錯誤続く21世紀型民族教育
2●地域に根ざす街の学校に
3●半世紀ぶりに叶った韓国公演
4●とりあげないで、私たちの学校
第2章 提言 外国人の子どもに教育の権利を
――日本の外国人学校政策と21世紀の課題
1●日本の外国人学校政策
2●パンドラの箱あけた大学受験資格問題
3●深まる外国人学校の連携
4●外国人学校を正式な学校に
第3章 インタビュー 「外国人学校問題」をどう捉えるか
進む外国人学校の認知、私学助成の対象に(田中 宏)
外国人学校処遇は、政府・国会の課題(馳 浩)
子どもの教育環境を整えるのは大人の責任(池坊保子)
民族・ルーツを学ぶ権利を、すべての子どもに(師岡康子)
公立学校を中心に、教育の充実を図りたい(渡辺一雄)
多文化共生庁を設立し、政策樹立を(坂倉 篤)
目指すは「不就学ゼロ」、多様な学びを(小島祥美)
〔巻末資料〕
1 外国人学校リスト
2 国連人権機関の懸念と勧告
前書きなど
まえがき
外国人200万人時代に
2005年末、日本に住む外国人はついに200万人を突破した(201万1555人)。日本の人口に占める外国人の割合は1・57%。日本で外国人が人口の1%を超えたのは1992年のことで、この13年で1・5倍に増えたことになる。外国人の存在は、今や学校や職場などあらゆる分野で珍しいものではなくなった。
多くの外国人が日本で住むとなると、さまざまな問題が浮上する。その中でも最も大きな問題の一つが外国人の子どもの教育問題である。例えば1990年の「出入国管理及び難民認定法」の改正後、20世紀のはじめに南米へ移住した日本人の子孫にあたる日系人の来日が増えているが、親に連れられ渡日したものの、近所の日本学校に通っても言葉が不自由なために授業が理解できず友達も作れない、あげくのはては学校をドロップアウトし、不登校になり非行に走る子どもも少なくない。その姿に胸を痛めた人たちが、本国のアイデンティティを失わずに、また日本での生活もスムーズにできるようにと、今までにないタイプの学校を作っている。ブラジル学校はこの15年で90校以上が設立された。
本書は、日本にあるさまざまなタイプの外国人学校の現場を追ったルポルタージュである。
日本には、19世紀から外国人学校が存在していたが、2度の世界大戦を経て、さらに経済のグローバル化とともにその姿は変わってきた。
宣教師によって1872年に設立された横浜のサンモール・インターナショナルスクールは日本最古の国際学校といわれており、横浜開港を機に来日した中国人によって建てられた横浜山手中華学校、横浜中華学院、神戸中華同文学校、東京横浜独逸学園、神戸ドイツ学院も1世紀以上の歴史を刻んできた。
日本の植民地支配によって生まれた在日朝鮮人が、1945年8月の朝鮮解放以降、日本各地に建てた朝鮮学校は60年以上の歴史を刻み、今や4、5世が学ぶ時代となった。また、最近は経済のグローバル化によって来日した人たちが学校を作り始めた。2004年夏に東京都江東区に設立されたインディア・インターナショナルスクールがその象徴だ。一方で、日本人帰国生徒を受け入れる国際学校のニーズも高まっている。国際学校は海外で暮らした子どもだけではなく、国際結婚をしたカップルや、国際社会に対応した語学力を育みたいという日本人の中で高い人気を誇っている。そして、近年急増する南米系学校。
このように、外国人学校は多種多様だが、日本の学校教育法上、「1条校」として認められておらず、現行の制度では各種学校認可しか取得することができない。さらに、南米系学校のほとんどは各種学校の認可すら与えられていないため、厳しい学校経営を強いられている。
ひとことで言って日本は、外国人学校を公教育から排除している。しかし、今後日本が世界からより多くの人材を集めようとした際、現在の状況が続くことが望ましいのだろうか。日本が批准した国際条約の各審査機関は、1990年代から日本政府に対し外国人学校の差別的な取り扱いについて度々勧告を出して、その改善を求めている。何らかの対応策が求められていることは国際社会の要請でもある。
本書ではまず、さまざまなタイプの外国人学校を紹介することによって、現在外国人学校が抱える問題と、日本に住む外国人の子どもたちに対する教育政策の問題点を明らかにしたかった。
さまざまな外国人学校
「外国人学校」に関して日本の法令上定められた定義はないが、本書では主に外国籍の子どもを対象に独自のカリキュラムを編んで運営している学校を念頭に置き、取材を重ねてきた。
本書の第1章では、外国人学校を4つに分類して紹介している。
タイプ1では、近年、各地で続々と設立されているブラジル、ペルーなどの南米系学校を扱った。タイプ2では、「経済のグローバル化、国家の狭間で」と題して、アメリカと日本の国際結婚カップルの間に生まれた子どもを教えるアメラジアンスクール・イン・オキナワ、非正規滞在のフィリピンの子どもを教える国際子ども学校、IT技術者の子どもが学ぶインディア・インターナショナルスクールなどを紹介する。また、「地球レベルで行動する現代人のニーズに合った学校とは?」という問題意識のもと、同じ敷地に「1条校」の千里国際学園中等部・高等部と各種学校の大阪インターナショナルスクールの2校を運営する千里国際学園、世界各地にキャンパスを設け、企業研修、社会人教育なども手がけるアメリカ・テンプル大学ジャパンキャンパスを扱った。タイプ3では、1世紀以上の歴史を誇る横浜山手中華学校、東京横浜独逸学園、戦後に生まれた東京インドネシア共和国学校、神戸市にあるマリスト国際学校、大阪中華学校を取り上げる。タイプ4の朝鮮学校については、世代交代に対応した民族教育の実践、2000年6月の南北首脳会談以降に始まった韓国社会との和解、東京都江東区枝川の東京朝鮮第2初級学校が東京都から土地の明け渡しを求められている「枝川裁判」についてまとめた。
第2章では日本の外国人学校政策の歴史、2003年の大学受験資格問題を取り巻く文部科学省の外国人学校政策、その後生まれつつある外国人学校間の交流を概観しながら、今後望まれる外国人学校政策について考えてみた。
「外国人学校問題」をめぐってはさまざまな意見があるが、第3章では文部科学省や地方自治体関係者、国会議員、研究者、弁護士ら7人に提言を寄せてもらった。巻末には、日本にある外国人学校のリストを載せた。
本書は、月刊『イオ』の2005年5月号から2006年9月号まで連載された「日本の中の外国人学校」を加筆、修正したものである。執筆は琴基徹(クムギチョル)、張慧純(チャンヘスン)、鄭茂憲(チョンムホン)、金雪滋(キムソルチャ)が、カバーデザインは金英煕(キムヨンヒ)が担当した。
月刊『イオ』は、在日コリアンの30、40代をターゲットに1996年7月に創刊された。この雑誌名は、朝鮮語で「繋(つな)ぐ」を意味する「イオガダ」から名付けた。現在、コリアン社会は世代交代によって3、4世が地域社会の中心メンバーとなっている。また、最近は在日コリアンの8割が日本人と国際結婚しており、コリアンといえどもそれぞれが持つ背景や価値観は多様化している。彼らが朝鮮半島にルーツを持つ祖父母、父母から何を受け継ぎ、どうすればこの日本や世界でアイデンティティを育んでいけるだろうか、多くの在日コリアンにとって開かれた教育の場や地域社会のあり方とはどんなものだろうか――。月刊『イオ』では、このような問題意識をもって毎月、教育、文化、歴史、経済、政治などのテーマを扱っている。読者の1割ほどは日本市民である。
外国人学校の現場を歩く過程で、子どもたちの無邪気な笑顔に「学校」の原点を教えられながらも、日本の学校と比べようもない悲惨な処遇に彼らの人権が侵されていることを痛感してきた。この日本で外国人学校の現状、外国籍の子どもを取り巻く教育の現場はあまりにも知られていない。本書を通じて一人でも多くの方に外国人学校の子どもたちの姿、教育者の思いを共有していただけたら幸いである。
2006年11月
月刊『イオ』編集部
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。