書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
女たちのオルタナティブ パートに均等待遇を!
中野区非常勤職員・賃金差別裁判の記録
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2005年6月
- 書店発売日
- 2005年6月30日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2011年10月18日
紹介
労働時間はほとんど同じなのに賃金は常勤の3分の1以下の非常勤職員。本来,人権,平等を追求すべき自治体が制度的に強いてきた間接差別の実態を裁判に訴え,和解に至った訴訟の全体像を,労働活動家,研究者,弁護士,自治体職員の声を交え浮き彫りにする。
目次
はじめに――なぜ裁判を起こしたか
1章 提訴の内容
1――非常勤職員とは
女性が九割を占める働き方/「勤務形態」って何?/非常勤は女性自身の自主的選択?/女性率のトリック/直接性差別+間接性差別/特別職非常勤職員
2――仕事の実態
一 仕事の同一性――常勤と非常勤
基幹的・恒常的業務/非常勤は補助的労働?/常勤の異動をつなぐため?
二 専門性をめぐって
女性問題に関する専門性/学習にかかわる専門性/異動がない 勤続が長い 経験が蓄積される/短時間勤務ではできないしごと/振替とサービス残業/「本務」と「非常勤」の拘束時間
三 専務的非常勤という考え方
3――雇用と労働条件
一 不安定雇用と劣悪な労働条件
休暇制度等の未整備
二 一時金・退職金問題
手当/一時金・退職金
三 賃金問題
「パラサイト(寄生)賃金」と複合就労/遅配/交渉の経過/経験加算と専門性
4――非常勤賃金はどうして違法なのか!【弁護団】
一 非常勤職員の賃金とは何か――女性を自立させないパラサイト的低賃金
二 賃金格差は社会的身分差別――憲法一四条および労働基準法三条違反
三 本件賃金格差は性差別――憲法一四条・ILO一〇〇号条約・女性差別撤廃条約・労基法四条違反
四 均等待遇原則に違反した賃金――憲法一三条・一四条・社会権規約七条・労基法三条・四条・民法九〇条違反
五 非常勤制度を濫用した差別――民法一条三項に違反した権利濫用
5――証人尋問と和解の過程
一 証人尋問
二 和解の手続き
原告側提案/裁判所和解案/被告側検討結果/原告側質問/被告側質問に対する回答/原告側和解案/被告側検討結果
三 和解内容(二〇〇三年八月二九日付)
四 声明
6――裁判に寄せられた声
酒井和子さん(均等待遇アクション21)
江頭晃子さん(アンティ多摩)
藤原美妃子さん(自治体女性センター非常勤職員)
下村美恵子さん(元自治体女性センター非常勤職員)
中谷紀子さん(三木市学校給食労働組合)
屋良朝敏さん(那覇市学校給食調理員)
本田伸行さん(港区職員労働組合)
伊藤民樹さん(自治労組織局)
清水 敏さん(早稲田大学)
早川征一郎さん(法政大学)
柳生賢一さん(元自治労組織局)
2章 裁判を終えて
1――[座談会]公務パート裁判にかかわって【支援する会】
自己紹介/裁判をふり返って/非正規職員の仕事と家族/裁判の影響/和解についてどう思うか/「支援する会」について/今後の見通し
2――学習会「女性労働最前線」
1 問題提起
一 木村祐子さん(NPO法人ぐーぐーらいぶ副理事長・元中野区非常勤職員)
NPO立ち上げにいたる経過/NPO法人ぐーぐーらいぶの組織/NPOによる業務受託の現状と課題
二 小畑精武さん(自治労組織局)
外部委託の現状/民間委託労働者の実態/入札・委託契約における問題/「公正労働基準の確立」と委託労働者の組織化、自治体単組、市民との共闘/価格入札から政策入札・「社会的価値の実現」へ
三 堀内光子さん(ILO駐日代表)
グローバルな視点から
四 中野麻美さん(弁護士)
公共部門における女性労働/その性差別性/臨時・非常勤雇用から民間委託(アウトソーシング)へ/均等待遇原則の適用をめぐる新しい問題
2 質疑応答
3――学習会「女性労働最前線」と、その後 【原告】
3章 資料編
1――証拠説明書(甲号証・乙号証)
2――賃金格差一覧表
3――鑑定意見書【清水敏さん(早稲田大学)】
1 依頼された鑑定事項
2 鑑定意見
1 100号条約における同一価値同一報酬の原則
2 ILO100号条約と地方公務員法
3 中野区における特別職非常勤職員の報酬と「男女同一報酬の原則」
4 中野区が支払うべき給与の範囲
5 ILO監視機関の条約解釈と国内法
6 結論
4――ILO100号条約適用状況に関する報告
5――NPO法人ぐーぐーらいぶ 2004年度決算概要書
おわりに
前書きなど
はじめに――なぜ裁判を起こしたか
地方自治体には「非常勤」「嘱託」といわれる雇用形態の人が働いている。労働時間が短いという点では、民間で「パート」といわれる働き方と同じだ。非常勤・嘱託には、自治体職員や教員の再雇用の人、公務員や教員を目指す若い人もいるが、低い賃金で働く非常勤・嘱託職員の九割は女性である。
わたしは、七年間中野区で非常勤職員として働いて、その後「非常勤の賃金が低いのは女性に対する差別」であるとして裁判を起こした。本書は裁判で原告側が主張したことと、支援者の声の記録である。
民間と同様公務でも、非常勤などの非正規雇用はそもそも「土俵の外」にいる。
法的には「地方公務員法」という法律の適用除外とされ、自治体で働いていても公務員ではないといわれる。労働組合にも多くの場合は入れない。長年「本工(常勤職員)」中心に進められてきた労働運動では、非常勤・パートは「労働者性が薄い」「半人前」などといわれ、「あってはならない非常勤」と考えられてきた。このためわずかに組織化された臨時・非常勤の労働運動といえば、「正規」化要求が当然であった。正規職員にせよ、「土俵に入れろ」という要求である。
わたしたちも組合運動を始めた当初、「常勤職員と同じ土俵に上りたい」と考えて、自分たちで独立組合を作るのではなく常勤職員の組合に加入する道を選んだ。しかしその運動のなかで、「比例配分」「均等待遇」という言葉に出会って衝撃を受けた。これらは労働時間に「比例」した賃金を求め、フルタイムと同等ではなく「均等」な待遇を目指すというものだった。つまり、育児や介護などの「家族的責任」を担う労働者(多くは女性)にとって、八時間働かない、短時間の働き方を積極的に評価する考え方である。その意味で、「均等待遇」は「正規化」要求とは異なるオルタナティブな視点を持っている。わたしたちの非常勤労働運動とその後の裁判では、「均等待遇」がキーワードになった。
非常勤職員の労働運動で問題解決を目指してきたが、根本的な是正はされなかったばかりか、一九九九年にはわたしを含め三〇人の職が廃止になった。わたしは次の仕事を得て退職したが、まるで使い捨てのような非常勤のあり方にどうしても納得できず、「あんまりだよね」と仲間と話し合いを続け、賃金差別を裁判に訴えることにした。その後、中野区の非常勤制度は激変を続け、結果的に一〇〇名を超える雇い止めを出している。
提訴から和解まで三年間。本書2章の座談会に登場する「中野区非常勤職員・賃金差別裁判を支援する会」は、中野区の非常勤・パート職員(当時)・区議会議員の五人と事務局の二人が中心メンバーとなって作った。原告はわたしひとりであったが、大切な判断は「支援する会」で相談して決めた。本書でわたし(原告)が「わたしたち」と呼ぶのは、この人たちのことである。
わたしたちは裁判を運動的に進めようと話し合い、事務局とわたしの三人で「均等通信なかの」というニューズレターを一八号発行した。しかし、裁判中は原告・被告双方の書類を資料として掲載するのに精一杯で、十分な経過説明ができなかった。
本書は、裁判中にし残してしまったそれらのことをできる限り果たしたいとの思いで作った。
この本は次のような方たちに手にとってもらえたら、本当にうれしいと思う。
自治体、独立行政法人化の進む国家公務員、民間の、非常勤・嘱託・臨時・パート・アルバイト・派遣など「非正規」雇用で働く人たち。
指定管理者制度にかかわる施設の職員、利用者、NPOで働く人たち。
そして「正規」・常勤で働く人たち。
さらに「主婦」の人たちにも。
わたしは、今回の裁判で争った自治体「非正規」雇用の問題は、いずれそうした職に就くかもしれない「専業主婦」、ボランティアなどで自治体公務の関連領域を担っている「活動専業主婦」のアンペイド・ワークに、深い地層でつながっている問題だと考えている。
なお、3章に資料の概要を紹介したが、個人情報を除く裁判資料――弁護団による準備書面、非常勤職員などの陳述書――については、
中野区非常勤職員賃金差別裁判ホームページ http://homepage2.nifty.com/hijokin/
を参照していただければ幸いである。
二〇〇四年六月
原告 平川景子
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。