発行:明石書店
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A5判 240ページ 上製
定価:2,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-2181-3(4-7503-2181-8) C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2005年09月
書店発売日:2005年09月08日
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あってはならない最悪の事態を防ぐためには,つらくとも事例に学ぶしかない。虐待死の実例を詳細に分析し,専門職の関わり方もあまねく抽出,アセスメントの際に深刻な結果が起こりうるリスクを常に考慮に入れることの重要性を提唱する。子ども福祉関係者必読の書。
目次
子どもが虐待で死ぬとき——虐待死亡事例の分析
監訳者まえがき
図版目次
序 章
1.はじめに
2.事例の概要
3.養育者の精神保健の問題
4.未解決の葛藤の現れ
5.アセスメントの問題
6.調査のプロセス
7.死の予防
8.よりよい実践に向けて
監訳者あとがき
参考文献
索 引
著者紹介・訳者紹介
[表]
表2.1 保健省への「パート8」に基づく通告(1990-95)
表2.2 調査対象事例
表2.3 記録されていた子どもの死亡原因
表2.4 死亡時の子どもの年齢(49事例、51名の子ども)
表2.5 加害者であると確定している者の性別と37名の子どもの死亡原因
表2.6 死亡した子どもとその死亡に責任があるとされた養育者との関係(35事例、37名の子どもについて)
表3.1 養育者の精神保健の問題
表3.2 虐待確認事例と虐待推定事例の養育者の精神保健の問題
表3.3 ファーコフ(1996)による「パート8」100事例の親の精神障害
表3.4 子どもの死亡の原因に関係した養育者の精神保健の問題
表4.1 「ケア−コントロール」葛藤と「子どもの意味の葛藤」という観点から見た虐待のリスク要因の例
[図]
図1.1 子どもの虐待の相互作用モデル
図1.2 関係性、社会的および歴史的な文脈における家族
図1.3 援助者のネットワーク内の家族
図1.4 子ども保護事例の継時的な経過記録を作成するための計画
図2.1 死亡時の子どもの年齢(49事例、51名の子ども)
図4.1 子ども虐待のモデル
図4.2 子ども虐待のリスクモデル
図5.1 アセスメントにおける思考と行為の循環
図5.2 「弁証法的」な思考法に基づくアセスメント・プロセス
図6.1 子ども死亡調査システムに関する提案
図8.1 専門職のトレーニングの指針としての「弁証法的」思考法
図8.2 マリア・コールウェル家のジェノグラム
前書きなど
監訳者まえがき
原著の題はLost Innocents(失われた無辜なる魂たち)である。自らは何の罪もないのに虐待によって死亡した子どもたちへの、助けられなかったことへの無念の思いと、鎮魂の祈りが込められた題である。虐待死を減らすために書かれた専門性の高い書であるが、虐待する親(かつては被虐待児であった人)への理解を深め虐待に関わるときの難しさを紐解く内容は、虐待に関わるすべての専門職に有用なものである。
本書は著者の『非難を超えて(ビヨンド・ブレイム)——子ども虐待の悲劇の再検討』の続編である。英国で虐待死が起きるたびに社会の非難が集まり、調査によって関係者・関係機関の問題が指摘されるにもかかわらず、同じことが繰り返されるのを見て、死に至る虐待の理解を深めるために書かれた書である。著者が小児精神科医と心理士であることからわかるように、子どもの死亡時の症状分析や背景要因の疫学分析ではなく、どのような親がどのような状況で子どもを死に至らせてしまうのか、そこにはどのような心の動きがあるかを理解することを分析の足場にしている。親は、子ども時代の体験を源にする「未解決の葛藤」である「ケア葛藤」と「コントロール葛藤」に苦しんでいることを理解することが不可欠であるとしている。この葛藤を知ることで、なぜ一部の親やある種の生活状況が虐待を引き起こすのか、あの特有の援助関係の難しさはどうしてなのかを理解させてくれる。筆者の言う「ケア葛藤」は、子ども時代の見捨てられやネグレクトの経験や親から愛されていないという感情を源にし、後の人生において他者への過剰な依存・他者に見捨てられる恐怖・その裏返しとしての他者と距離をとることなどに表れる。また、「コントロール葛藤」は、子ども時代に被虐待や不適切な限界設定に曝されるなどの無力感を感じた経験があると、大人になった時に暴力・低い欲求耐性・疑念・暴力による脅し・他者を支配しようとするなどの傾向として表れる。それらは、家庭内の子どもや配偶者との関係だけでなく、援助関係や一般の社会的関係にも表れる。この葛藤に大きく揺れる心を理解すると、親の我が子との特有の関係や、夫婦関係や、実親との関係や、社会的人間関係を理解しやすくなり、援助に役立つだけでなく、虐待発生予測や再発予測がしやすくなる。
前著の公表後に、英国保健省は同名プロジェクトを設けて死亡登録を始めた。本書はその登録された事例の分析をして、親の精神保健の問題や未解決の葛藤の現れかたについて述べ、アセスメントや死亡調査のプロセスでおきやすい問題を分析し、虐待死予防のためにすべきことへと論を発展させている。第一線の実践現場で起きやすい問題を挙げて、より有効な対策を提案しているので、実務の細部まで、参考になることが多い。多大な文献をレビューしながらの分析でもあり、欧米の動向も学ぶことができる。きわめて専門性の高い書であり、死亡事例について書かれているが、その内容は、第一線現場で重篤事例に出会っている者にとっては、1つひとつがストンと胸に落ちる内容であり、日頃の疑問や迷いに多くの答を与えてくれる。そして、虐待が始まり増強していく過程について理解を深める内容でもあり、発生予防にも役立つ。そのため、死亡調査関係者だけでなく、虐待死を予防し、再発を予防し、発生を予防するために日頃から親支援を行っている児童福祉司・心理職・医師(精神科・産科・内科)・保健師・助産師・教師・家庭裁判所・弁護士・電話相談員などに役立つことは確実であり、さらに施設職員・教師・保育士・心理士・医師(小児科・児童精神科)などにも、子どもの心にケア−コントロール葛藤を未解決のまま残さないために読んでほしい。また、国のシステムや市町村システムを作るときにも多くの深い示唆が含まれている。
最近はわが国でも、死亡事件があるたびに、マスコミを含めて、関係者・関係機関の落ち度が問題にされる。専門職による調査が始まったが、まだ緒についたばかりである。2000年に作られた「健やか親子21」は、2010年の母子保健目標値の1つとして「虐待死亡の減少」を挙げている。しかし、折り返し点の今も、実態さえなかなか見えてこない。子どもが虐待で死ぬときは、子どもも親も社会から見捨てられている。そこで子どもは頼る人もなく過酷な生活に耐えて、力尽きて孤独に命を閉じる。
その死因さえ、誰にも気づかれないことも間々ある。だが、虐待死がいったん表面化すると、親や関係者への責任追及が始まり、自己弁護と責め合いが始まる。だが、誰もが本音では無力感にさいなまれる。命を守れず存命中に援助をできなかった子どもに、死後に私たちがせめてできることは、その死から最大限に学び、同じ体験をする子どもをなくすための気づきを得て全力を尽くすことしかない。小児保健においては「子どもの死亡は、その社会が抱える未解決の課題が凝集した所に起きる」と見なされてきた。それゆえ、死亡を分析し続けることで、その時代時代の解決すべき課題を見定め、対策を講じてきた。その結果が、わが国の乳児死亡率を世界一にまで下げている。今、私たちは、子どもの虐待死についてその作業を開始しなければならない。それは決して容易な道ではなく、非常に難しい作業であることを理解しておかなければならない。担当した個人や機関の落ち度だけで起きるものと理解すべきではない。社会を挙げて取り組んでも余りある難しい課題であるが、貴重な命を守るために価値ある挑戦でもある。
2003〜4年に大阪で事件報道が相次ぎ、何をすべきなのか何ができるのかと悶々としていたときに、題に惹かれて入手したのが本書である。読み始めるとどんどん引き込まれ、わが国の関係者にも広く共有してほしいと思い、慣れない翻訳に挑んだ。1999年の出版だが、わが国にとっては決して古すぎる内容ではない。この日本語版が日の目を見たのは、英語が苦手な筆者の向こう見ずな提案に、翻訳分担を快く引き受けてくれたわが職場の若手諸氏と、「良書を悪訳で出版するのは犯罪である」と自ら訳し直すように監訳してくれた西澤哲氏と、出版を引き受けてくださった明石書店の高橋淳氏のお陰である。英国の制度等の訳語については、筆者の愛読書でもある『子ども保護のためのワーキング・トゥギャザー』(松本伊智朗ほか訳、医学書院、2002年)と『子どもを虐待から守る制度と介入手法』(峯本耕治著、明石書店、2001年)を参考にさせていただいた。
2005年8月
小林美智子
著者プロフィール
ピーター・レイダー(レイダー,ピーター)
ウォルバートン・ガーデンズ子ども家庭相談センター(ロンドン西部のイーリング・ハマースミス・フルハム精神保健協会の一部)の顧問小児精神科医。
シルヴィア・ダンカン(ダンカン,シルヴィア)
ベイカー・ダンカン家庭相談所(サリー州ウォーキング、アッシュウッド・センター)の顧問臨床心理士。
小林 美智子(コバヤシ ミチコ)
大阪大学医学部卒業、小児科医。現大阪府立母子保健総合医療センター成長発達科部長。日本子ども虐待防止学会長。児童虐待防止協会(大阪)理事。
西澤 哲(ニシザワ サトル)
サンフランシスコ州立大学教育学部カウンセリング学科修了。現在、大阪大学人間科学部助教授。虐待などでトラウマを受けた子どもの心理臨床活動を行っている。
【主な著書・論文】
『子どもの虐待——子どもと家族への治療的アプローチ』誠信書房、1994年。『子どものトラウマ』講談社、1997年、ほか。
訳書、アルバート・E. トリーシュマンほか『生活の中の治療——子どもと暮らすチャイルド・ケアワーカーのために』中央法規出版、1992年。
エリアナ・ギル『虐待を受けた子どものプレイセラピー』誠信書房、1997年。
ベセル・A. ヴァン・デア・コルクほか編『トラウマティック・ストレス——PTSDおよびトラウマ反応の臨床と研究のすべて』 誠信書房、2001年、ほか。
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