
シリーズ・叢書「授業づくりで変える高校の教室3」の本一覧
発行:明石書店 この版元の本一覧
A5判 200ページ 並製
定価:1,800円+税 総額を計算する
ISBN 978-4-7503-2206-3 (4-7503-2206-7) C0337
在庫あり
奥付の初版発行年月:2005年11月 書店発売日:2005年11月07日
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本書は,従来の高校教育に関する固定観念を越え,困難な情況の中で生徒を引き付け,生徒と教師の関係を築き直している生物,化学,物理,地学の授業に関する斬新な実践例を収録。理科のおもしろさを追求したユニークな実践ノートも多数収録。
目次
[巻頭言]教えと学びの交響する教室へ(竹内 常一)
はじめに──本物の科学教育が人間の尊厳を守る(川勝 博)
第1部 未知への挑戦──意欲と科学観の解放(奥村 弘二)
第2部 友だちがスゴイ! 私も科学者!(原 弘良)
第3部 地域の力で授業が変わる(成島 有史)
[解説]この授業実践の価値と読みどころ(川勝 博)
《巻末資料1》 授業ノートをつくろう──1976年「理科ノート7号」巻頭言より(川勝 博)
《巻末資料2》 高校教育入門・理論と実践──学力保障と人格発達を統合する高校教育(原 弘良)
あとがき
前書きなど
はじめに——本物の科学教育が人間の尊厳を守る(川勝 博)
この本を読めば、どんな生徒たちだって、なんと立派に、科学できるかがわかると思います。ここにある理科教育の実践を見ると、偽りの「教育困難」など、かすんでしまう。教育困難に見える現実のなかにこそ、むしろ本物の科学教育を求める生徒の叫びがあふれているように見えます。
さらに、ここに書かれている実践は、まさに21世紀に世界が転換しようとしている、すべての人々のための「科学リテラシーの教育」の先がけの実践にもなっています。いまユネスコで唱えられている、はるか前から、日本では、そんな授業の実践がはじまっていました。これは驚異的なことでなくて何でしょう。
だから、これらの実践を、私はいつかみなさんに紹介しなければとかねがね思い続けていました。それが今回、この本の刊行で、可能になったのを、嬉しく思っています。
そもそも「科学リテラシーの教育」とは何か。すべての人々のための理科教育とは何のためなのでしょう。
読み書きそろばんは、生活に必要な基本知識です。字が書けず読めなければ、役場に書類もだせず新聞も読めません。また簡単な加減乗除ができなければ買い物もできない。このように近代社会は、独り立ちして社会で働く、どんな人々にも、生きる最小限必要な力として、読み書きそろばんの力、識字(リテラシー)教育を必要としました。
ところが1980年代の中ごろから、その考えが深まります。リテラシーは確かに読み書きです。しかしそれは人間の言葉。それ以上に、自然の言葉を聴ける「すべ」、自然のことばを読み書きできる力を、人間は学ばなければならない。
その結果、1993年にリオ環境サミットをへて「すべての人々に科学リテラシーを」の決議が、ユネスコでされる。現在話題になっているPISA(OECD生徒の学習到達度調査)やTIMSS(国際数学・理科動向調査)の国際学力調査でも、この考えに基づき、その認識を調査しているのです。
科学は生産の手段としてだけ価値を持つのではありません。科学は、自然の理法の理解をとおして、自然と人間の共存の知恵を学ぶものです。
かつてリテラシーはないといわれたアイヌの人々も、アボリジニの人々も、われわれよりもずっと豊かに自然の言葉を聴くことができた。自然との対話をとうして、親は子供に、人間と自然との、共存の知恵を教えた。この活動のなかで、人間の倫理も、社会的きまりも、つくられた。つまり自然の理法を聴く営み(科学する営み)のなかで子供を育てること。それは人間の何千年らいの教育の、あたりまえの姿でした。
科学リテラシーをユネスコで主張した人々、それは女性、子供、先住民族、発展途上国の人々でした。その人たちこそが、豊かな自然を今日まで守り抜こうとしてきました。「科学リテラシーの教育」は、いままで人間としての尊厳を踏みにじられてきた人々が主張し始めた、新しい21世紀の学習権宣言でもあります。
だから「科学リテラシーの教育」で最も大切なこと。それは「誰でも科学できる」その力を持っている。だからその自信を、人権教育として、しっかり全ての生徒に教えることです。
それは、たとえば参政権と同じです。学校の成績が5の生徒は投票資格があるが、成績が1の生徒は、投票資格がない、などということはありません。参政権はだれでも民主社会では基本的人権として持っています。だから社会の主権者を育てる市民のための科学教育は、投票資格の付与の場ではなく、力の行使の訓練と確信の育成の場でなければなりません。
ところが学校ではどうでしょう。いまだに「基礎学力がないと、現実社会の科学技術的判断が下せない」と教えている。しかし基礎の深さは、事実上無限です。よって大多数の生徒は「理科は難しい。やはり自分はその判断を下す資格はない」そう感じる。そして「科学はやはり資格のある、優秀な専門家に任せるのが一番」そう考えて卒業する。これでは民主国家の主権者教育ではありません。
この本を読めば、どんな生徒たちだって、なんと立派に科学できることが、わかるでしょう。たとえ基礎学力が多少怪しくても、誰でも、協同の学びの場の中で助けをえて努力すれば、科学できる。それは民主社会なら当たり前のこと。それを喜び、認めない教育は、いったいどういう教育でしょう。
ここにある科学教育の実践を見ると、偽りの「教育困難」など、かすんでしまう。教育困難に見える現実のなかにこそ、生徒の本物の科学教育を求める生徒の叫びがあふれています。[誰でも科学できる]、本物の科学教育こそ、人間の誇りを守り育てる。それが21世紀の理科教育の目的です。
2005年10月記
著者プロフィール
川勝 博(カワカツ ヒロシ)
1945年生まれ
名古屋大学理学部物理学科卒業後、愛知県立高校で物理を中心に数学・化学・地学を教える。
1997年4月、香川大学教育学部教授
日本理科教育学会評議員、日本物理学会・物理教育委員、日本学術会議理学・数学教育専門委員長(19期)、IUPAP・ICPE(国際物理教育委員会委員)など。
著書:『いきいき物理わくわく実験』(共著、日本評論社)、『学ぶ側からみた力学の再構成』(共著、新生出版)、『Way into Newtonian Mechanics』HUNGARY Eotvos PHYSICAL SOCIETY, OOK ORESS、『川勝先生の物理授業』(上・中・下全3巻、海鳴社)など。
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