
発行:明石書店 この版元の本一覧
四六判 328ページ 上製
定価:2,800円+税 総額を計算する
ISBN 978-4-7503-1950-6 (4-7503-1950-3) C0036
重版中
奥付の初版発行年月:2004年07月 書店発売日:2004年07月23日
あらかじめご了承下さい。
紹介
現在の北朝鮮を形づくっているものは何か。日本に対するゲリラ戦,骨肉相食む朝鮮戦争,個人崇拝,韓国との苦難に満ちた関係,ソ連の崩壊と冷戦の終結,核をめぐる現在の危機を朝鮮近現代史研究の第一人者が歴史的視点から国際社会との関係に位置づけて描く。
目次
日本語版序文/序文/謝辞
第一章 戦争は暴力的な教師
第二章 核危機——第一幕とその後
第三章 金日成の伝説
第四章 北朝鮮の日常生活
第五章 世界初のポストモダンの独裁者
第六章 善悪の彼岸
参考文献/注/監訳者あとがき
前書きなど
日本語版序文 このたび拙著North Korea: Another Countryの日本語版が出版されたことは大変に喜ばしく、名誉に思う。二〇〇二年末、ザ・ニュー・プレス社の創設者兼編集長であるアンドレ・シフレン(Andre Schiffrin)から、本書の執筆依頼を受けた。アンドレも私も、イラク危機に引き続き北朝鮮危機が到来する可能性が高いと感じていた。ジョージ・ブッシュ(George Bush)大統領の「悪の枢軸」において、イラクと北朝鮮が(イランとともに)関連付けられていたからである。蓋を開けてみれば、イラクの占領統治は米国に尽きることのない労苦をもたらし、ブッシュ主導の外交政策はこれだけで手一杯という状況に陥った。北朝鮮は一息つけたのである。しかし、仮にブッシュ大統領が十一月の選挙で再選を果たしたら、北朝鮮の核開発計画をめぐり重大な危機がもち上がることは想像にかたくない。 本書は、そうした情勢下にあって、米国の北朝鮮政策を人々が論じる際の一助となることを願って上梓したものだ。そのうえで、これまでの歴史的経緯を述べた二章も加えておいた。一つは、朝鮮戦争中、北朝鮮に対して実施された無差別爆撃についての章。もう一つは、ゲリラであった、一九三〇年代の金日成についての章である。これらの章を加えたのは、朝鮮への米国の関与となると、米国人はとかく健忘症になりがちだからだ。米国人にとって朝鮮戦争は「忘れられた戦争」であり、米空軍が北朝鮮に対して行った絨毯爆撃についてもあまり知られてはいない。実は当時、国防総省の検閲により、爆撃の惨状は米国人の目にほとんど触れなかったのである。しかし北朝鮮の人々に、巨大な軍隊と一万五〇〇〇ヵ所にも上る安全保障関係の地下施設とからなる「軍事国家」を建設させたのはまさにこの経験なのである。 同様に、金日成の過去についても米国人はよく知らない。米国メディアは存命中の金日成を好んで戯画化したものだし、息子の金正日のほうも、無鉄砲とか、狂人とか、「ドクター・イーブル」〔米国のコメディ映画『オースティン・パワーズ』シリーズの悪役〕などと呼び習わしている。もちろん、北朝鮮とその指導者は、日本でも頻繁に風刺の題材とされていることはよく承知している。金日成の過去、また権力の座に就いた過程について真実を伝えるために、朝鮮語、日本語、ロシア語、中国語の読める歴史家の著作にあたり、最良の資料に基づくよう努めた。北朝鮮の金日成神話の作り手たちは、一九三〇年代の日々をひどく誇張して伝え、ほとんどわけが分からないものにしてしまっている。しかしながら、満州での経験が北朝鮮指導体制の形成に深部で影響を与えたことは否めず、今日でも依然として、北朝鮮が国家の正当性を主張するうえでの拠り所となっているのである。 私が北朝鮮を初めて訪問したのは一九八一年のことで、北朝鮮が米国の専門家数人に入国許可を与えた機会を捉えたものであった。ガイドが懇切丁寧に案内してくれた。ガイド軍団に取り囲まれて歩くに歩けないといった面もあったが、当時の北朝鮮の発展ぶりや平壌の美しさ、また全般的に健康で活気に満ちた人々の様子などが印象に残っている。恐らくこれは、北朝鮮の産業や都市が、発展の頂点を極めていた時期だったといえるだろう(いまでは遠い記憶でしかない)。「日常生活」の章では、そうした雰囲気を再現することを試みた。フィンランド人のある社会学者と話したことをよく覚えているのだが、親たちの苦労を知らない「裕福な」若い世代への対処法を助言するために北朝鮮政府に招聘されたのだという。今日では、北朝鮮の発展にも成功と呼べる時期があったことを忘れている人も多いが、一九七五年以前は一人当たりの国民総生産で韓国を上回っており、いまから二〇年前の時点でも韓国とほぼ肩を並べていたのである。 北朝鮮という国には、いかなる意見の相違も認めない悲惨な内政と、武力を振り回す外政と、双方において愉快ならざる面がある。しかし時間をかけてつぶさに観察してみれば、理解可能な論理に従って行動していることも分かってくるのである。北朝鮮の核開発計画をめぐっては、一九九一年に始まりいまも継続している長い確執が米朝間に存在するが、これを検討していく中で、北朝鮮のそうした論理を解読し、説明することを試みた。とりわけ一九九四年の枠組み合意は、取り引きとして核開発計画と対米関係正常化とを交換するという北朝鮮の望みを如実に反映させているが、これは北朝鮮との関係改善に向けた叩き台として、妥当かつ十分なものだったといまでも考えている。この合意には、寧辺の原子炉施設を八年間凍結させる力があった。クリントン政権の末期には、北朝鮮のミサイルを米国が間接的に買い上げるという、重大な取り引きを新たに成立させる寸前まで来ていた。 しかしブッシュ政権はこの合意を引き継ぐことはなく、二〇〇二年末の時点で、一九九四年の枠組み合意はもはや終わりだと宣言した。ジョージ・ブッシュは根本的なところで北朝鮮との関係正常化を望んでいないので、引き延ばし(核兵器を大幅に増強する余裕を北朝鮮に与えたかもしれない)と、北朝鮮政府を崩壊あるいは「転覆」させるなんらかの方法をみつけたいという宿願との間を、行ったり来たりしている。およそ六〇年前の一九四六年二月、北部朝鮮に初めて誕生した中央政府である臨時人民委員会の委員長に金日成が就任し、実質的な最高権力者となった。その際、米国はこれを承認することを拒否した。それ以来の不承認政策だが、北朝鮮の政権が交代したり、崩壊したりといった成果は上げていない。そろそろ米国も、承認と関係正常化という政策が平壌政府の行動になんらかの影響を及ぼせるかどうか、試してみる潮時ではある。 本書日本語版の出版を始めに提案し、実現に向けて奔走してくださった杉田米行先生にお礼を申し述べたい。訳者の古谷和仁、豊田英子の両氏には、大いに感謝するとともに、私の文章で分かりにくい点があったとすれば申し訳なく思う。願わくば、北朝鮮に関する私の研究が、日本の読者に受け入れられんことを。ブルース・カミングス
著者プロフィール
ブルース・カミングス(カミングス,ブルース)
ブルース・カミングス(Bruce Cumings)
1943年生まれ。コロンビア大学で政治学を学び、同大学でPh.D.を取得。ワシントン大学国際関係学部を経て、現在シカゴ大学歴史学部教授。20世紀国際関係史、特に合衆国—東アジア関係史、東アジアの政治経済、朝鮮近現代史研究の第一人者として、この分野の研究に大きな影響力を与えてきた。主な著書に、The Origins of the Korean War, 2 vols.(1981, 1990. vol. 1の邦訳:『朝鮮戦争の起源』1−2巻 シアレヒム社 1989、1991年)、War and Television(1993. 邦訳:『戦争とテレビ』みすず書房 2004年)、Korea's Place in the Sun(1997. 邦訳:『現代朝鮮の歴史』明石書店 2003年)、Parallax Visions(1999)。
杉田 米行(スギタ ヨネユキ)
1962年生まれ。大阪外国語大学アメリカ講座助教授。ウィスコンシン大学マディソン校歴史学科修了(Ph.D.)。アメリカ外交、国際関係、医療政策が専門。主な著書としてPitfall or Panacea: The Irony of U.S. Power in Occupied Japan 1945-1952 (Routledge, 2003)、『ヘゲモニーの逆説 アジア太平洋戦争と米国の東アジア政策 1941年—1952年』(世界思想社 1999年)。主な編著書に『北朝鮮をめぐる北東アジアの国際関係と日本』(明石書店 2003年)、『日朝会談モノグラフシリーズ』全24巻 スモールワールド学術文庫(スモールワールド 2003−2004年)。主な訳書にトーマス・キャンペン『毛沢東と周恩来 中国共産党をめぐる権力闘争1930年—1945年』(東京:三和書籍 2004年)、アーロン・フォースバーグ『アメリカと日本の奇跡』(世界思想社 2001年)。
上記内容は本書刊行時のものです。古谷 和仁(フルヤ カズヒト)
1965年東京生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程単位取得退学。主に時事英語関連の雑誌翻訳に携わる。訳書に『現代朝鮮の歴史』(翻訳協力・明石書店)、『TIME 21世紀大予測』(翻訳協力・アルク)。
上記内容は本書刊行時のものです。豊田 英子(トヨダ エイコ)
1952年東京生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業、東京大学人文科学研究科西洋史学修士課程修了。主に時事英語関連の雑誌翻訳に携わる。訳書に『アメリカの対北朝鮮・韓国戦略』(共訳・明石書店)。
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