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差別論
偏見理論批判
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2005年12月
- 書店発売日
- 2005年12月20日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2011年1月17日
紹介
従来の,偏見や差別意識に関する理論を批判する立場から,「三者関係モデル」「他者の客体化」「われわれ」といった新たな概念を導入することで,「差別はなぜ起こるのか」「どうしたら差別はなくなるのか」という問いに正面から答える実践的な理論書。
目次
はじめに
1 差別論について
2 差別という言葉をめぐる混乱
3 本書の構成と方針
第1部 理論編
第1章 差別の定義
1 社会的カテゴリーと差別
2 差異モデルと関係モデル
3 不当性の論理
4 差別論と人権論
5 排除による差別行為の定義
第2章 排除の理論
1 共同行為としての排除
2 他者化、同化、見下し
3 三者関係モデル
4 差別行為の類型化
5 差別行為の連鎖
6 差別行為の認識可能性――認識のズレとその解決
7 批判と差別
補 論
1 スケープゴーティング論について
2「われわれ」カテゴリーについて
第3章 偏見理論批判
1 偏見理論とは何か
2 差別は心の問題か
3 カテゴリー化とステレオタイプ
4 二者関係のモデルと三者関係のモデル
5 偏見理論の問題点
第4章 差別論の射程と解放の戦略
1 差別論の射程
2 差別の無効化という戦略
3 偏見理論からの脱却
4 行為の対象化
5 差別行為の「ワクチン」化
6 「ワクチン」の作り方
第2部 事例編
第5章 小説のなかの差別表現――筒井康隆「無人警察」
1 はじめに
2 筒井康隆「無人警察」をめぐる議論に見られる「差別表現」観
3 差別論の問題点
4 差別問題の「ねじれ」構造
5 「無人警察」における「てんかん」の意味
6 差別論のオルタナティブ
7 おわりに
第6章 あいまいな表現としての差別語と「ワクチン」――石原都知事「三国人」発言
1 分 析
2 ワクチン
第7章 性別役割分業の非対称性――林道義『父性の復権』『母性の復権』
1 『母性の復権』と『父性の復権』の相違点
2 分 析
3 性別役割分業の非対称性
おわりに
参考文献
前書きなど
はじめに
1 差別論について
本書は、「差別論」に関する本です。
「差別論」というタイトルから、差別問題に関することを論じているのだということは、想像できるでしょうが、この言葉には、もう少し限定的な意味が込められています。まず最初にこのことを説明し、本書の立場を明らかにしたいと思います。
世の中には多くの差別問題があり、それぞれに固有の問題を抱えています。そして、それぞれの差別問題に固有の状況を明らかにし、その原因を突き止め、解決の方法を見出すために多くの研究がなされてきました。
これらの個別の差別問題についての研究は、互いに影響を与え合いながらも独自に発展し、それぞれの理論的な枠組みを作ってきました。たとえば、性差別についての理論(フェミニズム)の中心的な概念のひとつに「家父長制」というものがありますが、これはあくまでも性差別についての理論であり、そのままほかの差別問題に流用できるものではありません。
しかし一方では、さまざまな差別問題は「差別問題」という言葉で表される限り、何らかの共通性を持っているはずです。それではその共通性はどこにあるのでしょうか。
大雑把にいえば、さまざまな差別問題の共通性は「差別する側」にあります。人はどうして差別をするのか。あるいは特定の人々を排除したり攻撃したりおとしめたりする理由は何か。このような問題は、さまざまな差別の問題に共通のテーマとして設定することが可能だし、現に特定の差別問題に依拠しない理論が作られてきています。その代表格が、本書が批判の対象とする偏見や差別意識に関する理論です。
本書のタイトルである「差別論」という言葉は、個別の差別問題について論じるのではなく、さまざまな差別問題の共通点を扱うのだということ、そして、「差別する側」に着目して考えていこうとしているのだということ、とりあえずはこの二つを頭に入れてもらえればいいと思います。
実は「差別論」という視点には、もっと大きな意味があるのですが、それは本書を読み進めていただければ徐々に明らかになってくると思います。
(中略)
3 本書の構成と方針
本書は基本的に「理論書」です。具体的な差別問題の状況や問題点を取り上げて記述したり説明したりすることが目的なのではなく、端的にいって「差別はなぜ起こるのか」「どうしたら差別はなくなるのか」という問いに正面から答えようとするものです。
しかし、本書が志向する理論は「実践的な理論」です。そういう意味では「差別はなぜ起こるのか」という問いより「どうすればなくなるのか」という問いを優先させようとしています。「なぜ起こるのか」という問題は、「どうすればなくなるのか」を考えるにあたって必要な範囲でわかればいいのだという割り切り方をしています。
実際に本書を読み進めると、「この点についてはまだよくわかっていないからパスして、先に進みましょう。それでもとりあえずなんとかなりますよ」といった感じで、わからないところをそのままにしてしまっている箇所がいくつか出てくると思います。そのような扱いは、本書を「実践的理論書」として構想しているためなのだとご理解いただきたいと思います。
本書は、特に専門的知識や差別問題の現状などについての詳しい認識を持っていない方にも読んでいただけるように、なるべく平易な文章と、身近な事例を使うように心がけました(それでも難しいところはたくさんあるとは思いますが)。専門的な議論は注や補論として本文とは分けましたので、より詳しい説明はそれらを読んでいただきたいと思います。
第1章から第4章までは「理論編」であり、差別の定義の検討から始めて差別をなくすための具体的な方法の提案まで、一貫した視点で書いています。ここはできるだけ順を追って読んでいただきたいと思います。
第5章から第7章は「事例編」であり、それぞれ性質の異なる三つの事例について、理論編で説明した考え方に基づいて分析したものです。こちらは特に順番を気にする必要はなく、場合によっては理論編より先に読んでいただいても結構です。
上記内容は本書刊行時のものです。