対話からはじめる学級経営学級づくりがわかる本
若菜 秀彦
発行:明石書店
この版元の本一覧
四六判 168ページ 並製
定価:2,000円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2385-5(4-7503-2385-3) C0037
在庫あり
奥付の初版発行年月:2006年08月
書店発売日:2006年08月07日
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紹介

子どもたちが変わったといわれて久しい。ベテラン教師ですら手をやく現状を分析・解説し,クラスをまとめ,子どもたちがいきいきと学校生活を送れるようにするために,著者自らの体験から導き出した具体的な指導モデルを提示。悩める若手教師に格好の指南書。

目次

はじめに
第1章 「対話」のすすめ
 第1節 「対話」のない悲劇
 第2節 これからの教師のアイデンティティ
第2章 学級経営の考え方
 第1節 学級経営の二側面
 第2節 学級経営を支える教師の「対応」——接し方の技術としてのソーシャルスキル
  1 子どもへの「対応」
  2 学級集団への「対応」
 第3節 学級経営でめざすもの—道徳性の発達
  1 道徳性の発達には段階がある
  2 モラルディレンマによる役割取得能力の向上によって道徳性は発達する
 第4節 道徳性の発達と集団の「まとまり」
第3章 具体的な指導モデル
 第1節 班活動を「指導」に生かす
  1 生活班を単位とした係活動(係班)を日常生活のなかで位置づける
  2 「班」隊形の工夫(「班」隊形を注目しやすい隊形にする)
  3 「班」活動で班長がリーダーシップを発揮するために(班長にソーシャルスキルを指導する)
 第2節 道徳性の発達を促す指導
  1 構成的グループエンカウンターによる「指導」
  2 モラルディレンマを取り入れた話し合い
  3 「道徳性の発達段階」に応じた「指導」モデル
 第3節 毎日の生活に位置づける
  1 「朝の会」と「帰りの会」の考え方
  2 「朝の会」の具体的モデル
  3 「帰りの会」の具体的モデル
 第4節 教師としての考え方
おわりに

前書きなど

はじめに
 「先生、アルトパートはちょっとやる気のない人がいて、言うことをきいてくれないことがあります」
 「うーん、ソプラノはどう?」
 「うちのパートはみんな、のっています。ムードもいいです」
 「男子パートは?」
 「うーん、微妙だなぁ」
 「集中してないよ。先生がいるときといないときで、全然違うじゃない」
 「そうだよ」
 と、ソプラノやアルトのパートリーダーが、男子パートのリーダーを責める。
 これは、中学三年生の学級。合唱コンクールを二週間後に控えた、パートリーダー会議での様子である。この会議のあと、学級で話し合うことになった。話し合いは、私の問題提起から始まった。
 「合唱コンクールに向けて練習をしてきたけれど、ちょっと集中していないんじゃないか? 指揮者は、みんなが練習し終わっても、放課後に特訓している。伴奏者は、夏休みからすでに練習している。パートリーダーは、みんなのやる気を高めるために、練習の方法を工夫している。このクラスの中には、クラスのみんなのためにがんばっている仲間が大勢いるよ。その仲間のがんばりに応えているかい? みんなで決めたスローガンが、飾りになっていないかい?」
 長い沈黙のあと、誰に指名されるでもなく、一人また一人と立ち上がって自分の気持ちを語っていく。
 「僕は、パートリーダーの人たちががんばっているのに、練習に集中していませんでした。これからは集中してスローガンを達成したいです」
 「私は合唱コンクールが楽しみでした。とくに今年は中学校で最後の合唱コンクールなので、いい思い出をつくろうと思って、パートリーダーになりました。自分の言い方も悪かったかもしれないけど、みんながいうことを聞いてくれなくて……。でも、このクラスの仲間とスローガンを達成したいです」
 泣きながら語る女子。涙ぐみ声がふるえる男子。教室には一人ひとりの思いの言葉と涙があふれた。全員が言い終わったときには、教室中に温かいムードが広がる。自分の気持ちを伝え終えたという安堵感と、みんなの気持ちも自分と同じだと確認できた一体感が、教室を温かくしたのかもしれない。
 「今日、この日の話し合いを忘れないために、クラスの記念日にしよう。一〇月八日でしょ、何かいい名前はないかなぁ」
 するとU君が、「先生、一〇と八で、とわ(永遠)の日がいいと思います」と提案する。
 「おー」という歓声が広がる。
 翌日、教室に「REMEMBER 10・8(永遠の日を忘れるな)」という掲示物がかかげられた。
 それからの練習は、まさに、全員が一丸となって行なわれた。パートリーダーを中心に、お互いに注意し合いながら活き活きと取り組む姿は、とてもまぶしく輝いていた。合唱コンクールでは最優秀賞を受賞し、全校でナンバーワンになった。しかし、そんな結果よりも、「永遠の日」のできごとは、子どもたち一人ひとりの心の中に残っていくだろう。私自身、あの話し合いの場面を思い出すたびに、胸が熱くなる。
 教室にはこのように、ドラマがある。ある意味ではテレビドラマよりもドラマチックである。この醍醐味を味わえるからこそ、飽きっぽい私が二〇年近くも、教師を続けてこれたのかもしれない。当時の私は、教務主任と三年生の学級担任と部活動の顧問という三つの役割をこなしていた。文字通り寝食を忘れて仕事をしていたが、それができたのも、こうした子どもたちの熱意に支えられていたからであろう。
 最近、「子どもの心をつかめない」という教師の声をよく耳にする。「保護者からのクレームが多くて」という声も多い。何となく自信を失いかけている教師の姿が、そこにある。確かに、子どもや保護者は変化しているようだ。誤解を恐れずに言えば、全体的な傾向として、親も子もわがままになっているような気がする。教師の権威を認めず、わが子が気に入るように指導してくれることを望む保護者の、なんと多いことか。また、じっと席に座っていることができない子どもが、なんと増えたことか。
 そのためもあるのだろうか、教科指導の工夫と称して、少人数指導を奨励する風潮も起きている。わかりやすい授業という視点からの少人数指導ならばよいが、学級担任が学級全体を掌握できないから、少人数集団に分けて複数の教師で指導する、というような、学級集団づくりからの逃避であってはならないと思う。
 「学級経営」という視点を、忘れてはならない。
 どんなに授業内容を工夫しても、教科書や教材を忘れている、席に着かない、おしゃべりをしている、などの状況では学力は身につかない。授業規律があってこその学力である。この授業規律は授業場面だけではなく、生活全般において醸成されるものである。これこそが、学級経営のなせる技である、といえる。
 近年、学級が思うようにまとめられないので、心理学的アプローチを取り入れようとする教師の動きも増えてきた。構成的グループエンカウンターやソーシャルスキルなどの言葉が、教師のあいだで聞かれるようにもなってきた。しかし、ことさら構成的グループエンカウンターやソーシャルスキルというような言葉は使わなくとも、私たち教師は経験のなかで、すでに同じようなことは体現してきたはずである。
 教師が学校という場で行なってきた「指導」と、そこで培った子どもの心のつかみ方は大きな財産であって、多くは間違っていないと思う。たとえば、生活態度が学力に密接に関連しているということは、多くの教師が経験的に知っていることである。そのことを文部科学省の調査は、「朝食をとらない子どもはとる子どもに比べて点数が低い」というアンケート調査によって証明した。
 つまり、心理学とは、教師の経験知を根拠づけるものでしかないのである。それゆえ、心理学のような専門知を知ることで、教師は自信をもって、みずからの経験知をさらに発展・応用させて実践できるのである。そういう意味で、心理学を学び、それを実践に取り入れることは意義があると思う。
 しかし、心理学は万能ではない。カウンセリングは「対応」でしかなく、そこに「指導」はない。子どもに「対応」はできても、子どもを変容させることはできない。ソーシャルスキルでは、学級内のいじめはなくならないのである。
 前述の話し合いを行なった私の学級は、「まとまり」は強いと思われていた。しかし、仲は良くても道徳性が十分発達していたとは言いがたかった。無許可で自転車通学をしたり、私以外の教師への授業態度が悪かったり。つまり、私の前ではすばらしい学級だったが、自分たちで善悪を判断して自治的に活動できるという段階には、いたっていなかったのである。その意味では「まとまり」も不十分だと言わざるを得ない。
 ではなぜ、私の学級はこの段階でとどまってしまったのだろうか。その原因は私の「指導」にあったと思う。実は当時私は、あまりというよりもほとんど、道徳性の発達を促す「指導」をしてこなかったのである。私は常に学級の「まとまり」は意識してきたが、道徳性に関する「指導」という視点はなかったのだ。すべては私の「指導」のいたらなさが原因だったのである。
 今改めて自分自身の実践を振り返って実感するのは、学級集団をつくっていく上で必要なのは、「いかに道徳性を高めるか」という「指導」であるということである。同時に、この「指導」をする上でソーシャルスキルなどを使った「対応」が必要なのも事実である。
 本書は、このような、学級経営における「指導」と「対応」を明らかにすることを、ねらいとしている。
 本書は三つの章で構成されている。
 第1章では、保護者や教師のインタビューをもとにしながら、教師の置かれている現状と「対応」の必要を明らかにした。第2章では、学級経営の考え方を、ソーシャルスキルや道徳性の発達段階から示した。そして、第3章では、具体的な指導モデルを提示している。
 本書が、学級経営に悩み苦しむ教師たちに、専門知と経験知の融合という意味で、いくばくかのヒントを与え、同時に自信と勇気をもたらせるとしたら幸いである。

著者プロフィール

若菜 秀彦(ワカナ ヒデヒコ)

1961年生まれ。1987年3月、同志社大学文学部卒業。1998年3月、兵庫教育大学大学院学校教育専攻教育基礎コース修了。中学校社会科教諭を経て、現在市町村教育委員会勤務。
【主な著書】
『対話型教師のすすめ——現場からみた学校・父母・教師』(明石書店、1998年)
【論文】
「教師と保護者の関係に関する研究——目的合理的行為からコミュニケーション的行為へ」(兵庫教育大学大学院修士論文)

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